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デジタルハリウッドの公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」聴講レポート
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印刷2011/08/13 17:46

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デジタルハリウッドの公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」聴講レポート

画像集#002のサムネイル/デジタルハリウッドの公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」聴講レポート
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 2011年8月12日,デジタルハリウッド大学は,公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」を,東京都内の同大学秋葉原キャンパスにて開催した。
 この講座は,映画「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」(以下,鉄拳BV)が2011年9月3日から公開されることに先駆けて,監督を務めたデジタル・フロンティアの毛利陽一氏と,プロデューサーであるバンダイナムコゲームスの水島能成氏が,制作の舞台裏などを語るというもの。定員130名の会場には,デジタルハリウッドの学生をはじめ,将来,CGによる映像作品の制作やプロデュースを手がけたいという志望者が集まった。
 なお,会場では設定画や絵コンテ,モーションキャプチャー時の映像など貴重な資料も公開されたが,まだ鉄拳BVの公開前ということで撮影は禁じられていたので,残念ながら紹介できない。ご了承を。

「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」公式サイト


「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」プロデューサーのバンダイナムコゲームス 水島能成氏
画像集#005のサムネイル/デジタルハリウッドの公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」聴講レポート
 水島氏は,なぜ今,格闘ゲームの「鉄拳」を映画化しようとしたのかという問いかけに対し,そもそも1994年のシリーズ1作目から高クオリティのCGムービーを収録していたことを指摘する。さらに1997年の「鉄拳3」のリリース時には,当時のナムコ 代表取締役だった中村雅哉氏から直々に映画化を要請されたこともあったという。しかし,ゲームに使うムービーとは異なり,フルCGによる長編映画でドラマを作ることは技術的なハードルが高く,日本国内はもちろん韓国の映像プロダクションにまで打診したものの,実現には至らなかった。

 転機は「鉄拳5」および「鉄拳6 BLOODLINE REBELLION」にて訪れた。両タイトルで使うムービーの制作に毛利氏を起用したところ,極めてクオリティが高く,念願の映画化──つまりキャラクターを動かしてドラマを見せることも可能なのではないかと,水島氏は考えたという。もちろん,その映画の監督を務められるのは,シリーズの多彩なキャラクターそれぞれが持つ個性とアクション,そして複雑な世界観を理解している毛利氏しかいなかった。

「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」の監督を務めたデジタル・フロンティア 毛利陽一氏
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 水島氏と毛利氏は,映像制作を志望する聴講者に向けて,ゲームそのものと,ゲームで使うムービーや映画との違いに言及する。水島氏は,「ゲームはインタラクティブなものだが,ムービー/映画はリニアである」と端的に表現した。また,毛利氏は,「両者ではデータの持ち方と演出の意図がまったく異なる」と指摘。続けて,ゲームはハードウェアの描画能力に応じてデータの軽量化などを図る必要があるのに対し,映画/ムービーは「映像を鑑賞するもの」として制作していくと説明した。

 ここから話題は,鉄拳BVの制作の詳細に踏み込んでいく。鉄拳BVのシナリオを手がけた佐藤 大氏は,あまり説明を加えずに書き進めていくタイプとのことで,セリフや行間からさまざまなものを汲み取ってキャラクターの動きをイメージしていく必要があったと,毛利氏は述べた。
 なお,佐藤氏は,当初のスケジュールから大きく遅れてシナリオを仕上げたとのことで,水島氏は「ストーリーの骨格となるシナリオが遅れると,そのあとの全工程が遅れてしまう。非常にプロデューサー泣かせ」と苦笑する。その一方で,毛利氏は「シナリオですべてが決まるといっても過言ではないので,スケジュールが決まっているからといってスルッと流してしまうのもよくない」とも話していた。

公開講座のモデレーターを務めたデジタルハリウッド大学 准教授 高橋光輝氏
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 シナリオの流れを把握したら,次に絵コンテの作成に入る。鉄拳BVでは,岡村天斎氏や樋口真嗣氏といった名だたる映画監督に絵コンテを依頼したため,その前段階として,毛利氏による設定資料が作成された。これは“どんな場所”で“誰”が“どんなこと”をするかを指示するもので,広場や部屋などのレイアウトの上に,キャラクターの動線や立ち振る舞いなど芝居のシチュエーションが記されている。会場では,毛利氏がイラストを入れて細かく指示した設定資料が披露された。
 そうした絵コンテのカットは全体で1400にも及んでおり,絵コンテを切らないアクションシーンを除いても800〜900カットはあったという。水島氏によれば,全体を4つのパートに区切り,それぞれの絵コンテを岡村氏や樋口氏ら4人の監督に依頼したとのことだ。

 CG映画の大きな要となるモーションキャプチャーでは,まず舞台となる場所ごとに家具などのオブジェクトの配置を木枠を使って組み立てていく。これはアクションスペースを把握するために必要な過程で,ここをきちんとしておかないと,キャラクターがとんでもない位置で芝居をすることになってしまうのだ。
 また,モーションキャプチャーの演者は,各キャラクターのアクションができる人材をオーディションで選出したとのこと。演技をするうえで注意しなければならないのは,猫背だという。普段の生活ではあまり気にならない程度の猫背でも,モーションキャプチャー上でははっきり表示されるため,映像にするとダルッとした雰囲気になってしまうそうだ。
 さらに,モーションキャプチャーの撮影と並行して,上記の指示書に基づき,CGが作成されていく。会場で披露された指示書にはオブジェクトや間取りの寸法が逐一記されており,仕様書と呼んでもいいようなものとなっていた。

画像集#008のサムネイル/デジタルハリウッドの公開講座「監督とプロデューサーが語る,『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』ができるまで」聴講レポート
 カメラワークを決める過程では,まずラフなシューティングで大きな流れを作り,レイアウトを決め,その上でアニメーションを詰めながら細かい粗を取っていく。まずは首や顔の角度やポーズ,次に顔の表情,そして指などによる芝居と段階的に進めることとなる。この過程では身体と顔の芝居を同時に撮ることはできないため,演者は顔に40個のマーカーを付け,自分の身体の演技を見ながらあらためて表情を作っていくそうだ。
 ここからさらに,服や髪,アクセサリーなどの動きを一つ一つ作っていくとのことで,こうしたカメラワークの作業は全体の5割にも及ぶという。
 また,作業が段階的なため,やり直しや待機時間などの無駄を避けるため,カットごとの雰囲気やライティングの指示は可能な限り最初に決めて伝えておくとのことである。

 鉄拳BVのアクションシーンには,キャラクターごとのアクションを活かすべく,実際に映像を使ってコンテを切る「Vコン」の手法を採用している。Vコンでは,モーションキャプチャーの前にカメラワークを決めるとのことで,その作業は連日,朝の10時から深夜に及んでいたとのこと。こうした特殊な手法にこだわったのは,やはりアクションにこだわりたかったからと,水島氏は説明する。
 また,会場では,シャオユウとアリサのバトルシーンのVコンが披露されたが,衣装などのディテールはともかく,この時点ですでにアクションとそれを捉えるカメラワークがほとんど完成されていることが分かる内容になっていた。
 なお,Vコンでは毛利氏自身もカメラを回すが,一人では撮りきれないため,ほかにもカメラマンを立てざるをえない。そのため,カメラマンがきちんとイメージを抱けるよう,毛利氏が事前にカメラワークの流れを組み立て,指示書に細かく記載するそうだ。


 公開講座の終盤では,水島氏によって鉄拳BVのプロモーション展開が紹介された。水島氏は,ゲームの鉄拳シリーズが日本だけでなく世界をターゲットにした展開をしているため,鉄拳BVでも同じスキームを採用したと説明し,まず「どうやれば世界に売れるか」を考えたと述べた。その結果,情報の発信元を必ずしも日本に限定する必要はないということに思い至り,20115月にドバイで行われたバンダイナムコゲームスのプライベートイベント「Level Up Dubai 2011」にて,鉄拳BVを発表すると決めたという。その結果は非常に効果的で,鉄拳BVが映画であるという事前リークも発生することなく,大きな驚きをもたらすことができたと水島氏は話していた。

 そのあとも北米ではE3やコミコンに出展やプレミア上映会の開催,フランスではアヌシーアニメーション映画祭およびジャパンエキスポに出展と,海外でのプロモーションが展開されている。
 また,日本に向けては,鉄拳BVの前売り券にアーケード版「鉄拳 タッグトーナメント2」で使用できる限定称号獲得パスワードを付与したり,来たる8月22日には新宿バルト9にて完成披露試写会をしたりといった施策がなされている。


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 公開講座の最後には,毛利氏と水島氏から,CG映像制作志望者に向けて,メッセージが送られた。
 毛利氏は,技術も大事だが,心が強くないとやれない仕事と話す。そして,こういう作品を作りたいという思いや明確なイメージを抱き,それを実現するための努力を惜しまないことが重要であると述べた。また,ほかの人が作ったすごい作品を見ても負けたと思うのではなく,「いつか超えてやる」と考えるべきとも話していた。

 水島氏は,これまで日本は自動車や家電の分野で世界のトップに立っていたが,今後はコンテンツで勝負する時代になっていくと述べ,それができないようであれば日本の未来はないと続けた。そうした状況の中,プロデューサーの役割は,日本のクリエイターが作った作品をどうすれば世界に届けられるのかを考え,その舞台を作っていくことであると締めくくった。

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