連載
蓬萊学園の揺動!
Episode05
主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされたために最後の大冒険に巻き込まれたんだか自ら飛び込んだんだかした末に、作者さえも気づいていなかった深淵なテーマに肉薄することで、真に驚くべき方法(ただしここの余白は狭すぎるので書ききれない)で学園を揺り動かし、史上最大の危機をしりぞけた!
(その1)
夜です。
病院のベッドです。
わたしは眠れずに天井を見上げていたんです。
あの十年は夢だったのか、実際に起きたことなのか。もしも後者なら、今わたしが、ここにこうして横になってる事実のほうが夢なのか? てことは、私はもうじき真に目覚めるのでしょうか? でもその目覚めた先が「本当の現実」だってことは誰が保証できるんでしょう?
あるいは明日目覚めて、そのとき私が体験することが「本当」だという保証は?
あ、もしかして今まで目を覚ますたびに、私はほとんど同じだけど別の宇宙で目覚めてたのでしょうか……ということは他の人たちも? 京太くんやアミ先輩や、それに愛しの紫苑さまも……いいえ、紫苑さまの身にそんなイカレたことが起きるはずはありません! あの人だけは唯一絶対、この全宇宙で(もしくは全マルチバースで)不変にして究極の存在、たとえて言えば盤古、天之御中主神、ヒラニヤ・ガルバ、マアナ=ユウド=スウシャイ、エルゥ=イルーヴァタアル……
あ、ちなみに最後のはわたしの趣味的な綴りで正式アンド最新の日本語表記はエル・イルーヴァタールになってまして、ただし
「――って、よくもまあそれだけベラベラと無関係なことを頭の中で喋っていられるもんだねえ?」
え?
今の、誰?
「僕だよ。こっち。窓際」
わたしは窓のほうへ首を向けました。
おお、そこには!
窓の外じゃなかった窓の前に! 窓の前に! すみません、これやるの大好きなんです、ホントはタイプライターで文章を打ちたいところなんですけど、ここにはタイプライター無いし、あれ、それともあの場面はペンで書いてたのだっけ、まあいいや、とにかくあの場面を読むたんびに「とっとと逃げろやこのスカタン!」て口汚く罵っちゃうんですけど、でもやっぱり乙女の憧れなんですう!
「なにが『憧れなんですう』だい、まったく」
というわけで、わたしの思考は先ほどの続きで窓の前にいる彼――それとも彼女? どっち? ――の描写を再開します。
まず美少年です。
欧風です。
貴族的でもあります。
金髪碧眼、レースの裾がヒラヒラしてるシルクのブラウス……いやシャツなのか? まあどっちでもいいや、それから仕立てのよいタイトな黒ズボン、瀟洒なエナメルの靴(紐靴ではなくボタンアップです)、そしてその顔は、おおそれは大輪の薔薇が如く、永遠に燃えさかる夢の炎が如く、金色の髪は微かに夜風に揺れて、我が心を揺さぶる青春の――って結局、誰?
「だから僕だってば」
ほんの一瞬瞬きするあいだに彼は変身しました。いいえ、復元したのでしょうか。そこにいたのは、わたしのアプちゃんでした。
あっ……と息を呑むよりも早く、彼はもとの美少年に戻っていました。
そう。美少年。
誰がどうみても美少年。どこを切っても美少年。そして、もしもホントにナイフで切ったら青い血が流れ出そうな美少年。byわれらすべての大々々師匠・江戸川乱歩。
「そういうのはもういいから。早くしないと次週掲載になっちまう」
え、でもここはタップリ描写しないと。だってもしも一言で済ませたらパクリだって言われちゃうし。つまり、わたしの目の前に立っている絶世の美少年はジ――
「わからず屋!」美少年はいきり立って、テーブルにワイングラスを叩きつけるように置きました(そう、実はそこにさっきからテーブルがあって、彼はグラスを左手に持ってたんです)。「お前がそんなんだから、僕がこの姿に戻るのに、えらい手間がかかったんだぞ! 僕が旧図書館へ行くのに……お前を旧図書館まで連れてゆくのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ!」
え。
そんなこと言われましても。
じゃあ一人で行けばよかったのに。
「それができたら、とうの昔にやってるさ! あんなカレースープの匂いがする女子寮の個室にいつまでも寝起きせずにね!」
カレーの匂いについては隣のヴィヴィアンちゃんに文句言ってください。私のせいじゃないです。ていうかわたしも被害者です、どっちかっていうと。
「知るもんか。とにかく、僕が言いたいのは――」
まあまあ。えーと、あなたの言わんとする意味がだいたい見当がつきましたよ。つまりアプちゃんの正体はアプロスだったけど同時にそれは美少年で、その素敵な姿に戻りたくて、でも学園内を独りでは移動できないくらい繊細なので、わたしたちを操ってアレコレやっておったのだ……と、こう、あなたは言いたいわけですね?
「バカにするな。旧図書館に独りで近づくのが、単に、手間がかかりすぎて嫌だっただけさ。アプロスは、いろんなことができるんだ。もちろん賽の目次第ってところはあるけど――」
え。ちょっと待って。
じゃあ、わたしが紫苑さまに出会って恋に落ちたのは、もしかしてあなたのおかげ?
「そうさ」
講堂で竜巻が発生して、わたしがその原因にされて、あれこれ最低のあだ名を付けられて学園ランキングで上位になっちゃったのは?
「もちろん」
じゃあ学食横町の大騒ぎとか体育祭のドタバタとか京太くんの艶姿とか。
「そういうこったね」
わたしは衝撃のあまりベッドに倒れ込みました。もちろん、さっきまでベッドに横になっていたので、いっぺん起きてからまた倒れたんですけど。そこまで色々できるなら、なんでわたしと一緒じゃなけりゃ行動できないの!?
「だから面倒くさかったんだってば。いちばん楽だったのが、お前と一緒に動く方法だったんだよ」
そんな一方的な!
「そういうルールなんだ、しょうがないよ。……そんな顔するな、それ以上は僕だって知らないんだから。アプロス――と、お前たちが勝手に名付けた我々――は、数十年前にお前たちのせいで自由意志を持たされて、それから何千年も地獄より酷い目に会ってきたんだけど、未だに分からないことだらけだよ」
えーと今すごく矛盾したセリフをお吐きになられましたが。
「時間のこと? 時間なんて、お前たちが勝手に決めつけたモノさ。この時空の別の隅っこでは、ちょいと時間の流れる速度が違うんだ」
地獄よりも酷い、とは?
「ハン! いいだろう――ちょいと長い話になるけどね」
と美少年はクッションのきいた長椅子に寝そべり、優雅にあくびをしてから、ワインを舐めつつ話し始めました。(長椅子とクッションがいつからこの病室内にあったのか、わたしにはとんと記憶がないのですが、とにかくあったのです)。
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