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古巣であるハンゲームを買収した後の次なる一手とは。ハンゲームの創業者,千 良鉉氏が語る
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印刷2019/11/26 12:00

インタビュー

古巣であるハンゲームを買収した後の次なる一手とは。ハンゲームの創業者,千 良鉉氏が語る

 年季の入ったPCゲーマーならもちろん,普段は主にスマートフォンや家庭用ゲーム機でゲームをプレイしている人でも,一度くらいは訪れたり,名前を聞いたことがあるであろう無料ゲームポータルサイト,ハンゲーム

 運営していたNHNハンゲームは,ココネ株式会社(以下ココネ)の子会社「cocone fukuoka」となり,2019年10月16日にはサービス名も「ハンゲーム」から「ハンゲ(hange)」へと改称されていることは,こちらの記事でもお伝えした通りだ。

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 ココネは,「ポケコロ」iPhone / Android),「ディズニー マイリトルドール」iPhone / Android),「猫のニャッホ」iPhone / Android)など,主に女性向けのコミュニケーションアプリを運営している会社である。そんなココネとハンゲは,かなり意外な組み合わせにも思えるだろうが,ココネの創業者であり取締役会長の千 良鉉(チョン・ヤンヒョン)氏は,日本でハンゲーム・ジャパンのビジネスを立ち上げた人物でもある。

 ココネによるcocone fukuoka買収から約3か月後となる11月に,千氏はメディア関係者を招いてのミーティングを行った。本稿では,このミーティングで見えてきた千氏の考え方についてまとめてみたい。

千 良鉉(チョン・ヤンヒョン)氏
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 ところで,千氏とはどのような人物なのだろうか。氏は韓国で生まれ,1990年に来日。早稲田大学を経て慶應義塾大学院に進み,98年に修士号を取得する。その後母国に戻り,子供の頃からの友人である金 範洙(キム・ボムス)氏が創業したハンゲーム・コミュニケーションに入社。2000年に再来日し,ハンゲーム・ジャパンをゼロから立ち上げた。

 設立から2年でハンゲーム・ジャパンの経営を軌道に乗せ,ハンゲーム・ジャパンから社名を変更したNHNジャパンで引き続きCEO(最高経営責任者)を務めるかたわら,2006年には母国NHNコーポレーションのCGO(最高事業成長責任者……ならぬチーフゲームオフィサー)に就任。2007年にはNHNジャパンの会長となる。
 2008年には新たにココネ株式会社を立ち上げたのち,2009年にはNHNジャパン会長を辞任(ご本人曰く"卒業")している。

 以後ココネは,語学学習アプリや,前述した女性向けのコミュニケーションアプリなどを次々にリリースした。その間も同社は着実に成長を続け,オフィスも西五反田から渋谷,恵比寿,そして六本木へと移転している。

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 千氏はハンゲーム・ジャパンの立ち上げ時期のことを振り返り,「インフラが変わるタイミングで,お客様のサービスの使い方も変わります。その変化を見て動いていきました」と語った。

 当時の日本は,インターネットの利用方法の主流がダイヤルアップ(ネットを利用するたび,電話回線を使って接続する方式)から常時接続に変化し,通信速度も劇的に向上していったタイミングで,情報検索や掲示板,メール以外にも,常に接続しているからこその「新しい使い方」が広まっていった時期である。

 ただ,当時の千氏には,ハンゲーム・ジャパン成功への道筋ははっきり見えていたわけではないらしい。「当時から人気があったMMORPGとの最大の違いは,無料であることや,初めてすぐに楽しめる,おなじみのゲームであること。そこをきっかけに,まずは多くのお客様に集まっていただくことで,ビジネスが成り立つのではないかと考えていました。ただ,大まかな戦略はありましたが,やはりビジネスは生き物。結局はお客様の行動から学ばせてもらったところが大きいです」とのこと。

 たとえば,ハンゲーム・ジャパンの母体となった韓国のハンゲームでは,無料で遊べる花札のゲームが人気だったそうだ。しかし,それを文化の異なる日本にそのまま持ち込んでも通用しない。そこで日本のユーザーに合わせて麻雀,トランプ,パチンコなどの無料ゲームを用意し,集まってきたユーザーの動向をヒントに,ゲームごとの掲示板を設けたり,サークルを作る機能を強化するなど,コミュニケーション機能を強化していったという。

 その一環として,2001年ごろからアバターの服やアイテムを販売したところ,それがヒットし,ハンゲーム・ジャパンは念願の黒字化を達成する。この成功は,現在ごく一般的なものとなったF2P(基本プレイ無料)ビジネスモデルの源流のひとつ……と言ってしまうのは少々乱暴だが,少なくとも「同時多発的に生まれた,初期の成功例のひとつ」くらいには言えるかもしれない。

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 それではこの2019年という時代に,千氏とハンゲはどのような「次の一手」を打っていくのだろうか。各メディアの発言はそれぞれ異なれど,興味はそこに集中していく。

 「10年ぶりに僕が見たハンゲは,僕がいたころの考え方を忠実に守ってくれていました。ですが,ポータルサイトはすでに時代に合わなくなっています。また,どんなに時代が変わっても,遊びの中心は人間の本質的な欲求・コミュニケーションだと思っているんです。そこを見ていかないと何も始まりません」

 氏が語るとおり,オンラインゲームを遊ぶときにPCを使うことが主流だった時代には,ポータルサイトを入口にさまざまなゲームを遊んだり,ほかのユーザーとコミュニケーションを取ったりできる利便性があった。だが,時代が変わり,遊びの“一般的な環境”がスマートフォンに変わった現在はどうだろうか。

 スマートフォンには,OSとほとんど統合されたApple StoreやGoogle Playがあるため,ポータルサイトを介する必然性はなくなり,ユーザー同士の交流もFacebookやTwitterなどで行うほうが,より広い範囲の人々と,それこそゲームやサービスの壁をまたいで交流できる。
 ユーザーはポータルに「出向いて遊ぶ」のではなく,気に入ったアプリをインストールし,各々のスマートフォンの中に自分だけの世界を「構築して遊ぶ」ようになった。それこそ,部屋にお気に入りの家具を置くような感覚で。

 「そして,私はアプリの時代もそろそろ終わりを迎えると見ています。時代が移り変わるとき,それまでの強者がそのまま変化して生き残った例は少なく,新たな勢力が次の覇者になるのです。」

 盛者必衰。映画からテレビ,アーケードゲームから家庭用ゲーム,携帯電話からスマートフォンと,時代やインフラの変化によって,エンターテイメントを楽しむ場の主流も変化していく。
 それこそ,日本のゲームの黎明期から人気ゲーム機を送り出し続けているイメージのある任天堂でさえ,インフラや時代の変化によって何度か覇者の座を退いたのち,次のフェイズであらためて“新勢力”として復活することで,長年に渡って存在感を保ち続けている……という見方もできるだろう。

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 千氏は子会社化したcocone fukuokaの社員達に「この箱を出よう」と話したという。ハンゲのサービスの維持ももちろん重要なことだと考える氏だが,時代の変化や,ライフステージの変化によって,ユーザーの求めるサービスは変わっていく。

 「人の本性,時代の変化,そして自分たちのできること。私達はその3つが重なる接点を探していきます。」

 それこそが,ハンゲが次の時代に適応するためのカギだと氏は語った。

 ハンゲ,そしてココネの次の一手を探ろうとするメディア側の質問に対し,このような発言を返していた千氏。案外,氏は何かを隠しているわけではなく,「次の一手」を見出す取り組みの一環として,メディア関係者と言葉を交わす機会を得たかったのかもしれない。

 おりしも,ソフトバンク傘下のZホールディングスと,LINE株式会社(ご存知のとおり,NHNジャパンがゲーム事業を分社化したあとの社名がLINE株式会社である)の経営統合が正式発表されるなど,通信環境の主流がより低遅延,高速な5G(第5世代移動通信システム)に移行していくタイミングを見越して,業界の新たな動きが見えはじめた昨今。5Gの普及後は,ユーザーのネットワークへの接し方は現在のものとは様変わりしていることは確実だろう。

 あるいは,現在は予想すら困難なファクターが,今の環境を一変させてしまうのかもしれない。それこそ20年ほど前に,日本でもF2Pのビジネスモデルがこれほどまでに広まることを予想できていた人がどれほどいるだろうか。

 話をゲームだけに限定するにしても,ダイアルアップから常時接続(MMORPGの勃興),有線接続からWi-Fi(携帯ゲーム機での協力プレイの隆盛),3Gから4G(スマートフォン向けゲームの本格的普及)と,通信環境が大きく変わっていく時期には,ゲームの新しい楽しみ方が一般にも広がり,ヒット作が生まれてきた。「シューターや格闘ゲームは有線接続でよろしく」というゲーマーの切実な思いは個人的にはまったく同感だが,そんな常識すらも変わっていくのかもしれない。

 ゆえに,5Gが普及していくタイミングでもまた,今は芽吹いたばかりの「新しい何か」が広く普及していくことはまず確実だろう。ハンゲームの創業者である千氏が再度ハンゲに関わることで,ハンゲやココネが次の時代でどのような存在感を放つ企業になるのか,今から楽しみだ。

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