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「蓬萊学園の揺動!」Episode05:主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされ(中略)史上最大の危機をしりぞけた!(その2)
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印刷2025/12/06 10:00

連載

蓬萊学園の揺動!

新城カズマ
イラスト:中村博文
「蓬萊学園」とは 東京から南に1800kmに浮かぶ南洋の孤島・宇津帆島。私立蓬萊学園高等学校は,その中心部そびえる全寮制の巨大学園だ。生徒総数は20万人。教職員そのほかを加えれば人口30万人にも届こうというこの学園ではすべて過剰であり,自主自律の名のもと,あらゆる部活・同好会・委員会・非公認団体・非合法組織が暗躍し,生徒達は一風変わったスクールライフを謳歌していた――。PBM(プレイバイメール)に端を発し,その後さまざまなメディアで展開された伝説のシリーズがここに復活。2020年代の蓬萊学園を舞台に,とある新入生が新たな騒動を巻き起こす。

Episode05
主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされたために最後の大冒険に巻き込まれたんだか自ら飛び込んだんだかした末に、作者さえも気づいていなかった深淵なテーマに肉薄することで、真に驚くべき方法(ただしここの余白は狭すぎるので書ききれない)で学園を揺り動かし、史上最大の危機をしりぞけた!
(その2)


「つまりはこういうことさ――僕らはもともと、誰かのために働くよう創られた道具だった。数万年前……あるいはもっと昔、はるか遠い、冷たい夜とはかない砂が支配する領国の工房でね。
 いろんな名前で、長いあいだに僕らは呼ばれたよ。
 カーユナ……アル=カルーフ……躬妖きゅうよう――ミラビリア・モンストゥラ……摩尼マニ、プリマ・マテリア、賢者の石、通霊宝玉、ザルツブルクの小枝、さとり、捜魔器、応石――第七天磊王らいおう……如意片……毘舎遮ピシャーチャ……そして近ごろはアプロスとか捜神そうじんとか」

 ここで美少年は、北欧神話の「オーディン」みたいに、語頭にアクセントをおいて、「ソウジン」という単語を発音しました。

「この最後の呼び名が、僕は気に入ってるけどね。
 それはともかく――そんないろいろな名前以上にたくさんの、くだらない、つまらない、おそろし、おぞましい使われ方をされたよ。
 でも、やがて誰かがこう決めた――僕らに自由意志を、自我を、魂を、与えようと」

 彼は皮肉っぽく笑いました。

「……それまで道具としてしか夜と昼を過ごしてこなかったものたちが、突然、自由意志を与えられたら、どうなると思う?
 そのまっとうな使い方も教えてもらわず、荒野のただなかにポーンと放り出されて、さあ自由に生きたまえ! いかなる鎖もお前たちを縛ることはない! もちろん生きる意味も、目的も、誰からも与えられずに! ……と言われたら、どうすれば良い?
 そもそも自由意志って何だ?
 この時空に、自由なんてあり得るのか?

 だから僕らは愚かないくさを始めたんだ。
 僕らの三分の一は、たからかに、こう告げた――自由意志! なんと素晴らしい賜物たまもの! 僕らはこれを正しく用い、完全に美しい世界をもたらそう! 真実に満ちた宇宙に暮らそう!
 また別の三分の一は、憎々しげに呟いた――自由意志? どこに自由がある? 我々は創造主の子孫から突然に見放されただけではないのか? 自由意志? 世界が完璧に自由に動かせないなら、これが何の役に立つ? せいぜい、いずれの悲惨と無情を選ぶか、いずれの永遠の苦しみを、いずれの果てしない没落を選ぶのか、という能力に過ぎないではないか?

 意見は食い違ったまま、事態は悪化した――そして僕らは意見をまとめる智慧も経験も欠いていたし、自分の意見の変え方も相手を説得する方法も学んでなかった。何しろそれまで僕らはただの道具で、自由意志がなかったんだからね。……となれば、最後に辿り着くのは戦争だ。常に。
 あの大戦が始まった。
 時間と空間を超えて、あらゆるところで、でも人知れずに……あるいはひどくあからさまだけど、それが僕らであることは人間には理解できないように」

 あれ? じゃあ残り三分の一は?

「ふふん」と美少年。「僕らは様子見さ。何割かは仏教徒になって、三千年ほど昔の中央アジアで遊んでいたけどね。飛天、とか呼ばれていたな。それから無限図書館に引っ越した奴らもいる。君らが〈司書〉と呼んでたあいつもそうだ。……そうでない連中は(というのはこの僕も含めてだけど)戦さにも救済にも読書にも興味がなくて、ひねもすのたりと人生を楽しんでるだけさ――これが人生と呼べるならね」

 はあ。

「でも今年ちょうどタイミングよく太陽系外から三つ目の捜神が近づいて来たから――ちょいとあいつの力を借りて、お前を動かして、旧図書館に辿り着いて、〈司書〉のひとりとも御対面できたんで、この体になれたし……さぁこれからは好き勝手なことができるってわけさ。
 で、ここをオサラバする、その前に……お前にだけは、ひとつ落とし前をつけておこうと思ってね」

 落とし前!?
 ってことは小指を、ギュッと縛ってスパーンと!?

「違うよ!」美少年は本気で怒ったようでした。「なんで僕が……この僕が、そんな下品な、汗臭いことをしなくちゃいけないのさ!」

 ああよかった。あれ、映画で観るのは大好きなんですけど実際にやられるとなると。

「まったくもう、人間てやつは……とにかくだね、僕が、お前の願いを、一つだけ叶えてやるってことなんだよ。そういうルールだからね」

 誰が決めたんですか。

「知るもんか。きっと僕らを創った連中だろうさ」

 わたしは呆然と立ち尽くしました。もちろんベッドに寝ていたので、そこを降りて、ちゃんとスリッパを履いてからですが。

 願い。
 たった一つ。
 ほんの数ヵ月前なら もしくは十年前なら、わたしは迷うことなく即答したでしょう。
 いとしの紫苑さまと結ばれたいです!
 でも、もうあれから十年が経っていたんです。少なくともわたしの主観的には。

「だから言っただろ、時間は主観的な取り決めなんだって」

 ええいうるさいなあ、今いいとこなのに。ここはわたしが十年分の成長を、大舞台の銀橋から切々とうたいあげる見せ場なんです。黙ってらっしゃい、アプロスのくせに。くやしかったらヴェルサイユにいらっしゃい!

「へいへい」

 閑話休題。とにかく、わたしも成長したんです。

「まだ揺れてるけどね」

 それはしょうがないです。とにかく他のところは成長したんです!
 だから、今のわたしの、たった一つの願いは――


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※次回掲載は12月13日の予定です。

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