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印刷2008/08/06 11:44

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ゲーマーのための読書案内 / 第56回:1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見

ゲーマーのための読書案内
インディアス,その次がバッファロー 第56回:『1491』→アメリカ開拓モチーフ

 

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『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』
著者:チャールズ C. マン
訳者:布施由紀子
版元:日本放送出版協会
発行:2007年7月
価格:3360円(税込)
ISBN:978-4140812501

 

 8月1日から「アメリカンコンクエスト」のダウンロード販売も開始されたということで,今回は昨年(2007年)話題になった書籍『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』を紹介したい。
 数字だけでもピンと来た人は多いと思うが,この本はコロンブスが「発見」する以前の南北アメリカ大陸がどんな感じだったのかを,近年の考古学的成果に基づきつつ,ざっくり解説したものだ。著者自身が述べているとおり,考古学の発掘/調査結果は日々更新されているものであって,この本に述べられた見解も早晩陳腐化せざるを得ないわけだが,少なくとも大枠の問題提起としては今後とも有効だろう。

 その問題提起とは何か? ヨーロッパと接触する以前の南北アメリカ大陸は,インカ/マヤ/アステカなどの例外を除いてもともと全体に人が少なく,それゆえヨーロッパ人は,比較的規模の小さな軋轢で未開の大地を切り拓いていったというイメージの,基本的な誤りについてだ。
 いや,ヨーロッパ人が本格的に乗り出していったとき,南北アメリカ大陸で多くの地域が広大な空白地だったこと自体は,前述した一部の例外を除けば正しい。問題は,この大陸が人類の初渡航/定住以来ずっとそうだったのかという点にある。
 この大枠について本書では例えば,インカの戸籍を調べたヘンリー・F・ドビンズの論文(1966年)を引き,1491年の南北アメリカ大陸の総人口を9000万〜1億2000万人と見る説が紹介されている。ちなみに同時期のスペインとポルトガルを合わせても,人口は1000万人以下である。国連が1999年に行った推計に従えば,当時の世界人口は約5億人。ドビンズの説には異論もあるが,明らかにヨーロッパより多くの人が,南北アメリカ大陸に住んでいたことになる。

 ではなぜ,そんなに人が減ってしまったのか? 原因はご存じのとおり,ユーラシア由来の伝染病である。コロンブスが西インド諸島に到達する少し前には,ヨーロッパ人との接触が始まっている。例えば,少なくとも1481年以前にイギリスの漁船が南米に漂着していることも,現在では明らかにされているのだ。
 ヨーロッパ人との接触が増えるにつれて,南北アメリカにおける伝染病の流行は猖獗を極めていき,17世紀前半までには約9割,先ほどの説なら8000万人から1億人前後が病死したものと推定されている。アメリカにおける古代以来の文明は,ユーラシアとの接触で文字どおり崩壊した。ヨーロッパ人が渡航し,見聞を伝えているアメリカの広大な自然とは,まさにその崩壊の渦中で目にしたもの,ということになる。

 そう考えると,スペイン人の暴虐ぶりを親王に訴えたラス・カサス神父の『インディアスの破壊についての簡潔な報告』も,もしかしたら別の読み方ができるのかもしれない。この本(報告書)にも「ヨーロッパでも見られない大きな都市が壊滅し,いまは廃墟ばかり」といった記述が頻繁に出てくるのだが,スペイン人が自覚的に行った収奪とは別ラウンドで,伝染病は本当に国々を滅ぼしていったのだから。

 話題を戻そう。この本は南北アメリカ大陸にわたって,発掘された遺跡の調査から見えてきた,当時の国家社会とそれぞれの技術水準を紹介,アメリカ史の大枠に新たな視点を提供することを目指している。例えば北米なら,カナダのラブラドル半島近辺にホーデノショーニー部族連合,合衆国東部地域にアルゴンキン部族連合,北西部には数々の狩猟民族,カリフォルニア付近には農耕民族の遺跡が見いだされている。
 また,南米についてはタワンスティーユ(→インカ)を中心に,地質と地形を改変したうえで多くの人口を養っていた文明の規模を検証する。そうした話題の延長で,アマゾンの密林は人間が意図的に果樹を増やしたものである可能性や,野焼きによって維持されていた生態系などにも言及。アメリカ西部開拓の原風景たるバッファローの巨大な群れも,“天敵”である人間の急減で生じた,頭数の異常増加だったと見る。
 野生のバッファローを絶滅させた人間の営為には,確かに反省すべき点があると考えるべきだが,それ以前とて「正常」だったわけじゃないし,人の手が入っていなかったわけじゃないというのが,本書を貫く重要な視点だ。言われてみれば,そのほうが理性的かもしれない。

 本書からさらにゲームに引き付けた話題をピックアップするなら,インカや北米諸部族がしばしばヨーロッパ人を歓迎した理由の部分だろうか。部族間闘争や王権をめぐる争いで,ヨーロッパ人を味方に付けたほうが有利と考えたためという指摘は少なくとも,AoE IIIに出てくる協力的なネイティブアメリカンが,ただただ素朴な「いいひと」だったと考えるよりは説得力がある。

 なんというか,世界史の展開はとうてい一握りの有力者の腹づもり(攻めるスペイン,守るインカ)だけで決まるものではなかったし,そこでは誰の意図とも関係なく住民の9割が死滅するようなことも起き得るのだという,シャレにならない経緯が読み取れる。すでにつながってしまった世界,そしてポストコロニアリズムが日々議論を深めている今日では,何か新しい説が発表されるたびにヨーロッパ擁護だとか現地びいきだとかいう,綱引きにもなってしまうわけだが,そうした立場を考える以前に,頭の中の世界地図をまず大きく修正しておく必要がある。本書が最も訴えたいのは,まずその部分だろう。

 

比較的最近失われた古代文明

誰のせいでもないあたりが,やりきれません。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
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