GDC 2019会場にあった,Stadiaのロゴマーク付きオブジェ
既報 のとおり,北米時間2019年3月19日,Googleは,独自のクラウドゲームプラットフォーム「
Stadia 」(ステイディア)を2019年中に北米および欧州市場でサービス開始すると発表した。
事前の噂では,「クラウドゲーム専用のゲーム機を発表するのではないか」と言われていたものだが,蓋を開けてみれば,専用ゲームパッド以外のハードウェアにはこだわらないサービスという,ある意味,Googleらしいものになっていた。
速報記事 ではそんなStadiaの要点に絞ってお伝えしたわけだが,基調講演ではそのほかにも多くの情報が明らかになっている。本稿ではそのフォローアップとして,Stadia専用ゲームパッドや,Stadiaが既存のクラウドゲームサービスとどう違うのかに重点を置いてレポートしたい。
Stadia専用ゲームパッドは無線LANで接続する
まずは,現状唯一のStadia専用ハードウェアであるワイヤレスゲームパッドをチェックしてみよう。なお,取材時点では,手に取って触れられる状態での展示がなかったため,ゲームパッド背面の写真がないことをお断りしておきたい。
Stadia専用ワイヤレスゲームパッドの黒モデル。アナログスティックの根元にある白色が目立つ
Stadia専用ワイヤレスゲームパッドは,白と橙,黒と白,白と黄色という3種類のカラーバリエーションが存在する。そのうち会場で見かけたのは白と橙,黒と白の2色であった。
スティックやボタン類のレイアウトは,アナログスティックをグリップの根元に2本並べて,D-Padを左上に配置したDUALSHOCK風となっている。もっとも,右側に並ぶ4つのボタン上には[A/B/X/Y]と描かれており,ここはXboxシリーズ用のゲームパッド似といったところか。
こちらは白と橙のモデル。アナログスティックの中間にあるロゴマークの付いたボタンがホームボタンだ
ショルダーボタンや[L2/R2]トリガーは,大きめとなっていて押しやすそうだ。繰り返すが今回は手に取れなかったので,ボタンやアナログスティック,トリガーなどの感触は分からない。
充電用の端子は,今どきの製品らしくUSB Type-Cとなっていた。
ショルダーには[L1/R1]ボタンが,それらの下には[L2/R2]トリガーがある。いずれも大きめだ。ショルダーボタンの間にあるのがUSB Type-Cポートである
ホームボタンの左上にあるのがGoogleアシスタントボタン,右上にあるのはキャプチャボタンである
Stadia専用ワイヤレスゲームパッドで目を惹くポイントは,D-Padの右側にGoogleの音声アシスタント機能「Googleアシスタント」を呼び出すボタンが,[X]ボタンの左側には,キャプチャボタンがあることだ。これらのボタンで何ができるかは,後段で説明しよう。
Stadia専用ワイヤレスゲームパッドでちょっと変わっているのは,ワイヤレス接続にスマートフォンで一般的なBluetoothではなく,Wi-Fiを利用しているという点だ。無線通信にWi-Fi Directを使うことで低遅延を実現したゲームパッドといえば,Xbox Oneシリーズの「Xbox Wireless Controller」が頭に浮かぶ人もいるだろうが,比較的珍しい特徴と言えよう。
Googleのデータセンターネットワークを駆使して低遅延かつ大容量の通信を実現するStadia
さて,商用のクラウドゲームサービスといえば,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)の「
PlayStation Now 」や,NVIDIAが展開する「
GeForce NOW 」といったものが国内でもサービス中だ。そうした既存サービスと,Stadiaは何が違うのだろうか。
Sundar Pichai氏(CEO,Google)
最大の違いは,Googleが世界中で展開しているデータセンターネットワークを利用してサービスを展開するという点にある。基調講演に登壇したGoogleのCEOである
Sundar Pichai (スンダー・ピチャイ)氏の説明によると,Googleのデータセンターは200以上の国または地域に設置されているという。そうしたデータセンター同士を専用のネットワークで接続することで,インターネットに大量のトラフィックを流すことなく高速通信を行えるようになっているのだそうだ。
Googleのデータセンターとネットワークの模式図。日本国内にも複数のデータセンターを有している
Stadiaのデータ通信は,この仕組みを最大限に利用する。
まず,エンドユーザーのクライアントがつながっているインターネットサービスプロバイダを,可能な限り最短の経路でGoogleのデータセンターとつなぐ。そのうえで,Google独自の専用ネットワークでStadiaのクラウドサーバーと結ぶのだ。Stadiaは,Googleが莫大なコストをかけて設置した独自のネットワークとデータセンターを使うことで,大容量の映像をインターネットを経由する既存の商用クラウドゲームサービスよりも低遅延で配信しようというわけなのである。
左は既存のクラウドゲームサービスが使うネットワークの,右はStadiaのネットワークをイメージした図。Stadiaは,莫大なコストをかけたGoogle独自のネットワークを利用することで,インターネットを使うサービスに付きものである帯域幅の制約や通信遅延を回避できるという
SIEやNVIDIAですら,Googleと同規模のネットワークとデータセンターを展開するのはコスト面で困難だろう。そんなネットワークをクラウドゲームサービスで利用するというのだから,Stadiaは,いかにも巨大なクラウド企業であるGoogleらしいサービスと言える。
1ユーザーあたりのスペックから読み解けるStadiaの構成
続いては,Stadiaのスペックからサーバーハードウェアの仕様を読み解いてみよう。
Googleは,今回の基調講演で,StadiaのサーバーにはAMD製のカスタムCPUとカスタムGPUを利用することを明らかにしている。具体的に「GPUはコレ」といった発表はなかったが,公開されたスペックから,おおよその性能は推測可能だ。
1インスタンスあたりのハードウェアスペック
StadiaのGPU性能は,PlayStation 4 ProやXbox One Xを大きく上回るとアピール
たとえば,プレイヤー1人(以下,1インスタンス)あたりのGPUは,演算ユニットであるCompute Unitの数が56基で,グラフィックスメモリにはHBM2メモリを使用しており(※グラフィックスメモリ容量は未公開),演算性能は10.7 TFLOPSに達するという。
Googleは,PlayStation 4 ProのGPU性能は4.2 TFLOPS,Xbox One Xは6 TFLOPSであるのに対して,10.7 TFLOPSのStadiaは圧倒的に高性能であると主張していた。1インスタンスの基準がこのラインで設定されているというのは,他社のクラウドゲームサービスと比べてもかなり高性能といえる。
さて,56基のCompute UnitとHBM2メモリというスペックは,AMDのサーバー向けGPUであるRadeon Instinctには存在しない。コンシューマ用製品だと,AMDのPC用GPUである「
Radeon RX Vega 56 」と一致する。演算性能も,Stadiaが10.7 TFLOPSであるのに対して,Radeon RX Vega 56は10.5 TFLOPSと極めて近い。素直に考えるなら,Radeon RX Vega 56をベースにしたGoogle向けカスタムGPUを,Stadiaのサーバーシステムでは使っているのかもしれない。
同様に,1インスタンスあたりのCPUは,動作クロックが2.7GHz(※ブースト時最大か定格かは未公開)でHyper Threading(Simultaneous Multi-Threading)対応し,AVX2命令もサポートすることが明らかになっている。CPUコア数が未公開なので,具体的にどれがベースとは断言できないのだが,ZenアーキテクチャベースのCPUを採用していることは間違いないのではなかろうか。
なお,Googleが公開したのは,あくまでも1インスタンスあたりのスペックであり,実際にGoogleのデータセンターにあるサーバーが,これらのCPUやGPUを大量に並べた構成になっているとは限らない。より高性能なGPUやCPUを,接続ユーザー数に応じて分割割り当てするということも可能だからだ。
実際にGoogleは,StadiaではシングルGPUだけでなくマルチGPU構成を取ることも可能で,しかもシングルGPUかマルチGPUかを動的に変更することも可能であるとしていた。マルチGPUで実行すれば,より高品質な映像が可能だそうで,すでにULのベンチマーク部門であるUL BenchmarksはクラウドベースのマルチGPUレンダリングを行えるという技術デモのビデオを下の通り公開していたりする。
ただ,今回の発表では,実際にマルチGPU構成をユーザーが選択できるのか,その場合,シングルGPUと料金は変わるのかといった話は出なかった。
Google Stadia tech demo: cloud-based multi-GPU rendering
ULのベンチマーク部門であるUL Benchmarksによる,StadiaのマルチGPU技術デモ
プレイ中のゲームを他者と共有できる「State Share」
高画質や低遅延だけでなく,Stadiaには,今までのクラウドゲームサービスにはない独自の機能も多数実装される。そのいくつかを簡単に紹介していこう。
まず注目すべき独自機能は,「
State Share 」だろう。これは,プレイ中のゲームの状態(ステート,State)を他のユーザーと共有できるという機能である。
これを利用すると,たとえばあるゲームの難関で行き詰まったときに,プレイ中のゲームをそのまま(※完全にそのままか,ある程度制限がかかるのか不明だが)友達と共有して,難しい場面をクリアしてもらうといったことが可能になるという。
State Shareの例。レベル(マップ)やプレイヤーキャラクターの状態,アイテムといった状態を……(※下に続く)
共有してゲームのうまい友人にURLの形で送り,クリアしてもらうことができる
また,「
Stream Connect 」という機能も面白い。
1台のPCやゲーム機を複数人で同時に使う画面分割型マルチプレイはよくあるが,人数が増えるほどハードウェアが同時に処理すべき要素は増えるので,性能面では厳しくなる。それに対してStream Connectは,分割した画面それぞれにクラウド側で動作する仮想ハードウェアを割り当てることも可能だという。性能面でのデメリットがない画面分割型マルチプレイを実現できるということだ。
Stream Connectの例。左は画面を左右に2分割した場合,右は上に5つ,中央に1つの画面を並べた場合だ。複数の仮想ハードウェアによる映像を1つにまとめてストリーミングすることで,画面分割型マルチプレイでも性能面でのデメリットがないという
お馴染みのストリーミングビデオサービス「YouTube」を使った「
Crowd Play 」という機能も,いかにもGoogleらしいものである。
YouTube上で表示したゲームのプレイ動画から,そのゲームの参加者を集めてマルチプレイを実行するもので,面白そうなゲームがあれば,仲間と一緒にすぐプレイできるというわけだ。
Crowd Playの例。2K開発の「NBA 2K」シリーズを使ったもので,プレイ動画からマルチプレイへの招待を送れる
招待した仲間を集めている様子。YouTube連携はいかにもGoogleらしい機能だ
もう1つ,Googleアシスタントを使った機能も興味深いものだった。Crystal Dynamicsの「
Rise of the Tomb Raider 」を使ったデモでは,ゲームの進め方が分からずに行き詰まったとき,ゲームパッドからGoogleアシスタントを起動して音声で助けを求めると,答えを教えてくれるという様子を披露したのだ。
ゲーム側であらかじめ想定問答集を用意しておく必要があるのか,それともGoogleアシスタントがネットを検索して答えを拾ってくるのかは分からなかったが,これもGoogleらしい機能と言えよう。
Stadiaは,サービス開始時点で100タイトル以上を用意
ゲームプラットフォームである以上,Stadiaの成否は,ゲーマーにとって魅力的なタイトルを用意できるかにかかっている。
今のところ,具体的なラインナップ一覧は明らかになっていないが,Googleではサービス開始時点で100タイトル以上をラインナップするという。また,いくつか本番のサービスで提供すると思われるタイトルも紹介された。
1つは,Stadiaの前身となる開発プロジェクト「Project Stream」で使われたUbisoft Entertainmentの「
Assassin’s Creed Odyssey 」だ。すでにStadiaのプラットフォーム上で動作しているタイトルなので,これを外す理由はないだろう。
Project Streamのテストで使われたAssassin’s Creed Odyssey
また,id Softwareが開発中のFPS「
DOOM Eternal 」も,Stadia版が提供されるようだ。
DOOM EternalもStadia版が登場する
そのほかに基調講演では,先述したNBA 2KシリーズやRise of the Tomb Raiderが披露されたので,これらもStadiaでプレイ可能になると思われる。
NBA 2Kシリーズ(左)やRise of the Tomb Raider(右)もStadia版が登場するようだ
もっとも,これらのタイトルは,いずれもPCやPlayStation 4などでプレイできるものなので,新鮮味はいささか乏しい。Stadia専用のタイトルが登場することにも期待したいところだ。