2017年1月に米国ラスベガスで行われた「CES 2017」で,MSIは新型のゲーマー向けPCを多数発表した(
関連記事)。「MSIのゲーマー向けPC」と言うと,日本ではノート型を思い浮かべる人も多いだろうが,世界市場ではデスクトップPC市場へも参入済みで,当然,CES 2017の会場にはデスクトップPCも並んでいた。デザインが特徴的なだけでなく,仕様面でも工夫が凝らしてあり,筆者は「国内発売となればチャンスもあるだろう」と思っていたりもしたのだが,どうやら,そのタイミングは存外早く訪れそうだ。
Aegis Ti3
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MSIによると,現在同社は,国内市場に向けて初投入となるゲーマー向けデスクトップPC,
Aegisシリーズを準備中だという。
4Gamerではその中から,ハイエンドモデルとなる「
Aegis Ti3」(イージス ティーアイスリー)を入手し,その仕様をじっくりチェックすることができた。今回は個性的な外観と独特の内部構造を中心に,ファーストインプレッション的なレポートをお送りしたい。
なお,正式発表前ということで,製品ラインナップや価格,詳細なスペックや発売日はすべて未定だ。試用機のスペックは,国内で販売される製品とは異なる可能性があるので,その点はあらかじめお断りしておきたい。
MSIはCES 2017で,5種類のゲーマー向けデスクトップPCを発表していた。今回チェックするAegis Ti3(スライド中央)は,とくに高スペックを重視したハイエンドモデルという位置づけだ
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4Gamerに届いた製品ボックスからAegis Ti3を出した状態。大柄なデスクトップPCが,布製の袋に包まれているというのは初めて見た
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ロボットのようなフロントパネルと前傾姿勢の筐体が目を惹く
まずは外観からチェックしていこう。
Aegis Ti3でまず目にとまるのは,奇抜な見た目のフロントパネルと,背面側が上に持ち上がり,前面に向けて傾斜した独特の形状だ。
それだけでも十分にユニークな形状ではあるのだが,電源を入れると,フロントパネルに埋め込んであるLEDイルミネーションが光ることで,ゲームやアニメに出てきそうなロボット然とした見た目になる。ちょうど目や口,額や頬といった顔を思わせる部分が光るのだ。好き嫌いは分かれるだろうが,こういうデスクトップPCもあっていい。
通電した状態のAegis Ti3。LEDイルミネーションが光ると,まさに見た目はロボットの頭部だ。後部が持ち上がった前傾姿勢の形状もよく分かる
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実測した筐体のサイズは,前面の幅が約178mmで高さが約422mm,背面は幅が約193mmで高さが約510mm,奥行きは約505mmだった。高さで言うなら,やや大きめのミドルタワーといったところか。
本体前面(左):上端はフロントI/Oパネルとなっており,その下にトレイ式のDVDスーパーマルチドライブがある。ロボ顔の額に当たる部分にあるG Seriesのロゴマークは「Game Boost Button」で,押すとCPUがクロックアップ動作に切り替わるという
本体背面(右):グラフィックスカードの外部出力インタフェースが縦配置で横に並んでおり,I/Oパネルはその下というレイアウトに注目
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フロントパネルも相当に変わっているが,横から見た筐体の風変わりな形状は,それ以上かもしれない。前面側がくさび形になった台座部分に,前傾した筐体が乗っているのだ。しかも台座部分の後部は切り欠いたようになっていて,筐体後部は宙に浮いたような配置になっている。台座の後部上端を筐体の後ろ側まで引き延ばした設計にすることもできたはずだが,デザインを優先してこうなったのだろう。
本体左側面は,内部への吸気を確保するために,メッシュ状になったプレートが広い面積を占めている(左)。右側面の構造もほぼ同じだが,左側面の上側にあったメッシュ部分が,こちらにはない(右)
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しかも,このくさび形をした台座部分には,電源ユニットが入っている。電源ユニットを台座部分に置いて,マザーボードやグラフィックスカードがある区画から分離しているわけだ。電源ユニットを下に置いたうえで,マザーボードのエリアと分離する構造自体は珍しいものではないが,くさび形の台座部分に入れるというアイデアは,ちょっと思いつかない。
「電源ユニットが故障したら,ユーザーが自力で交換するのは困難じゃないか?」と思ったが,そういう場合は素直に修理に出すべき製品ということか。
くさび形の台座部分に電源ユニットがある(左)。搭載する電源ユニット自体は,デスクトップPCで一般的なATXタイプのようだ(右)。電源ケーブルを差し込むコネクターが奥にあるので,ケーブルの抜き差しはやや手間に感じた
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目を上側に転じてみよう。
筐体左右側面の上側には,折りたたみ式のヘッドフォン用フックが付いている。これを展開した状態が下の写真だ。詳しくは後段で説明するが,LEDの発光色をそれっぽく変えてみると,ロボット具合がさらに増した感じになった。いっそMSIは,この筐体デザインをモチーフにしたロボットのフィギュアでも作って,購入者にプレゼントすると喜ばれるのではないだろうか。
各部のLED発光色をそれっぽく変えて,ヘッドフォン用フックを開くとこのとおり。どことなく悪役ロボットっぽく見えませんかね
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ヘッドフォン用フックを別の角度から。右写真は,ヘッドバンドの大きいSteelSeries製ヘッドセット「Arctis 7」をかけてみた状態だ
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前面上部にあるフロントI/Oパネルにも,見るべきポイントがある。フロントI/Oパネルの右端に,「VR」と書かれた端子があるのだが,これはVRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)を接続するための「VRポート」であるという。
前面上部のフロントI/Oパネル部(左)。左からUSB 3.1 Gen.2 Type-C×1,USB 3.1 Gen.2 Type-A×1,USB 3.0 Type-A×1,ストレージの動作状態を示すLED,3.5mmミニピンのマイク入力とヘッドフォン出力,VRポート(HDMI出力)が並ぶ。天面手前側にある赤いボタンは電源ボタンだ。フロントI/Oパネルの下は,トレイ式のDVDスーパーマルチドライブになっていた(右)
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背面を見ると,2枚のグラフィックスカードの間に「VR Link」と書かれた端子がある
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Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」といったVR HMDは,グラフィックスカードのHDMI出力端子につないで使うものだが,一般的なデスクトップPCは映像出力が背面にしかないので,映像ケーブルの抜き差しが不便だという声があると聞く。そこでAegis Ti3では,グラフィックスカードのHDMI出力を前面に引き出すためのケーブルを内部に用意しており,それを使うことで,フロントI/OパネルのVRポートにVR HMDを接続できるようになるわけだ。
MSIでは,フロントにHDMI出力を引き出す仕組みを「VR Link」と呼んでおり,2017年モデルのゲーマー向けデスクトップPCにおける特徴として,アピールしている。
天面は,ほぼ全体がメッシュ状のプレートで覆われた排気孔となっていた(左)。背面上部には,頑丈な取っ手が付いている(右)
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LEDイルミネーションの発光パターンは多彩
ただし天面側空冷ファンの発光色は変えられず
MSI Gaming CenterでMystic Lightを選択した状態。画面はデフォルト設定の状態で,すべてのLEDが赤色に点灯するようになっていた
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前段で後述するとしたが,Aegis Ti3では各部にあるLEDイルミネーションの色を変更できるようになっており,MSIはこれに「Mystic Light」という名称を与えている。Windowsから呼び出せる専用コントロールパネル「MSI Gaming Center」からMystic Lightを呼び出すことで,発光色や発光パターンのカスタマイズが可能だ。
MSI Gaming CenterでMystic Lightを選択して「Static」を選ぶと,対応するLEDの発光色を選べるという,よくある仕掛けだ。各部のLEDを同じ色で光らせたり,部位ごとに色を変えたりできる。ただし,選べるカラーバーには白がなく,試した限り,白系の色で光らせることはできなかった。製品版では何らかの手段で選べるのかもしれないが。
Staticを選んで「Select All」のチェックボックスをオフにすると,各部のLED発光色を個別に選択できる(左)。右写真は額部分,目,頬,口,側面に個別の色を設定した状態。左のスライドと色が異なるのは,筆者の手違いである
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全LEDの発光色を変えながら撮影してみた様子。左から赤,黄,緑,青,紫で,緑はちょっと水色っぽい
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Dynamicでは9種類の発光パターンを選択できる
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Mystic Lightの設定にある「Dynamic」は,9種類のプリセット発光パターンから任意のパターンを選択する項目だ。パターンにもよるが,かなり派手に点滅するので目立ちはするものの,目立ち過ぎて実用性には欠けるように思う。魅せるための機能といったところか。
9種類ある発光パターンから,「Random」(ランダム)を除いた8種類を光らせて,その様子を動画で撮影してみたので,下の動画を再生してもらえればと思う。
撮影のためにLEDイルミネーションの設定を変えていて,1つ気になったことがある。それは,本体天面にある空冷ファンのLEDが赤色固定で,発光色や発光パターンを変えられないことだ。
ここまでに掲載した写真ではほとんど見えないが,天面側空冷ファンの光は,天面や側面のメッシュから外に漏れて見える。そうすると,足下にAegis Ti3を置いて使うような環境では天面の赤い光が上から見えるので,Mystic Lightで設定した発光色や発光パターンによっては,統一感に欠けてしまうのだ。
机の上にAegis Ti3を置くのなら,天面の光は見えないし,そもそもLEDイルミネーションは使わないという人なら気にならないだろうが,色の統一感を気にする人は注意が必要だろう。
グラフィックスカードのLEDイルミネーションは赤色固定で,天面の排気孔を通して光が見える(左)。筐体を足下に置いて使うような場合は,天面から赤い光が見えることを考慮して,発光色や発光パターンを選ぶのがいいだろう(右)
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中身のつまった筐体内部。パーツの交換や追加は比較的容易
Aegis Ti3の内部は,上からGPU Chamber,CPU Chamber,PSU Chamberに分かれている
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Aegis Ti3は,筐体の外だけでなく内部も独特な構造を採用している。グラフィックスカードのある筐体の上側は「GPU Chamber」,マザーボードのある下側は「CPU Chamber」として,明確に分割する構造となっているのだ。電源ユニットのある台座部分も,「PSU Chamber」と呼ばれる独立した区画となっている。
この構造により,グラフィックスカード側とCPU側のエアフローを分離して冷却効果を高めるとともに,騒音を抑制したというのがMSIの主張だ。
側面パネルを開けて,内部をチェックしてみよう。左側面パネルを開けると,上側にGPU Chamberのグラフィックスカードあり,下側はマザーボードの裏面が見えていた。
左側面パネルを開けた状態。上のGPU Chamber内にあるグラフィックスカード,下のCPU Chamberではマザーボードの裏面がそれぞれ見えるようになった
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Aegis Ti3の試用機に使われていたGeForce GTX 1080 GAMING X 8G。単体での価格は7万円台後半〜9万円前後という高価な製品だ
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今回入手した個体は最上位モデルのようで,MSI製のグラフィックスカード「
GeForce GTX 1080 GAMING X 8G」2枚を2-way SLI構成で搭載するという豪華な構成になっていた。
下側のマザーボード裏面には,「MSI GAMING」の文字入りカバーで覆ってある,容量8GBのDDR4 SDRAM SO-DIMMが2枚と,PlextorブランドのM.2接続型SSDが2枚差してあった。空きのM.2スロットも1つ見える。この配置なら,メモリやSSDの交換は容易に行えるだろう。
ちなみにSO-DIMMにわざわざカバーを付けた理由は放熱のためのもので,このカバーを採用することにより,SO-DIMMの表面温度は53.5℃から47.4℃へと11%低下するそうだ。MSIが公開している資料によると,M.2接続型SSDでもオリジナル放熱カバーを採用することによって温度の削減を図れるとのことなので,最終製品版ではカバーが変わるのかもしれない。
大型のクーラーを装着したGeForce GTX 1080 GAMING X 8Gを2枚搭載(左)。マザーボード裏面には,DDR4 SO-DIMMが2枚と,M.2 SSD 2枚が取り付けられていた(右)
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SO-DIMMとM.2接続型SSDに取り付けたカバーの放熱効果を示したスライド。これを見る限り,SSD用のカバーはSO-DIMM用と共通のデザインを採用するようだ
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ところで,左側面のパネルを開けると,グラフィックスカードが見えるようにはなるものの,取り外しはできない。グラフィックスカードにアクセスするには,天面のカバーを外したうえで,冷却ファンのついたパネルを開ける必要があるのだ。
とくに難度が高いわけではないものの,外すべきネジは多い。MSIとして,頻繁にグラフィックスカードを交換するような用途は重視していないように思えた。
グラフィックスカードにアクセスするには,天面のカバーを外して(左),空冷ファンの付いたパネルを開ける(右)。カバーは取っ手の近くにある2つのネジで,パネルは5つのネジで固定されており,開けるのはちょっと面倒くさい
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左側面側のグラフィックスカードを外してみたところ,背面のVR Link用HDMI入力につながっているケーブル(赤枠内)があった
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右側面の内部も見てみよう。
内部で目を引くのは下側で,「簡易液冷ユニットのラジエータを取り付けたパネル」があり,ここでCPUが簡易液冷仕様であることが分かる。ラジエータユニットの付いたパネルは,背面側でネジ留めされているだけなので,開けるのは簡単である。
なお,入手した個体はCPUに倍率ロックフリーの「
Core i7-7700K」を採用していた。簡易液冷システムの放熱効率次第では,オーバークロック動作による性能向上が期待できそうだ。
右側面パネルを開けた状態。CPUクーラーも赤く光っているが,こちらはほとんど外から見えない
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内部の上側はGPU Chamber背面(?)パネルといった風情だが,ここには2.5インチHDD互換のストレージを取り付けられるスペースが3台分あった。MSIがサポートしているのは,Serial ATA(以下,SATA)コネクタがある前方側の1か所だけだが,マザーボード上のSATAポートには空きがあったので,SATAケーブルとストレージ固定用のネジを自前で用意できれば,ストレージの増設も可能だろう。
GPU Chamber裏面には,2.5インチHDD互換のストレージを取り付けられるスペースが3台分あった(左)。ラジエータが固定されたパネルを開けると,マザーボードにアクセスできる(右)。G Seriesのシンボルマークであるドラゴンが描かれた簡易液冷システムには,「Dragon liquid cooling system」という名前が付いているそうだ
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写真を見てのとおり,Aegis Ti3のマザーボードは,かなり特殊な形状をした専用設計のものを採用している。ユーザーによるマザーボードの交換は,まず不可能だろう。各コンポーネントへのアクセスは容易な作りである一方で,ユーザーによるマザーボード交換は考慮していないというあたりは,いかにもメーカー製PCらしいといったところだろうか。
 マザーボード上にはSATAポートが6つあった。写真を見ると,こちら側のSO-DIMMに放熱用カバーが付いていないのも見てとれるが,その理由は不明だ |
 簡易液冷CPUクーラーのラジエータには,120mm径の空冷ファンが取り付けてあった。スペースはあるので,やろうと思えば,大型の簡易液冷クーラーへ変更することもできるだろう |
なお,試用機は容量3TBの3.5インチSATA接続型HDDを内蔵しているはずなのだが,HDDがどこにあるのか,正直分からなかった。おそらくPSU Chamber側にあるのではないかと思われるのだが,マニュアルにも記述がないため不明である。
奇抜な見た目と高スペックは魅力だが,現実的な価格の構成も欲しい
気になる価格だが,MSIに確認したところ,「(試用機は)オリジナルデザインのGeForce GTX 1080搭載カードを2枚搭載するうえに,Core i7-7700Kと簡易液冷クーラー,総容量64GBのメインメモリに総容量512GBのM.2接続型SSD,容量3TBのHDDなどを搭載する“ほぼ全部入り”の構成なので,メーカー想定売価は
64万9800円(税別)になる」との回答だった。単純計算すると税込価格は
70万1784円になるわけで,見た目の特別さに魅力を感じた人でも,おいそれと買えるような価格ではないのは残念だ。
たとえば,搭載グラフィックスカードは1枚で,CPUクーラーは空冷式,メモリは8GB×2程度で,SSDも1枚といった程度までスペックを落とせば,もう少し現実的な価格になるのではないだろうか。BTOやCTO方式で,柔軟に構成を選んで買えるようになることを期待したい。