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[CEDEC+KYUSHU]「ぼんやりとした『イメージ』を『音楽』にするまで」聴講レポート。受注してから完成までの制作過程が語られた
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印刷2021/12/06 17:39

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[CEDEC+KYUSHU]「ぼんやりとした『イメージ』を『音楽』にするまで」聴講レポート。受注してから完成までの制作過程が語られた

 2021年11月27日,ゲーム開発者向けオンラインカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」にて,「ぼんやりとした『イメージ』を『音楽』にするまで 〜外注作曲家の制作過程〜」と題された講演が実施された。このセッションでは,ノイジークロークの白澤 亮氏藤岡竜輔氏が登壇。外注制作の作曲家という立場から,「仕事を受注してから実際に作るまで」どのような過程を経ているのか,また発注書からどういう所を汲み取っているのか,発注書に記載してほしい情報は何かなどを具体例を交えつつ紹介した。

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「外注制作のゲームサウンド作曲家」を紐解く


 白澤氏は,最初にゲームサウンドの作曲家がどんな音楽を作っているかを解説。まずゲームのどこに音楽が紐づけられるかというと,ステージなどの「場所」や,バトルやイベントなどの「場面」,そして主人公やライバルなど「キャラクター」だという。したがってゲームサウンドの作曲家は,場所や場面,キャラクターを表現する音楽を作っているのである。

 ゲームサウンドの制作は,ゲーム開発全体の終盤に行われることが多いという。例えば開発期間が12か月だとしたら,終盤の3か月くらいとのこと。そんなに待ち時間が多いのかと思う人もいるかもしれないが,さまざまなタイトルの案件を重複して受注しているので,実際には毎日のように作曲をしているそうだ。また.曲ができたらそれで終わりではなく,修正を依頼されることもあるし,ループ処理や納品作業といった作曲以外の作業もある。

 そんな作曲家には,さまざまなスキルが必要になる。例えば楽曲をオーケストラで演奏するためには,楽譜を作らなければならないし,収録時には効率よく進行できるよう現場で指示を出す必要がある。さらに収録後も,トラックダウンやゲーム開発で使いやすくするための処理をすることになるし,場合によってはゲーム内の環境を踏まえてより効果的に楽曲を再生するために,実装部分にまで踏み込んで話をすることもあるという。
 まとめると,ゲームサウンドの作曲家には「楽譜作成」「収録ディレクション」「データ整形」「サウンド実装知識」などのスキルが求められるというわけである。

 

コミュニケーションツールとしての「サウンドリスト」


 「サウンドリスト」は,楽曲ごとの尺や構成,イメージ,参考楽曲などを記したもので,クライアント側の発注指示書でもある。白澤氏によると,最初から下のスライドに示された形になっている必要はなく,端的なキーワードのみで問題ないとのこと。むしろキーワードをもとに作曲家側からクライアントに質問し,サウンドリストを完成させていくことになるのが普通で,そうやってクライアントとコミュニケーションを取ることで,そのゲームに対する理解度も深まっていくそうだ。

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 さらにノイジークロークでは,そうしたサウンドリストを超えるクライアントとのコミュニケーションを意識しているという。具体的にはサウンドリストの指示どおりの楽曲と,作曲家視点でイメージや構成が合致すると感じる別のニュアンスの楽曲を提出している。そうすることで言葉よりもイメージを明確にし,作曲家の作家性をダイレクトに表現できるそうだ。仮に作曲家側の提案が的外れだったとしても,それはコミュニケーションが足りていないということに気づくいい機会であり,ゲーム全体のクオリティの向上につながるとポジティブに受け止めているとのことだ。

  

「場面」にアサインする音楽の具体的な制作事例


 具体的な事例の紹介では,場面にアサインする音楽の具体的な制作事例として,Switch用ソフト「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』〜おわらない七日間の旅〜」のケースが挙げられた。

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 このタイトルの楽曲の1つ,「創作と妄想のはざま」のサウンドリストは「しんのすけ(主人公)が熱中して何かを作っているときの音楽」「創作のテーマ」「パズル的なものを解くイメージもある。音数が少ないシンプルな構成で」「1分30秒くらいでループ」というもの。このほか背景イラスト数枚と,キャラクターの立ち絵が提供されている。

 白澤氏自身は子どもの頃に「クレヨンしんちゃん」の漫画やアニメに親しんでいたこともあって,世界観は把握できていたという。そのため世界観から乖離することなく,ゲームに合いそうなポイントを探りながら作業を進めることは比較的容易だったそうだ。

 この楽曲で白澤氏が表現したかったのは,「思案,思考中,閃き」。多くの作曲はテンポを決めることから始めるそうで,この楽曲の場合は,クイズ番組のシンキングタイムでよく使われる時計の音をヒントに,テンポ60の倍となる120に決めたという。

 またメロディ用の楽器は,「クレヨンしんちゃん」のアニメ劇判のイメージから笛がいいだろうと最初に考えたが,オーボエではかっこよすぎ,フルートでは上品すぎるという理由から,個人的にとぼけた音だと感じているクラリネットを選んだとのこと。
 さらに子どもを表現するには,木製で音が伸びない楽器や音が短い楽器が合うとのことで,シロフォンやカスタネット,そしてストリングスのピチカート奏法などが使われた。

 実際の作曲では,楽曲を4つのパートに分けて考えられた。最初のパートは「実際に手を動かしていろいろ試している」というもので,まず人間は何かを考えているとき,どんな気持ちなのかを想像したという。そして激しい気持ちではなく,一定の気持ちでいることが多いだろうと考え,同じフレーズを淡々と繰り返すことにした。さらに後半の展開の都合で,音数を少なめにしたという。

 次のパートは「時間が進んで手を止めて考えている」というもので,トライアングルで時計の音,ファゴットとシロフォンで子どもらしさをそれぞれ表現。そしてピアノのキーンという音で,何か閃いたことを表現した。

 3番めのパートは「考えたことが進んだ」というもので,最初のパートの延長として作られている。そのため楽器や音数を増やし,音楽のテンションを上げることにより,しんのすけが熱中していることや,物事が進行したことを表現した。

 最後のパートは「また何かを考えている。ただ苦しさはなく,心地のよい思考に感じられるように」というもので,ピアノとトライアングルで時計の音を表現。また2つのコードを交互に演奏することで,物事が行ったり来たりする緊張感を出した。さらにクラリネットでは緊張感が足りなかったので,メロディ楽器をフルートに変更。加えてメロディに浮遊感を出し,考えている感じを表現したそうだ。

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「キャラクター」にアサインする音楽の具体的な制作事例


 キャラクターにアサインする音楽の具体的な制作事例としては,「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS」のケースが挙げられた。

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このタイトルのキャラクターBGMは,ホーム画面用とストーリー用の2種類が存在する。前者はそのキャラクターをイメージしやすいもの,後者はそのアレンジ曲で「シナリオを邪魔しない」「テンションはなるべく一定」という条件が提示された。

 加えて「ラブライブ!」の世界観やキャラクターのイメージを崩さないことも重要だ。最初の打ち合わせでは,クライアントから初期キャラクター27名の詳細な解説を受けるとともに,入念なすり合わせをしたという。
 また白澤氏自身も,「ラブライブ!」のアニメを全話視聴し,当時存在していた楽曲を片っ端から聴くなど,世界観の徹底した理解に努めたそうだ。

 このセッションでは,上原歩夢のBGMを制作したケースが紹介された。白澤氏は打ち合わせや参考資料から,歩夢に対して「穏やか」「幼馴染みが大好き」「ひたむき」「努力家」というイメージを抱いたとのこと。

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 穏やかだと感じた理由は,歩夢の話し方がゆっくりだからだそうで,それを表現する手段をテンポとリズムにするか,それとも楽器の音色にするか迷った結果,後者を選び,楽曲自体のテンポは速めにしたという。さらに歩夢は健康的なので,その元気さと穏やかさを両立させるために,表現の幅が広く華のある楽器としてストリングスセクションをメインに据えた。

 幼馴染みが好きを表現するところも,結構悩んだという。結果として,昔から知っている,馴染みがあるということをヒントに,「過去に聴いたことがある」というキーワードに思い至り,「ほぼピアノの白鍵だけを使ってメロディを作る」ことにチャレンジしてみた。さらに,それだけでは要素が足りないと感じたので,コード進行を簡単なものにして補完したという。

 歩夢にひたむきさを感じたのは,真面目で一生懸命になって物事に打ち込む性格だからで,駆け足をしているようなテンポ感でそれを表現した。さらにところどころに16分音符を混ぜることで,テンポを超える疾走感を出したそうだ。

 努力家の部分は,努力を「若さ,青春,初々しさ」と解釈し,個人的に若者っぽさを感じるアコースティックギターと,学校をイメージさせるピアノを楽器として採用したとのこと。

 以上をまとめて白澤氏は「自分の体験や経験をイメージに落とし込むことが大切」と語った。また,個人的な体験や経験,感覚を落とし込んだイメージは,必ずしも万人が共有できるものではないので,クライアントとの一般的な会話もイメージをすり合わせる過程で必要であること,制作した楽曲を提出するだけでなく解説テキストを添えるなど,いろんな方法で相手に考えや気持ちを伝える工夫も必要であるとも話していた。


作曲家側からクオリティアップの提案を行った具体的な制作事例


 作曲家側からクオリティアップの提案を行った具体的な制作事例としては,「ミトラスフィア -MITRASPHERE-」のケースが挙げられた。

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 このタイトルの楽曲は基本的にオーケストラなのだが,民族音楽調のものもある。民族音楽は本来アコースティック楽器を使って演奏するのだが,藤岡氏によるとゲーム音楽の場合は打ち込みのみで楽曲を完成させることが多いという。
 しかしクオリティを追求するうえで,どうしても一部,または全部のパートに生演奏を採り入れる必要があるケースも出てくる。その場合は,さまざまな準備が必要になるそうだ。

 具体的には,サウンドリストや参考資料を精査し,生演奏が必要だと感じたら,作曲家側がそれをどうやって組み込むかを整理する必要がある。最初に考えるのは,自分や社内スタッフが演奏し,収録するか,それともプロの演奏家に依頼するかだ。
 演奏家への依頼が必要と判断した場合はクライアントに相談し,楽曲の制作スケジュールに影響を与えない前提で,生演奏を採り入れる必要性を説明する。同時にレコーディング費用や演奏家への報酬が発生するため,プラスの制作費を捻出してもらえるか交渉することになる。

 一方クライアントには,打ち込みから生演奏に変更することで,どんな効果があり,何がどれだけ変わるのかという疑問がある。クライアントがそれまでに似たようなケースを経験していれば話は早いが,そうでない場合は作曲家が真摯になって説明・交渉する必要がある。

 クライアントとの交渉に成功したら,今度は誰に演奏を依頼するか,どこで収録を行うのか,演奏家の報酬はいくらなのかを決めるとともに,演奏家のために楽譜を作成することになる。ここまでが,生演奏をゲーム音楽に採り入れるための準備である,
 
 藤岡氏が今回紹介したのはギルドシナリオのBGMを制作したケースで,参考楽曲とともに「コミカル」「チグハグでドタバタ」「騒がしいけど楽しい」というキーワードが提示されたとのこと。そして「ミトラスフィア」で使われる民族音楽と言えば,ケルト音楽風である。それらを踏まえて参考楽曲を聴いたとき,藤岡氏は生のフィドル(バイオリン)を使いたいと考えたそうだ。

 クライアントから快諾を得た藤岡氏は,自身が懇意にしている演奏家で,民族音楽に精通しており,アドリブ演奏が可能,さらには収録環境を備えているバイオリニストに演奏を依頼し,続いて楽譜を作成した。譜面には,Aパート,Bパートなどを明示し,演奏指示も無理に音楽用語を使わずに分かりやすい言葉で書くのが望ましいそうだ。

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 完成した楽曲をクライアントに提出したところ,非常に喜んでもらえたうえに,プレイヤーからも「バイオリンがカッコいい」と非常に好評だったそうで,藤岡氏は大きな手応えを感じたという。

 藤岡氏は以上をまとめて,生演奏を楽曲に採り入れるために作曲家側に必要なこととして「クライアントとの意見交換・アピール」と「楽器や演奏家に対する気配り」を挙げ,しっかりと準備して臨まなければならないと語った。


作家の個性が前面に活かされた具体的な制作事例


作家の個性が前面に活かされた具体的な制作事例としては,「Bloodstained: Ritual of the Night」が挙げられた。

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 このタイトルには,30年以上続いてきたシリーズの流れを汲む極めて強固なバックグラウンドがあるため,楽曲制作にあたってはいかにシリーズのファンに楽しんでもらうか,いかに培われてきた雰囲気を踏襲しつつ現代の新しい音楽にしていくかという部分に,もっとも注意を払う必要があったという。

 その一方で,サウンドリストは非常にシンプルだったとのこと。また参考用の楽曲や資料も用意されていたが,初回の打ち合わせでクライアントの意向やゲームのテイストなどを即座に理解できたことから,ほぼ“お任せ”状態となり,藤岡氏の個性を発揮することができたそうだ。
 具体的にはシリーズのキモとなるヘヴィメタル調の楽曲の素養が藤岡氏にあったこと,そもそも藤岡氏がシリーズの旧作を多数プレイした経験があったことが理解の早さにつながっている。

 このセッションでは,「Silent Howling」を制作したケースが紹介された。サウンドリストに示されたキーワードは,「終盤ボスバトルの曲」「1ループ2分程度」というもの。
 そこで藤岡氏は,ヘヴィメタルではあまり使われないバイオリンをメインメロディの楽器として選び,ギター一辺倒よりも情緒的な疾走感とカッコよさを表現しようと考えた。またこの楽曲では最初から生演奏を採り入れることが決まっていたので,藤岡氏の作曲する速弾きフレーズを演奏できる超絶技巧のバイオリニストをアサインしたとのこと。

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 ヘヴィメタルに限らずロックの楽曲では,低音感を出すためにギターやベースに半音下げるチューニングを施すことがよくあり,「Silent Howling」もそうなっている。そのため半音下げの概念がないバイオリンの楽譜には♭が7つ付いてしまうというとんでもない代物になり,収録時にバイオリニストが戸惑っていたそうだ。

 藤岡氏は,演奏家が収録当日に初めて楽譜を見て演奏すること際し,時間との勝負であることを説明する。しかし♯や♭の多い譜面は大変読みにくく,時間を取られてしまう。演奏家のパフォーマンスにも影響してしまうため,基本的には♯や♭は3つ以内に抑えたほうがいいと考えるとのことだ。
 なお今回のように,どうしても必要という場合は,事前に必要性や意図を演奏家にしっかり伝えておくことが大切とも語っていた。

 「Silent Howling」の制作中,藤岡氏は「この楽曲をゲーム中で一番の人気曲にしたい」という野望を抱いたという。それはゲーム終盤のボスバトルの楽曲で重要度が高くはあるが,その半面聴く機会が少ないというもの。その楽曲が人気になることで,「もう1回あの曲を聴きたい」,すなわち「もう一度ゲームをプレイしてみよう」という訴求につながると考えたそうだ。

 完成した「Silent Howling」は,クライアントやプレイヤーから高く評価され,動画配信サイトにカバー動画が複数アップされるなど,藤岡氏は大きな手応えを感じたとのこと。
 以上をまとめて藤岡氏は,「外注制作のゲームサウンド作曲家はそもそも発注をもらって初めて作曲をするが,自分の個性を全面に活かせる機会もあるので,もともと好きな音楽の腕を磨いておくと優れた武器になる」と語った。

 セッションの最後に白澤氏は,ゲームサウンド作曲の前提として「音は目に見えないので,コミュニケーションを取らなければ認識のすり合わせができない」「音楽は専門的な分野なので,クライアントが精通している必要はない」「ゲームサウンドは音楽の中でも,最先端の高度な技術や知識が必要な分野」を挙げた。

 そして,その前段階として「コミュニケーション力や提案力を磨くこと」「ゲームの企画や伝えたいことを把握し,サウンドのクオリティを高めることにより,プレイヤーに豊かなゲーム体験と忘れられない思い出を提供できること」を挙げ,多くのタイトルに関わることができる外注制作のゲームサウンド作曲家だからこそ可能な楽曲作りに今後もチャレンジしていくと意気込みを見せた。

ゲームサウンド作曲家を目指す学生へのアドバイスも示された
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