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[CEDEC 2022]SF応用に関する過去の事例や近年の動向が語られた「SF思考とSFプロトタイピング:SFを取り巻く最新動向」聴講レポート
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印刷2022/08/26 21:40

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[CEDEC 2022]SF応用に関する過去の事例や近年の動向が語られた「SF思考とSFプロトタイピング:SFを取り巻く最新動向」聴講レポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」の最終日(2022年8月25日),「SF思考とSFプロトタイピング:SFを取り巻く最新動向」という講演が行われた。

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 科学的知見や科学的思考法を軸とした物語を展開するサイエンスフィクション(SF)。それはエンターテインメントとしてだけではなく,科学技術の社会普及や社会の価値観の転換にいたるまで人々に大きな影響を与えている“社会の隠れた共有資産”である。
 そんなSFはこれまでどのような形で世の中で活用され,いまどのような形でイノベーションを起こそうとしているのか。ヒューマンエージェントインタラクションやAIなどの研究者で,日本SF作家クラブの理事を務める慶應義塾大学理工学部 管理工学科 准教授で,“いちSF好き”でもある大澤博隆氏が解説した。

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 最初のテーマが,SFの社会における「機能」。フィクションの数々は,社会から多くの影響を受けて創作され,作られたものはまた社会に多くの影響を与えるものとなってきた。
 鉄腕アトムを作りたかった。攻殻機動隊に影響を受けた。マトリックスの世界が好き――大澤氏自身がそうであるように,研究者の中にもSF作品に影響を受けてこの道を進んだという人は多いという。

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 宇宙開発やロボット,サイバースペース,サイボーグ,アバター,そしてメタバース,それらは「SFが生んだ分野」と言えるほどフィクションの影響は大きい。例えばロボットであれば,その用語自体が作家のカレル・チャペック氏がその由来にあり,ロボティクス(ロボット工学)という言葉もアイザック・アシモフ氏が提案したものだ。サイバースペースやサイボーグといったサイバーが付くものは「サイバネティックス」という学問に由来しているが,それを提案したノーバート・ウィーナー氏自身が作家としても活動していた人物である。
 サイバースペースに関連するものだと,アバターや最近注目されるメタバースがあるが,由来を探るとニール・スティーヴンスン氏の小説「スノウ・クラッシュ」につながる。

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 では,「SFってなんだ」という話となると,それを定義するのは難しい(そしてよくモメることになる)。一般的にイメージされているよりはかなり広い範囲を扱っているものであり,柔軟に捉えることも重要だ。
 大澤氏が研究対象としているのは「知見ではなく手法としての科学」で,現代の科学知識では不正確であっても,その世界における化学的な推論ができていたり,なにがしかの論理や思考法に支えられたものだったりすれば,それはSFとして研究対象となるようだ。最近だと,よしながふみ氏の漫画「大奥」が,スペキュレイティブ・フィクションという一面でも国内外で高い評価を受けていることがいい例だろう。

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 それらSF作品は,社会においてどう使われてきたかというと,ひとつは科学技術の普及――つまり宣伝である。例えば「タイム・マシン」「宇宙戦争」などの作品で知られるSF作家のハーバート・ジョージ・ウェルズ氏。彼は科学雑誌のネイチャーに寄稿するライターとしても活動しており,それらによって得た科学知識に裏打ちされた作品を残している。
 最新の科学技術や知識を,事実の記述だけではなくフィクションという形で伝えるということは,SFというジャンルの初期のころから行われていたのだ。

 近年注目されているのが,ただフィクションで科学技術を宣伝するのではなく,フィクションを応用するという考え方だ。
 例として挙げられた1つがのがスペキュレイティブ・デザイン。「問題を解決するためにデザインする」ではなく「問題を“発見”するためにデザインする」というもので,ルーツをたどっていくと,その一つとしてデザイン・フィクションという概念にたどり着く。これを提唱したのがブルース・スターリング氏。サイバーパンク運動の中心人物としても知られるSF作家だ。

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 ほかにもデジタルツールでのモノづくりを後押しした「メイカーズムーブメント」であれば,それを提唱したクリス・アンダーソン氏がSF作家のコリイ・ドクトロウ氏の小説「Makers」に影響を受けたことを公言しており,少し懐かしい技術的特異点(シンギュラリティ)であれば,それを提唱した一人として数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジ氏が知られている。このようにさまざまなカルチャーやビジネスのルーツをたどると,いかにSFがさまざまなイノベーションに関連していたことが分かる。

 これをふまえた上で近年の学術や政治動向を見ると,「もっとSFのパワーを取り入れていこう」という動きが大きくなっているのが分かる。
 SF作家が科学雑誌に短編を書き,科学者と議論する。学会に呼ばれて新たな科学技術の使い方について話し合う。有名企業の研究者と協力しあい,イノベーティブなアイデアを提案する。そういったケースが非常に多くなった。

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 さまざまな形でSFの考え方が取り入れられている分,その受け入れ方について気をつけなければならない。どれだけ魅力的な技術が描かれていても,それはあくまでフィクション。そのまま現実に適応させるのは問題があり,取り扱い方によっては先入観を助長し,間違ったほうに人を誘導してしまう危険性があるのだ。

 その例となるのが,「AIが暴走したらどうなる」という“問い”だ。フィクションでのAIの扱われ方に「AIが人間と同じ権利を主張し,人間社会と衝突したり反乱を起こしたりする」という“お約束”あるため,AIの研究をしていると言うと,よくこの“ツッコミ”を受けるという。
 実際のところ,現在のAIはそういったSFに登場するものほど賢くはなく,また自立して動くという面でも技術的に届かないところがある。AIは人から学ぶため偏見が入り込む余地はあり,意図的に危険で偏った考えを植えこむことができるという懸念点はあり,現実的に問題意識を持つとすれば今はそれだったりするわけだ。

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 また,フィクションを無批判に受容することにも弊害があり,ステレオタイプを固着化させてしまうリスクもある。現代の考え方で言えば,例えば何十年も前に描かれていた家事ロボット,メイドロボットなどは,作品として楽しむのは問題ないものの,“未来のビジョン”として描くには難しい部分がある。科学は技術だけではなく,想像力も更新しなければならないのだ。

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 このように,ポジティブな面だけではなくネガティブなものもしっかり目を向け,SFによるイノベーションを進めていこうという考えをもって行われているのが,大澤氏自身もプロジェクトメンバーとして活動している「AI×SFプロジェクト」だ。
 SFはなにをしてきたか。SFでなにができるのか。それらを学術的に,データをベースに考え,想像する力を更新し,未来のイメージを描き出す。それは科学をSFで宣伝するものではなく,SFの“前提を疑うような力”をもってイノベーションを起こそうというものだ。

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 その一つの成果として挙げられたのが,「SFは人工知能をどう描いてきたか」の分類だ。人工知能が登場する作品は多々あるが,それをどう分類できるのかを研究者間で議論し,評価項目を作成したうえでレビューする。誰が作ったか,自律性はどの程度か,友好性はあるか,自意識は持っているかなど,11の項目をもとに評価を進めていった。

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 人間型,機械型,バディ型,インフラ型という4つのクラスタに分け,人間らしさや知能の度合いでそれを分布。すると,例えば人間型であれば知能はそこまで高い水準にないが人間らしさある。機械型であれば知能は低めで,人間らしさもあれば機械的なものもあるということが見えてきた。

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 苦労したのが,どこまでがAI技術として定義できるのかという点だった。AIという言葉は1956年のダートマス会議で初めて登場するが,それ以前にあった人工頭脳と呼ばれるものもAIに入るのか。人工的なものが擬人化された作品で,人工知能をどう制御するかという議論にもその名が挙がるという「きかんしゃトーマス」はどうするのか。そういったことを真剣に議論し,基準を定義を決めていったという。

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 もう一つの興味深い事例が「SFの射程距離」と題された,SFが研究者に与えた影響を調査したものだ。これで分かったことで面白いのが,フィクションを挙げた人は文芸的な評価軸とは別の評価軸を持ち,そこで評価されたものに影響されたという研究者が多いことだった。
 物語や世界観ではなく,作中に登場する細かいガジェット,アニメのオープニングやエンディングに登場したモノに影響を受けており,それはSFに限らず広い範囲の作品が挙げられていたという。

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 最後に紹介されたのが,昨今注目されている概念「SFプロトタイピング」を取りあげた「SFプロトタイピングを用いた未来ビジョン作成の評価」だ。

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 SFプロトタイピングとは,SFの方法論を用いて未来社会のビジョンを設計する手法。単に未来を予測した作品を作るという話ではなく,作家やクリエイターと企業の関係者が議論し,双方の益となる未来を考えるというものである。
 言葉自体は近年生まれたものだが,こういった取り組みは古くからおこなわれており,国内だと1970年の大阪万博のときにSF作家の小松左京がこれに近い試みをしていたことが有名だ。

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 2010年以降,SFプロトタイピングやそれに近いSFの考えをベースとした動きが増えており,各国でセンターや企業の設立が続いている。SFプロトタイピングを専門にする会社も増え,企業だけではなく行政でも実施例が多くみられるようになった。

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 SFプロトタイピングの強みとなっているのが,その民主的な手法だ。何かに取り組む際にクリエイターやアーティストを呼ぶものの,専門外の人やそういったスキルがない一般の人でも議論に参加し,いろいろなアイデアを編み出していける。「簡単でもいいのでプロットを書いて,それを議論して育てていこう」という考えがあるところが,SFプロトタイピングの重要な部分でもあるというのだ。

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 最後にSFプロトタイピングのまとめとして,「SFを使う利点」が語られた。
 SFプロトタイピングは,新しい用語を作っていくという過程から始めていく。まずは「サーフィンが好き」「○○ダイエットに凝っている」といったように,SFに関係なく「いま興味のあること」を話しあう。そこにAI生成に興味があるという人が参加し,「○○ダイエットAI生成」といった言葉を作り,それがある未来のビジョンを描き,議論する。

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本講演では,アリゾナ州立大の手法を分析したものを例にSFプロトタイピングの解説が行われた
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 「○○ダイエットAI生成」がある未来ってどんな世界だろう。そこでは人々はどう生活し,社会はどう回っていて,どんなことで失敗したのだろう。そういったことを創造しながら,その未来を迎えるまでの今をシミュレートする。
 このようにSF的に物事を考えることで,人々の発想はより挑発力が高く,また楽しさを持ったアイデアが生まれていく。一方でリアリティは遠くなるが,発想し提案するという初期のステージにおいて計画のGoサインが出るかというとそこにはあまり相関がない。

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 SFを使うことで考察に広がりが増え,議論が進む理由としては,「○○ダイエットAI生成」のようにSF的なガジェットがあることによってビジョンの共有が早く,また物語が前提にあることでアイデアの出しやすいという点が挙げられるという。とんでもない発想すらも許容するSFというフレームが存在するおかげで,参加者は自由にそれぞれの発想を言葉にでき,新たなイノベーションを生みだすことができるのだ。
 一方で,ガジェットへのこだわりが強かったり,ダメと分かっているアイデア諦められないといったケースで話が止まってしまうということもある。SFに詳しい人もそれにはまりやすいようである。これはSFプロトタイピングに限らない課題だが,こういった面も含めてさまざまな角度から調査や研究が行われているのだ。

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