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異なる体験を作りだす探索RPG「エングラム」,クラウドLLMとローカルLLMを組み合わせ,キャラの反応をリアルタイムに提供[WePlay2025]
会場で見つけた作品の中で,筆者が技術的にもっとも興味深かったのが,sitokaが開発している「エングラム」(Engram)だ。AIを活用し,プレイヤーごとに異なる物語体験ができるのだが,チャットのみで進むタイプではなく,探索型RPGとして作られている。
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さらには,LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)をAPIで呼び出しているだけでなく,軽量なローカルLLMも活用している。物語が収束するように,とある理論を組み合わせているのも特徴だ。
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開発者にゲームの詳細を聞こうと,中国語の通訳を挟んで話をしていると,どうにも日本語がわかっている雰囲気が。実は慶應大学の数理科学科出身で,当時教授が研究していた命題論理関連の理論をAIに応用して,新しいゲーム体験を作れないか,ということで開発をしているそうだ。
また慶應大学卒業後は,miHoYoのエンジニアとして,ゲームのクラウドストリーミング周りを担当していたという。独立後に開発を進めているという本作について,話を伺った。
![]() 丁盛豪氏:柚衣科技(Yet Another AI)CEO / sitokaプロデューサー |
4Gamer:
「エングラム」は,AIを駆使して毎回違う物語を実現しているそうですが,どのような仕組みで,どんな体験を得られるのでしょうか。
丁盛豪氏(以下,丁氏):
ゲームの中に,ストーリーが発生する“点”をいくつも配置しています。プレイヤーの行動や反応をもとに,それらの点をロジックシステムがつなぎ合わせることで,次にどの物語へ進むかが変化します。そのため,同じプレイヤーでも,遊ぶたびに体験する内容が異なります。
また,ストーリー同士の“つなぎ目”部分は,AI生成で補完し,それぞれのプレイヤーが自分だけの物語を体験できるような仕組みになっています。
4Gamer:
AIはどのように活用されていますか。
丁氏:
キャラクターや背景アセットなどは,人の手で制作したもので,AIは主にテキスト生成に利用しています。
単に会話文を作るだけでなく,選択肢ベースのやり取りも作れるように組み込んでいます。
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なお,プレイヤーが会話している最中に,キャラクターがどのような表情をするのか,どのようなエモートを出すのかといった反応は,会話のテンポについていけるよう,ローカル環境で動く軽量なAIに任せています。
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また,AIでアセットを呼び出したり,ゲームプレイにかかわるパラメータをAIが決めたりすることもあります。AIの判定が積み重なって,プレイヤーごとの独自の体験を生み出しているのです。
4Gamer:
ローカルで動かしているAIは,LLMでしょうか。
丁氏:
はい。中国発のLLM「千问」(Qwen)の軽量モデル「Qwen3-0.6B」をゲーム用にカスタマイズして使用しています。
どのプレイヤーのPCでも動かせるように,という目標を立てて,かなり力を入れて調整しており,開発でも大きな課題でした。
・Hugging Face「Qwen3-0.6B」
https://huggingface.co/Qwen/Qwen3-0.6B
4Gamer:
動作する環境として,想定しているPCスペックはどのくらいですか。
丁氏:
一番低いスペックだと,グラフィックボードのGeForce GTX 1660でもいけます。
4Gamer:
RTXじゃなくていいんですね。
丁氏:
ただGTX 1660だと,0.5秒ぐらいのラグが発生する可能性はありますので,より高いリアルタイム性を求めるなら新しめのGPUがいいですね。使用するGPUメモリは,500から600MB程度です。
4Gamer:
AIが参照するのは,チャット入力の部分だけでしょうか。探索の状況も影響しますか。
丁氏:
両方です。プレイヤーが入力するテキスト内容はもちろん,探索でどのポイントに到達したか,どの場所を踏んだかもAIが参照します。
探索地点がトリガーになって,AI側の処理が動き,その後の展開が変わることもありますね。
4Gamer:
探索でのポイント到達と,AIの判定処理は,どのようなロジックでつながっているのでしょうか。
丁氏:
AIには,環境を感知する仕組みを入れています。マップ上に多数のポイントがあり,プレイヤーがある地点に立った時点で,ロジックシステムがこの先に進みうる物語を推定します。
この推定はアルゴリズム的なところがあり,現在位置と過去の行動から次の展開候補を出して,AIが生成すべき内容を決めます。
探索ポイントごとに展開候補をリアルタイムに計算して,AIに何を生成させるかを柔軟に選択させます。物語の点と点をさまざまな方法でつなぎ合わせて,毎回違った物語を作るのです。
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4Gamer:
ローカルLLMと,クラウドLLMはどう使い分けていますか。
丁氏:
タスクの複雑さで使い分けています。ローカルLLMは,リアクションをできる限りリアルタイムに近づけることを目的に導入しています。APIに頼ると,ラグが出やすいので。
つまり,会話や表情などの即時反応が求められるものは,ローカルLLMを使用し,複雑なストーリー生成などはクラウド側という使い分けです。
クラウド側での処理で待ち時間が発生するときは,アニメーションや演出を挟むことで,ロード待ちのストレスを感じないようにしています。
さらに会話が進行している段階でも,このあとで生成が必要になりそう,と予想できる部分であれば,裏で先に生成しておくこともあります。
4Gamer:
AI生成の物語は発散してしまうことが課題となる印象があります。どのように収束させていますか。
丁氏:
ここで,ストーリーが発生する点を多数配置したシステムが重要になるのです。
ロジックシステムは,「一階述語論理」(物語の状態やルールを形式化し,コンピュータが論理的に整合性や分岐の可能性を判定できるようにする仕組み)の考え方を使って,AIが生成しうる結果の数を制約し,発散や矛盾が起こりそうな状況を検出します。
そういった状況を検出したときは,特定の分岐やストーリーポイントへ誘導し,未来の生成で物語が破綻せずに収束するようにしています。このシステム構築が,技術的な難所でしたね。
4Gamer:
かなり面白そうな理論ですね。
丁氏:
日本では,第5世代コンピュータ(1982年〜1992年)の頃に,これに関する論文がたくさん書かれているはずなので,ぜひチェックしてください。
4Gamer:
はい。ところで気になっていたのですが,丁さんのキャリアについてお聞かせいただいてもよいでしょうか。もともとこういった理論を研究されていたのでしょうか。
丁氏:
はい。5,6年前ごろ慶應義塾大学で数学を専攻していました。当時の指導教員がAI研究者で,80年代に一階述語論理などを研究していたのです。
今では研究者が少ない分野なのですが,ふとAIのロジック面の弱さをこの理論の応用でカバーできるのではないか,と掘り下げたのが,エングラムの出発点です。
4Gamer:
卒業後は何をされていらしたのですか。
丁氏:
大学卒業後は,miHoYoで,クラウドゲーミングの伝送アルゴリズムでAIを活用する領域に携わっていました。
その後,先ほどの理論を生かした自分のプロジェクトをやりたいと思い,独立してゲーム開発を始めたのです。「エングラム」は,だいたい2年で形にはなりました。
4Gamer:
現在のチームの役割分担を教えてください。
丁氏:
全体で10人くらいです。エンジニアが6人,ストーリーが1人,アートが1人,サウンドが1人,経理が1人という感じです。
私は,主にロジックやシステム側を担当しています。
4Gamer:
現在の開発状況について教えてください。
丁氏:
機能が正しく動作することの検証はかなり進んでいるのですが,面白いゲームに仕上げるためには,あと半年ほど必要だと見込んでいます。
来年中旬に出すバージョンは,現在のデモ版の3倍くらいになる想定です。それでも全体の1/4くらいの規模となります。
まずは面白さが成立するか,という部分にフォーカスし,ボリュームは追って拡張していく予定です。
日本語ローカライズなども,まだとりあえずという段階で,品質についてはこれからの課題になります。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
――収録日:2025年11月22日
- 関連タイトル:
エングラム - この記事のURL:




















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