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[GDC 2025]スタイリッシュな「KEMURI」のトレイラーはどうやって制作されたのか? 中村育美氏率いるUNSEENが生み出すカオスなリズム感
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印刷2025/03/20 16:26

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[GDC 2025]スタイリッシュな「KEMURI」のトレイラーはどうやって制作されたのか? 中村育美氏率いるUNSEENが生み出すカオスなリズム感

 GDC 2025の会期中,中村育美氏が設立したUNSEENのアーティストである,アートディレクターのリアム・ウォン(Liam Wong)氏と,アニメーションディレクターのラウル・イヴァラ(Raul Ibarra)氏が登壇し,「見えないものを見る: Kemuriのアートとアニメーションの制作過程を披露」(See the UNSEEN: Revealing the Art and Animation of 'Kemuri')と題したセッションを行った。

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アートディレクターのリアム・ウォン氏は,スコットランドのエジンバラ出身でCrytek時代には「Crysis」シリーズ,さらにUbisoft Montrealでは「Far Cry 5」などのデザインに関わった。写真家でもあり,東京をサイバーパンク風に撮った写真集も出版している
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UNSEENでアニメーションディレクターを務めるラウル・イヴァラ氏は,スペインのバルセロナを拠点に活動し,スウェーデンのMoon Studiosの「Ori」シリーズに参加している。子供の頃から日本のアニメに影響を受け,躍動的なアニメーションを得意としているという

 UNSEENの開発する「KEMURI」は,2023年12月のThe Game Awardsにてアナウンストレイラーが公開された,サードパーソン型のPvEアクションゲームだ。
 ノスタルジーとアジアンテイストに溢れる近未来的な架空世界に妖怪たちが出現し,プレイヤーは高低差のある街中を縦横無尽に駆け回るパルクール能力と,妖怪のパワーを吸収するアビリティを使う「妖怪ハンター」となり,さまざまなミッションに挑む。

 公開されたトレイラーからは,6人ほどの仲間たちでプレイできるCo-op型のアクションであることがうかがえるが,ソロでもプレイ可能とのこと。


 通常,The Game Awardsのようなイベントで紹介されるゲームトレイラーは,AAA級作品を開発する大手パブリッシャのものでなければ,専門の映像会社に委託して作成されることが多いらしいが,ウォン氏によると50秒のトレイラーはすべてUNSEENの自前によるものだ。

 2019年のE3に合わせて開催されたプレスカンファレンスでの「見てね!」で話題になった中村氏率いる開発チームというだけでも話題性は高いが,The Game Awardsで本作のトレイラーが披露された理由は,そのプロトタイプ映像の出来栄えが余りにも素晴らしかったからだという。
 そのため,UNSEEENはスポットを購入するようなこともなく,無料で総計1億1800万という視聴者に映像を届けることができたという。

 ウォン氏は,このトレイラーは8週間で作り出されたものであるとし,チームの能力の高さを示していると誇らしげに語った。

公開されたトレイラーの工程表。アートチームが一丸となり,8週間という急ピッチで作り上げられた
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まだまだプロトタイプに過ぎない映像だが,The Game Awardsの主催者であるジェフ・キーリー氏の心を捉えた。さすが,アーティストである中村育美氏率いるアーティスト集団の作品だけある
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 UNSEENは東京を拠点にしたインディースタジオであるが,世界的な規模でのリモートワークを取り入れている。今回のセッションで登壇したイヴァラ氏もスペインのバルセロナ在住であり,フランスやイギリスに住むメンバーもいれば,日本人でありながら海外で活動し,初めて日本のデベロッパに加わった人もいるという,国際色豊かでボーダーレスな開発チームだ。

 また,コンセプトアーティストのNASS氏は,なんと奈良県で肥料製造業を営みながらUNSEENに参加しているという。ゲーム業界に関わったこともないNASS氏が公開しているアート作品に出会った中村氏が惚れ込み,直談判してチームに引き入れたとのことで,彼のアートスタイルはまさに「KEMURI」のバックボーンになっているのが,トレイラーからも分かるだろう。

コンセプトアーティストとして参加するNASS氏のアートスタイルが,「Kemuri」のアイデンティティといっても過言ではない
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NASS氏のコンセプトアートを,うまく3Dキャラクターモデルに落とし込む
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 そんなアートチームをまとめるウォン氏は,「チームにはほとんど英語ができない人もいるけれど,私の日本語能力と変わらない。それでも,できることとできないことを補いながら周りのメンバーの才能を信じ,それぞれが自分の携わる作品である『KEMURI』をより良いものにしようという情熱を注ぎ込むことで,高いベンチマークが設定できたのだと思います」と話した。

ストーリーボードからカラースクリプティング,そして3D化まで大きく変化しないのも,アートチームの意思疎通が密になっているということだろうか
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リモートワークの多いUNSEENだけに,イメージの共有は不可欠
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 ウォン氏によると,「KEMURI」のアートの指標となるのは「ノスタルジア」「高低差(バーティカリティ)」「カオス」,そして「多文化(クロスカルチャー)」であるという。UNSEENの開発現場もある意味カオスでありクロスカルチャーであって,それゆえに独特なシナジー効果を生み出しているのかもしれない。

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トレイラーでは通天閣っぽい建物が印象的だが,ゲームの舞台は大阪でも東京でもない,想像上の地であるようだ
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 一方,キャラクターアニメーターのイヴァラ氏が大切にしたのは,アニメーションに「リズム感を与えること」であったという。Moon Studios在籍時には,「Ori」シリーズのような“おしとやか”なアニメーションを重視していたというイヴァラ氏だが,日本のアニメを見て育った彼の得意分野は,カメラワークをうまく使ったダイナミックでスピード感のあるアニメーション映像制作だそうだ。

 「KEMURI」のアナウンストレイラーの制作時には,UNSEENのアニメーターはイヴァラ氏のみだったが,やがてディレクターとして編成されたチームを率いるにあたり,その指標を設定するために力を注いだと語っていた。

 「KEMURI」のトレイラーで使われている50秒間の内訳は,最初の15秒間でいくつかのカットを用いて世界観を紹介し,その後は「パルクール」「キャラクターの顔」「キャラクターのアクション」「静かな瞬間(着地)」「指で作る狐窓のサイン」「妖怪たちの姿」,そして「エンドショット」と,強弱をつけながらのカットが続いていく。テスト用に構築されていた3つほどのビルでできたマップを利用し,キャラクターが走ったり滑り込んだりする軽快なアクションは,タ,タ,タ,タ,ターンというようなリズムの法則を与えて作り出したという。

トレイラーは,無駄なシーンを取り除き,リズム感と躍動感を強調した作風に仕上げられた
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アニメーターとしての影響は,日本のアニメから受けているというラウル氏だけに,キャラクターアニメーションの随所に日本らしさが感じられる
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ラウル氏によると,アニメーションも音楽を奏でるように作り出していくと共感しやすいという
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 ちなみに,このパルクールのアニメーションを制作した際にはBGMは用意されておらず,後からBGMがアニメーションに合わされたような形になったらしい。
 また,顔が映し出されるのが猫娘のような女性キャラクターのみで,他の5人は全員がフードやお面で隠していることについては,「全員の表情を作り出すほどの時間はなかったから」とウォン氏は笑い飛ばしていた。

 アーティストだった中村育美氏が選んだアーティスト集団が制作しただけに,「KEMURI」のトレイラーは,圧倒的なビジュアルアイデンディを持つ完成度の高いものとなった。

 高速で高層ビルのはざまを駆け抜けながら巨大な妖怪たちと戦うというゲームプレイの映像を早く見たいと思うゲーマーは多いだろう。ウォン氏やイヴァラ氏がGDC 2025に参加したのも,今後のアナウンスやプロモーションに先駆けてのことなのかもしれない。その続報を楽しみにしておきたいところだ。

ネガティブスペース(空が見える空間)が,「ケムリ」という片仮名を形象しているのもニクい演出のロゴだ
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「GDC 2025」公式サイト

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