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Access Accepted第760回:SGF 2023ポストモーテム 〜 E3なき「ゲームの夏」に感じた涼しさ
「Summer Game Fest 2023」とその前後に行われたオンライン・フィジカルイベントの数々がようやく終わった。有意義なイベントは多かったが,そのゆったりと落ち着いた雰囲気は,かつてのE3全盛期とはまったく異なるもので,急速に肥大化したてきたエンタメ産業におけるジレンマのようなものも感じさせた。
ドタバタ劇で始まった,「ゲームの夏」の涼し気なゆとり
6月8日。翌日から開催される「Summer Game Fest Play Days 2023」に合わせてカリフォルニア州ロサンゼルスの某ホテルに集まっていた取材班は,夜に始まるイベント「MIX(Media Indie Exchange)」までしばしの休息を取っていた。
MIXは,2012年に始まったイベントで,パブリッシャやメディアをスポンサーにして,インディー作品をを紹介するというもの。E3のイベントと“勝手に併催”する形でロサンゼルスのイベント施設を貸し切り,開催されている。
メジャーなタイトルが集まっているわけではないので,優先順位は低かったが,今年はオンラインイベント「Guerrilla Collective Showcase」と連動する形で開催されることもあり,割とゲーマーに知られたタイトルも展示される予定となっていたため,4Gamerでも取材に行くことになっていたのだが……。
いよいよホテルを出ようかというタイミングで,突然登録していたメールに「今夜のイベントがキャンセルになりました」というメッセージが到着する。過去にもイベントがキャンセルされる事態はあったが,数十分前に中止の連絡が届くのは珍しいことだった。
正直,我々メディアの予定が飛ぶことよりも,参加を表明していたデベロッパたちの旅費や諸経費,機会損失の方が心配だったのは確かだ。イベントの中止が告げられたのはオープン前の準備中と予想できるため,なんらかの事件があったのではないかとも考えられた。
後ほど確認すると,事件などではなく,どうやらイベント会場の配線設備が基準を満たしていないというお粗末な理由だったらしいが,この中止に対して,とある配信者が名乗りを上げる。162万人ものチャンネル登録者を持つジラード・ザ・コンプリーショニストさんだ。
フランスから帰ってきたその足でイベントに参加する予定だったが,急きょ自身の機材とチャンネル(https://www.twitch.tv/videos/1841576924)を使ってライブ放送を開始すると,6時間近くにわたって参加メーカーの一部となる22作品のライブデモを行い,開発者たちにプロジェクト紹介の場を与えたのだ。
そんなドタバタ劇からスタートした「ゲームの夏(Summer of Games)」だが,主役は大きく分けて3つ,「Summer Game Fest Play Days」(以下,Play Days),「Xbox Games Showcase + Starfield Direct」,そして「Ubisoft Forward」だ。
本来であれば,6月11日から17日までの1週間にわたって開催される予定だった「E3 2023 Digital Week」だったが,E3がなくなったことで,6月9日と10日に開催されるPlay Daysが大きな意味を持つことになったのだ。
昨年は,E3中止の救済措置的な立ち位置で開催されたと思われるPlay Daysだが,今年になり参加メーカーはさらに増加していた。やはりライブデモを公開し,メディアや消費者にアピールしたいと考えているメーカーは多いのだろう。なお,Play Daysは,ガンガンと鳴り響くような音楽は流れておらず,すべてのデモはヘッドフォンを付けてプレイされており,穏やかな環境でイベントは進行していた。
Iam8bitという独立系パブリッシャが実質的なプロデュースを行うPlay Daysには,「アヴェウムの騎士団」を持ち込んでいたElectronic Artsや「ソニックスーパースターズ」のセガに加え,バンダイナムコゲームス,スクウェア・エニックス,Activision Blizzard,Epic Games,Niantic,Tencent,Warner Bros. Interactive Entertainment,そしてAmazon GamesやNetflixといった,誰もが知る大手パブリッシャが参加していたが,展示していたのは各社1〜2作ずつといったところだ。
「Alan Wake 2」や「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」など新作のアナウンスや初のライブデモは行われたものの,実際に紹介されていた42作品のうち初公開情報は8作品のみに留まった。
夏の終わりのイベントであるドイツのgamescomや日本の東京ゲームショウが賑やかなお祭りイベントの体裁を維持するなかで,世界最大のゲーム市場であるアメリカ最大のゲームイベントとしては物足りなさを感じたのは確かだ。
E3がなくなった今もゲーム業界は進化・適応し続ける
Xbox Games Showcase + Starfield Directは,「Starfield」や「龍が如く 8」,「Kunitsu-Gami Path of the Goddess」など非常に内容が濃く,かつてのE3のような華やかさを感じさせてくれたし,Ubisoft Forwardでは,実際に過密なスケジュールを組んで,弊誌を含む多くのメディアに試遊やインタビューの機会を与えてくれた。
とくにUbisoft Entertainmentは,「アサシン クリード ミラージュ」,「Star Wars Outlaws」,そして「Avatar Frontiers of Pandora」というインパクトの高いビッグプロジェクトの情報を一気に発表し,視聴者の反応もよく,イベントは大成功だったと言っていいだろう。
ここに,かつてE3の常連だったNintendo of America,ソニー・インタラクティブエンタテインメント,そしてElectronic Artsといったプラットフォームホルダーや大手パブリッシャが参加していれば,ゲームの夏どころか,E3時代の常套句だった「ゲームの祭典」が完全復活したと捉えてもよかったくらいだ。
しかし,プラットフォームホルダーたちが足並みを揃えることはない以上,E3のようなフィジカルイベントが再び全盛期の姿を取り戻すことはないのかもしれない。
そもそも,多くの大手パブリッシャがE3を敬遠した理由は,何億円にも及ぶブース設営費用や,情報が氾濫することによる費用対効果の低さだったので,集中的な発表を好むパブリッシャはそう多くはないように思える。
また,E3 2023がキャンセルされていなければ,6月8日から16日までという前代未聞の長丁場のイベントになっていたわけだが,その形式で開催されていれば,我々メディアやインフルエンサーも莫大なコストや人員の負担が掛かっていただろうし,いい情報を届けようと奮闘するリポーターたちの体力も持たなかったかもしれない。
つまり,ゲームの夏のフィジカルイベントがこれ以上拡大しても,それがいいイベントになるという保証はまったくないわけで,発表するだけならオンラインイベントだけでも事足りるというのは,コロナ禍以降の世界の常識だ。
それでも,消費者の代表であるメディアがゲーム開発者に話を聞いたり,実際に触れたりすることで得られるものは大きい。オンラインの発表だけで“ゲームの熱”を感じ取り,それを読者の皆さんに伝えることは難しいようにも思える。
極端な話になるが,すべてをオフラインで済ませ,すべての情報をメディアが届けるのは,規模が拡大しすぎたゲーム産業の今を考えると不可能に近い。これは急速に肥大したために発生した,ジレンマのようなものなのかもしれない。
すでに,Summer Game Fest及びPlay Daysの発起人であるジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏は,2024年6月にも第3回目のPlay Daysを開催することをアナウンスしている。「ゲームの祭典」であったE3が来年にカムバックを果たすのか,それともこのままフェードアウトしていくのか。来年の夏にはハッキリとすることになるだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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