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[CEDEC 2012]開発経験なしのディレクターが20万本超のヒットを生んだ。「TOKYO JUNGLE」のスタッフが開発の裏側を語ったセッションをレポート
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印刷2012/08/21 00:00

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[CEDEC 2012]開発経験なしのディレクターが20万本超のヒットを生んだ。「TOKYO JUNGLE」のスタッフが開発の裏側を語ったセッションをレポート

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2012]開発経験なしのディレクターが20万本超のヒットを生んだ。「TOKYO JUNGLE」のスタッフが開発の裏側を語ったセッションをレポート
 人間がいなくなった近未来の東京で,動物たちが弱肉強食の争いを繰り広げるという世界観が話題になり,20万本を超えるヒットとなったPlayStation 3用ソフト「TOKYO JUNGLE」。同作における開発の裏側を紹介する興味深いセッションがCEDEC 2012で開かれたので,その模様をお届けしよう。

 このセッションは「TOKYO JUNGLE 〜経験ゼロの若者による企画立案から発売までのサバイバル術〜」と題されたもので,TOKYO JUNGLEのプロデューサーであるソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)の山際眞晃氏と,ディレクターを担当したクリスピーズの片岡陽平氏が登壇した。

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山際眞晃氏
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片岡陽平氏

 セッションタイトルにある「経験ゼロの若者」というのは,片岡氏のこと。SCEが開催するクリエイターオーディション「PlayStation C.A.M.P!」からゲーム業界に入った片岡氏が,TOKYO JUNGLE以前に関わったタイトルは,PSP用の女性向けファッションコーディネートツール「MyStylist」のみで,本格的なゲームの開発経験はなかったとのことだ。

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 では,どうやって経験ゼロから20万本超のヒットを生み出したのか。片岡氏は,企画の立て方を明かすところからセッションをスタートさせた。
 片岡氏をはじめとしたPlayStation C.A.M.P!出身のクリエイターには,これまでにない斬新なゲームの企画が求められるのだが,たいていの場合,斬新さを追求したゲームは,分かりづらく,売れないものになってしまうという。片岡氏はこれを「PlayStation C.A.M.P!のジレンマ」と呼び,自身もこのジレンマに悩まされたと語った。

 そのジレンマから抜け出すきっかけになったのは,シンガーソングライターの井上陽水さんが自身の作詞法を紹介する新聞記事だったという。陽水さんが作る歌のタイトルや歌詞のユニークさは有名だが,実はありきたりな言葉の組み合わせからできている(例えば「長い」と「猫」の組み合わせで「長い猫」),ということを知り,これをゲームにも応用できないかと思ったそうだ。

 そこで片岡氏は,誰もが好きな「動物」と,SFなどでおなじみの「荒廃した世界」という,それぞれでは普遍的なテーマを組み合わせ,新たなゲームを作ることを思いつく。これがTOKYO JUNGLEの原案となったわけだ。

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 ゲームのテーマが決まると,企画の作業はどのハードウェアでリリースするかや,どんなゲーム性にするか,という段階に移る。TOKYO JUNGLEの企画立ち上げ時期は,携帯機タイトルがPSPからPlayStation Vitaへ移行するという難しい時期に当たったため,そちらは避けることとなり,必然的にPlayStation 3用タイトルとしての開発が決まった。だが,ここで片岡氏は「アーケードライクなゲーム性」「1日30分で楽しめる」という,およそ据え置き機らしからぬ方針を打ち出した。
 これには,以前から片岡氏自身が据え置き機タイトルに「操作やゲーム性が複雑」「マンネリ」といった不満を持っていたことに加え,「ほかのタイトルと同じ土俵に立たず,未開拓の市場を獲得する」という狙いがあったとのことだ。TOKYO JUNGLEは「据え置き機でプレイするのに飽きたけど,携帯機では物足りない」という層をターゲットにしたという。

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 この「同じ土俵に立たない」という方針は,SCE社内で行われるプレゼンテーションにも生かされた。このプレゼンテーションは役員クラスの社員も出席する中で行われ,開発予算の獲得に関わるという重要なものだ。
 以前は,重苦しい雰囲気の中,粛々とスライドを見せていく,というスタイルがほとんどだったとのことだが,片岡氏はSCEの社内事情をよく知らなかったという。
 「映像でタイトルの魅力をそのまま伝えたい」「見ている人に楽しんでもらいたい」と思った氏は,プロモーションビデオを流し,そこに「サバイバル教官」役の開発スタッフが生でナレーションをかぶせる,という,演劇調のプレゼンテーションを行った。
 この型破りなプレゼンテーションはSCE社内で話題となり,タイトルの認知度も上がって,サポートが増えたとのことだ。片岡氏はこのプレゼンテーションを通して,仕事とは人と人とのつながりで成り立つもので,作り手を好きになってもらうことが大事だと実感したという。

セッションでは演劇調プレゼンが実際に再現された。サバイバル教官役を務めたのはクリスピーズの吉永哲也氏
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 続いて片岡氏は「開発経験がないことが,ユーザー目線でのゲーム作りにつながった」と,開発中のエピソードを披露した。TOKYO JUNGLEのプレイヤーキャラクターは50体にもなるが,1体1体大きさや動きが違う動物たちに合わせたステージを作るのはかなり非効率的で,開発経験者では導入に踏み切れなかっただろうとのことだ。

 もちろん,開発経験のなさがすべてプラスになったわけではない。当初2Dとして開発されていたTOKYO JUNGLEだったが,「もう少しゲーム性を深くしたい」という意見が相次ぎ,途中で3Dに変更されるという大幅な変更が行われることとなった。片岡氏は,開発経験のなさが招いた事態だったと振り返っている。


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2Dから3Dへの変更によってスケジュールも延びたほか,機材も増加したため,オフィスの電気工事が必要になるなど,予定外のコストがかかったとのこと

 最後に片岡氏は「経験がないぶん,どうすれば伝わるかと,いかに人の興味をひくかを考えてやってきました」と語り,それがユーザーに届いてセールスにつながったと分析してセッションをまとめた。

 ゲーム開発者に向けたセッションという形をとってはいるものの,見方を変えれば,「古いやり方にとらわれず,自分たちで方法を模索して成功をつかみ取る」という,すべての若い人達に向けた内容だったと言えるだろう。

片岡氏達は,パッケージやプロモーションビデオ制作のほか,プレス向けに用意した「サバイバルキット」のデザインまで担当したとのこと。既存の枠組みにとらわれず,やりたいことはすべて自分達でやるという意気込みがうかがえた
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 セッション終了後,片岡氏に話を聞く機会を得たので,「TOKYO JUNGLEは開発経験のなさが成功につながりましたが,次回作からは期待も組織も大きくなるでしょうし,やりづらくなるのでは」と少々意地悪な質問をぶつけてみた。すると片岡氏は「クリスピーズの社員は今5人ですが,増やす予定はありません。会社を回すためだけに仕事を受けるようなことはしたくないので。これからも,自分達が作りたいと思うゲームを作ります」と答えてくれた。

 このコメントのブレのなさからすると,次回作でも,TOKYO JUNGLEのような,新しい魅力をもった作品が期待できそうだ。

「TOKYO JUNGLE」公式サイト

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