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“カントリーライフ”を,ちょっと変わった視点で描いた一冊「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」(ゲーマーのためのブックガイド:第11回)
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印刷2023/01/12 12:02

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“カントリーライフ”を,ちょっと変わった視点で描いた一冊「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」(ゲーマーのためのブックガイド:第11回)

画像集 No.001のサムネイル画像 / “カントリーライフ”を,ちょっと変わった視点で描いた一冊「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」(ゲーマーのためのブックガイド:第11回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載だ。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,さまざまなテーマでお届けする。
 第11回で取り上げるのは,お笑いコンビ「ソラシド」の本坊元児さんの著作「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」。都会から地方に移住して“カントリーライフ”を送る,一人のお笑い芸人の“物語”だ。



脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの


 見知らぬ地の自身の土地で農作業や家畜の世話をし,近隣の町や村の人々と交流しながらカントリーライフを体験する――現在もシリーズが続いているパイオニア的作品である「牧場物語」をはじめ,ファンタジー世界を舞台とした「ルーンファクトリー」シリーズや「ハーヴェステラ」,ロングヒットとなっているインディーズ作品「スタデューバレー」にリアルな稲作が話題となった「天穂のサクナヒメ」など,農業/牧場生活シミュレーションゲームは近年,一つのジャンルと言える広がりを見せている。

 そんなカントリーライフの現実(?)を,ちょっと変わった視点で描いた一冊を紹介したい。都会から地方に移住し,見知らぬ土地での暮らしの日々を綴った本坊元児さんの「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」だ。

「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」

画像集 No.002のサムネイル画像 / “カントリーライフ”を,ちょっと変わった視点で描いた一冊「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」(ゲーマーのためのブックガイド:第11回)
著者:本坊元児
版元:大和書房
発行:2022年5月1日
価格:1400円(税別)
ISBN:9784479393849

購入ページ:
Honya Club.com
e-hon
Amazon.co.jp(単行本)
Amazon.co.jp(電子書籍)
※Amazonアソシエイト


大和書房公式サイトの「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」書籍情報ページ


 著者の本坊さんは,吉本興業に所属するお笑い芸人。7〜8年前に“バイト芸人”という形で,バラエティ番組などで過酷な肉体労働現場でのバイト話を披露していたことを覚えている人もいるのではないだろうか。現在は吉本興業の地域密着型企画「あなたの街に住みますプロジェクト」の「山形住みます芸人」として,ローカル番組やネット配信,キー局のバラエティなどさまざまな形で活躍を見せている。

 本書は,そんな本坊さんが上京を決めたときから東京での生活,移住した山形での暮らしなどを綴った一冊だ。
 2001年に水口靖一郎さんとお笑いコンビ・ソラシドを結成し大阪で活動を始めるが,なかなかパッとしない。「どうせダメなら東京で」と2010年に上京するもお笑いの仕事は入らず,アルバイトの大工仕事に追われる日々を送ることに。そんな状況が続くなか,事務所から「あなたの街に住みますプロジェクト」への参加を薦められ,2018年10月にコンビで“脱・東京”して山形へ移住する。

東京時代のエピソードは,本坊さんの自伝的小説「プロレタリア芸人」(扶桑社)にてさらに詳しく語られている(Amazon.co.jp ※Amazonアソシエイト / Honya Club.com / e-hon
画像集 No.003のサムネイル画像 / “カントリーライフ”を,ちょっと変わった視点で描いた一冊「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」(ゲーマーのためのブックガイド:第11回)
 それらの出来事や自身の心境を描いたその内容は,ですます調の穏やかな文体ながら,かなり切れ味が鋭い。感情むき出しの表現があれば,ハッとさせられる文学的な表現もあり,そしてお笑い芸人ならではの比喩やツッコミ(本坊さんはコンビとしてはボケ担当だけど)もある。
 それらの言葉で赤裸々に語られる,東京時代の“売れない芸人”であることの葛藤,見知らぬ土地である山形で起きるさまざまな出来事,人々との出会いや交流は,身につまされることもあればただただ笑えるものもあり,そしてあたたかい気持ちにもなれるものもありと,なんとも不思議な読後感があるのだ。

 身の回りに起きた出来事やそれに関わる人々,その時の自身の感情が丁寧に描かれているからであろう,私小説のようでありながら一つの物語になっているところにもぐいぐい引き寄せられる。とくに終盤の「第四章 コロナの足音」からの展開は,時間を忘れて最後まで読み進めていた。

 レギュラー番組を持ち,地域の地方創生プロジェクトなどに関わるようになり,住みます芸人としての仕事が順調に増えてきた矢先に発生した,新型コロナウイルスの感染拡大。これによって住みます芸人としての仕事は激減し,感染状況や年齢といった影響もあってアルバイトもできない日々を暮らしていたが,古民家と畑を譲り受けるという農業/牧場生活SLGの定番のようなきっかけで本坊さんの“物語”は大きく動き出す。

 土地を譲り受ける(正しくは月の家賃100円で借りることになった)きっかけと土地を託した人物とのエピソードも面白いのだが,独学で農業を始めてからの話がまた素晴らしい。ときに地元の人たちに助けられつつ悪戦苦闘しながら農作業に勤しむことが,住みます芸人の仕事だけではなく,水口さんとのコンビ仲や本坊さん自身の考え方に変化を与えていく流れは,狙っては生み出せないような感動がある。

 山形という土地とそこで暮らす人々の描き方も愛に溢れており,「山形,行ってみたいな」と思わせてくれるところは,本書も「あなたの街に住みますプロジェクト」に大きく貢献していると思う。本編後に収録されている,同期の芸人で親友でもある麒麟の川島 明さんとの対談も必読だ。
 そして,本編とは直接関係ないが,後輩芸人である千鳥の大悟さんの帯文にも注目してほしい。本書で描かれていることを見事に表した一文で,読了したときに見返すとグッとくるものがあるはずだ。

大和書房公式サイトの「脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの」書籍情報ページ


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■■Junpoco(4Gamer編集部)■■
本企画の担当で,書店の文芸書担当,DTPデザイン,雑誌編集と,かつて本を売る人&作る人の両方をしていたことがある4Gamerスタッフ。本もゲームも,気になったものはジャンルや主義主張問わず,流行のものからニッチなものまでわりと何でも手を出すが,自身の“attitude(姿勢)”にあった作品へのこだわりもけっこう強かったりもする。
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