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[GDC 2013]面白いゲームを作るキーワードは「マネタイズ」や「KPI」ではなく「100% Fun」。森下一喜氏が語るガンホー流タイトル開発
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印刷2013/03/30 17:32

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[GDC 2013]面白いゲームを作るキーワードは「マネタイズ」や「KPI」ではなく「100% Fun」。森下一喜氏が語るガンホー流タイトル開発

ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 森下一喜氏。なぜか頭にカメラをつけて登壇した
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 米国時間の2013年3月29日,ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下,ガンホー)の代表取締役社長である森下一喜氏が,Game Developers Conference 2013にて「100% Fun:Keeping Players Engaged(100%の面白さ:プレイヤーをつなぎ続けること」というセッションを開催した。

 「パズル&ドラゴンズ」iPhone/Android)のヒットなどで好調なガンホーのセッションだけに,会場は多くの業界関係者で埋まった。4Gamerの読者であれば,以前森下氏に行ったインタビュー「黒川塾」のレポートなどで,ガンホーのゲーム作りがどういったものかイメージできる人もいるかもしれないが,今回,ガンホーの成功手法を学ぼうと意気込んで参加した人にとっては,ちょっと意外な内容になっていたかもしれない。そんなセッションの模様をお届けしよう。

 森下氏はまず,1999年に前身の会社を設立して,2002年にガンホーになったという歴史を紹介し「10年やりましたが,どうしたらヒットタイトルを作れるのか,いまだに分かりません」と,正直な感想を吐露した。
 続いて,パズル&ドラゴンズが直近のデータで1100万ダウンロードを突破したことに触れたが,こちらでも「運が良かった」「成功した後ならいくらでも言える」「必死に作っているだけで,理屈や理論はない」といった調子だ。

ガンホーも予想できないほどの伸びだったのか,スライドの数字は1000万ダウンロードとなっていた
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 そんな前置きがあってから,セッションはいよいよ本題へ。森下氏は「コンシューマタイトルの開発者がスマートフォンタイトルをどうデザインすればいいか」というテーマを提示したが,その後すぐに「まさか,『マネタイゼーション』とか『KPI(Key Performance Indicator,重要業績評価指標)』といったことを考えてはいませんよね」と続ける。
 では,ガンホーではどうやってスマートフォンタイトルを開発してきたのか。そこで紹介されたキーワードが,セッションタイトルにもなっている「100% Fun」だ。

 ガンホーは,タイトルの面白さを追求し,面白くならないのであればリリースしない,という方針を立てているのだという。リスクを冒して面白くないものをリリースしても,結果的に会社のためにならないうえ,100%に満たない出来のものをリリースしてしまったという後悔が残るというのだ。森下氏は,この姿勢はコンシューマタイトルでも,スマートフォンタイトルでも変わらないとしていた。

 では,面白いゲームを作るにはどうしたらいいのか。森下氏はここでも「ゲーム作りを楽しむこと」という,シンプルな回答を提示した。自分が楽しまなければ,他人を楽しませることはできないというわけだ。氏は同時に,面白さの基準は人それぞれなので,面白いものを作るセオリーはないと断言。自分が本当に面白いと思うものを作るしかないとした。

森下氏はここで,「ゲームとはまったく関係ないですが」と前置きして,浅草サンバカーニバルにガンホー社員が参加している様子を紹介した。開発者の「自分が楽しむ」という姿勢が表れているシーンかもしれない
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 続いて森下氏は「そろそろ核心の話に」と,開発時に心がけている以下の「5か条」を紹介した。


●Be Innovative(革新的であれ)
 プレイヤーが体験したことがないような要素を入れること。
 
●Be Intuitive(直感的であれ)
 操作の分かりやすさに配慮する。とくに,普段ゲームに親しんでいない人がプレイすることが多いスマートフォン用タイトルでは重要。

●Be Captivating(魅力的であれ)
 プレイヤーを引きつけるグラフィックスや世界観を作ること。

●Be Sustainable(継続的であれ)
 プレイヤーがゲームから離れないようなシステム作りに加えて,長期展開を見据えたホスピタリティも必要となる。

●Be Encouraging(演出的であれ)
 Encourageは「勇気づける」「励ます」という意味。ここでは,プレイヤーが目標を達成するためのロードマップをしっかり提示することなどの意味で使われている。


 続いては,実際のタイトル開発事例が紹介された。取り上げられたのはもちろんパズル&ドラゴンズだ。

 森下氏によると,ガンホーではコンセプトの検討からプロトタイプ作成までの期間を重要視しているとのこと。パズル&ドラゴンズは,スマートフォン向けに同じようなカードゲームが乱立する状況を見た森下氏が「革新的なカードゲームを作ろう」と思い立ち,プロデューサーの山本大介氏に企画書を作るよう指示したところから始まった。
 
 1週間後,山本氏は2つの企画案を提出。そのうち1つが,パズルとRPGを組み合わせ,パズルを解いて攻撃や回復を行うという,パズル&ドラゴンズの原型となるものだった。手応えを感じた森下氏は,それから1か月間,山本氏と顔を突き合わせて企画を詰めたとのこと。もちろん「マネタイズ」や「KPI」といった言葉はなく,いかに面白くするかだけを徹底的に追求したそうだ。

「パズル&ドラゴンズ」のプロデューサーである山本大介氏(右)と森下氏
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 プロトタイプの制作では,試行錯誤が続いたという。当初は,横画面いっぱいにパズルを表示させることを想定していたが,片手でもプレイできるようにしたいとの理由から,縦画面表示へと変更。その結果,画面上にダンジョン,下にパズルが表示されるという,特徴的な画面が出来上がった。

 パズル部分は,同じブロックを3つ並べて消していく,いわゆる「3マッチパズル」。3マッチパズルでは,指定したブロックと隣のブロックを入れ替える操作が一般的なのだが,本作ではブロックを好きな場所へ移動できるという,より自由度が高いシステムが採用された。森下氏はブロック移動の操作感にこだわり,ここだけで4,5回は作り直しを命じたという。「プログラマが本当に頑張ってくれました」と感謝の言葉を述べていた。

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 森下氏がもう1つこだわったのが,「修練と偶発性」のバランスだ。森下氏は「プレイヤーには努力をしてもらわなければならないが,努力だけではプレイヤーが離れてしまう。そこで,思わぬ形で有利になるという偶発性が必要になる」と説明した。
 パズル&ドラゴンズの場合だと,修練はパズルのうまさだ。プレイするほど上達するうえ,味方モンスターの成長も速くなる。そして偶発性は,ブロックのドロップ。これは完全な運なので,下手な人でも,思わぬ形で連鎖が組めてしまうことがある。ただし「偶発性を強くしすぎると,プレイヤーの努力や戦略が無駄になってしまう」と,バランスの重要性もアピールしていた。
 
 そして森下氏は,コンシューマタイトルとスマートフォンタイトルを,順に「メインディッシュ」「スナック」と表現して,その違いを説明。どちらもおいしくなければならないが,スナックであるスマートフォンタイトルは,ちょっとした暇つぶしとしてプレイできなければならないとして,パズル&ドラゴンズにおいても,1つのターンが4秒で終わるように設計していると述べていた。
 ちなみに森下氏によれば,「10分の空き時間にプレイされることを狙って,プレイに10分かかるゲームを作るのはナンセンス」だという。パズル&ドラゴンズは,1ターンだけプレイして中断,というスタイルまで考えて設計されているとのことだ。

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 さて,続いて森下氏は「どんなに面白いゲームでも,サービスが悪ければプレイヤーは離れていく」と語り,「おもてなし」という日本語を紹介した。
 パズル&ドラゴンズでは,緊急のメンテナンスをはじめとするトラブルが発生したときに,公式サイトやSNSで情報を発信するだけでなく,お詫びとして有料アイテムの「魔法石」を無料で配布する場合がある。これがガンホー流のおもてなしというわけだ。
 端から見るとかなりの損失になりそうなのだが,プレイヤーが離れるのを防げるだけでなく,ふだんは無料の範囲でプレイしている人が有料アイテムを使い始めるきっかけにもなるという。
 森下氏は「最近ではなぜかトラブルを待ちわびているプレイヤーの方が多いようです」と笑いながら話していた。

プレイヤーをつなぎとめておく方法としては,イベントも重要とのこと。ゲーム内イベントだけでなく,オフラインイベントも含まれる
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 以上のような施策の効果もあって,パズル&ドラゴンズは大ヒットとなった。森下氏は数字こそ明らかにしなかったが「デイリーやマンスリーのプレイヤー数といった数字は非常にいい,見たことないくらい」とコメント。しかしそれに続けて「これは結果論ですから。みなさんの参考にはならないと思います」と釘を刺した。

 「成功しているのに,なぜそんな言い方をするのか」と言いたくなる人もいそうだが,そんな人も,森下氏が続けて語ったガンホーのユニークな社風を聞けば納得するかもしれない。
 ガンホーでは,社長であるはずの森下氏が社長業に専念せず,かなりの力を開発に注いでいるほか,事業計画や予算も立てず,「面白いものがあったら作る」という方針なのだそうだ。予算や時間に制約があると,開発者がこだわり抜けなくなるから,というのが理由だ。
 
 これには,森下氏の苦い経験が影響しているのだという。2002年頃,森下氏は一度マネージメントに専念したのだが,予算などの問題でクリエイターを締め付けたうえに,めぼしいヒット作も出ないという状況になってしまった。
 そうして苦しんだ森下氏が行き着いた答えが「最高に面白いゲームを作れば,誰かがプレイして広めてくれる」だったそうだ。

 セッションの最後で森下氏は「今年はパズル&ドラゴンズのおかげで(ここに)来ましたが,来年も来られるかどうかはわかりません」と会場を笑わせながら,「私は40歳になるのですが,この歳になってクリエイターと一緒にゲームを作れるのは幸せ。これからも,コンシューマタイトルやスマートフォンタイトルを作って,ゲーム業界を盛り上げたい」と抱負を語って,セッションをまとめた。

 「ビジネス」や「マネタイゼーション」と銘打たれたものが多い中,気持ちいいくらいに「ゲームの面白さ」について語られた本セッション。写真を見ても分かるように,森下氏自身もこのセッションを楽しんでいる様子だった。ぜひ今年も,パズル&ドラゴンズに続くヒット作がリリースされ,来年のGDCに森下氏が再び姿を見せてくれることを期待したい。

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「パズル&ドラゴンズ」公式サイト

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