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印刷2008/06/18 12:21

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ゲーマーのための読書案内 / 第50回:雪の峠・剣の舞

ゲーマーのための読書案内
武蔵松山城はなぜか漫画で大人気 第50回:『雪の峠・剣の舞』→戦国ゲーム

 

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『雪の峠・剣の舞』
著者:岩明 均
版元:講談社
発行:2001年3月
価格:714円(税込)
ISBN:978-4063343878

 

 せっかく5年ぶりに「天下統一」シリーズの最新作が登場したので,何か戦国時代を扱った本を紹介したいと思うのだが,藤木久志氏の著作は以前紹介したわけでもあり,読者のみなさんが同氏の本を探すのにさほど手間はいらないと思う。さりとていまさら,有名な武田信玄の肖像画は……という話題を展開するのも,あまり有益とはいえまい。そんなわけで,今回は岩明 均氏の漫画『雪の峠・剣の舞』を紹介しよう。フレーバー要素にはフレーバー要素を,というハラでもある。

 「雪の峠」は,天下分け目の関ヶ原の合戦を受けて秋田に転封(減封)された戦国大名,佐竹家を題材とする。よく知られているように,史実における佐竹家は関ヶ原戦役に臨んで,東軍と西軍どちらにつくか最後まで逡巡し続ける。これは当主である佐竹義宣と,先代である佐竹義重の対立として伝えられることが多いものの,真相はよく分からない。「雪の峠」は,どちらに加担するかを決める,重臣一同を前にした最終評議の場面から描き起こされ,当主義宣の独断で西軍への参加が決まるところから,物語がスタートする。
 そしてご存じのように,関ヶ原は東軍の勝利に終わる。その間佐竹家は家康のいない江戸を窺うこともせず,さしたる軍事行動をとっていないわけだが,敗軍の一員として前述のような秋田転封の憂き目に遭う。常陸の旧領と比べて石高はわずか3分の1になり,重臣達の間には,義宣に対する不満がくすぶる次第となっていた。

 転封の後に持ち上がったのが,佐竹領の新しい本城をどこに置くかという問題だ。それをめぐって当主義宣+近習達と,重臣達との間に起こった,まるで戦のような駆け引きが,この作品のメインモチーフとなる。築城論議と,その一方の当事者が客将である梶原美濃守政景だったこと自体は史実を受けているものの,その後のさや当ては基本的にフィクションだ。しかしながらこのフィクション部分が,実に巧みに描かれている。
 最終的な本城の決定やその後の顛末については,なんというか,当時の時代状況をよく捉えつつ,良質なミステリのようなどんでん返しが用意されていて,最後まで飽きさせない。

 岩明 均氏の代表作といえば「寄生獣」なわけだが,そこで示されたヒューマンドラマの巧みさが,この小品でも遺憾なく発揮されている。事物の徹底した描き込み(つまりやたらと気合いの入った絵)で時代性を表現しようとするような方向性はほとんどないし(失礼),登場人物の言動にいたっては現代人たる読者が思い入れを持ちやすいように配慮されているくらいなのだが,異色のSF作品「七夕の国」で片鱗を示した,人の思考様式で場所や時代の雰囲気を表現する手法が,本作では十二分に活用されている。
 作品の中でいま持ち上がっている問題,それを登場人物それぞれがどう捉えるかという価値観の部分,そのまた外側で事態の行方を決定する要因のいずれもが,戦国ドラマの構成要素としてたいへんうまく組み合わせられている。初めて読む人ならきっと,タイトル付けの巧みさにも唸らされることだろう。

 同じ本に収録されている「剣の舞」も戦国モノで,こちらは新影流の創始者である剣豪,上泉伊勢守信綱と,弟子の疋田文五郎を題材に,剣術という個人の武勇が意味を失っていく時代と,それを武道に昇華させて意義を見いだそうとする上泉信綱という,これまた興味深い題材を扱った,ちょっぴり哀しいお話だ。
 共和制ローマに攻められる古代シラクサを扱った『ヘウレーカ』や,現在月刊『アフタヌーン』に連載中の「ヒストリエ」を含めて,最近のこの人の作品では大河ドラマ的時代絵巻が魅力であるとともに,飄々とした食えない人物の設定が巧みで,脱力系だがやるときはやるキーパーソンの活躍が,一つの読みどころとなっている。
 暑苦しくて湿っぽい描き方が戦国時代をハンドリングする唯一の方法ではないという意味でも,読んで損のない秀作である。現在版元在庫切れなのが残念至極だが,文庫版も含めて中古品の流通は比較的多いようだし,書店によっては流通在庫があるかもしれない。興味を惹かれた人は探してみよう。

 

「七夕の国」の丸神忠頼・正頼親子も妙に説得力がありました

祀られていた神様のほうは,まあともかく。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
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