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【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(前編)
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印刷2010/02/03 11:00

連載

【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(前編)

切込隊長 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家

画像集#002のサムネイル/【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(前編)

切込隊長:茹で蛙たちの最後の晩餐

ブログ:http://kirik.tea-nifty.com/




 金がない! お金がないよゲーム業界!

 ということで,4Gamer的にはご無沙汰しております,切込隊長こと山本一郎でございます。年末商戦で据え置き機向けに企画協力したタイトルはほぼ全滅したということで,葬式のような新年会や,針のむしろのような予算会議を経まして,ようやく記事執筆の気力が生まれてきたところであります。ああ,まあ厳しいのは据え置き機向けだけで,プロジェクトの委託を請ける私の側はあんまり腹は痛まないんだけどね。お通夜に参席して,私一人笑顔てわけにもいかないだろ。

 あんまり知られていないので説明をしておくと,私どもの役割というのは,外注の中でも比較的独特な部分であります。プロジェクトの立ち上げの中でも開発期間の比較的短い(15か月以内)ゲームなどのインタラクティブ性のある軽量級コンテンツを対象として,企画立案から計画の策定,エンジンの開発・カスタマイズと提供,プロトタイプ制作ぐらいまでが守備範囲になっております。
 中でも,最近相談が多いのは据え置き機と携帯電話3キャリア以外で伸びている分野――すなわちiPhone向けやブラウザゲーム向けの企画相談と,OpenSocial向けのアプリケーションを含めた軽量級アプリの企画,それと上流の相談では,プロジェクト向けに必要な資金調達とか東欧北欧などの安価な海外開発外注会社の斡旋・運用の相談などです。どうも暴言ばかり吐いてる変な奴と思われがちのようだが,ちゃんと仕事はしているんですよー。

 基本的には,安い値段で新しい技術やゲーム分野やプラットフォームの動向を知って,企画をとにかく早期に立ち上げたい,というときに,ご依頼があるということで,業界全体が沈没しているところで「でも,何かしなければならない」とお考えの会社さんがクライアントになる。最近ではゲーム以外のご相談のほうも多くなってきてはおります。

 で,冒頭で書きました「お金がない!」には,実は2つの意味が同時に含まれております。考えようによっては,ゲーム以上にファンタジーで,ゲーム並に感動するストーリーに,業界は今,直面しているのであります。せっかくですから,業界全体の動向も踏まえて解説してみましょう。

【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(後編)



ワールドワイドでコンテンツを売るために必要な人とスキルしか要らない!


 ……と,豪語している会社が,ワールドワイドの開発体制の構築に最も失敗した会社となっており,非常に涙を誘います。大型タイトルを出したはいいが,あんなの海外で大セールス記録できるはずがないだろ。他社でも,国内40万本ほどが採算分岐点のソフトウェアを投入してみたところ一桁万前半で惨敗したとか,かつて会社を支えたクリエイターが自信を持って行った試験的プロジェクトの販売があっさり終わったとか,Wii向け全滅どころか来期のプロジェクトは半分近くクローズとか,心の暖まる事例がゴロゴロしております。

 一方で,もはや格闘ゲーム専業で頑張ってたけどもう駄目なのかなと思ってた会社が,にわかに海外の格闘ブームで委託開発大繁盛で勢いを盛り返して急に偉そうになってたりと,よく分からんのがゲーム業界です。ゲームはファーストメディアではなくなった強い権利(“MC vs DC”とか,“スパイダーマン”とか)を買ってきて,巨大な広告宣伝費で大量に早期に捌くのが黄金律になってきたなあ,という話はそれなりに長そうなので次回以降でしようかと思いますが。

 ここで注目すべきは,かつて興隆を誇ったゲームを開発した!という名前が轟いている人が独立して,大御所化したころには,ゲーム業界のトレンドが変わってしまい,その大御所がやりたいような予算を獲得して開発したゲームが大コケするという現実にあります。これは,洋の東西を問いません。イケると思ったタイトルが轟音を立てて爆沈するさまは,正直,見ていて辛いものがあります。

 というか,例えば,あるシミュレーションゲームを世界的に売ったクリエイターは,同じように全世界から支持を受けるコンテンツを作る「確率が高い」だろうと,ゲーム会社の経営企画室は考えます。
 まあ,別にそれは間違っていません。ところが,実際にはあるヒットタイトルが出ると,そのコンセプトというのは亜流も含めて良い意味でパクられ,類似のコンテンツが大量に出て,ひとつのカテゴリーを形成します。そのクリエイターが持っているヘゲモニーというのは,あくまでそのカテゴリーを創始した,盛り上げた,という意味合いのみであって,近年流行っている別のジャンル,例えばオンラインゲームに進出したからといって,彼の作り上げる世界観なりシステムが世界中のプレイヤーにウケるかどうかは全然別の話なのです。


流動的なゲーム業界の雇用事情


 海外のゲームメーカーやパブリッシャーで統廃合が進む(というか進んだ)理由は,ハリウッド方式の制作体制と人事評価が行われることにあって,映画業界ではある程度著名な映画監督というのは,その映像制作技法が通用する限り次回作が駄目でも何度かやれば話題作を作ることはできる,という実績主義を導入している点にあります。逆に言うならば,ゲーム開発のスタジオというのはショット(その作品限り)で起用できればそれで良い,という扱われ方が徹底しているため,数年前大ヒット作を出したはずのスタジオが,今年になって閉鎖を発表するという,一見不可思議な事態が続出することになります。

 そのようなスタジオで働いていた人々が,その実績やスキルで自在にゲーム業界を泳いでいるかというと,実のところ半分以上はゲーム業界外で再就職するなど,業界内の働く人リストから消えてしまうことになります。アメリカでは,ソフトハウスがインドなど安価な英語圏の開発会社に押されてゲーム業界以上に厳しく,本来ならばゲーム業界が開発者や技術者の受け皿になるはずが,履歴書すら受け取らない,という状況になりました。

2010年1月の時点で,アプリケーション数14万本,総ダウンロード数30億回を誇る「App Store」
画像集#003のサムネイル/【切込隊長】ゲーム業界,使えない人サバイバル(前編)
 この流動的な制作能力のある人がどっと流れていっている先が,iPhoneであり,アプリ開発の分野です。これなら,最小一人のユニットでも制作は充分整えられますし,1000ドルしないMacを買えば開発環境は整うということで,結果としてゴミのようなアプリが大量にiPhoneに投入され,爆発的なコンテンツ地獄が繰り広げられているわけです。でも開発費が少なくて済み,かつ回収の速い市場は魅力的なのは事実で,もうしばらく飽和的なコンテンツ供給が続くことは間違いありません。

 一方,我が国の状況でいうと,アメリカよりも開発者に優しく,プロジェクトがなくなって任地のなくなったプロデューサーやディレクターが解雇されず,とはいえやることもないので,暇の延長線上でiPhone開発を社内で手がけるという事例が多いようです。まだ,解雇はされてません。優しいですね,日本企業。企画は通らないけど。

 でも,iPhoneで物凄くウケたとしても,プロジェクトの採算で考えるとほぼトントン,経費をしっかり算出して考えると,たぶんほぼ全プロジェクトが赤字に陥っているという状況もあり得ます。というか,20万ドルも出してiPhoneコンテンツを作るというのはクレイジーであって,ダウンロードあたり8ドルのコンテンツがどれだけ売れればプロジェクトとして採算に合うのか考えると,ぶっちゃけありえんよね,という状況であります。
 したがって,最近ではiPhone単体では当然のように儲からないという前提で,既存の大型プロジェクトのカットオフ素材を使いながら,プロモーションツールとしてiPhoneユーザーにDLさせ,大型プロジェクトの販売に寄与させようという流れが主流になりつつあります。これなら赤字でも大丈夫……なのかは,会社によって異なりますけど。

 要するに,iPhone自体の普及台数が伸びているとはいえ,あるいは「App Storeなら全世界に向けてビジネスができるんだぜ」とか言ってみたところで,ゲームを含めたアプリ市場としては依然として厳しい,というのが現実であり,浮いている開発者の受け皿には成り得ていないというのが正直なところなのであります。

 ……というところで,編集部側より「長いから一回切って」とかいう文句が入ったので,今回はこのへんで。次回は,「大手メーカーから出てきた開発者は使えない」という,さらに過激なテーマでお送りしたいと思います。はい。


■■切込隊長■■
言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。去年の年末に「ハーツ オブ アイアンIII」を買ったという切込隊長だが,やっぱり弱小国を中心にプレイしていた模様。まぁ確かに,厳しい中でなんとかやりくりするのが戦略ゲームの醍醐味だとは思いますけれども。ライターの徳岡さんほかそれっぽい人を集めた「ハーツ オブ アイアンIIIのLAN対戦企画」なんてものも,今度やってみたいですね。

 
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