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Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC
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印刷2020/03/16 00:00

業界動向

Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC

 2020年3月16日〜20日に開催される予定だったゲーム開発者会議Game Developers Conferenceが延期されたことは,すでに多くの読者が知っているはずだが,その代替となるストリーミング配信がTwitch上で行われることが発表されている。今回は,前回に引き続いてGDC 2020の近況をお伝えしつつ,「Game Developers Choice Awards」「Independent Game Festival」に関する最新トピックを紹介をしてみたい。


GDCに続きE3まで中止になる非常事態


 例年なら,「世界最大にして最古のゲーム開発者会議,Game Developers Conference(以下,GDC)がサンフランシスコで開幕」などという出だしで連載を書き始める週なのだが,今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,GDC史上初の開催延期が決定してしまった。「夏に延期」とされてはいるものの,アメリカでの感染者数は増え続け,各都市が非常事態を宣言するという状況に陥っており,GDC 2020は実質的に中止と見てしまってもいいだろう。
 MicrosoftのCEOだったビル・ゲイツ氏が登壇して初代Xboxの発表を行ったGDC 2000の前から参加している筆者にとっても,GDCの開催延期など初のことであり,非常に残念だ。

画像集#002のサムネイル/Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC

「Game Developers Conference 2020」公式サイト


 先週の本連載「新型コロナウイルスが与えるゲームイベントへの影響」でも可能性に言及していたE3 2020だが,こちらも北米時間の3月11日に開催中止が正式発表されている(関連記事)。PlayStation 5Xbox Series Xという次世代コンシューマ機が市場に投入される2020年にも関わらず,前代未聞の出来事が立て続けに起き,欧米ゲーム業界は大幅な軌道修正を迫られることになった。

 GDCだけでなく,毎年春先は小規模なメディア向けイベントが重なる時期でもある。筆者にもいくつか参加の打診が来ていたのだが,その後に中止や無期延期になったり,場所や日時,規模などを変更する連絡が来たり,プライベートなストリーミング配信に切り替えたりなど,各メーカーとも,変化する現状にどう対処していいか分からず,混乱している印象を受ける。

 それは,GDGを運営するInformaTech(旧UBM Game Network)も同じで,いったんは延期を明らかにしたものの,その後,一部のセッションやセレモニーを北米時間の3月16日からの5日間にわたって,Twitchの公式チャンネルで無料配信すると発表している。


ゲーム業界に大きな足跡を残した女性ゲーム開発者


 GDCに合わせて開催される第20回「Game Developers Choice Awards」がデジタル配信されることは,延期と同時に発表されていたが,今回,特筆すべきなのが,ゲーム業界の発展に尽くした人物に贈られる「パイオニアアワード」(Pioneer Award)を受賞した女性ゲーム開発者,ロバータ・ウィリアムス(Roberta Williams)氏だ。
 まだ「ゲーム産業」と呼べるものも存在していなかった1979年,IBMのエンジニアだった夫のケン・ウィリアムス(Ken Williams)氏と共にOn-Line Systems(Sierra On-Lineを経て,現在はActivison傘下のSierra Entertainment)を立ち上げ,ストーリーやゲームデザインの制作に携わったという経歴の持ち主である。

ゲーム史に名を刻むアドベンチャー「King’s Quest」のストーリーを書いたロバータ・ウィリアムス氏。今は女性開発者も当たり前になっているが,その先駆者と呼べる人物だ
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC
 2人が最初に生み出した「Mystery House」(1980年)は,それまでテキスト(または,文字による擬似グラフィックス)のみで表現されていたアドベンチャージャンルで,グラフィックスとテキストを同時に表示した初のゲームだった。「Mystery House」以降の作品は「ハイレゾ・アドベンチャーシリーズ」が謳われて,大きな人気を獲得した。

 ウィリアム夫妻の代表作となるのが,1984年に第1作が発売された「King’s Quest」シリーズだろう。固定された背景画像の前でキャラクターがアニメーションで移動するという,現在まで続くスタイルを確立しただけでなく,マウスによるポイント&クリックシステムを初めて採用するなど,ゲーム史におけるマイルストーン的作品の1つにもなった。

 ロバータ・ウィリアムス氏は,550ページにもおよぶ脚本を1人で書いたという「Phantasmagoria」を1995年にリリースしてヒットさせているが,2008年2月1日に掲載した本連載の第159回「業界の巨人となったVivendiの歴史」でも紹介したとおり,Sierra On-Lineは財政の悪化から大手企業の傘下に入り,ロバータ・ウィリアムス氏はそれ以降,20年以上ゲーム業界から遠ざかっている。
 ベテランゲーマーならおそらく知らない人はいない有名人であり,ゲーム業界の先駆者でもあったが,今回の受賞で,ようやく彼女の功績が若い世代にも伝わるはずだ。授賞式の配信の際は,ぜひ彼女にも注目してほしい。

2019年のGame of the Yearに選ばれたのは,PlayStation 4用ソフト「God of War」(邦題:ゴッド・オブ・ウォー)だった
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC

「Game Developers Choice Awards」公式サイト



Independent Games Festivalの気になるノミネート作品は?


 Game Developers Choice Awardsの直前に開催されるIndependent Games Festivalは今年で22回めと,Game Developers Choice Awardsより2年ほど歴史が長い。今年は,550を超すエントリー作品が,300人以上のゲーム業界関係者によって審査されたという。最多となる4部門にノミネートされたのが,コペンハーゲンに本拠を置くデベロッパDie Gute Fabrikの,「Mutazione」関連記事)だ。
 100年以上前に落下した隕石にからむ超自然現象が描かれるアドベンチャーで,温かい雰囲気のグラフィックスと独特の世界観,波瀾万丈のストーリーが特徴となる。Steamの公式ストアページによれば日本語にも対応しているようなので,興味があればプレイしてほしい。


 「Mutazione」に加えて,大賞に相当する「Seumas McNally Grand Prize」にノミネートされた作品を以下に紹介しよう。

Die Gute Fabrikの「Mutazione」は,公式サイトから対応各機種の販売ページなどに移動できる
画像集#005のサムネイル/Access Accepted第639回:デジタルイベントに変貌した2020年のGDC

「Independent Game Festival」公式サイト



■Untitled Goose Game
開発元:House House
公式URLhttps://goose.game/



 日本では,すでに「Untitled Goose Game 〜いたずらガチョウがやって来た!〜」PC / PS4 / Xbox One / Switch)というタイトルでリリースされており,おそらく最も知名度の高いインディーズゲームの1本だろう。人間の持ち物を奪って逃げたり,突然大声で鳴いて誰かを驚かしたりなどのイタズラを繰り返しながら,村を大混乱に陥れるといったミッションをこなしていく。パズル要素も豊富で,キュートなゲームだ(関連記事)。


■A Short Hike
開発元:Adam Robinson-Yu
公式URLhttp://ashorthike.com/



 「A Short Hike」は,クレアという名前の鳥の主人公が,森や渓谷を歩いたり飛んだりしながら,だんだんに高くなるマップを進んでいくという,可愛らしいアートが魅力のウォーキングシミュレータだ。道々で,宝物を見つけたり,ワニやカエルといったほかハイカーと出会ったりするという,ゆるい感じのプレイが高評価を得ている(関連記事)。


■Eliza
開発元:Zachtronics
公式URLhttp://www.zachtronics.com/eliza/



 数々のユニークな作品を作ってきたZachtronicsの新作ビジュアルノベルが「Eliza」だ。Elizaとは,悩みのある人々の心理カウンセリングを行うために試作された人工知能の名称で,Elizaのカウンセリング結果をリアルタイムでチェックしていく女性Evelynが主人公を務める。
 やがてEvelynは,Elizaをカウンセリングに使うシアトルに住む人々の生の声を聞くことで,自分の過去に向き合うことになるという,ミステリアスな作品だ。


■Slay the Spire
開発元:Mega Crit Games
公式URLhttps://www.megacrit.com/



 「Slay the Spire」PC / PS4 / Switch)は,カードゲームのデッキビルド要素と,ダイナミックなローグライクアドベンチャーをミックスしたゲームで,カードを集めて自分のお気に入りキャラクターに合ったデッキを構成し,モンスター達の巣食う塔「スパイア」の最上階を目指す。ほど良い難度とデッキの構成を考える楽しさ,さらにマウスだけでプレイできる手軽さが高い評価につながっている(関連記事)。


■Anodyne 2: Return to Dust
開発元:Analgesic Productions
公式URLhttps://www.analgesic.productions/



 「ナノダスト」と呼ばれる病原菌のために人々の感情がゆがめられてしまうという異変に悩まされた島New Thelandを舞台に,ナノダストを除去する能力を持つ主人公Novaの活躍を描くプラットフォームアクションが「Anodyne 2: Return to Dust」。「ゼルダの伝説」シリーズにインスパイアされた作品とのことで,クラシカルな2D画面と3D画面の混在が特徴となるようだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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