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[TGS 2018]現場から見た日本のeスポーツの現状と課題,そして将来の展望とは。有識者5人が意見を交わしたパネルディスカッションをレポート
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印刷2018/09/22 14:09

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[TGS 2018]現場から見た日本のeスポーツの現状と課題,そして将来の展望とは。有識者5人が意見を交わしたパネルディスカッションをレポート

 2018年9月21日,千葉・幕張メッセで開催中の東京ゲームショウ2018で,TGSフォーラムの専門セッション「eスポーツのチームやプロ選手が続々誕生! プレイヤーとゲーム会社,eスポーツ大会の幸せな関係とは?」が行われた。

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TGSフォーラム公式サイト

東京ゲームショウ2018 公式サイト


 本セッションでは,さまざまな形でeスポーツの現場に携わる有識者が,日本のeスポーツ界の現状と今後の展開に関してパネルディスカッション形式で意見を交わした。登壇者は以下のとおり。

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CyberZ 取締役 青村陽介氏
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DetonatioN Gaming CEO/Sun-Gence 代表取締役 梅崎伸幸氏

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ウェルプレイド 代表取締役/CEO 谷田優也氏
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RIZeST 代表取締役 古澤明仁氏

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よしもとスポーツエンタテインメント 代表取締役社長 星 久幸氏
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モデレーター:日経トレンディネット/日経クロストレンド 記者 平野亜矢氏

 最初の話題は,日本のeスポーツが海外のような盛り上がりを見せるのか,それとも独自の展開を遂げることになるのかについて。
 eスポーツ大会イベント「RAGE」などを手がけるCyberZの青村氏は,海外シーンの熱量を見てうらやましいと思う反面,必ずしもそのまま日本で展開する必要はないと考えている。理由は,eスポーツタイトルは海外の場合PCゲームが中心だが,日本ではPCゲームも伸びているとはいえ,スマートフォンゲームやコンシューマゲームのほうが優勢だからだ。
 とくにスマホゲームの配信はスマホで視聴されるケースが多く,そのため映像の作り方もスマホ向けとなる。海外のようなPC向けとは異なることから,青村氏は「日本らしい形でeスポーツを盛り上げたほうがいいと考えている」との見解を示した。

 またeスポーツの大会やイベントの企画,演出,運営などを手がけるRIZeSTの古澤氏は,日本のeスポーツシーンがまだ発展途上であり,さらに海外とは文化や生活様式が異なることから,受け入れられるものとそうではないものが異なるのではないかと発言。「eスポーツには,日本人が好むエンターテイメントに磨き上げる余地があり,そこにビジネスチャンスがある」と語った。

 国内有数のeスポーツチーム・DetonatioN Gamingを率いる梅崎氏は,日本のプレイヤーは,格闘ゲームこそ強いが,それ以外のジャンルはまだ世界の水準に達しているとはいえないと指摘した。それは技量面ももとより,各チームが選手に払う給与水準やコーチとなる人材の不足といった環境面の整備が足りていないことを含んでいる。
 また梅崎氏は,大会に関してはもっとエンターテイメントよりにしてもいいのではないかと考えていると述べる。「子ども達がプロゲーマーの姿を見て,『格好いい』と思える配信などを行ったほうが,eスポーツ人気が加速するのではないか」とした。

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eスポーツ,日本と海外の違い


 それでは,梅崎氏の挙げたような環境面や大会運営の課題は,どうすればクリアできるのだろうか。まずは,現状認識からだ。
 梅崎氏は,現在日本には45チームほどeスポーツチームが存在するが,その中で本当にマネタイズが成立しているのは上位の3〜5チーム程度しかないことを挙げ,これは海外とは比較にならないという。
 またチームのマネジメント側としても,実際にプレイヤーであり,ゲームの面白さや選手の考えていることを共有できる人が向いているとのことで,梅崎氏は「そういう人が増えると,日本のeスポーツもまた一つ成長する」と話した。

 RIZeSTと同じくeスポーツの大会やイベントの企画,演出,運営などを手がけるウェルプレイドの谷田氏は,サッカーや野球などのリアルスポーツは公共のもので,誰のものでもないが,ゲームはどこかの企業がそのIPを所有している,という点を指摘した。
 そして,IPホルダーごとにeスポーツへの向き合い方は異なるのだが,基本的にはどこも自社のゲームが1本でも多く売れることが望ましい。仮に,あるゲームの盛り上がりがずっと持続すれば,必然的にそのゲームの売上は伸びる。それはスマホゲームも同様で,配信初日に100万ダウンロードを記録しても,翌日には1000人しか遊んでいなかったのではビジネスにならない。

 そのように継続して遊んでもらうきっかけや仕掛けの一つが,ウェルプレイドの手がけるイベント運営や配信コンテンツの企画になるのだが,目下の課題はそこで生まれる収益をIPホルダーとどのように分配していくかということだ。谷田氏は,「アニメの制作委員会のようなものの必要性を感じている」と語っていた。

 シリーズがものは別として,1つのタイトルが10年間遊ばれれば長いほうだ,と話すのは古澤氏だ。その間にプレイヤーのコミュニティが形成されるわけで,その規模は数百万人におよぶことがある。その状態で「もうこのゲームは遊べません」となったら,コミュニティはどうすればいいのか,という課題があるとし,日本も海外も,その解決策を見いだせていないという。

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 そして古澤氏は,「eスポーツタイトルは,賞金による動機付けを止めたほうがいい」とする。というのは,賞金額が高いほどアピールできるのは間違いないが,一部のIPホルダーがその額を吊り上げると競争が加速して体力のない競合他社が離脱し,結果としてeスポーツ全体に悪影響をおよぼすからだ。

 ではどうするべきなのかといえば,古澤氏は賞金以外に大会で優勝することに価値を付けるこという案を示した。古澤氏は,インドネシアのジャカルタで行われた第18回アジア競技大会を例に挙げ,「ああいう大会に出場すること,そして優勝し金メダルを取ることは,お金とは異なる価値がある」として,香港代表選手のケースを紹介した。その選手は長く親から「ゲームンばかりやってないで勉強をしろ」と言われていたが,香港代表に選出された途端,親の応援を受けるようになったとのこと。古澤氏は「名誉や公益性といった価値を付与することが重要なのではないか」と語った。

 さらに古澤氏は,現在の世界的なeスポーツ興行による収益は,放映権やチケット,グッズによるものと,スポンサーからの収入が大半を占めていることを挙げ,「残念ながら,このビジネスモデルは,日本のeスポーツの市場規模では成立しないだろう」と述べた。
 そこで,日本はeスポーツが若者層を中心に盛り上がっていることに着目し,「eスポーツ×地方創生」「eスポーツ×雇用創出」のように,行政や公的機関を巻き込んだ「eスポーツ+α」という打ち出し方をしたほうがいいのではないかと提案した。
 実際,韓国や香港ではこうした手法で数10億円相当の予算を引き出し,eスポーツ施設をオープンさせている。古澤氏によれば,そうした施設は学校やコミュニティに低予算で貸し出され,eスポーツ大会が継続して行われるいうモデルが成立しているそうだ。

 吉本興業のeスポーツ事業「よしもとゲーミング」を手がける星氏は,リアルスポーツがプレイヤーとスポンサー,そして観客から成り立っていることを指摘し,「海外のeスポーツは観る人がきちんと育っているが,日本はまだだという印象がある。言い方は悪いかもしれないが,日本のeスポーツはクローズドで,外側にいる人達にアピールできていない。見る人が育っていないというより,そもそもいない」と厳しい見解を示した。
 そういう点で,吉本興業には一般の認知度が高いタレントや,付き合いのあるメディアがたくさんあり,そうした強みを活かして,一般にアピールしたり,各選手が持つ背景を物語として伝えたりできる。「eスポーツって面白そうと興味を持ってもらい,見る人達を作っていく」というのが,星氏の考えだ。

 星氏によると「宣伝費が5000万円あるという状況で,“今,eスポーツが流行っているみたいだけど”」という話になったとき,誰にリーチするのかまったくデータがないのが現状であるとのこと。
 そのため,具体的に訴求すべき層が分かっている分野に宣伝費を持って行かれ。非常にもったいない。星氏は「もっとeスポーツを知ってもらい,そこから購買につながる状況を作らなければならない」と話す。


見る人を育てること


 さらに星氏は,海外と日本では,eスポーツの観客の性質が違うことを指摘した。選手が卓越したプレイを披露すると盛り上がるのはどちらも同じだが,普通の場面でも,海外の観客は楽しんでいることが伝わってくるのに,日本はそうでもないという。星氏は「その違いをきちんと理解したうえで,日本の観客向けの演出を施していかなければならない」とした。

 星氏の挙げた「見る人を育てる」という課題について,ちょっと外れるかもしれないがと前置きしつつ青村氏は,“RAGE”というブランドにこだわってイベントを運営していると述べた。個々のタイトルは知らなくても,「RAGEが取り上げるゲームなら面白いだろう」と思ってもらいたいからだという。
 そして,大食いやスニーカーなど,さまざまなテーマが取り上げられるバラエティ番組「TVチャンピオン」を例に挙げ,「大食いに興味がなくても,あの番組なら見てみよう,スニーカーに興味がなくても,あの番組は面白いと思わせる。RAGEもそういう存在にしたい」とした。しかし,「根本にあるのは,やはり,そのゲームだから見たいという気持ち。そこは無視できない」とも話しており,「見る人を育てる」ことが難しい課題であることを窺わせた。

 選手のプロモーション動画を作成することもあるという谷田氏は,eスポーツには「知らないと見てはいけない」といった空気がなぜか存在すると指摘した。谷田氏はやはりトーク番組「アメトーーク!」を例に挙げ,「なんの知識を持たずに番組を見た人でも,そのとき取り上げられたテーマに興味を持つことがある。このように,身近にあるコンテンツでeスポーツを知ってもらうことが重要で,むしろ,『知らなきゃ』という雰囲気にならないようにするにはどうすればいいのかを考えている」と述べた。

 そして谷田氏は「行き着く先は“人”」という見方を示し,「勝敗などの結果だけを伝えるのではなく,どんな人がどんな思いでゲームに打ち込んでいるのかを伝えることが,そのゲームに興味を持ってもらえるきっかけになる」と話す。そのために選手のドキュメンタリー映像を作ったと述べ,「出身地が同じ,好きな食べ物が同じというだけでも,興味を持ってもらうきっかけになる」と説明した。

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登壇者それぞれの今後の取り組みについて


 最後の話題は,登壇者各自の今後の取り組みについて。
 青村氏は「スター選手を作ることに尽きる」とし,「それが,eスポーツのさまざまな部分を拡大していくだろう」との展望を語った。それに関連して,「負けた側をどう扱うか」ということにも考えをめぐらせている」とのこと。勝者にスポットライトが当たるのは当然だが,勝者がいれば敗者がいて,そこにもドラマがある。「怒り」という意味を持つ“RAGE”という言葉は,考えてみると敗者の悔しさを代弁しているようにも感じられる。
 青村氏は,「敗者を含めた全体を扱うことが,スター選手を作ることにつながるのではないか」と述べていた。

 梅崎氏は,DetonatioN Gamingの課題として若手選手の育成と選手の強化を挙げ,現在,スクール事業の展開を検討していると明かした。引退した選手や現役選手の技術を,次の世代に継承したいという思いがあるという。

 谷田氏は,eスポーツを「毎日見られる」「近くで見られる」という環境を作るため,イオンエンターテイメントと業務提携を行い,全国のイオンシネマでさまざまなeスポーツリーグの試合などを鑑賞できるコンテンツを提供していることを紹介した。現在はまだ小さな取り組みだが,会社帰りなど,気軽にeスポーツに接することのできる機会になればと思っている。
 また,ウェルプレイドがVtuberのキズナアイなどで知られるActiv8と提携したのも,eスポーツを見てもらうきっかけを作る施策の一環であるとのこと。

 古澤氏は,モチベーションの面で,「止めないこと,継続させることが重要」とし,「それが次のフェーズにつながる」と語った。さらに「eスポーツを社会的,文化的,そして経済的なものにしていくことは,RIZeSTを立ち上げたときから考えている。その3つを達成するには,ボトムアップもトップダウンもあるが,とくに経済的なものにしていくには,eスポーツに投資してくれた企業に相応のメリットが生ずるサービスを開発し,提供する必要がある。そこに積極的に取り組んでいきたい」と話した。

 最後に星氏は,東京・渋谷にある「ヨシモト∞ホール」をeスポーツイベントにも使えるような施設に改装していることを紹介し,大きな興行ができるように,いろいろ試していきたいと語った。
 また大きな目標としては,本ディスカッションの登壇者達のライバルになるようなイベントやチームを展開したいと考えているが,当面は難しいので,まずは協力してeスポーツを盛り上げていきたいと述べ,ディスカッションを締めくくった。

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