剣と魔法の博物館 モンスター編 / 第95回：天使（Angel）

　キリスト教やイスラム教には，神の忠実な部下/代行者として「天使」が存在する。人間のように四肢を持ち，背中には翼，頭の上に光り輝く輪，半裸で白装束をまとい，どこか中性的で神聖な雰囲気を持っているというのが一般的なイメージだろうか。ちなみに天使は霊的存在であり，通常は実態がないが，有事の際には前述のような姿をとるとする説もある。
　天使は英語でエンジェル（Angel）だが，エンジェルという語はもともとギリシア語で，「（神の）使者/伝令」を示すアンゲロス（Angelos）が起源だとされている。ネーミングからも分かるが，天使達は神々の代行者であって，単純に人間の味方というわけではない。神の命令であれば人間達を殺す冷徹さも兼ね備えているのである。適切な逸話ではないかもしれないが，聖書によれば神は炎から天使を作っており，天使を作った神が，次に土から人間を作ろうとすると，天使たちは人間は不完全な存在であるとして，猛反対したというエピソードもある。
　なお，天使には九つの階級があるとされ，（資料や教派によって詳細は異なるが）現在では下記のような説がよく知られている。

・上級第1位：熾天使/セラフィム（Seraphim）

その名は「燃える」という意味。6枚の羽を持ち，二枚は顔を隠し，二枚は足を隠し，残りの二枚で空を飛翔する。ミサ曲である「サンクトゥス」（聖なるかな，聖なるかな，聖なるかな〜）の歌詞を刻んだ旗，もしくは燃える剣を持っている。

・上級第2位：智天使/ケルビム（Cherubim）

その名は「仲裁」という意味。4枚の羽，4つの腕，4つの顔を持ち，輝く車輪に乗っている。稲妻を武器とする。

・上級第3位：座天使/スローンズ（Thrones）

その名は「玉座」という意味。名前が示すように，神の玉座を運ぶ役割を持っている。ラファエルなどはこの階級に属している。

・中級第1位：主天使/ドミニオンズ（Dominions）

その名は「統治/支配」という意味。神の言葉を広めるために活動する。

・中級第2位：力天使/ヴァーチュース（Virtues）

その名は「高潔」という意味。地上に奇跡をもたらすといわれている。

・中級第3位：能天使/パワーズ（Powers）

常に臨戦態勢にある天使で，悪と戦うことを目的としている。

・下級第1位：権天使/プリンシパリティズ（Principalities）

国家や指導者を監視する役目を持ち，それらを正義の道へと導くことを役割としている。

・下級第2位：大天使/アークエンジェルズ（Archangels）

総合では第8位と低ランクではあるが，神の勅命によって人間界に介入することを許されている。人間界においてはある意味，神の代行者でもある。

・下級第3位：天使/エンジェルズ（Angels）

最下級の天使。大天使などの手足となって働く。

　これらの階級は，神学家である偽ディオニシウス・アレオパギタ（Pseudo-Dionysius Areopagites）が，著書「天上位階論」で提唱したものであり，最も有名な天使の階級説である。研究者によっては権天使と大天使が入れ替わったり，もっと複雑な階級制度を提唱していたりするので，興味がある人はいろいろと調べてもらいたい。
　またこうした階級とは別に，ラファエル（Raphael），ウリエル（Uriel），ミカエル（Michael），ガブリエル（Gabriel）は四大天使と呼ばれることもある。

　天使の話で欠かせないのが，堕天使だろう。上級第1位の熾天使としてルシファーという天使がいた。ルシファーとは，「光を運ぶ者」という意味で，彼（？）は，美しく有能で，神に次ぐ力を持つとされていた。
　しかし，優れた天使だったルシファーはいつの頃から慢心してしまい，「我は天に上って，神の星よりも高い場所に王座を置き（中略）雲の頂に登って，いと高き者となろう（イザヤ書第14章13節）」と語るようになってしまったのだ。そしてあるとき，ドラゴンに姿を変えると神に反旗をひるがえしたのである。
　この反乱で天界は大騒ぎになる。というのは，ルシファーの人望（？）なのか，巧みな話術なのかは不明だが，3割以上，一説によれば半数の天使がルシファーに従ってしまったからである。
　神は大天使ミカエルを司令官に任命すると，軍勢を与えて戦わせた。ミカエル軍とルシファー軍は激しく戦ったが，結局はルシファー軍が負け，ルシファーは堕天してサタン（Satan）と名を変えたのである。以後，サタンは魔界の王として君臨し，仲間の悪魔達とともに人間を悪の道へと誘惑する存在となったのだ。ちなみにサタンという名は，（神への）敵対者という意味である。