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[GDC 2023]Blizzard Entertainment創設者アレン・アドハム氏が語る,同社30年の歴史が生み出したゲームデザイン“12の原則”
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印刷2023/03/28 14:18

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[GDC 2023]Blizzard Entertainment創設者アレン・アドハム氏が語る,同社30年の歴史が生み出したゲームデザイン“12の原則”

Blizzard Entertainment共同創業者のアラン・アドハム氏
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2023]Blizzard Entertainment創設者アレン・アドハム氏が語る,同社30年の歴史が生み出したゲームデザイン“12の原則”
 GDC 2023にて,Blizzard Entertainmentの共同創設者であり初代CEO,そして現在はチーフ・デザインオフィサーとして活動するアレン・アドハム(Allen Adham)氏が,「Blizzardの中核となるデザイン原則を応用して,ジャンルを超えたゲームを作る」(Applying Blizzard's Core Design Principles to Create Genre-Defining Games)というタイトルでの講演を行った。

 アドハム氏については,2021年2月に本誌の独占インタビュー(関連記事)で紹介しているとおりだが,2018年に引退するまで第2代社長として会社を率いたマイケル・モーハイム(Michael Morhaime)氏,そして同じく2019年に退社しているフランク・ピアース(Frank Pearce)氏と3人でBlizzard Entertainmentを創業した人物だ。学費の積立金を利用し,ほかの2人を誘う形で起業したアドハム氏だが,2004年に辞職するまでの間もほとんど人前に出ることはなく,今回のセッションが,人前で行う初めての講演になったそうだ。

 これまでも,Blizzard Blizzardの主要メンバーは,GDC 2009のJeffery Kaplan(ジェフェリー・キャプラン)氏の講演(関連記事)や,GDC 2010のRob Pardo(ロブ・パードゥ)氏の講演(関連記事)などで,ゲームデザインにおける同社の哲学のようなものを明らかにしてきた。そして今年の「『MARVEL SNAP』のゲームデザインはピザ作り。クリエイターのベン・ブロード氏が語るゲームデザイン」関連記事)のセッション内容も同様で,早くからBlizzard Entertainmentではゲームデザイン哲学のようなものが共有されてきたのだろう。

 その意味でも,アドハム氏の今回の講義は,設立から30年以上経過したBlizzard Entertainmentにとっての根源にある原則だと言えるかもしれない。実際,GDC 2010のパードゥ氏の講演では,MMORPG「World of Warcraft」のみについてのセッションだったが,今回のアドハム氏の講演では,これまでBlizzard Entertainmentが手がけてきたさまざまなジャンルのゲームを実例にするとともに,「これはガイドラインであってルールではありません。これらは自分のデザインアイデアのスタートポイントとなるべきもので,それを理解した上で破壊(改良)していけば良いのです」と,汎用性の高いものであると述べていた。以下,その12条を紹介しておこう。


プレイヤーのファンタジーを満たす


 プレイヤーが持つファンタジーが何かを見極める。RTS「StarCraft II」はロズウェル事件などで知られるエイリアンを参考にし,FPS「オーバーウォッチ」はコミックヒーロー,アクションRPG「ディアブロ」のストーリーは旧約聖書をベースにしたものだが,そのほうが人々は感情的に関連しやすくなる。また,その分かりやすさを起点にして,独自のファンタジーの足がかりを作ることができる。

Blizzard初期のパッケージデザインは,キャラクターが陳列棚を物色するゲーマーの顔を直視しているようなものが多いのは意図的なものらしい
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ゲーマーは皆,ヒーローになりたがっている


 アメリカのゲーム雑誌に“ほぼ完ぺき”と評された1992年リリースの「The Lost Vikings」だが,アドハム氏は発売日に量販店へ行き,そこに置かれていた試遊台の様子を見ていたという。すると,中学生くらいの子供がその前に立ち,しばらく自動で流れている映像を見た後でゲームパッドを手に取った。彼は,プラットフォームが切れているところの最初のジャンプで転落してしまい,すぐに興味を失って別のゲームに流れて行ってしまった。
 ゲーマーたちは皆,うまくプレイしたいと願っている。ゲームキャラクターは,最初はヒーローでなくても,いずれはヒーローになれることをゲーム開始時点で示し,複雑な操作やストーリーにしないこと。


学びやすいが,マスターしにくい


 「ディアブロ」も「オーバーウォッチ」も,キーボードなりコントローラを使って,複雑な操作を必要とせずにゲームに没入していける。「World of Warcraft」がローンチした当時の同ジャンルのゲームは,首都から始まり,どこに向かって何をすればいいのか分からないものが多かったが,「World of Warcraft」ではできるだけ利用できるアビリティを減らし,ノースシャイア・バレーのアビー(チャペル)という田舎をヒューマンのスタート地点にするなど,プレイヤーが認知すべき情報量の簡素化を目指した。

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「World of Warcraft」のベテランプレイヤーの典型的なプレイ画面だが,最初からこんな調子では情報量が多すぎて誰もついていけない
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スタート時は右のようにオプションをミニマムにすることで,ゲームプレイに影響のない形でハードルを下げた


ゲームプレイが最優先


 “Gameplay First”は,過去にBlizzardの開発チームがマントラのように唱えてきたゲームデザインの真髄だが,実際のところはゲーム開発者一人ひとりにとって意味合いは異なっている。例えば,「オーバーウォッチ」の開発チームのオーディオ部門は,銃声や足音の方向が聞き取れるなど,“音でプレイする(Play by Sound)”という独自のコンセプトを打ち出していた。
 「Starcraft」や「オーバーウォッチ」は,企画段階からeスポーツを念頭にデザインされたのではなく,むしろeスポーツをデザインの中核に据えることは,一部のゲーマーだけをターゲットに絞り込むものだとして敬遠されていた。eスポーツ向けのゲームを作るつもりならば,当初からアートやオーディオ,そしてゲームデザインを並列で議論できるような人材を揃えておくべき。

開発チームの異なる部門のメンバー全員が,どのようにゲームプレイに貢献できるかを考え,アイデアを共有しながらゲーム作りを行う
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自分でプレイしたいようにプレイできる


 興味を示したプレイヤーに合わせたゲームプレイを用意すること。「World of Warcraft」では,友達とだけプレイしたい人のためにダンジョンを,大規模PvP戦を楽しみたい人向けにギルド戦を用意した。当時はまだほかのプレイヤーと一緒に遊ぶのを躊躇していた人のために,ソロプレイができるようにもし,PvPばかりを遊んでいたい人のためにも対応させた。それぞれのプレイヤーが,どのようにプレイしたいかは異なっており,それを尊重するのが開発者の職分だ。デジタルカードゲーム「ハースストーン」には,さまざまなヒーローが登場し,カードのカスタマイズが行えたのも,このデザインコンセプトにつながっている。

プレイヤー自身の持つファンタジーを叶えるためのオプションの多さがBlizzard作品の魅力だ
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カッコ良さに集中せよ


 先の“プレイしたいようにプレイできる”とは逆説的だが,自分たちの想定するゲームデザインを実現するために,すべての要素を盛り込むと乱雑になってしまう。「World of Warcraft」は,60人ほどのチームで作られたが,何がゲームを良いものにしたのか。シンプルながらエレガントなチェスのように“カッコ良い部分”に集中してゲームをデザインすべき。クールなデザインアイデアを段階的に分けて,省けるものは省き,拡張パックや続編に登場させる。


破壊力抜群の表現


 これは,特に「ディアブロ」(買収前はCondorと呼ばれたBlizzard Northが開発)以降に学んだことだが,それ以前のBlizzard作品はゲームバランスに集中し過ぎたものが多かった。「ディアブロ」はマウスクリックとその反応の良さが重要視されたゲームデザインで,画面内の敵を次々に倒せてしまうような,自分のパワーを強烈に意識させる抜群の表現が含まれていた。「StarCraft II」における「Ultralisk」や「Archon」などのユニットは,「ディアブロ」に影響されて作られたもの。「オーバーウォッチ」でも同様で,強力なパワーを持つアビリティはゲームにリズムを生み出す。


罰ではなくボーナスに


 ゲームを作る上で重要なのは,プレイヤーの心理的な受け止め方だ。「World of Warcraft」のようなオンラインゲームで,レベルの異なる2人のプレイヤーが一緒にプレイするのは難しい。レベルの低いプレイヤーに合わせて,レベルの高いプレイヤーが得られる経験値を少なくするとゲームは面白くなくなってしまう。そのため,プレイし始めたばかりのプレイヤーや,レベルの低いプレイヤーには,短期的なXPブーストを与えるなどして対応する。上級プレイヤーの経験値獲得を半分にするのと,初心者の経験値を2倍に上げるのは,数学的には同じことだ。

開発者会議で話すのは初めてというアドハム氏
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操作性の追求が絶対


 1994年に発売されたアクションゲーム「ブラックソーン 復讐の黒き棘」では,ロトスコープと呼ばれる実写映像からキャラクターの2Dアニメーションを作成するという技法が採用されているが,ジャンプやスプリントなどの動作の1つひとつが遅く,ゲーマーにはストレスとなっていた。それ以降,Blizzardのほとんどの作品ではスピード感のあるアニメーションと,反応の良い入力レスポンスを意識するようになった。アクションRPG「ディアブロ イモータル」は,開発当時はタッチスクリーンでの反応が遅く感じたが,裸眼で確認する方法がなかった。そこでプレイしているところをハイスピード撮影してみたところ,ラグが分かった。

「ディアブロ イモータル」の特徴である“タッチコントローラーパッド”で,指が左から右へ流れた際にラグが発生している
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すべては友達とプレイしたほうが楽しい


 Blizzard Entertainmentのマルチプレイモードへの興味は,Co-opモードがあった1993年の横スクロールアクション「Rock N Roll Racing」の頃からあったが,それは当時「ストリートファイター」のような格闘ゲームばかりをチーム内でプレイしていたから。「Warcraft」でLANやモデムに関する勉強を始めたが,「Warcraft」以降に我々のゲームデザインに対する意識を大きく変えることになった。ゲーマーコミュニティを団結させる最善の方法は,相手勢力であれ,強力なラスボスであれ,共通の敵を作ること。オンライン機能がなくても,ソロでハマっている人であれば,他人と比較して自分の“社会的威信(Social Prestige)”に満足することができる機能は重要だ。

Battle.netを開発して「ディアブロ」をサポートしたとき,そのサーバーは一般的な家庭用パソコン1台で,グローバルなチャットやマッチメイキングを制御していたという
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無限のプレイアビリティ


 プレイヤーが自分たちの作ったゲームをどれだけ愛し,長くプレイしてくれるかには,「ゲームプレイ」「成長」「収集」「ソーシャル性」,そして「ユーザー制作コンテンツ(UGC/User-Generated Contents)」の5つを考慮しなければならない。60人で開発した「World of Warcraft」は,今では400人の開発メンバーで維持されている。「オーバーウォッチ」も同じ数の開発チームがいる。リーダーとして彼らの雇用をどう継続していくのかを考えれば,ゲームを長期的サービスに向けていくのが必定となる


ちょっとだけ遊びを入れる


 「ディアブロ」がリリースされた当初,多くの牛がいる中でハルバート(槍斧)を抱えて歩く牛王というユニークモンスターがいる「カウ・レベル」については公言せず,コミュニティの間の噂として存続させた。「オーバーウォッチ」では,コミカルな描写を入れたシネマティックスが多いし,「ハースストーン」では,カードごとにDLCのすべて愉快になるような描写を仕組んでいる。ゲーマーがクスっと笑ってもらえるような開発者の遊びは,ゲームのどこかに存在して然るべき。

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 今回の講義でアドハム氏は,「本当であれば,この12項目の1つ1つを何時間もかけて話したいところですが,もし現在,あなたが作っているゲームで何かが物足りないと感じているのなら,この原則を当てはめて作品について考え直してみてください」と語る。「そして,これらの12項目は,我々にとっても厳密には“原則”ではないのです。Blizzard Entertainment内でもプロジェクトごとに議論され,その時代やトレンドに合わせて変わっているのです」と話し,講演を締めくくっていた。

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