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[GDC 2025]スタイリッシュな「KEMURI」のトレイラーはどうやって制作されたのか? 中村育美氏率いるUNSEENが生み出すカオスなリズム感
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UNSEENの開発する「KEMURI」は,2023年12月のThe Game Awardsにてアナウンストレイラーが公開された,サードパーソン型のPvEアクションゲームだ。
ノスタルジーとアジアンテイストに溢れる近未来的な架空世界に妖怪たちが出現し,プレイヤーは高低差のある街中を縦横無尽に駆け回るパルクール能力と,妖怪のパワーを吸収するアビリティを使う「妖怪ハンター」となり,さまざまなミッションに挑む。
公開されたトレイラーからは,6人ほどの仲間たちでプレイできるCo-op型のアクションであることがうかがえるが,ソロでもプレイ可能とのこと。
通常,The Game Awardsのようなイベントで紹介されるゲームトレイラーは,AAA級作品を開発する大手パブリッシャのものでなければ,専門の映像会社に委託して作成されることが多いらしいが,ウォン氏によると50秒のトレイラーはすべてUNSEENの自前によるものだ。
2019年のE3に合わせて開催されたプレスカンファレンスでの「見てね!」で話題になった中村氏率いる開発チームというだけでも話題性は高いが,The Game Awardsで本作のトレイラーが披露された理由は,そのプロトタイプ映像の出来栄えが余りにも素晴らしかったからだという。
そのため,UNSEEENはスポットを購入するようなこともなく,無料で総計1億1800万という視聴者に映像を届けることができたという。
ウォン氏は,このトレイラーは8週間で作り出されたものであるとし,チームの能力の高さを示していると誇らしげに語った。
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UNSEENは東京を拠点にしたインディースタジオであるが,世界的な規模でのリモートワークを取り入れている。今回のセッションで登壇したイヴァラ氏もスペインのバルセロナ在住であり,フランスやイギリスに住むメンバーもいれば,日本人でありながら海外で活動し,初めて日本のデベロッパに加わった人もいるという,国際色豊かでボーダーレスな開発チームだ。
また,コンセプトアーティストのNASS氏は,なんと奈良県で肥料製造業を営みながらUNSEENに参加しているという。ゲーム業界に関わったこともないNASS氏が公開しているアート作品に出会った中村氏が惚れ込み,直談判してチームに引き入れたとのことで,彼のアートスタイルはまさに「KEMURI」のバックボーンになっているのが,トレイラーからも分かるだろう。
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そんなアートチームをまとめるウォン氏は,「チームにはほとんど英語ができない人もいるけれど,私の日本語能力と変わらない。それでも,できることとできないことを補いながら周りのメンバーの才能を信じ,それぞれが自分の携わる作品である『KEMURI』をより良いものにしようという情熱を注ぎ込むことで,高いベンチマークが設定できたのだと思います」と話した。
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ウォン氏によると,「KEMURI」のアートの指標となるのは「ノスタルジア」「高低差(バーティカリティ)」「カオス」,そして「多文化(クロスカルチャー)」であるという。UNSEENの開発現場もある意味カオスでありクロスカルチャーであって,それゆえに独特なシナジー効果を生み出しているのかもしれない。
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一方,キャラクターアニメーターのイヴァラ氏が大切にしたのは,アニメーションに「リズム感を与えること」であったという。Moon Studios在籍時には,「Ori」シリーズのような“おしとやか”なアニメーションを重視していたというイヴァラ氏だが,日本のアニメを見て育った彼の得意分野は,カメラワークをうまく使ったダイナミックでスピード感のあるアニメーション映像制作だそうだ。
「KEMURI」のアナウンストレイラーの制作時には,UNSEENのアニメーターはイヴァラ氏のみだったが,やがてディレクターとして編成されたチームを率いるにあたり,その指標を設定するために力を注いだと語っていた。
「KEMURI」のトレイラーで使われている50秒間の内訳は,最初の15秒間でいくつかのカットを用いて世界観を紹介し,その後は「パルクール」「キャラクターの顔」「キャラクターのアクション」「静かな瞬間(着地)」「指で作る狐窓のサイン」「妖怪たちの姿」,そして「エンドショット」と,強弱をつけながらのカットが続いていく。テスト用に構築されていた3つほどのビルでできたマップを利用し,キャラクターが走ったり滑り込んだりする軽快なアクションは,タ,タ,タ,タ,ターンというようなリズムの法則を与えて作り出したという。
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ちなみに,このパルクールのアニメーションを制作した際にはBGMは用意されておらず,後からBGMがアニメーションに合わされたような形になったらしい。
また,顔が映し出されるのが猫娘のような女性キャラクターのみで,他の5人は全員がフードやお面で隠していることについては,「全員の表情を作り出すほどの時間はなかったから」とウォン氏は笑い飛ばしていた。
アーティストだった中村育美氏が選んだアーティスト集団が制作しただけに,「KEMURI」のトレイラーは,圧倒的なビジュアルアイデンディを持つ完成度の高いものとなった。
高速で高層ビルのはざまを駆け抜けながら巨大な妖怪たちと戦うというゲームプレイの映像を早く見たいと思うゲーマーは多いだろう。ウォン氏やイヴァラ氏がGDC 2025に参加したのも,今後のアナウンスやプロモーションに先駆けてのことなのかもしれない。その続報を楽しみにしておきたいところだ。
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「GDC 2025」公式サイト
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