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Access Accepted第840回:チャーリー・カーク氏銃撃事件で露わになるネットカルチャーの過激化
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印刷2025/09/22 12:00

業界動向

Access Accepted第840回:チャーリー・カーク氏銃撃事件で露わになるネットカルチャーの過激化

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 第2次トランプ政権の躍動に大きな影響力を持っていたとされる,保守系活動家で弁論家だったチャーリー・カーク氏が,大学構内で射殺された事件は,アメリカ社会で大きな議論を巻き起こしている。現地時間の2025年9月12日に逮捕されたタイラー・ロビンソン容疑者がゲーマーであったことも明らかにされているが,RedditやDiscordといったSNSを使ったネットカルチャーの過激化にも話題が広がっているようだ。


弁論家の暗殺事件で揺れ動くアメリカ社会


 9月10日,アメリカの保守系活動家だったチャーリー・カーク(Charlie Kirk)氏が銃撃によって,ユタ州にあるユタバレー大学での活動中に死亡した事件が,アメリカを震撼させている。毎年,1万数千件におよぶ銃器による殺人事件が発生するという銃社会のアメリカだが,第2次トランプ政権の躍動に大きな影響力を誇ったという31歳の弁論家であるカーク氏が,リベラル性向の強い22歳の学生に命を奪われたことで,アメリカ社会の根源である言論の自由だけでなく,銃規制やLGBTQ問題,さらにはゲームやソーシャルネットワークサービス(SNS)に絡むネットカルチャーにまで話題が広がっているのだ。

9月10日に銃撃により逝去したチャーリー・カーク氏(画像はTPUSA公式サイトより)
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 カーク氏は,まだ大学1年生だった18歳のときに非営利団体となるTPUSA(Turning Point USA)を設立し,制限のある小さな政府,市場の自由競争や言論の自由,そして彼の信仰するキリスト教の教義を若者に啓蒙するための活動を繰り広げてきた。その主戦場が,リベラル派の多い大学であり,拍手とブーイングが入り乱れる中で自分のスピーチをしてから視聴者の質問を受け付け,異を唱える人たちの主張をことごとく論破していくというスタイルが話題となり,この日も3000人の聴衆を集めていた。

 一方のロビンソン容疑者は,ゲーマーであったことが伝えられており,Steamでは「craftin」というハンドル名でプレイし,特にお気に入りだった「Sea of Thieves」は2400時間を超えてプレイを続けていたとのことだ。
 犯行に使われたとされる,現場に残された弾丸の1つ1つにはさまざまなメッセージが刻印されており,その中には「ファークライ 6」でも利用されていた反ファシズムの讃美歌である「ベラ・チャオ,ベラチャオ」や,「HELLDIVERS 2」の爆弾投下コマンドである「↑→↓↓↓」が含まれていたという。

逮捕前にFBIがリリースしていたタイラー・ロビンソン容疑者のイメージ。その日の彼の行動については,同居していたルームメイトはまったく認識していなかったことが,SNS上のやり取りから明らかになった。これにより,その動機や犯行計画の解明の場は,Discordなどのオンラインコミュニティへと移ったようだ
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 暴力事件の際にゲームが批判されるのは毎度のことであり,13人もの命が奪われた1999年のコロンバイン高校銃乱射事件以降,何度もゲームの暴力表現がアメリカの議会で取り上げられてきたことは,当連載の「第568回:政治的に利用される欧米ゲーム業界」などでも取り上げたことがある。
 今回のカーク氏銃撃事件の場合は,容疑者がゲーマーだったことよりも,彼のようなデジタル世代(物心がついたときからPCやスマートフォンなどのデジタル機器が一般化していた世代)が日常的に利用するSNSが,その批判の大きな対象になりつつあるようだ。


過激化するネットカルチャーが1つの論点に


 ロビンソン容疑者の出頭後,その高校時代のクラスメイトを名乗る人物が,ソーシャルメディアに「仲が良かったわけじゃないけど,彼は“Reddit Kid”って呼ばれていたよ」とコメントする映像を投稿した。さらに,この投稿者は「オンライン上で時間を費やし過ぎるとこうなっちゃうよな。自分の信じることが,右か左に振り切れちゃうんだ」と続けている。

 実際,デジタル世代に限らず,ネットユーザーの多くに「誰よりも注目されるようなコメントを残さなければ」という強迫観念めいた思い込みからか,一般的に受け入れられないような自分の思いを書き込んで炎上してしまったり,他人を傷付けるような言葉をまくしたてたりするような人を,フォーラムやチャットで頻繁に見かける。

 今回のカーク氏銃撃事件については,「Ghost of Yōtei」の開発元であるSucker Punch Productionsに所属していたベテランアーティストのドリュー・ハリソン(Drew Harrison)氏が,ロビンソン容疑者の逮捕以前に「犯人の名前がマリオだったら,ルイージは兄弟が見守ってくれているって気づくだろうに」とコメントしたことで炎上し,その翌日には解雇された。
 ルイージとは,「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクターと,今年5月に保険会社のCEOをニューヨークで銃殺した,ルイージ・マンジオーニ(Luigi Mangione)容疑者を掛けたものだが,人命が失われているにも関わらず,ブラックジョークにしたことを大きく批判される形となったのだ。
 同様に,Activision Blizzard,Bethesda Softworks,Square-Enix,Game Workshopsなどでも,今回の事件に絡んで死者を冒涜するようなコメントをする従業員が続発するなど,SNS界隈は大きく荒れている。

SNS上での従業員の軽はずみなコメントで不買運動にまで発展してしまっている「Ghost of Yōtei」。10月2日の正式ローンチの直前だけに大きな痛手だが,多くのゲーマーは「エンターテイメントに自分の政治思想を持ち込む」という欧米のゲーム開発者のスタンスには疲れてしまっているのかもしれない
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 Steamのハンドル名と同じ名前でRedditやDiscordに投稿していたロビンソン容疑者の形跡はすでに消されているものの,大学へと進学してからのロビンソン容疑者は非常に過激なコメントをSNSに残すようになっていたという。彼が参加するDiscordでは「どうやってカーク氏を消すか」ということを面白おかしく語り合うような数十人規模のグループも存在していたとされ,FBI当局が捜査している。
 これを受けて,米国下院に属する監視・政府改革委員会の会長であるジェームス・コマ―(James Comer)議員が,RedditとDiscordに加え,SteamやTwitchのリーダーを招集していることを明らかにしており,「過激化するSNS上でのコメント」や「インターネットの暗い隅」(dark corners of the internet)についてのヒアリングを行う予定であるとのことだ。

 こうしたことに素早く対応するのはアメリカ政府の良いところでもあり,「ネット・ハラスメント」と言われる過激なコメントがSNS上に溢れている現状は,政府と企業の協力により是正されていくことになるのかもしれない。それが,「どんな立場であっても討論で解決する」と語っていたというカーク氏が求めるところかどうかは疑問ではあるものの,その結末はゲーマーコミュニティにも少なくない影響を与えていくだろう。成り行きを見守りたいところだ。

Sucker Punch Productionsの親会社であるSony Interactive Entertainmentはもとより,リベラル的な政治性向が強い北米ゲーム開発者の不謹慎なコメントがSNSに溢れたことで,各企業が火消しに追われる格好になっている
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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