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【切込隊長】そろそろ「無料」と銘打つのはやめにしないか,オンラインゲーム業界は
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印刷2009/08/18 11:00

連載

【切込隊長】そろそろ「無料」と銘打つのはやめにしないか,オンラインゲーム業界は

切込隊長 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家

画像集#002のサムネイル/【切込隊長】そろそろ「無料」と銘打つのはやめにしないか,オンラインゲーム業界は

切込隊長:茹で蛙たちの最後の晩餐

ブログ:http://kirik.tea-nifty.com/



 三回目の寄稿となる今回だが,またしても「4Gamerでこんなこと書いてどうするんだ」という記事をお送りしたいと思う。いや,本当は「エアーマネジメント」のプレイレポートでも書こうと思っていたのだが,いい加減誰かが言わなければというか,みんな気付いているんだし,そろそろ取り組もうぜというか。今回もまた,そんなオンラインゲーム業界についての与太話を書いてみる。


そのゲーム,無料につき


画像集#004のサムネイル/【切込隊長】そろそろ「無料」と銘打つのはやめにしないか,オンラインゲーム業界は
 さて,オンラインゲーム業界を見渡してみると,バナーに「登録無料!」とか「いますぐ無料プレイ」とか「永遠無料」とか「無料宣言」とか「無料オンラインゲーム」とか,とにかく「無料」を前に出して客集めをしているオンラインゲーム屋がたくさんある。

 でもさ,商売でゲーム屋やってるんだよね。

 商売である以上,「無料」では成り立たないのは分かっている。だから無料でお客様を集めて賑わいを作って,そこで他とは違う楽しみ方をしたい,他より早く強くなりたい,という人間の持つ競争意識を煽って,有料アイテムを販売して,無料ユーザーの何%かが金を払ってくれることで商売が成り立っている,そういうことは誰でも知ってるから。

 そうした点を踏まえたうえで言いたいのだが,登録から一通りゲームを遊べるところまで無料,というのは分かるが,課金をある程度しなければ満足にゲーム内を移動することもできず,結果として完全有料になっちゃってるタイトルとかってあるじゃない。一歩引いた目で見れば,「どうなのよそれは」と誰もが突っ込まざるをえない。そうした歪な状態が「当たり前」となってしまった,そんなどうしようもない状況となってしまっているのが,今のオンラインゲーム業界である。
 いや,別にそれが遺憾だしいかん,と言いたいわけじゃないよ。商売としてはマジで手堅いし,一つのやり方ではあると思う。ただ,もうそういう仕組みでは,客になってくれる人を掘り起こしきったんじゃないか,と言いたいわけ。

 そのうち書くつもりである「RMTが汚い大人の巣窟になっている事例」も含めて,総括的にオンラインゲーム業界を考えると,テレビコマーシャルをバンバン流している“健全なオンラインゲーム業者”ですら,無料で試せることを前面に押し出して,時間はたっぷりある子供たちをターゲットに顧客集めをし,賑わいを作ろうとしているのが現状だ。
 しかし,乱立した無料オンラインゲームによる業界拡大も一服した今,「βテスト商法」だの「基本無料商法」だのは,支払い顧客率の低下と,ゲームポータル内の後継ゲーム作品の当たらなさが課題となってきている。無料をいくら叫んでも,新規顧客の開拓ができなくなっているのだ。
 だから,オンラインゲーム業界の各社は,大型バージョンアップとイベント量の増加という「稼動している主力タイトルに対する追加投資の拡大」で,当面の売上を確保しようとしている。

 一方で,いわゆるパッケージゲームには,顧客一人当たりの想定プレイ時間というのがあり,タイトルの規模によって,10時間ぐらいのものから60時間以上のものという想定でゲームは制作される。
 例えば,「やりこみ要素満載!」とかいって作ったとあるゲームは,システムの延長線上で可能な遊び方を200時間とか設定しているわけだが,このレベルになると,コンソールゲーム業界内では「やりすぎ」とか言われてしまうわけだ。
 でもオンラインゲームの場合は,プレイヤーの遊び方にもよるけれど,「やり込み仕様で課金ユーザーで」という流れだと,普通に半年1000時間とか使わせる。ギャグかと思うけど,実際にそういう仕様を作る。あるいは,最低でもそのぐらいになるように拡張性を残しておく。
 将来のバージョンアップで,新たなミッションや新たなワールドや新たなアイテムを作り,またプレイヤーにお金を落としてもらわなければならない。でも,同じシステムで使い回すと,やはりプレイヤーは飽きてしまう。だから,システムを「付け加えられる余地」,すなわちゲームとしての「拡張性」が大事になってくるわけだ。

 二年ぐらい前のタイトルだと,いわゆる「廃人」を除去するような仕様を作っていた。プレイ時間を大量に浪費しても,効率が下がるとか,ドロップ率が変わってアイテムが手に入らないとかそういうのだ。ところが,真の「廃人」はそこにギルドメンバーがいる限りオンしているし,複数アカウントを使い倒して,そうしたルールに引っかからないように各キャラクターの活動時間を調整する。なぜなら,そこまでしてプレイするから「廃人」なのだ。
 なので,いまではピラミッドの上を高く,高く,神々に届くまで高くして,普通にプレイする進行速度の人たちには,その背中すら見られないようにするのが業界の「マナー」であり「常識」となってしまった。紆余曲折を経て,結局先祖返りしたわけだ。
 「廃人」たちが手に入れる崇高なアイテムには,昔ながらの能力値による装備資格が定められていたりして,初心者に手渡そうにも装備できず,利益には与えれない。結果として,ゲームシステムの中で「廃人」は,常に普通のプレイヤーから隔絶されるような仕組みとならざるを得ないわけだ。

 ちなみに,業界で言う「普通にプレイする」というのは,週末土日に3時間ずつ週10時間程度を想定するメーカーが一般的だ。これでもパッケージゲームを開発する想定仕様に比べれば格段に多い。
 なぜなら,現在のオンラインゲームの課金体制は一か月だったりアイテム課金だったりするが,三か月程度でユーザーの獲得コストがペイするなどと考えると,50時間どころか100時間を越えるユーザーを2万人集めるというのが,オンラインゲームでビジネスを行ううえでの最低限のボーダーラインになるからだ。
 DS向けとかだったら「何周するつもりだこの馬鹿」と思われるプレイ時間を,課金ユーザー全員に求める。そのゲームの世界観を堪能してもらおうと考えれば,必ず使ってもらわなければならない時間でこれなの。ゲーム業界全体としては,ヘビーユーザーを大量に消費する問題児,それがオンラインゲームなのである。

 とはいえ,こういった問題を乗り越えられるタイトルが,オンラインゲーム成長期には20タイトル以上あったのも事実だ。そのなかには,ミリオンセラータイトルもびっくりなくらいの化け物タイトルに成長したものあるが,リリースされたオンラインゲームの数からすると,黒字になって二年以上継続しているタイトルは極わずかである。
 ただまぁ,当たればデカイんだよなオンラインゲームって。なんたって,開発費の回収までに,オープンβ初日からわずか三週間しかかからなかったタイトルすらある。オープンβなのにどうやって黒字になっているのか不思議でしょうがないが。


課金率と稼働率と


 ……とまぁ,当たれば大きいオンラインゲームビジネスではあるが,そのアカウント稼働率や課金率など見ていると,日本で採算の取れるタイトルの条件というのは,どうやら決まっているように思える。
 一般的に成功とされるタイトルの課金率は,無料プレイヤーを含めて全契約会員の9%前後が目標値だ。もっとも,稼動させているポータルサービスによっては,ID登録さえすれば,クライアントをダウンロードしてない人も会員数と数えるようなので,一概には言えないところだけど,でも9人の無料プレイヤーがいたら,こいつらを無料で遊ばせるために月間で3000円程度をゲーム会社に貢いでいる功徳ある課金プレイヤーが一人はいる,と思って差し支えない。
 ちなみに,オンラインゲームにログインしてみると,ロビーとかで課金ユーザーばっかりの光景を目にするかもしれないが,これは課金ユーザーのログイン率,滞留時間が高いからであり,とくにアップデートもないのにいつまでもゲーム世界にいて,その中のフレンドとチャットしてる奴が多いというだけの話だ。

 で,そのような構造のオンラインゲームというのは,いずれ複数アカウント持ちや常駐君などといった,いわゆる廃プレイヤーを頂点とした課金プレイヤー中心のゲーム世界となる。そこに「ちょっと面白そうだ。無料だし」と参加してくる新参プレイヤーがいるわけだが,そうしたプレイヤーは,遊んでいくうちにこれらの課金プレイヤーと互角にこの世界で生き抜くためには金をかけるほかないと気づき,立ち去るか金を払うかの二択を迫られるわけである。

 ゲームデザイン上,アップデートを繰り返そうにも拡張性を喰い尽してどうにもならない状況になるまで,だいたい二年か三年ぐらいかかる。どんなに商業的に成功したタイトルでも,アップデートで大掛かりな仕掛けができない状況になってくると,新規参入者は少なくなり,新参者のトレーニングもなかなか回りづらくなってくる。
 でも,例えば世界観を一新して,より良いプレイ環境へ移行するために続編を作っていたとしても,前作で常駐してくれていたプレイヤーが総離反して閑古鳥が鳴くケースが続出するという現実があり,オンラインゲーム会社は,もうシステム的に接木は無理(拡張性を使い果たして)だというのに,プレイヤーを確保/維持するために強引にアップデートを敢行しようとする。喩えるなら,もう髪も抜け切っているのに育毛剤を振り掛けまくる薄毛の心境だ(私のことではない)。

 業界がこのような環境になってしまったが故に,オンラインゲーム市場ではびっくりするようなアイデアの小型タイトルはすっかり影を潜め,大手企業の繰り出す大型シリーズタイトルの大型ゲームか,制作費が安価なカジュアルゲームに二分化されてしまった。
 いや,悪いと言いたいわけじゃないのだが,結局オンラインゲーム市場という奴は,生き残った大手ポータルに居着いた,60万人ぐらいの課金してくれるプレイヤーをぐるぐる回し合っているだけの市場になりつつある。客観的に見て,これはとてもヤバイ状況だ。
 とにかく新規の顧客がいないので,お金を払ってくれるコアでヘビーなユーザー,すなわち「廃人」プレイヤーをとにかく引っ張り込める仕掛けを用意するほかに,ゲームを採算ベースに乗せるための方法がなくなっている,それがオンラインゲーム業界のここ数年の問題なのである。


成功の黄金律


 縮小均衡の状況とはいえ,ある程度の黄金律は存在する。それは,オープンβでどれだけプレイヤーをかき集められたかを見れば,どのくらいの収益になりそうか,大手のゲームポータルであれば数字を持っているわけである。
 すなわち,このぐらいのタイトルが投入されて,ここのポータルに置いてもらって,このぐらいの広告宣伝費を突っ込めば,このぐらいのユーザーが確保できて,この期間で開発費を回収できるのではないか……という読みが,それほど狂うことなく成立するようになってしまった。
 もちろん,多少の当たり外れはあるけれど,はっきりいってゲーム性はプレイヤーの数にほとんど関係しない。むしろ,システムは枯れたクリックゲームの延長線上のほうが,かえってユーザーの滞留率が上がってしまう。
 国内のメーカーがサービス開始した某アクションゲームは非常に出来が良かったが,三分の一の制作費のクリックゲームも同時に出したところ,後者のほうが滞留率が高く,圧倒的に収益性も高かったりする。これでは新しいゲームデザインをオンラインゲームに持ち込もうというモチベーションが湧かないよね。

 だから,いつまでも枯れたシステムの枯れたタイトルが――結構無理矢理なバージョンアップを繰り返しながらも――オンラインゲーム業界では主力であり続ける。業界の大手が「無料!」を売り文句にして,一定のプレイヤーをかき集めて,その一割が課金という黄金律を築き上げてしまったので,後から出てくるタイトルも,同じようなマーケティングである「登録無料!」と言わざるを得ない。その昔,「オープンβ開始!」でプレイヤーをかき集めていた手法と同様に。

 結果として,オンラインゲームが流行るか流行らないか,すなわち課金ユーザーを確保できるかできないかの決め手は,ゲームの質ではなく,広告宣伝費やタイトルのネームバリューの強さであり,すでにユーザーを抱えている特定のゲームポータルにぶら下がって,サービスを提供することが定番となる。

 いくら画面がしょぼくて2Dで他社のパクリでクリッコゲーだったとしても,小中学生やヲタ系の大きな子供が心を惹かれそうな可愛いキャラクターイラストと共に,「無料!」と銘打ったバナーを金を出して大量に貼りまくり,事実上の製品版に近いオープンβを有力ポータルの会員向けにばら撒いて,ユーザーをどれだけ初期にかき集めることができるかで,オンラインゲームのビジネスとしての成否は「決まる」。
 そんな状況もあって,いわゆる日本の大手ゲームメーカー(コンシューマ市場をメインとしている)は,ニンテンドーDSや携帯電話向けにゲームを自社提供することはあっても,オンラインゲーム市場向けに独自のオリジナルタイトルを出すことは少なくなってしまった。

 もちろん,既存のゲーム業界もパブリシティの総量でもって話題性を築きあげ,それがエントリーユーザーのゲーム買いを刺激するなど,ミリオンを売るための方法として,版権確保や芸能人起用による話題づくりを頑張るわけではあるけれども。
 ただそうした点を考慮しても,オンラインゲーム業界はやはり従来ながらのゲーム業界からは異質であり,これからも別物であり続けると言えよう。


オンラインゲームの状況は分かりました。
そんで,オリジナルでクリエイティブでニューエイジなゲームアーティストはどうアクションすんの


 オンラインゲーム市場は上記のような状況であるわけだが,そんななか,ゲーム業界のゲームプロデューサー達は,もう少し自由度が高く,プレイヤーに刺さりやすい分野を模索してうろうろしている状況のようだ。
 というか,ゲーム開発において,企画や外注制作を中心にしている会社は,大手はともかく中堅以下は結構しんどい経営状態になっているところが多い。いや,マジで「どこも企画通してくれない」って嘆いている会社さんは多いっすよ。

 オンラインゲーム業界が革新的なゲーム開発やゲーム企画にイマイチ関心がなく,むしろ自分達で過去作の権利を買ってきて,自分達でディレクションして制作し始めているぐらいなので,正直なところ,ゲーム制作をしたいがためにゲーム制作をしている開発者は,同人活動などアマチュアに転向するか,一時期羽振りの良かったケータイアプリ制作の個人外注みたいな感じで食い繋いでいるように見受けられる。
 一時代を築き上げた優秀な昔ながらのゲームクリエイターが,最近ブラウザゲームのようなクライアントダウンロードを必要としないコンテンツの制作や,iPhoneなどの新しいプラットフォームでのコンテンツ企画に出てくる機会が増え,捲土重来を期して活動している感じといえば伝わるだろうか。

 エンジンだけ中韓から買ってきて,上モノを日本風ヲタ味に乗せ替えて安い商売をして儲けているのが気に入らん! ……とはいっても,金を払って遊んでいるのは日本人。日本人ゲーマーは目が肥えているはずなのに何故だ! とか悩む前に,まず自分達が面白いものを作って,またそれが売れるようにする努力を払わないといけないんじゃないかと思うわけです。

 個人的には,日本発のPCゲームが海外ではまったく通用しない悲しい現実をどうにかしたいところでありんすよ,はい。


■■切込隊長■■
言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。ちなみに,体型的には元々かなり痩せ型で知られていた切込隊長だが,結婚してからというもの,太り気味で悩んでいるらしい。……幸せ太りなんて羨ましいですよ。

  
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