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マジック世界ランカーが提唱する,強くなるためのTCG理論書「カードゲームで本当に強くなる考え方」(ゲーマーのためのブックガイド:第51回)
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印刷2025/12/04 23:58

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マジック世界ランカーが提唱する,強くなるためのTCG理論書「カードゲームで本当に強くなる考え方」(ゲーマーのためのブックガイド:第51回)

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 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 トレーディングカードゲーム――いわゆるTCGというジャンルが誕生してから30年,さまざまなタイトルが登場してきた。「遊戯王オフィシャルカードゲーム」「ポケモンカードゲーム」「デュエル・マスターズ」「Shadowverse」などなど,歴史の長いものから新しいものまで,アナログでもデジタルでも人気を博している,定番ジャンルである。

 とはいえ,それでもなおこのジャンルを代表するタイトルを問われたらなら,やはり「マジック:ザ・ギャザリング」(以下,マジック)の名を挙げずにはいられないだろう。TCGの元祖として,今なお世界中で遊ばれ続けている,怪物のようなゲームである。
 ゆえに,そんなマジックで世界一になったプレイヤーであれば,TCGの頂点に立ったと言って過言ではないのでは?

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 今回紹介する「カードゲームで本当に強くなる考え方」は,そんなマジックの世界で最高峰に登り詰めた肩書きを持つ著者,茂里憲之氏が,自分の経験を元に構築した理論をまとめた指南書である。
 デジタル版「Magic : the Gathering Arena」に飛び込んで7か月でランキング世界一となり,マジックを始めてからわずか2年で,世界最高の24名で構成されるプロリーグ「Magic Pro League」に加入するに至る。マジックの競技シーンで鮮烈な印象を残した氏が思い描く「一般TCG理論」とは,いったいどんなものなのだろうか。

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「カードゲームで本当に強くなる考え方」

著者:茂里憲之
版元:筑摩書房
発行:2025年10月6日
定価:990円(税別)
ISBN:978-4-480-68535-3

購入ページ:
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※Amazonアソシエイト


 本書でまず提示されるのは,「敗者のゲームと勝者のゲーム」という概念だ。
 初心者が成長する過程でハマりやすい「練習をしてミスを減らす」というスタイルでは,“敗者のゲーム”の限界を突破できない。もっと大きな視野と,勝利への願望を持って“勝つ手段”を模索していくのが,「本当に強くなる」ためには必要だという。

 マジックのような対人カードゲームには,定石がそれなりに存在するが,再現性にこだわりすぎて,思考にバイアスをかけてしまうのも危険である。過去の負けた試合,勝った試合といった個人的な体験をもとに,カードやデッキを過大評価したり,過小評価したりすれば,何かを見落とすことにもつながりかねない。

 例えば,ぎりぎりのせめぎ合いの中で使われた攻撃の無効化カードは,トドメの攻撃を打ち消し,逆転へのつなぎとなるので,強い印象を残すだろう。しかし実際の効果を分析してみると,デッキ全体ではそれほどのアドバンテージではなかったりする。

 こうした認知バイアスを正さなければ,「本当に強くなる」ことは難しい。
 また環境を激変させるような新しいギミックが,定期的にもたらされるTCGの場合は,数か月でカードや戦術の評価が覆されてしまう。ゆえに,再現性にこだわりすぎてはならない,というわけだ。

 そこで氏が重視するのは強くなるための理論,そして確率である。確率こそがゲームを理解し,実力を高めるための道具なのだ。
 例えば60枚のデッキに初手にほしいカードを4枚入れたら,どの程度の頻度でそれが現実のものとなるのか。その上で,フィニッシャー(試合を決定付けるカード。強力なクリーチャーや決定打となる呪文など)は何枚入れるのが適切なのか。それらはすべて,確率から導き出される。
 その上で,デッキ全体で得られるアドバンテージを考え,勝利への道筋をつけていく。

茂里氏のnoteでは,「Shadowverse」におけるアドバンテージの考え方にも言及している
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 さらに共に切磋琢磨する仲間――チームの存在も,強くなるためには欠かせない。
 TCGの大会は基本的に個人戦だが,それでもチームを組むことには,計り知れないアドバンテージがある。単に練習相手が得られるだけでなく,情報収集やデッキコンセプトの検討,技術の洗練などが,はるかに効率よく行えるようになるからだ。

 最後に氏は,自らでデッキを組みあげること――デッキビルディングの重要性にも言及している。情報に溢れた現在なら,強いデッキの作例はネットで簡単に見つけられる。今日明日勝つだけならば,それらを拝借するほうが遙かに簡単に違いない。しかしTCGプレイヤーとしてレベルアップするには,自らデッキを作って壊す過程が必要なのだ。

マジックとTCGの歴史についてより詳しく知りたいなら,2023年に出版された「マジック:ザ・ギャザリング 30th Anniversary Book」をオススメしたい。いやはや,まだまだ読書は終わらないのだ
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 もちろん,本番でのプレイングに優れた,勝負師型のプレイヤーというのも存在する。古い話で恐縮だが,初代日本チャンピオンの塚本俊樹氏がまさにそうだった。しかし歴史を振り返ってみれば,インパクトを残してきたプレイヤーというのは,新たなコンセプトのデッキをトーナメントに持ち込んだプレイヤーなのだ。日本発のパーミションデッキ,イタリック・ブルーを開発した石田 格氏がそうだったように。

 マジックから離れて久しく,今となってはたまに「Magic : the Gathering Arena」を回す程度の筆者だが,それでもこのような整理された理論書が登場したことを,いちTCGファンとして嬉しく思う。
 もちろん現役プレイヤーの中には異論を唱える者もいるだろうが,コミュニティの大切さにまで言及し,最後に「楽しめ」で締めくくられる本書のことを,筆者は高く評価している。読むか,読まないか。読んだうえで強くなれるか,そうではないのか。それもすべて読者である,あなた次第である。TCGに一家言ある人には,ぜひ一度手に取ってみてもらいたい一冊だ。


朱鷺田祐介(ライター)
TRPGデザイン/翻訳を主戦場とするフリーライター。代表作に「深淵」「シャドウラン」「ザ・ループTRPG」など。最近のブームはスウェーデン産TRPGで,「MÖRK BORG」に触発された戦国ドゥーム・メタル・ファンタジー「信長の黒い城」を展開中。蜂蜜酒(ミード)について掘り下げた同人誌「MEAD-ZINE」は,BOOTHにて電子版が購入できる。
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