ARES/2DIS/4GD5
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
予想実売価格:14万円前後(※2010年7月10日現在)
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2010年7月1日の記事でお伝えしたとおり,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)は,ゲーマーやオーバークロッカーに向けて展開している独自ブランド
「R.O.G.」(Republic of Gamers)の新製品となるグラフィックスカード「ARES/2DIS/4GD5」(以下,ARES)を,14万円前後という予想実売価格で7月中旬に発売予定だ。
フルスペックの「ATI Radeon HD 5870」(以下,HD 5870)を2基搭載するというのは,現時点において間違いなく最高のスペックになるが,その実力はどれほどのものなのか。テストを通じて迫ってみたい。
製品ボックスからして規格外のARES
補助電源コネクタは8ピン×2+6ピンという構成
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巨大な製品ボックス。デュアルGPU仕様のASUSオリジナルグラフィックスカードというと,「MARS/2DI/4GD3」を思い出す人もいると思うが,製品ボックス上のコピーは,先の製品と同じく「Limited Edition. Unlimited Power」になっている |
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メタルケースのなかにARES本体やケーブル,マウスが収められている |
今回のテストに当たってはASUSから貸し出しを受けたのだが,届いてみて驚かされたのは,製品ボックスの大きさである。サイズは実測で550(W)×200(D)×450(H)mmと,
ちょっとしたPCケース並み。しかも重量は6.9kgあるので,PCショップの店頭で購入した場合,持って帰るのには,少々気合いが必要だ。
ASUSの上位製品で製品ボックスが大きいのに慣れているという人でも,重さには驚くと思うが,この重さは,製品ボックスを開けると出てくるメタルケースによってもたらされている。ASUSロゴの入ったこのメタルケースは,ダイアル式ロックが付いているなど,かなり本格的なアタッシュケースなのだが,そもそもカードを持って歩く局面が想像できないことも踏まえるに,多分にコレクターズアイテム的と評すべきだろう。国内販売の行われていないR.O.G.ブランドのマウス「GX800」が付属するのも,レアといえばレアかもしれない。
……この二つで全体のコストをどれだけ上げているのかまで考えると,さすがにやり過ぎではないか,とも思うが。
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実測368(W)×308(D)×114(H)mmとなる「P6TD Deluxe」マザーボードの製品ボックスを子供扱いするARESのボックス。巨大なことで知られるASUSのハイエンドグラフィックスカード用製品ボックスと比べても体積で4倍以上という“とてつもなさ”だ。アタッシュケース状のメタルケースには,ARESを紹介する小冊子も取り付けられている |
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付属のワイヤードマウス「GX800」。レーザーセンサーを搭載し,本体サイズは72(W)×127(D)×42(H)mm,重量は150g。トラッキング解像度を800/1000/1600/2400/3200CPIから選択できるほか,ドライバレベルのマクロ機能も用意されるのがウリだそうだ |
製品ボックス総重量のうち,2.2kgを占めるARESのカード長は実測で291mm(※突起部除く)。基板の長さ自体はHD 5970から変わっていない。AMD公式のデュアルGPUソリューションである「ATI Radeon HD 5970」(以下,HD 5970)リファレンスカードだと,GPUクーラーが基板から明らかにはみ出ており,総カード長は300mmを超えていたのに対し,ARESはそこまでではないため,むしろ,ぱっと見の印象は若干ながら短くなっている。もっとも,そのクーラーは高さ実測148mmの3スロット仕様となっているので要注意だ。
HD 5970リファレンスカードと並べてみると,違いがよく分かる。外部出力インタフェースにも変更があり,HD 5970のDVI-I×2,Mini DisplayPort×1だったのが,ARESではDVI-I,DisplayPort,HDMI各1となっている
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8ピン×2+6ピン×1という仕様のARES。製品ボックスには,6ピン×2から8ピン×1へ変換するアダプタが2つ付属する
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そんなARESのスペックを,HD 5970&HD 5870と比較したものが
表1となる。
HD 5970は,PCI Express 2.0で規定されている300Wという最大消費電力の枠内に収めるため,HD 5870と同じCypresssコアのGPUを2基搭載しつつも,動作クロックは「ATI Radeon HD 5850」相当に落としてあるという,変則的な仕様になっていた。それに対して,HD 5870のクロックそのままで動作するというのが,ARESの持つ大きな特徴である。
“フルスペックHD 5870×2”仕様になると,言うまでもなく消費電力は300Wを超えてしまう。そこでARESでは,8ピン×2,6ピン×1のPCI Express補助電源コネクタ搭載,
最大450Wもの電力供給を可能にすることで,この問題に対処してきた。HD 5970に,8ピン×1を加えるという,なかなかのチカラワザだ。ちなみに,3基の電源コネクタすべてに正しく電力を供給しない限り,ARESは動作しない。
GPUクーラーは,銅製のパッシブクーラー×2,カードの補強板も兼ねていると思われるファン台座兼メモリ用ヒートスプレッダ,そしてカード裏面のヒートスプレッダという4ピース(※クーラーのカバーも入れると5ピース)構成。順番に外していくと,4本のヒートパイプが走る銅製のパッシブクーラーがGPUの上に載っており,そこに向けて,本体中央部のファンからエアーが吹き付けられる構造になっているのが分かる。
 カード裏面は1枚の大型ヒートスプレッダに覆われている |
 カード裏面のヒートスプレッダを外したところ |
 カード表面のカバーを外すと,全体のデザインが分かる |
 2個のパッシブクーラーはGPU用。いずれも4本のヒートパイプを採用 |
 パッシブクーラーを真横から。ヒートパイプは底面と上面をつなぐ |
 S字型のファン台座兼メモリチップ用ヒートスプレッダを外したところ |
ATIロゴ入りのブリッジチップ
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カードのレイアウトはHD 5970と比べてかなりの違いが見られるが,最大のものは,電源供給を担うVRM部が本体中央部へ移動し,かつ,多くのスペースを占有するようになった点だ。HD 5970だと,「AMD8647-BB50BC F」と刻まれたPLX Technology製のPCI Express 2.0ブリッジチップを中央に,2基のGPUがほぼ等距離で並んでいたのだが,ARESでは1基がブリッジチップから離れた。
また,グラフィックスメモリ容量がGPUあたり2GBになったことで,GPUごとに計16枚のメモリチップを搭載しているのも,見た目の違いを生む要素となっている。
ARES(左)とHD 5970リファレンスカード(右)のそれぞれ基板。似て非なるデザイン,といったところか
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なお,搭載するメモリチップはHynix Semiconductor製GDDR5「H5GQ1H24AFR-T2C」(0.4ns品,1.5V)を採用。ARESのメモリクロックは4.8GHz相当(実クロック1.2GHz)なので,実クロック50MHz分だけマージンがある計算だ。ちなみにこのメモリチップは,HD 5970リファレンスカードが搭載していたものと同じである。
搭載するCypress GPUとメモリチップ
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HD 5970およびHD 5870のCFX構成と比較
レギュレーション9.2をベースに,DX11テストを追加
テスト環境は
表2のとおり。比較対象としては,HD 5970,そしてHD 5870のATI CrossFireX構成(以下,HD 5870 CFX)も用意した。
テスト方法は基本的に4Gamerの
ベンチマークレギュレーション9.2準拠。ただし,テストスケジュールの都合もあり,「Left 4 Dead 2」と「ラスト レムナント」を省略しつつ,DirectX 11環境での評価を深めるため,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークテストを用いる。テスト対象の3D性能を踏まえ,今回は1920×1200&2560×1600ドットの「高負荷設定」のみで検証すること,「Crysis Warhead」はグラフィックスメモリ容量が1GB以下の環境では2560×1600ドットの検証を正常に行えないため,本タイトルのみ1680×1050&1920×1200ドットでテストすることを,あらかじめお断りしておきたい。
テストするタイミングなどによってその効き具合が異なることを避けるため,「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」の自動オーバークロック機能「Intel Turbo Boost Technology」はBIOSから無効に設定。一方,「Intel Hyper-Threading Technology」は有効にしたままとした。
条件次第でHD 5970より数%〜数十%速いARES
HD 5870 CFXには勝ったり負けたり
順に見ていこう。
グラフ1は「3DMark06」(Build 1.2.0)の結果である。ARESのスコアはHD 5970比で3〜6%高く,とくに2560×1600ドットでスコア差の開く傾向が見られた。
一方,HD 5870 CFXには0.5〜1%程度届かず。このわずかな落ち込みこそ,2基のHD 5870がいずれも16レーンで接続されるHD 5870 CFXに対し,PCI Express 2.0ブリッジチップ経由で16レーンを共有するARESに科せられた,宿命的なボトルネックと指摘することができそうである。
続いて,DirectX 11モードで実行したSTALKER CoP公式ベンチマークソフトのテスト結果をまとめたのが
グラフ2だ。
本ベンチマークテストでは,描画負荷の低い順に「Day」「Night」「Rain」「SunShafts」という4つのシークエンスが用意されており,ここでは各シークエンスのテスト結果をまとめているが,HD 5970に対するARESのスコアは最低でも15%高く,優秀性が際立っている。
とくにSunShaftsの2560×1600ドットでは,スコア差は65%。HD 5870 CFXに対しても互角以上に立ち回っていることからして,GPUあたり2GBというグラフィックスメモリ容量が効いている印象だ。
同じくグラフィックス負荷の高いCrysis Warheadのテスト結果が
グラフ3になる。STALKER CoPほど顕著なスコアではないものの,ARESがグラフィックスメモリ容量の多さを活かしてHD 5870 CFXといい勝負を演じている点には注目しておきたい。
続いて
グラフ4は,打って変わってグラフィックス描画負荷が低く,かつ,シェーダプロセッサ数やテクスチャユニット数とそれらの動作クロックがスコアを左右する「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,グラフの傾向は3DMark06と同じようなものに落ち着いた。HD 5970と比べると,ARESのスコアは11〜14%高い。
それは,
グラフ5に示した「バイオハザード5」でも同じ。ただし,テストに用いたバイオハザード5の公式ベンチマークツールはCPU負荷が高めで,そのため1920×1200ドットでは120fps前後でスコアの頭打ちが見られる。
最後は,「Colin McRae: DiRT 2」である。ここではDirectX 9&11の両モードでテストを行ったが,ARESはどちらの動作モードでもHD 5970に対して10%前後高いスコアを示した(
グラフ6)。
なお,DiRT 2では,ARESのオーバークロックも試してみた。GPUやメモリ電圧は変更しないまま,動作クロックだけを「ATI Catalyst Contorol Center」から変更し,DiRT 2のテストが問題なく完走する設定を探ってみると,GPUコア890MHz,メモリ5400MHz相当(実クロック1350MHz)を達成。この状態でDirectX 11モードのスコアを取得してみると,
- 1920×1200ドット:117.6fps(定格クロック比+5%)
- 2560×1200ドット:77.1fps(定格クロック比+5%)
というスコアが得られている。動作電圧を変更していないとはいえ,5%というスコアは評価の分かれるところだろう。
HD 5970比で消費電力は100W上昇
大きくてうるさいGPUクーラーの冷却能力は高い
8ピンの補助電源コネクタが1つ増え,カード単体で300Wを超える消費電力が期待(?)される消費電力をチェックしてみよう。
今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用意し,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,システム全体の消費電力を計測する。
その結果をまとめたものが
グラフ7で,アプリケーション実行時におけるARESの消費電力は,HD 5970にプラスしてざっと80〜115W。PCI Express 2.0の規格上,補助電源コネクタで供給できる電力は6ピンが最大75W,8ピンが最大150Wなので,8ピンコネクタが用意されたのも納得といったところだ。
また,アプリケーション実行時には最大でも14Wで,決して大きくはないのだが,HD 5870 CFXよりもARESのほうが消費電力が高めに出ていることは指摘しておきたい。
ただ,動作クロックをHD 5970から高めただけで,100W前後も消費電力が上がるというのはちょっと考えにくい。そこで,TechPowerUp製BIOS編集ツール「Radeon BIOS editor」(Version 1.25)からチェックしてみると,ARESのGPU動作電圧は1.175Vで,HD 5970の1.05Vより高かった。おそらくこれが消費電力増大の理由だろう。
ちなみに,DiRT 2におけるオーバークロックテスト時の消費電力は527W。規定クロック時と比べて20W程度上がった計算になる。
左はARES,右はHD 5970のクロックテーブルをRadeon BIOS Editorからチェックしたところ
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Radeon BIOS editorからファンの回転数設定を確認してみると,40〜89℃まで8段階に制御されているようだと分かる
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続いて,GPU温度もチェックしておこう。
ここでは,3DMark06を30分間連続実行させた状態を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.4.4)からGPU温度を取得することにした。テストは,室温23度の環境下で,PCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で行っている。
その結果が
グラフ8である。筆者の主観になることを断ったうえで端的にまとめると,ARESのGPUクーラーは「ウルサイ」の一言。常用を考えているなら相応の覚悟が必要なほどだが,高負荷時に2基とも68℃という数字からするに,動作音の分,しっかり仕事をこなしているといえそうだ。
史上最速のシングルカードなのは間違いないが
どこからどう見てもコレクターズアイテムだ
HD 5970に対して常時一定のスコア差を示しているというテスト結果からして,ARESが現時点において世界最速のグラフィックスカードであることに疑いの余地はない。あとは,
- 動作クロックが同じこともあって,ブランドを問わなければ4万円台前半から購入できるHD 5870によるATI CrossFireX構成と同等か,場合によっては下回るパフォーマンスに落ち着くことがある
- 8ピン×2,6ピン×1による電源供給が必須で,アプリケーション実行時の消費電力はHD 5970よりざっと100W高い
- 常用を考えるにはうるさすぎるGPUクーラー
- (全世界1000枚限定で)予想実売価格14万円
製品名は「ATI Radeon HD 5900 Series」でも「ATI Radeon HD 5800 Series」でもなく「ASUS ARES」
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といった部分をどう考えるかだろう。
……というか,考えるまでもなく,これはゲーマーがフレームレートの向上に期待して購入するべきものではない。その前提では,コストパフォーマンスも使い勝手も悪すぎるのである。ARESはあくまでも,出荷量の限られた最速カードでベンチマークテストの世界記録を狙う人に向けて開発されたコレクターズアイテムだ。
というわけで,4Gamer読者にはまったくお勧めしないが,しかし,世界には,このカードを必要としているニッチ層が確実に存在しているはずで,そういった人達に届く唯一の選択肢として,ARESには間違いなく価値がある。ASUSには今後も,R.O.G.ブランドで頂点を目指し続けてほしいと思う。