
連載
再開「キネマ51」:第3回上映作品は「新幹線大爆破」
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グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館「キネマ51」では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
復活第3回の上映作品は,1975年作品のリブート版「新幹線大爆破」。
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Netflix「新幹線大爆破」公式サイト
今回は支配人しゃべりすぎ!? 樋口真嗣監督最新作
須田:
こんにちは。こんばんは。こんばんちは。私が「キネマ51」オーナーの須田です。
関根:
支配人の関根です。夜はbar plastic modelという店をやっております。よろしくお願いします。
須田:
今日もお願いします。
関根:
さて,今日の作品を紹介する前に……。
グラスホッパー・マニファクチュアさんの新作ゲーム,ティザーが公開されましたね。6月のことですが,遅ればせながらおめでとうございます。
須田:
ありがとうございます。「ROMEO IS A DEADMAN」。多分リンクに飛べるようになっていると思いますので皆さん観てください!
関根:
予告編,最初ののんびりホームドラマ風からどんどんおかしくなっていくのを観て,「あ,来た来た〜」って感じました。
須田:
その冒頭の部分は,我らが神風動画さんに制作していただいているんですよ。
関根:
あ,そうなんですか! 「ニンジャバットマン対ヤクザリーグ」でお世話になった水﨑淳平監督のいらっしゃる会社ですね。
須田:
ティザー映像の冒頭のファミリータイムから変身のくだりまで,あそこがもう神風タイム。その後のゲーム映像もかなり好評で,SNSのトレンド入りもしました。
関根:
お,すごいですねぇ。
須田:
でもトレンド入りしたワードが,「#ROMEOISADEADMAN」じゃなくて「#須田ゲー」。
関根:
須田ゲー(笑)。海外ではなんて呼ばれているのか気になるところですね。今から商標登録しておいたほうがいいんじゃないですか? 「須田ゲー」で。「音ゲー」みたいに。
須田:
まあ,そんなこんなでようやく新作を発表できて,今こっちの現場で一生懸命作っています。僕はシナリオは書き終わったんで。
関根:
もう椅子に深々と座って葉巻を吸いながら。
須田:
そう,デーンと構えてね……って,そんなわけないじゃないですか。これからが本番ですよ。忙しいんですよ! だから今日の対談は中止ということで。
関根:
いやいや,今日は僕の持ち込み企画みたいな作品なんで,話させてくださいよぉ。
須田:
そうですね,そうなんですよ。今日はね。支配人が大好きな映画監督の作品で。
関根:
いやまぁ,監督も大好きなのですが,まずは作品を紹介させてください。今日の映画はこちらです。
2人:
「新幹線大爆破」!
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須田:
はい,来ましたね。
関根:
来ました。
須田:
やっぱり,つよぽんが出てきて。で,そのあとにユースケ・サンタマリアが出てきて。
関根:
「『ぷっ』スマ」[1]じゃないんですから。
須田:
あれ? ユースケさん出てきませんでしたっけ?
関根:
「交渉人 真下正義」っていうユースケさん主演の暴走地下鉄パニック映画があるので微妙にややこしいですが,本作には出てきません!
須田:
わはは,そうでしたね。
関根:
この作品,お話はと言いますと「世界一の安全と定時走行を誇る新幹線。しかし,東京駅に向かう列車に爆弾が仕掛けられた時,脱出不可能な死の罠が乗客たちを待ち受ける〜」……キャッチコピーまんま読みましたが。
須田:
まずはオリジナル版っていうんですかね,1975年版の「新幹線大爆破」[2]があるんですよね。高倉 健さん主演の。
関根:
はい。東映の傑作パニックムービーとして海外でも人気のある作品です。今回の作品は,そんな1975年版のリブート版[3],といったところなんですね。
須田:
リブート版ではありますが,続編的な要素もありますよね。
関根:
そう。リメイクではないんです。ここはちゃんとお伝えしたいポイントで。リメイクだと思って観るのを躊躇していらっしゃる方,多い気がするんですよね。
須田:
旧作を愛してやまない人達がね。「今さらねぇ」みたいな。だって千葉真一が演じた新幹線の運転手役を,のんちゃんが演じてるんですから,そりゃ一瞬躊躇しますよね。
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2人:
(笑)。
関根:
そうなんですよ。苦悩の表情も,安堵する表情もどちらもこわばってる宇津井 健さんの役を,どんなピンチもお澄まし顔で乗り越えてしまいそうな斎藤 工さんが演じているとなるとね。
でも違いますから。リブートということで,頭を切り替えてぜひ観ていただきたいですね。
須田:
だいぶ前のめりな支配人。
関根:
もう開き直りますが,僕は樋口真嗣監督原理主義者なので(笑)。
須田:
開き直りましたねぇ。
オーナーも納得の演出の数々
須田:
僕は正直言って映画が始まった時に,ああ,これイヤな予感がするヤツだなと思ったんです。なぜかというと,最初にダイジェストが流れるんですよ。TV番組でよくある,CMに入る前にその先のシーンのダイジェスト流れるやつ。あれ,やめてほしいんですよ。
関根:
昔ながらの2時間ドラマの手法ですよね。チャンネルを変えさせないための。
須田:
そう! でもまさにそれだったんですよ。オープニングタイトル中にダイジェストが流れるんですが,その後のシーンから静の立ち上がりなんですよ。じっくりゆっくり日常を観せる。そのときに気付いたんですよ。
これ,映画館で上映されるのではなくてNetflix作品。サブスクだから視聴者はファーストシーンで続きを観るか観ないかを決めちゃうんだと。だから最初にダイジェスト入れて,この先にもっとすごいシーンが待ってるよって。
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関根:
視聴者の心をキャッチするためのダイジェスト。
須田:
それに気付いた瞬間から,樋口監督,さすがだなぁと一気に作品に引き込まれました。
関根:
「シン・ゴジラ」であらためて世界から注目された樋口監督演出ですが,今回も徹底した樋口節といった感じで。
須田:
明朝体も随所に[4]。
2人:
(笑)。
須田:
あれ観ただけでテンション上がりますね。
関根:
上がります。そして僕のテンションが爆上がりしたのは,新幹線に爆弾が仕掛けられて,100km/h以下になったら爆発すると犯人からの連絡がくるっていう,1975年版と同じ話でスタートしていたのに,途中からあれ? あれ? これってもしかしてリメイクじゃないんだ! ってなったところでした。
須田:
ゾワっとしますよね。
関根:
樋口監督は今まで多くの続編,リメイク,リブート作品に関わっていらっしゃったんですよ。
須田:
そうですよね。
関根:
黒澤 明監督の「隠し砦の三悪人」や「日本沈没」「ガメラ」,監督交代になって実現しませんでしたが「宇宙戦艦ヤマト」実写版も手がける予定でしたし。
須田:
庵野秀明さんとやられている「シン」シリーズもそうですよね。
関根:
ある意味”茨の道”だと思うんですよ。間違いなくオリジナルと比較されるだろうし,食わず嫌いからの批判もあるでしょうし。作品が評価されてもオリジナルが良かったから,なんて軽く扱われてしまうこともあると思うんです。
須田:
何を言われてもおかしくない。
関根:
そうですよ。それが分かっているのにあえてその道に進んで行く。それだけでも応援したくなるし,すごい作品が生まれたときに通常の三倍感動するんですよね。
で,今回もう何て言うんですかね,いわゆる東映アクション物の傑作に手を出した。やっぱりまたそこ行っちゃうんだ樋口監督。って期待と不安を胸に作品を観たら。
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須田:
いやぁ,面白かったですよね。しかもNetflixの世界ランキングにも入りましたもんね。
関根:
ですね,いろんな意味で最高でした…。
須田:
きっとその”茨の道”を進みながら試行錯誤を重ねて行き着いたところが,今回のリブート版という表現だったんでしょうね。
関根:
ホントですよ。樋口真嗣監督名義での初劇場公開作「ローレライ」[5]からちょうど20年。まさに”行き着いた”という表現にふさわしい作品になったのではないかと。
須田:
それでいうと今年は「killer7」の発売から20年なんですよ。当時の広告で樋口さんにコメントを出していただいたんです。
関根:
そうだ,そうでしたね。覚えてます。
須田:
いろいろと感慨深いです。
SF版「はたらくおじさん」?
関根:
樋口さんの監督作である「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」って,あらためて“怪獣は災害である”という点に重点を置いて描いていたじゃないですか。実際に現れたらどう対処するか。今作もそれが表現されているというか。
もちろん「新幹線大爆破」の旧作もそこは描いていたとは思うんですが,今作はそれよりもさらに現実的に,本当はSFなんだけどちゃんと計算された行動に見えるように演出していた気がします。
それが怪獣ではなく鉄道だったので,観ているうちにだんだん昔NHK教育テレビ(Eテレ)でやっていた「はたらくおじさん」[6]に重なって見えてきたんです。
須田:
分かります。爆破予告っていうのは大事件ですが,その現場で働く人達にとってみれば,新幹線を時間通りに走らせることを邪魔するファクターでしかない。SFなんだけど,そんなのありえないんだけど,実際にこうやって回避しようとするのではないかと想像させてくれるんですよね。皆さんものすごい真面目にやってるから。
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関根:
やってます。現場の人達。
須田:
「そんな馬鹿な」と思うけど,働くおじさん達の心が見えるからこそ説得力が生まれるし,あと,成功した時の感動ですよ。もう「下町ロケット」とかそんなレベルですよ。
関根:
空想とは言いながら,けっこう細かいところまで計算され尽くしてるんじゃないのかなぁと。登場する道具やら資材の一つひとつも説得力ありますよね。
須田:
多分鉄道ファンから見ても最高に楽しめるんじゃないかなと。
関根:
全ジャンルの鉄道ファンの方に響く要素があると思うんですよ。オープニングの工場見学,駅アナウンスから始まって,運転,設備,安全運行のためのコントロールルーム,そのほかにも要素が盛りだくさん。
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須田:
見る人が見れば,僕ら以上の感動があるんでしょうね。分析もしたくなるでしょうし。しかも今回はJR東日本特別協力ということだからリアルさが違うんだろうなと。1975年版では国鉄は協力してくれなかったんですよね。
関根:
ええ。高度経済成長期時代の象徴の一つ,まさに夢の超特急である新幹線を爆破させる映画になんて,協力できなかったんでしょうね。しかも爆破なんかも当時の東映だったら無茶な注文をしそうだし。
須田:
わはは。ですね。とんでもないこと考えそう。
関根:
でも,少し気になるのが。というかこれはただの妄想なのですが,今回のJR東日本特別協力,最初はほかのJRグループも参加予定だったのではないかなどと考えてニヤニヤしています。
須田:
気持ち悪いですね,どうしてですか?
関根:
ラストの展開に関わってくるので多くは語れませんが,もし,ほかのJRも協力していたら,わざわざ作戦変更なんかしなくてもいい気がするんですよね。最後の作戦をじっくり見せるだけでも十分な気がして。
でも実際には協力予定だったほかの会社が関わらなくなったから,皮肉っぽくその前の作戦を入れたんじゃないかなぁなどと考えておりました。
須田:
なるほどー。支配人,相変わらず性格悪いですね。
関根:
えへへ。そうですかねぇ。でも昭和時代の1975年版のときに風刺描写されたお役所仕事的なものが,令和の時代のリブート版でもなんら変わることなく存在しているんですよ。こういう表現を観ると,なんだかそんな気持ちになっちゃいます。
須田:
いい妄想ですねぇ。今作を観てあらためて樋口真嗣さんという人物に興味を持ちました。いずれぜひお話を伺いたいところですね。
そろそろお時間が
須田:
「シン」シリーズも含めてリメイク版,リブート版に関わってきた樋口さん,次はどの”茨の道”に踏み込んでいくのでしょうか。
関根:
代表的な特撮やアニメは大体通った感じありますよね。オーナーは観てみたいものありますか?
須田:
僕はやはり「風の谷のナウシカ」実写版を観てみたいですね。
関根:
ナウシカ役は誰ですかねぇ……。ユパ様役の渋いおじさん俳優さんは樋口組でいろいろ浮かびますが。
須田:
確かにそうですね。その中で言うと……あ,そういえば今回,竹野内 豊さんの姿が見えなかったんですよ。
関根:
確かに。「シン」シリーズにはコンプリート出演の竹野内 豊さん,今回は出てきませんでしたね。
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須田:
本当は出演しているんだけど政府関係の裏方に回りすぎて,表に出てこられなかったんですかねぇ。
関根:
そんな出演ってありますか! いくらNetflixでもそこまでギャラは出せないでしょ。
須田:
あ,分かりましたよ。竹野内さんはいつも,タクシー移動だからですよ。
関根:
あ! GOしてるからですね! 電車使わないんだ。
須田:
それか,タクシー運転手をしているから,もしかしたら劇中のどこかを走っているのかも。
関根:
新幹線があのまま走り続ける違う選択肢の「新幹線大爆破」の世界にいるのかもですね……。ってそれも違うドラマの話ですよ[7]。
須田:
分かりました。草薙さんの鉄道からの,竹野内豊さん主演のタクシー運転手。これですね。
関根:
「シン・はたらくおじさん」シリーズですね。永遠に作り続けられるコンテンツ発見ですね!
2人:
……。
須田:
はい,ということで次回の作品でまたお会いしましょう〜。
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Netflix「新幹線大爆破」公式サイト
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