連載
極私的コンシューマゲームセレクション第3回:「美味しんぼ DSレシピ集」
» 毎月“4”の付く日(4/14/24日)更新の本連載。4Gamerの編集部員が,リレー形式でコンシューマゲーム機のタイトルを思い思いに紹介していくのだが,第3回は編集部きっての美食家(?)TeTが,「美味しんぼDS レシピ集」を紹介する。
■「美味しんぼ」が24年の時を経てニンテンドーDSに登場
2007年5月の時点で98巻までが発売されており,単行本の累計発行部数は1億部を超えているとのこと。日本人の一人につき約1冊は,美味しんぼを所有しているという計算だ。あ,おかしなことを書いているのは自覚しているので,突っ込まないでも大丈夫。
さて,美味しんぼとは,東西新聞社の文化部に勤めるグータラ社員 山岡士郎が,“究極のメニュー”を求めて東奔西走する物語である。ライバル社の帝都新聞社が,書家/陶芸家そして会員制料亭「美食倶楽部」を主宰する海原雄山(山岡の実父)を擁して立ち上げた“至高のメニュー”と対決したり,同じく究極のメニューの担当者だった栗田ゆう子と結婚したり,さまざまなトラブルを美味しいもので丸め込んだりといった展開(意訳)で,現在でも根強い人気を保っている。これまでに,アニメ化やドラマ化,実写映画化もされているので,それらを目にしたことがある人も多いだろう。
また1989年には,ファミリーコンピュータ用のアドベンチャーゲームとして,バンダイ(当時)から「美味しんぼ 究極のメニュー三本勝負」が発売されている。ただまあ,こちらのゲームとしての出来は究極でも至高でもなく,あらぬ方向にとがりすぎていて,一部の好事家のみがニヤニヤしながら大絶賛するような,そんな作品だった(詳細は各自で調査を)。
今回紹介する「美味しんぼ DSレシピ集」(以下,美味しんぼDS)は,美味しんぼを題材としたゲームとしては2作め。タイトルどおり,ゲームというよりはレシピ集としての色合いが強いが,ゲーム要素も併せ持っているので,ここではゲームであると断言したい。じゃないと話が進まないので。
■美味しんぼに出てきた料理を実際に作れる!
ちなみに2004年と2006年には,小学館より「美味しんぼの料理本」「続・美味しんぼの料理本」が発売されている(美味しんぼDSは,美味しんぼとこの2冊を原作としているようだ)。これらの本にも,美味しんぼDS同様,作中に出てくる料理の作り方が書かれていたのだが,必要な材料の分量についての記載がないなど,レシピ本として使うにはちょっと厳しい内容だった。
ある程度の料理経験の持ち主であれば,美味しそうな料理の写真を眺めつつ,それがどんな材料によって構成されているのかを知ることによって,自分好みの味付けでうまいこと(料理だけに)完成させられるのだろうが,美味しんぼファン全員がそんな料理名人であるわけがない。
筆者など,料理をするのは一年に一度あるかないか。基本的に食べる専門家である。が,美味しんぼを読んでいると,作中に登場する料理を口にしたいと思うことはしばしば。どこかのレストランや食材店にあるものならば,懐に余裕さえあればなんとかできなくもない。
実際,遊びで大阪に行ったときには,美味しんぼに登場した昆布屋までタクシーを飛ばし,昆布粉を買って帰ったこともある(後日,都内のデパートでも購入可能なことを知ってガッカリ)。
とはいえ,自分で料理するとなるとやる気が出ない(料理に限った話ではないのだが)。本当はやれば出来る子だと思うのだが,きっかけがないのだ。どんな物語だって,主人公の行動にきっかけが描かれていなければ説得力は出ない。それと同じで,きっかけなき行動など無意味なのである。
■紹介されている料理を実際に作ってみよう
そんなこんなで,美味しんぼDSでレシピを眺めながらよだれを垂らしたり,名シーンを眺めながら涙を流したり,「クイズ 究極 vs 至高」で雄山を打ち負かしたりするだけで満足していた。
だが,世間で母の日とされている日の午前中のこと。離れて暮らす姉から,母へ赤黒いカーネーションが送られてきたのを見て,母への贈り物など何一つ考えていないことに気づいてしまったのだ。
母への日頃の感謝の気持ちを伝えるために,何をすればいいのだろうか? 一週間分の芸能情報をまとめて紹介しているテレビ番組をぼんやり見つめつつ,3分ほど悩んだ。そして閃いた。
昼食を買いにコンビニに行くと,なぜかデザート類まで豊富に購入してしまい,財布の中身と反比例して体重が増える奇病にかかってしまった僕のために,そこそこコンスタントにお弁当を作ってくれる母への感謝の気持ちを表すには,料理をするのがベスト(手軽)ではないか,と。
その後も,「串刺し伊勢エビのトリュフソース煮」など,なかなか無茶な要求をしてくる母。これでは,料理に取りかかる前に父の日になってしまう! 半泣きになりながら冷蔵庫を開けてみると,母がフライ用に解凍しておいたエビを見つけた。これを使って,何か作れないものか? NDSの画面に映る栗田さんのナビゲートを受けながら,エビ関連メニューを検索。全119品登録されているメニューの中で,エビ関連のものは,「釜山式ネギ焼き」と「エビ・タマゴサンドイッチ」の2品のみ。釜山式ネギ焼きの材料には,またしても牡蛎が含まれていたので却下。エビ・タマゴサンドイッチに挑戦することに。
しかしそれだけでは,母の日ディナーとしては少々物足りない。もう一品ぐらい余計に作って,華を添えたい。時間や手間をあまりかけなくていい料理を教えて栗田さん! と,今度は材料ではなく難易度から検索。レベル1に登録されていたものの中でも,とりわけ簡単そうな「マッシュルームの照り焼き」を作ることにした。枯れ木も山の賑わいといったところか。
海原雄山自らが,その季節の食材を使った料理を紹介してくれる「おすすめレシピ」。雄山のキャラを考えると,おすすめを聞いてるのは栗田さんという設定か | 美味しんぼの登場人物が,食べたい料理を語る「あの人は何が食べたい?」。社主と局長と副部長の言うことだけは聞きたくない気がするのはなぜだ | |
今回,実際に作ってみることにしたのはこの二品。果たしてその結果は……? |
■いざ,調理開始!
二つのレシピの詳細(材料や手順)は,美味しんぼDSで確認してほしいので割愛する。ここでは使い勝手についてレポートしておこう。
本作では,レシピの検索を材料/調理方法(焼く,炒めるなど)/種類(丼や汁物など)/ジャンル(中華やイタリアンなど)/難易度(レベル1〜レベル5)/所要時間/キーワード(文字を手書き入力して検索)から行える。
また,季節の食材を使ったオススメの料理を海原雄山が紹介してくれる「おすすめレシピ」,美味しんぼに登場するキャラクターが食べたいものを教えてくれる「あの人は何が食べたい?」などもあるので(京極さんが「抹茶のカクテル」を飲みたがるのは,なんとなく解せないが),メニューを考えるのが面倒な人も安心だ。
さて,作りたいものを選ぶと,材料や器具,手順,そして原作にその料理が登場するシーンを確認できる。材料や器具は,名称の前にチェックボックスが付いているので,これを使って手元にあるものを事前に把握しておこう。
準備が整ったら「作る」(あるいは「すぐに作る」)をタップすれば,山岡さんが手順を教えてくれる。残念ながらそのときの音声は,井上和彦さんの声ではなく合成音声だが,これはこれでSFっぽくて格好いいので良しとしよう。
調理中,手順は上の画面に表示され,下の画面では補足説明を受けられる。なお,ここではマイクに向かって「もう一度」などと言うことで,同じ説明が繰り返される。両手がふさがっているときに,手順が頭から消えてしまったような場合でも安心,という仕組みだ。
ただ,調理にもたついて長時間NDSを放置している間に,勝手に画面が切り替わり,「美味しんぼ お料理辞典」の「塩」の説明が始まることなどがあった。
どうやら,音声認識の誤作動に原因がある模様だ。こうなると,Bボタンを押すか「戻る」をタップするかしないと,元の画面には戻れない。素手で調理をしているとき,NDSに触るために手を洗ったりする手間はなるべくとりたくないもの。こういった事態を防ぐには,雑音のない環境にNDSを置いておく必要がある。が,調理をしていると何かと音が立ってしまう。だからといって,台所から離れた場所にNDSを置いておくのでは本末転倒だ。このあたりは,開発者側にとっても悩ましい問題かもしれない。
■ついに完成! 果たして味は……?
さて,そんなこんなで合成音声の山岡さんの指示にしたがって調理を進めていった結果,二つの料理が完成。本作によると,エビ・タマゴサンドイッチの調理時間は20分とのことだったが,エビ8尾分の背わたをとるだけで20分以上かかってしまったため(エビが怖かったから),トータルで40分ほどかかってしまった。
ここで気になるのは,やはりその味だろう。結論から言えば,エビ・タマゴサンドイッチはエビと卵の風味が絶妙なハーモニーを楽しませてくれたし,マッシュルームの照り焼きは香ばしさの中からしみ出てくるマッシュルームの風味が心地よかった。母もまずまず喜んでくれたようだ。
しかし,反省点もある。エビ・タマゴサンドイッチで使用したエビが大ぶりで,しかもたたき方が足りなかったため,卵と混ぜてオムレツ風に焼き上げようにも,加熱に時間がかかりすぎてしまい,卵が硬くなってしまったのだ。エビのプリッとした食感は楽しめたが,卵がもっとフワッとしていたら,さらに美味しくできたのではないか。本作では,料理完成後,自己評価(5段階)やコメントを残せるので,この反省点をメモしておいた。再チャレンジをしようと思ったとき,きっとこのメモが役立つだろう。来年の母の日あたりまで,その機会はないかもしれないが。
こんな具合に,ゲーム機の合成音声の指示どおりに料理をするという,ある種レトロフューチャー的な経験をしてみた次第である。料理をしようという気持ちはゼロではないものの,美味しんぼを読む時間を削ってまで料理をしたくはない,と思いながら生きてきた筆者が,本作と出会うことによって実際に料理をしたということは,ゲームが実生活にプラスの影響を与えた一例と言える……のか?
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美味しんぼ DSレシピ集
対応機種:ニンテンドーDS/ニンテンドーDS Lite
メーカー:バンダイナムコゲームス
発売日:2007年3月8日
価格:3990円(税込)
CEROレーティング:A(全年齢対象)
公式サイト:http://namco-ch.net/oishinbo/index.php
(C)雁屋哲+花咲アキラ (C)2007 NBGI
(C)雁屋哲/花咲アキラ/小学館ビッグコミックスピリッツ連載中
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美味しんぼ DSレシピ集
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