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印刷2021/10/04 11:00

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Access Accepted第699回:「タイタンフォール」に何が起きていたのか

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第699回:「タイタンフォール」に何が起きていたのか

 Electronic Artsのバトルロイヤルゲーム「Apex Legends」が今年7月,ハッキングの被害に遭ったことに伴い,パブリッシャと開発チーム,そして世界設定を同じくする「タイタンフォール」シリーズの実情が取り沙汰されるようになった。何年にもわたって一握りのハッカー達の遊び場と化してしまった「タイタンフォール」について,これまでの経緯をまとめてみたい。


「Apex Legends」に隠れた「タイタンフォール」の惨状


 2021年4月,「Apex Legends」PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)のプレイヤー数が1億人を突破したことがアナウンスされた(関連記事)。現在も週あたりのアクセス者数が1300万を誇り,パブリッシャであるElectronic Artsにとって新たな“ドル箱”となっている。8月には第10シーズン「エマージェンス」が始まり,さまざまなイベントやコラボ企画が展開されている。まさに同社が打ち出している「GaaS」(Game as a Service / サービスとしてのゲーム)の代表格と言える存在だ。

 そんな「Apex Legends」がハッカー(もしくはハッカー集団)の攻撃を受け,マッチメイキングが半日ほど不可能な状態になったり,ゲームとは関係のないメッセージが表示されたりしたのは,アメリカ独立記念日にあたる7月4日のことである。
 そのメッセージには,「タイタンフォール」シリーズがハッキング被害を受けていることに対し,是正を求める旨が記載されており,Webサイト「#SaveTitanFall」の閲覧を促すというものだった。つまり,ハッキング被害に無策なEAと開発元Respawn Entertainmentに抗議し,ゲーマーを啓蒙する目的でハッキングしたという言い分である。

 2014年にリリースされた「タイタンフォール」PC / Xbox One / Xbox 360)と,2016年に登場した続編「タイタンフォール 2」PC / PS4 / Xbox One)は,圧政を敷く巨大企業IMCと自由獲得のために反旗を翻した入植民の,宇宙の辺境での戦いを描く作品だ。マルチプレイでは“パイロット”と呼ばれる兵士と,搭乗可能な二足歩行メカ“タイタン”を操り,スピーディなアクションが楽しめた。両作ともに1000万本を超えるヒットになったものの,2017年にRespawn EntertainmentがEAに買収されて以降,ゲーマーの間でそれほど話題になることもなくなった。

ファンにとっては,“パブリッシャや開発チームから見捨てられてしまった”状態の「タイタンフォール」。EAの看板タイトルであるバトルフィールドシリーズとリリース時期がかぶったこともあり,何かと貧乏くじを引かされてきた印象がある
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 傑作と言われたタイタンフォールシリーズが継続的な人気を獲得できなかった理由の一つとして,EAの配信サービス「Origin」で運営されていたことが挙げられるだろう。実際,タイタンフォールシリーズは両作ともに,2020年にはSteamでもリリースされているが,2万人の同時アクセス者数を得ることもあったようだ。

 その一方で「タイタンフォール」のPC版は,古くからDDoS攻撃(不特定多数から断続的にパケット送信を行い,サーバーを機能停止に追い込む行為)を頻繁に受けており,チートを使った卑怯なプレイヤー達の存在も問題になっていた。そんな現状に対し,コミュニティは何度もソーシャルメディアを通じて,EAとRespawn Entertainmentに是正を要求していた。とくにハッキング攻撃への対処が甘いことや,サーバーの復旧に時間がかかることは,長きにわたってコミュニティから指摘されていたようだ。
 しかし,同シリーズは旬を過ぎたゲームだからなのか,サーバーを管理する専属エンジニアは限られるらしく,公式フォーラムで問題を指摘しても「ヘルプセンターにメールしてください」「返金手続きを行ってください」といった自動メッセージが返ってくるばかり。そのため,ファンは「専用サーバーを自分たちで運営できるようにしてほしい」という意見を,かなり以前から発信していた。

 そうした経緯を踏まえると,「Apex Legends」へのハッキング攻撃という形でタイタンフォールシリーズの現状を訴えるハッカーの行動は,(法的に正しいかどうかは全く別の話だが)彼らなりの理由があってのことかもしれない。なお,「#SaveTitanFall」の運営者はハッキングとの関わりを否定しており,コミュニティメンバーの多くが疑心暗鬼になっている状態だ。

7月4日に起こった「Apex Legends」のハッキングは,「タイタンフォール」の惨状を啓蒙する目的であったとされている。ただし,「#SaveTitanfall」は関与を否定している
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「#SaveTifanfall」は一部のコミュニティメンバーを名指しして,ここ数年にわたるDDoS攻撃や「Apex Legends」へのハッキング行為の首謀者であると指摘している(詳しくは後述)
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黒幕は誰なのか。なぜ放置されたままなのか


 今年1月,タイタンフォールシリーズのファンが集うRedditのページに「『タイタンフォール』はRespawn EntertainmentとEAによって,プレイできない状態のまま放置されている」という嘆きのメッセージが投稿された(リンク)。このメッセージはモデレータ自身によるもので,サーバーには脆弱性が存在し,そのせいでクラッシュされることを運営側は知っているのに,3年も放置しているという内容だ。

 事実,3月にはSteamでセールが行われたものの,プレイできない状態になっていたことで,レビューには“不評”が一気に増えた。4月になってようやく,Respawn EntertainmentはDDoS攻撃を受けていることを認め,改善を表明しているが(公式Twitter),その後も何度となくハッキング攻撃を受けており,被害は断続的に続いている。抜本的な解決には至っていないのが現状だ。

 この攻撃の最大の被害者と言えるのは企業より,数年にわたってタイタンフォールシリーズをプレイしてきた,小さいながらも強い絆で結ばれたコミュニティだろう。とくにゲーム実況に関わるゲーマー達が狙われやすく,ストリーマーがゲームを始めるところに合わせて,DDoS攻撃が行われるといったケースが頻発している。
 その首謀者とされるのが,「Jeanue」というハンドルネームを使うハッカー(もしくはハッカー集団)だ。Jeanueは特定のプレイヤーを「ブラックリスト」に追加することが可能で,これに入れられると自動的にマッチメイキングへの接続が遮断される。Twitchのチャットで参加者を監視し,「1ドルを送らないとブラックリストに入れる」といった恐喝をすることもあるようだ。ハンドルネームを新しく作ったり,VPNを使ったりしても,SNSから本人であると確認してブラックリストに入れられるという。

「Jeanue」を名乗るハッカーは,目を付けたコミュニティメンバーをマッチメイキングから自動的に弾き出すようにしたり,プレイ中のping値が徐々に上昇してプレイ不可能になったりするといった,ほかのオンラインゲームでのハッキングでは見られない現象を発生させていた
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 「タイタンフォール」のバックエンドはクラウドテクノロジーを活用している。プレイヤーがアクセスするサーバーは毎日リフレッシュされており,Respawn Entertainmentが開発したマッチメイキング用エンジン「Stryder」により,リアルタイムでサーバーの位置を確認してクライアントに表示するという。これをハッキングすることは非常に困難だと思われるが,Jeanueはすべてのサーバーを同時にシャットダウンさせることもあり,ファンのなかには「Respawnに近い人間でないと不可能」と考えている人も多いようだ。

 ところが最近になって,「#SaveTitanfall」で「Operation Red Tape」という表題の,229MBにおよぶ文書が公開された。それによると,Jeanueの正体は,古くからのコミュニティメンバーである「p0358氏」と「RedShield氏」を中心とするグループであり,7月4日の「Apex Legends」に対するハッキングを行った張本人であるとのことだ。
 p0358氏は自称ハッカーであり,Respawn Entertainmentが運営の興味を失っている「タイタンフォール」のオープンソース化を求めていたゲーマーだ。そして,彼と共に同作のコミュニティ「TF Remnant Fleet」を運営しているのが,RedShield氏である。

 同じコミュニティメンバーであるWanty氏やDirectXeon氏らによって作成された文書には,TF Remnant FleetのメンバーがDiscordでチャットしている様子が切り抜かれて掲示されており,2月時点でグループが「『Apex Legends』へのハッキングを売名目的で行うこと」を計画していたり,RedShield氏が「仲間を使って特定のストリーマーを攻撃させたこと」をひけらかしたりしている。こうした“暴露”について,p0358氏は,「#SaveTitanfall」の運営者にDiscordの内容を曲解されて「嵌められた」と主張する。もはや何が真実なのか,まったく分からない状況だ。

「タイタンフォール」はクラウドサーバーを利用しているにもかかわらず,一度に複数のサーバーがシャットダウンに陥ることもしばしばあったという。最近は落ち着いており,「Operation Red Tape」が公開されたためという見方もできるが,その信憑性は一切不明だ
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 「Apex Legends」が攻撃されたことで,さまざまなメディアでも「タイタンフォール」の惨状が伝えられるようになり,ハッカーの目的はひとまず達せられたと言えるかもしれない。ここ1か月,「タイタンフォール」のPC版サーバーは落ち着いている。とはいえ,Jeanueは誰なのか,「#SaveTitafall」と「TF Remnant Fleet」は数年にわたるDDoS攻撃の共犯なのかは分からず,なぜ,これだけさまざまな問題が発生しているにもかかわらず,パブリッシャは具体的な処置をとらないばかりか,ゲームを販売し続け,時折セールまで実施しているのか……。

 DDoS攻撃やハッキングは多くのプレイヤーの楽しみを奪う行為であり,それがどんな理由であっても許されるはずがない。それが,EAの「タイタンフォール」という傑作を舞台に公然と行われ続け,ゲームそのものが破壊され,「Apex Legends」という大樹の傍らで,倒木が朽ち果てていくかのように放置されていることに驚くばかりである。

Nexonが担当していた「Titanfall Online」は,2018年に開発中止が報じられた(関連記事)。次回作の噂や要望がときどき聞こえてくるが,旧作が放置されている現状でコミュニティを納得させるのは難しいだろう
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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