
業界動向
Access Accepted第690回:インディーズゲーム開発者がため込むPlayStationプラットフォームへの不満
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誰もがプレイしたくなるファーストパーティ製のAAAタイトルをいくつも抱えるPlayStationプラットフォーム。しかし,インディーズゲームの開発者たちからは,SNSを通し不満の声が数多く上がってきている。PS4の時代には多くのインディーズタイトルを掘り出し,成功に導いたPlayStationで今何が起こっているのか。開発者たちの声からPlayStationの現状を探ってみよう。
開発者が苦悶する“プラットフォームX”の現状
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ガーナー氏は,「渡ることが許されない橋など燃やしてしまいたい」と切り出して,インディーズのパブリッシャ及びデベロッパにとっての“プラットフォームX”の現状を語り始めた。
“プラットフォームX”と仮称されてはいるものの,「凄く成功していて,Game Passのサービスを運営していない」という表現で残りは実質2択。まぁ,この記事を読んでいる方なら,タイトルですでに,これがソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation」プラットフォームを指していることはわかっているはずだが,かつては「No Man’s Sky」のような名作インディーズタイトルを発掘し,「ロケットリーグ」や「Fall Guys」などの作品を成功させてきたPlayStationプラットフォームに,今何が起きているのだろう?
このツイートでガーナー氏が問題にしているのは,PlayStationプラットフォームにおいて,「開発者自身がタイミングを選んでプロモーションを行えるマネージメント手段が欠落している」ことだ。同様にアカウントマネージャー※を利用するための条件やローンチのタイミングでのプロモーションに対する判断など,SteamやMicrosoft Store,Nintendo eショップなどではデベロッパ側が簡単にできることの多くが,PlayStationプラットフォームでは制限されている。
※たとえば「PlayStation.Blogに記事を掲載してもらう」といった,プラットフォーム的なサービスを受けるためにこれが必要となる
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言われてみれば確かに,SteamやMicrosoft Storeで同じタイトルが一斉にディスカウント価格でセールされているのに,PS Storeだけは標準価格で変わりないという状況を見ることは何度もあった。
ガーナー氏は「セールは招待制になっていて,特定のソフトが選ばれているにすぎない」と書き込んでいる。ゲーム作品をディスカウント販売するかどうかの権限を,そのIPを所有する側が持っていないことには少し驚かされる。
DRMフリーのPCゲーム販売サイトよりも収益が少ない
ガーナー氏のこのツイートには,「カリコ」や「Lake」などを販売するWhitethorn GamesのCEO,マシュー・ホワイト氏も反応(関連リンク)しており,「私自身もPlatform Xの元社員なのですが,Platform Xでは針を動かすことすらできません」と(皮肉まじりに)述べ,「DRMフリーのPCゲーム販売サイトよりも収益が出ておらず,先月に至ってはGoogleの広告収益のほうが多かった」と,これが多くのインディー開発者が共有する問題であることを示唆している。
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またホワイト氏は「全くの仮説で現実ではない 収入の内訳」と題した円グラフを投稿し,あくまで仮説として,とある収入の内訳を「熟練の軍曹」「レンチを持たない配管工」「Nolan North」「Gabe」の4者(というか4社)で示している。さっぱりとした説明がしづらくて恐縮だが,たとえば「アンチャーテッド」シリーズなどで知られる声優の名前と同じ「Nolan North」におけるこの仮説上の比率は,全体の3%にも満たないものに過ぎないという。現実に話を戻すが,2021年現在のインディーズ開発者にとって,今やPlayStationプラットフォームは「利の薄いプラットフォーム」と考えられているという事態は,こういった皮肉めいた投稿からも十分にうかがえるはずだ。
今やと書いたが,3年ほど前の時点でPlayStationプラットフォームは,開発者にとって相応に魅力的だった。
2018年に公開された「ショベルナイト」の収入内訳チャートでは,Nintendoプラットフォームでの時限独占であったにもかかわらず,1年遅れのPlayStationプラットフォームでも9.1%のシェアを持っていた。つまり,この頃はそれなりの収益を見込めていたことになる。
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もちろん,先のWhitethorn Gamesのチャートは特定のタイトルなのか,同社の全タイトルを含めているのかさえわからないおおざっぱなものであるし,収益と販売本数では直接的な比較対象にはならない。しかし,ガーナー氏が「他のプラットフォームでディスカウントセールが行われていることに怒るPlayStationユーザーは,その不満を向こう(SIE)にぶつけてほしい」と話すように,インディー開発者にとって2021年現在でのPlayStationは「利の薄いプラットフォーム」と考えられ始めていることはうかがえるはずだ。
クオリティと数の間で揺れ動く企業の対応
なぜこんなことになっているのか。これまでのPlayStationプラットフォームと他社のプラットフォームの動向を振り返りながら考えてみよう。
ご存じのとおり,ブロードバンド化の流れによってゲーム市場でインディーズタイトルが活性化したが,この立役者となったのがSteamだった。マイクロソフトがこの流れを受け,「Xbox Live インディー ゲーム」を立ち上げたのが2008年。今回のテーマと直接関係はないが,クラウドファンディングや,開発環境のハードルなどが下がったことも後押しして,インディー系開発者の存在は日ごとに大きくなり,2011年「マインクラフト」の登場によって,インディーズタイトルはゲーム産業で無視することのできない大きな存在感を発揮するに至る。
PlayStationプラットフォームがこの波に乗ったことを大きく知らしめたのが,2013年2月に行われた「PlayStation Meeting 2013」だった。PlayStation 4をお披露目した際,著名な個人ゲーム制作者だったジョナサン・ブロウ氏が登壇し,「The Witness」のPlayStation独占リリースをアナウンスしたことで,多くのゲーム業界関係者を驚かせたのだ。
実際,この年に行われたGDC 2013では,盛んにインディー系のデベロッパにアプローチするSIEの姿が見られ,開発者たちもそうしたラブコールに目を輝かせていた。任天堂も2015年ころを境にインディーズタイトルに対する舵取りを切り替え,2017年にはSwitchが登場した(「第557回:Nintendo Switchの成功と ニンディーズ」)。
どれだけのインディーズタイトルをフィーチャーしているのかが,プラットフォーム成功の1つのバロメーターのように感じられるようになり,インディーズタイトルは存在感だけでなく,実数を増していく。
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4GamerのE3 2018取材記事で吉田修平氏は,「すべてのタイトルへ事前にこちらからアプローチすることはできなくなってきて」いると語っているが,すでにこの時期にはSIEからインディーズ系へのアプローチは限定的になってきていた。
同時にこの時期のSIEは「DEATH STRANDING」「Ghost of Tsushima」「Marvel’s Spider-Man」,そして「The Last of Us Part II」といった超大型のファーストパーティタイトルや独占タイトルを抱えており,プラットフォームホルダーとしてはすでにシフトチェンジの段階にあったと見るべきだろう。つまり,3年前にはすでに今日と同等の問題は萌芽しつつあったのだ。
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マイクロソフトはXbox Oneリリース時に,「超大型タイトル」をラインナップする路線へと切り替えた。SIEはインディーズゲームを盛んに取り込み,これがPS4の躍進に大きく貢献した。ファーストパーティタイトルや独占タイトルがプラットフォームの価値や利益を大きく底上げする方に舵を切ることは,おかしな言い方かもしれないが,時期がずれているだけで同じような話ではある。
ではなぜPlayStationプラットフォームがこれだけ責められるのかは,いまさらだが本稿のアタマで紹介したガーナー氏の批判につきる。「開発者自身がタイミングを選んでプロモーションを行えるマネージメント手段が欠落している」ことにこそあるのだ。
一定の上限を超えると対応が疎かになることを前提に,各社は開発者個々人に自社作品の決済上の判断やプロモーションを行うシステムを,プラットフォームを通じて提供している。これはある種の突き放しでもあるが,負荷の分散には大きく影響する。一方で,もともと企業側から専任の担当を向かわせてアプローチすることで,中身の濃いインディーズ作品を選び,取り込んできたSIEは,そこの部分を現在,システムが担えてはいない。自社で手厚くという形が上限を超え,対応できなくなったからと突き放した状況で,相手には何かをする権限がないという状況だ。そう考えるとこれはかなりアナログな問題でもあり,単純なバグなどよりよほど根深くなり得る種類の問題と言っていい。
SIEは開発者たちの声に対し,何らかの答えを出す必要に迫られている。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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