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NVIDIAカスタム版ゲームエンジン「NvRTX」とは何か。この先10年のゲームグラフィックス技術に向けた布石が明らかに[GDC 2026]
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そこで同社がたどり着いた答えは,GeForce RTXの新機能を統合したNVIDIAによる改造版Unreal Engine「NvRTX」を提供するというものだ。
GDC 2026では,NvRTXの現状とロードマップを示したセッションが行われたので,レポートしたい。
●目次
NvRTXとは何か
NvRTXとは,NVIDIAが作ったMOD版Unreal Engineと理解していい。
NVIDIAの公式Webページにも,「NVIDIA RTX Branch of Unreal Engine」(NVIDIAのRTXシリーズに最適化したUnreal Engineのブランチ版)とあるとおりだ。
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なぜ,こんなことが可能なのかといえば,Epic GamesとNVIDIAが,長年密接に連携してきたからだ。
両社の技術提携によって誕生した成果物は,枚挙に暇がない。たとえば,ロボット搭載用のAI向け並列学習システム「NVIDIA Isaac」や,自動車用自動運転AI向け基本学習システム「NVIDIA Autonomous Vehicle Simulationのコア部分には,Unreal Engineの技術が活用されている。
ほかにいくつもの商用ゲームエンジンがある中で,NVIDIAがUnreal Engineの改造に乗り出すのは,両社の関係を踏まえれば,ごく自然な流れといえる。
NvRTXは,6年前の2020年頃から提供されている。当初はUE4.25をベースとした,かなり実験的なプロダクトという位置づけだった。
存在感が高まったのは,2022年に登場したUE5.0ベース以降だ。当時は主に,最新のGeForce RTXに向けたデモ開発用という印象が強かったが,2023年発売の「THE FINALS」,2024年の「黒神話:悟空」,2025年の「ARC Raiders」など,著名なゲームに採用されたことで,NvRTXの知名度は大きく向上した。
講演の冒頭でHart氏は,今後の機能強化の方向性と,NvRTXの進化の指針について説明し,2026年内の開発ロードマップを示した。
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GDC 2026の開幕に合わせて公開となったバージョンは,UE5.7.3ベースである。これを初夏にはUE5.8ベースへ移行。2026年末にはUE5.9ベースへ到達させるのが目標とのことだ。
NvRTXでゲームを作る場合,基本的には特定のバージョンで固定して開発を進める。そのためゲーム開発者にとって,どのUEバージョンをベースとしたNvRTXを使うのかを,見極めることは重要なのだ。
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毛髪への高品位なレイトレーシングを実現
ここからは,2026年における,NvRTXの機能強化ポイントをひとつずつ見ていく。なお,理解の前提となるレイトレーシングの基礎知識については,以下の記事を参照してほしい。
NvRTXにおける高品質な毛髪(ヘア)レンダリングは,3段階に分けて開発を進めたという。
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フェーズ1は「リニア・スウェプト・スフィア」(Linear Swept Spheres,LSS)プリミティブへの対応だ。
毛髪のように体積の小さい線分状の3Dオブジェクトは,レイトレーシング時にレイとの交差判定が不安定になりやすく,視点との位置関係によって,描画されたり,されなかったりすることでチラツキが発生しやすい。
そこで,Blackwell世代のGeForce RTX 50シリーズでは,連結されたカプセルのような形状の3Dオブジェクト「LSSプリミティブ」を,レイトレーシングに利用できるよう新たに導入した。
毛髪やヒモ,ロープなど細いが立体的な線状オブジェクトの表現に,LSSは適している。
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LSSは,衝突判定などの演算負荷が低いのも特徴だ。カプセル形状は,3D座標に加えて,球半径とカプセル長,という2つのパラメータだけで幾何計算や衝突判定を行えるためである。
この利点により,高次曲線を扱うカスタムシェーダによる毛髪表現よりも,格段に処理が速く,シンプルな連結ポリゴンで毛髪を表現する場合と比べても,次のグラフにあるとおり,演算負荷が低い。
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また,レイトレーシングには必要不可欠な3Dシーン構造体「BVH」(Bounding Volume Hierarchy)のうち,とくにBLAS(Bottom-Level Acceleration Structure)側の作成時間も,LSSだと圧倒的に短いとのこと。
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ポリゴンベースの毛髪は,細長い多数のポリゴンが多数重なって構成されるため,BVHでは,これらを収める直方体の境界ボックスが大量に重複して生成される。
一方のLSSでは,3D座標とカプセル形状の半径,長さのみで表現できるため,1本の毛髪を構成する各カプセルを最小限の直方体で効率よく包み込める。それにより,ツリー構築(BLASビルド)の計算負荷を劇的に下げられるのだ。
また,ポリゴンベースの毛髪は,BLASにおけるBVH構造の冗長性が高いので,メモリ消費量が多い。その点LSSは,プロシージャル手法に近い省メモリでBLASが構築できるのも大きな利点である。
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ちなみに,LSSプリミティブは,本家UE5にも採用されている。
なお,LSSについての技術的詳細は,過去のGeForce RTX 50シリーズ解説記事を参照してほしい。
西川善司の3DGE:GeForce RTX 50完全解説前編 Blackwell世代の構造とレイトレーシングにおける革新
Blackwell世代のGPU「GeForce RTX 50」シリーズは,製造プロセスこそ前世代と変わらないが,内部はゲームの性能にも関わるさまざまな改良が施されていた。NVIDIAが明らかにした詳細情報をもとに,前後編でGeForce RTX 50シリーズの全貌に迫ってみよう。
次のフェーズ2では,毛髪のパストレーシングに対応した。この機能を使えるのは,LSSに対応するGeForce RTX 50シリーズ以降に限られる。
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毛髪へのパストレーシングは,物理的に正確なライティングを可能にしながら,リアルタイム描画も実現するものだ。
パストレーシングで描画する毛髪表現では,自発光オブジェクトからの輝きや,間接光の影響が適切に統合され,毛髪同士の遮蔽関係も正確に再現できる。
さらに,ライティングを受けた毛髪は,顔面などに髪色の半透明セルフシャドウを落とす表現も可能だ。また,毛髪にはα(透明度)を設定できるので,透過光の割合も制御できる。
また鏡像表現では,鏡に映る毛髪を直視時とほぼ同等の品質でパストレーシングできるとのこと。もちろん,その分だけGPU負荷は高くなるが。
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上のスライド左側にあるレイトレーシングの鏡像例は,対比用とはいえ現在のゲームグラフィックス表現の平均からややかけ離れている。そこで補足しておきたい。
UE5では,鏡像内の毛髪もレイとの衝突を検出できるので,毛髪自体は描画できる。しかし,正しいライティングが反映できない仕様のため,形状は描けても陰影が欠落して,黒くなってしまう。だからレイトレーシングの鏡像では,髪が黒くなっているわけだ。
UE5に限らないが,このような状況では,近年のレイトレーシング対応ゲームグラフィックスでも,鏡像内の毛髪はポリゴンベースで簡易的に表現して,あらかじめ着色した(※疑似ライティング済みの)テクスチャを用いて代替するケースが多い。
いわば,「鏡像内の世界は1世代,あるいは2世代ほど古い表現で代替する」という考え方である。
次の話題は毛皮の表現だ。
これまでのゲームグラフィックスで動物の毛皮を表現する場合,毛の断面テクスチャを貼り付けたポリゴンを積層する,いわゆるシェル法が主流だった。しかしこれからは,毛髪と同様にパストレーシングで表現可能になる。
パストレーシングなら,毛髪と同様に,動物の毛皮でも遮蔽関係を正確に表現可能だ。そのため,部位ごとの毛量や毛の根元と毛先の色の違い,毛並みの方向など,微妙に変化する毛皮をリアルに表現できるようになる。
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なお,高品位な毛髪レンダリングのフェーズ3では,フェーズ2までの表現の性能最適化と,ハイエンドからミドルレンジまで性能の異なるGPUに合わせた最適化を行う予定だ。
質感表現は,BRDFからBSDFへ
新しいNvRTXでは,GeForce RTXシリーズで追加されてきた多様なレイトレーシング機能が,UE5のマテリアル構築フレームワーク「Substrate」(サブストレート)で正常に動作するようになる。
Substrateは,Unreal Engineの用語だが,現行世代のゲームグラフィックスでは中核となる概念だ。ここで解説しておこう。
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従来のゲームエンジンでは,「ベースカラー」(アルベド),「粗さ」(ラフネス)「金属度」(メタリック)といった標準的な物理ベースレンダリング(Physically Based Rendering,PBR)モデルのパラメータを組み合わせて,質感を表現していた。
これは,いわば双方向反射分布関数(Bidirectional Reflectance Distribution Function,BRDF)だけに着目したマテリアルシステムである。材質表面の質感表現に限定した仕組みともいえよう。
しかし現実には,「赤い塗装の上にガラスコーティングを施したスポーツカー」や「埃をかぶったガラス」といった,多層構造の材質が存在する。Substrateは,複数の質感パラメータをノードとして扱い,それらを組み合わせることで,より複雑な多層材質を表現可能にする仕組みだ。
従来のマテリアルシステムがBRDFベースだとすれば,Substrateは,双方向散乱分布関数(Bidirectional Scattering Distribution Function,BSDF)にもとづくものである。
散乱という言葉はやや分かりにくいが,ゲームグラフィックスの文脈では,BRDFに材質内部を通過する光の要素を加えたようなもの,と理解していい。
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「BSDFを導入したマテリアルシステム」と聞くと魅力的に思えるが,その場合,従来はPBRパラメータで済んでいたDeferred Rendering用のG-Bufferが,動的な階層構造に対応する必要が出てくる。リアルタイムのゲームグラフィックスでは実現できるはずもなく,従来のマテリアルとの互換性にも問題が生じそうだ。
そこで,アーティストがBSDFマテリアルを作成するオーサリング段階では,多層構造の複雑なマテリアルを生成しておく。しかしゲームグラフィックスで使用するときには,動作させるGPUの性能に応じて,その構造(=質感特性)を簡略化するようにコンパイルするのが,Substrateの仕組みとなっている。
たとえば,5レイヤー構成のBSDFマテリアルであっても,GPU性能に応じて2〜3レイヤーに統合できるわけだ。
レイヤーの統合では,陰影計算の傾向をもとにしてマテリアルの数学的最適化を行う場合もあれば,影響の小さい特性を省略したり,近似的な関数に置き換えたりする処理も行われる。
互換性については,1レイヤー材質としてコンパイルすることで,従来のBRDFマテリアルとの互換性を維持できる。ただ,質感は多少劣化してしまうが。
Substrateは,実験的な試用を重ねたうえで,2026年にUE5.7で正式リリースとなった。したがって,NvRTXにおいても,Substrateマテリアルへの対応は必須となったわけだ。
このSubstrate対応により,G-Bufferの構造も大きく変化する。従来は,質感を表現する材質パラメータとして,アルベド(ベースカラー,RGB)を1枚目のG-Bufferに,ラフネス(R)やオクルージョン(O),メタリック(M)などは,2枚目のG-Bufferに割り当てる構成が一般的だった。
Substrateマテリアルでは,材質表現に用いるパラメータの種類が増えて,複雑な材質とシンプルな材質が混在するため,G-Bufferには可変フォーマットへの対応が必要だ。
そこでSubstrateでは,G-Bufferを,扱う材質の種類を示すインデックス的なバッファと,実際のパラメータを格納するバッファに分ける。前者は「ヘッダバッファ」,後者は「マテリアルデータ(ペイロード)バッファ」と呼ばれることが多い。
まず,インデックス的に扱うヘッダバッファだが,解像度はG-Bufferと同様に,描画解像度と一致する。たとえば1920×1080ドットであれば,1920×1080テクセルのテクスチャとなる理屈だ。
ヘッダバッファには,マテリアルデータバッファに何が格納されているかを示すIDや,ビットパターンを記録しておく。テクスチャフォーマットは,1チャンネルの整数形式が用いることが多い。
2つめのマテリアルデータバッファも,解像度はヘッダバッファと同じだが,格納できる情報量は,GPU性能に応じて,Substrateマテリアルのパラメータ群を,必要十分に保持できるデータ長となる。このデータ長は「ペイロード」と呼ばれ,そのためこのバッファは,ペイロードバッファとも呼ばれる。
このペイロードが16byteを超える,たとえば32byteとなる場合には,3つめのG-Bufferが必要となる。
これは現行GPUのマルチレンダーターゲット(MRT)の仕様により,一度に書き込めるテクスチャ形式が,RGBA各32bitの128bit(16byte)までに制限されているためだ。
たとえば,ペイロードが128bitの場合,先述したヘッダバッファを前提とすると,G-Bufferの構成は以下のようなイメージになる。
●G-Buffer1(Top Layer):40bit
- Normal 0(表面の法線):16bit
- Roughness 0(表面の粗さ):8bit
- F0/IOR(屈折率/基礎反射):8bit
- Thickness/Weight(層の厚み/ブレンド率):8bit
- Normal 1(下地の法線):16bit
- Roughness 1(下地の粗さ):8bit
- Base Color(アルベド):24bit/RGB各8bit
- Metallic(金属度): 8bit
- Ambient Occlusion(環境遮蔽):8bit
- Subsurface(皮下散乱):8bit
- Emission(自発光):8bit
- そのほか(補助):8bit
このようにSubstrateでは,利用するパラメータ数の異なるG-Bufferを,ピクセル単位で運用するのだ。
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実際のパストレーシングでは,ライティングやシェーディングを行うが,G-Buffer上のピクセルごとに,材質構造,すなわち材質の複雑度が異なると,隣接するピクセルであっても演算負荷に差が生じる。
並列処理を前提とするGPUでは,処理は最も時間のかかるスレッドに合わせて完了するため,一部のピクセルに高負荷な材質が含まれるだけで,そのグループ全体の処理が遅くなるのだ。
こうした問題を解決する手段としてNVIDIAが導入したのが,GeForce RTX 40シリーズ(Ada世代)以降に搭載された「Shader Execution Reordering」(SER)である。
これまでは効果を実感できる場面が限られていたSERだが,パストレーシングによって,その実力を発揮することになるだろう。
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SERは,同一のSubstrate構成を持つピクセルやレイを,GPU内部で動的に並び替えて,ライティングやシェーディングの並列演算を効率よく実行できるよう,プログラマブルシェーダスレッドの実行順序を最適化する機能である。
つまり,NvRTXにおけるSubstrateへの対応は,GeForce RTX 40シリーズで実装されたSER機能に大きく依存しているといえよう。
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NvRTXのMega Geometryの対応
NVIDIAの「RTX Mega Geometry」(以下,Mega Geometry)は,GeForce RTX 50シリーズ(Blackwell世代)から導入された新機能だが,DirectX Raytracingには含まれない独自機能であるため,LSSと同様に,本稿執筆時点では対応するゲームは限定的である。
Mega Geometryについての詳細は,こちらの記事を参照してもらうとして,ごく基本的な概念は,無段階のLOD(Level of Detail)をレイトレーシングに導入可能とする新しいBVHフォーマットを,ハードウェアレベルで実装する技術だ。
UE5の代表的な機能である無段階LODシステム「Nanite」で用いるデータ構造を,NVIDIAがレイトレーシング用BVHとして最適化したものがMega Geometryともいえる。
NVIDIAは,Mega GeometryをNvRTXに統合して,Naniteジオメトリに対して,直接レイトレーシングやパストレーシングを適用可能にした。しかし,ゲーム開発者からは,「まだ使いものにはならない」とのフィードバックが寄せられたそうだ。
とくに,BVHの構築および更新処理が,CPUおよびグラフィックスメモリへの負荷が極めて高いと言う意見が多かったとのこと。
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そこでNVIDIAは,ゲーム開発で実用可能な性能を目指して,Mega GeometryとNaniteの統合方法の改善に取り組んでいるという。改善版の登場は,2026年後半を目標としているそうだ。
NvRTXにおける半透明材質のパストレーシング
現行のNvRTXでは,BRDFマテリアルに対する複雑なライティングには対応しているものの,BSDFマテリアルや,半透明材質に対する大域照明(間接照明)には未対応である。つまり,レイが半透明材質に衝突したときに生じる複数回反射(マルチバウンス)はサポートしていない。
そこで,2026年後半のリリースに向けて,半透明材質に対するパストレーシング対応の開発を進めているという。
ただ,ゲーム開発用途が前提なので,ある程度は汎用性を妥協した仕様となるとのこと。現時点での目標は,Substrateで表現できる半透明材質や,単層の水面への対応に留まるとのことだ。
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パストレーシングにおける間接照明を加速化する「パスガイディング」
NVIDIAは,NvRTXに関して,2つの実験的な取り組みを進めていることも明らかにした。
ひとつは,「ラディアンスキャッシュ」(Radiance Caching)をパストレーシングに対応させるというものだ。これは,NVIDIAが注力している「Neural Radiance Cache」とは別の技術だ。
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ラディアンスキャッシュの前に,UE5用語である「サーフェスキャッシュ」の説明をしておこう。
UE5には,Naniteと並ぶ代表的な機能として,間接照明システム「Lumen」がある。サーフェスキャッシュは,このLumenに関連する用語だ。
Lumenでは,描画性能向上のため,3Dオブジェクト周辺に不可視の平面(※板ポリゴン)を配置して,一度計算した間接照明情報をライトマップのように描き込む仕組みを採用している。この板ポリゴンは,発光可能なライトマップとして機能し,これがサーフェスキャッシュとなる。
サーフェスキャッシュへの参照によって,一度計算した間接照明情報を再利用できるため,複雑な大域照明計算を大幅に簡略化できるのだ。
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サーフェスキャッシュは,すでにNvRTXでパストレーシングに対応しているが,NVIDIAはさらなる描画品質向上に向けて,次のステップに進むのだという。それが,サーフェスキャッシュを発展させた「ラディアンスキャッシュ」である。
サーフェスキャッシュは,計算済みの間接照明情報を板ポリゴンに焼き付けて再利用する仕組みであるため,キャッシュ情報の解像度が不十分だと,穴の開いたオブジェクトや細いひも状のオブジェクト,植物の枝葉のように複雑な形状が重なり合うシーンでは,正確な間接照明を再現できないことがある。
屋内のように,比較的単純なシーンであれば問題になりにくい。だが,広大な屋外シーンでは,サーフェスキャッシュだけでは対応しきれないのだ。
そこでNVIDIAは,サーフェスキャッシュを立体的に拡張した概念として,ラディアンスキャッシュを考案した。
GeForce RTX 50シリーズ発表時に,AI支援によってグラフィックス描画を行うニューラルレンダリング技術として注目を集めた「ニューラル・ラディアンスキャッシュ」(NRC)と,名称が似ていることに気付いた読者もいるだろう。
結論からいえば,名称こそ似ているものの両者は別の技術である。それでも,アプローチが異なるだけで,基本的な発想は共通している。
この種の間接照明情報を扱う手法としては,グリッドやボクセルといったデータ構造が有力候補となる。しかし,大規模な3Dシーンでは,メモリの利用効率の点から不利であるため,NVIDIAはこれらを採用していない。
代わりに検討しているのが,「空間ハッシュ」(Spatial Hash Radiance Cache,SHaRC)と呼ばれる手法である。
たとえば,ある座標点で間接照明の計算を行うと,その結果をSHaRCに保存する。SHaRCに保存するのは,ワールド3D座標系(x,y,z)における座標と,その点における間接照明情報だ。
NvRTXのラディアンスキャッシュ保存する間接照明情報は,UE5のサーフェスキャッシュのような2Dのカラーピクセル情報ではなく,球面調和関数(の係数)によって表現された,全方位の方向情報を持つ間接光情報である。
これをフルカラーで扱う場合は,RGB各成分ごとに球面調和関数の係数を保持する必要があるのは言うまでもない。
レイトレーシング実行時に,レイがポリゴンに衝突すると,その衝突座標をキーとしてSHaRCにアクセスし,参照すべき計算済みの間接照明情報が存在するかを確認する。
SHaRCを単純に3D座標で検索すると時間がかかりすぎるので,ここではハッシュの概念を使う。キャッシュメモリとハッシュの基本的な仕組みは,CPUやGPUのキャッシュメモリと同じなので詳細は省くが,衝突点の3D座標(x,y,z)をハッシュ関数に入力し,得られたハッシュ値をもとに対応するSHaRCの内容を参照する手順だ。
ただ,キャッシュにアクセスした時点では,目的のデータかどうかは確定しないため,SHaRC上のハッシュ値と,今回の3D座標から得たハッシュ値が一致するかを調べて,キャッシュのヒットかミスかを判定する。
ヒットした場合は,その値を用いて間接照明を計算し,ミスした場合は,レイを再度飛ばして間接照明を計算するわけだ。
このSHaRCにおける間接照明情報の保存と参照処理を,AIに置き換えたものがニューラルラディアンスキャッシュ(NRC)である。すなわち,SHaRCにおける間接照明情報の保存をリアルタイムAI学習に,間接光情報の読み出しをリアルタイムAI推論に置き換えた仕組みといえる。
SHaRCも実用的に思えるが,決定的な弱点もある。まず,十分な性能を得るには,大容量のキャッシュが必要となる点だ。一方のNRCでは,数MB程度の軽量なニューラルネットワークの重みデータのみを保持すればよい。
また,SHaRCは単なるキャッシュメモリなので,キャッシュヒットミスが発生した場合には再計算が必要となる。それに対してNRCは,常に推論結果を返すため,正誤はともかくミスは発生しないという特性を持つ。
NRCにも弱点はあり,動作開始直後は推論精度が低いため,ノイズが発生しやすい。しかし,数秒程度で精度は向上するので,SHaRCに近い結果が得られるようになる。処理速度の観点では,SHaRCよりもNRCのほうが速いので,ゲーム用途においては,NRCが有望視されているわけだ。
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NVIDIAはもうひとつ,NvRTXにおける間接照明アクセラレーション技術として,「パスガイディング」の開発も進めている。
パスガイディングは比較的シンプルな概念で,影響の大きい光源が存在しそうな方向へ,優先的にレイを飛ばす仕組みだ。
パストレーシングでは,ポリゴンにレイが衝突したときに,その材質の反射特性が拡散反射主体である場合,反射レイをランダムに生成するのが基本となる。
しかし,衝突地点から無作為にレイを飛ばした場合,何もない空間にレイを飛ばしても意味がない。だが,どの方向に強い光が存在するかという確率分布を得て,それをもとにレイの投射方向を制御すれば,少ないレイでもノイズの少ない描画結果を得やすくなる。
言い換えれば,ランダムサンプリングを行いつつも,描画結果に影響しない方向へのレイ生成を抑制することで,効率的な間接照明計算を実現するのがパスガイディングの手法なのだ。
このパスガイディングの動作概念は,NRCのそれと近い。
パスガイディングでは,「どの方向に強い光が存在するか」という空間上の確率分布を,リアルタイムに構築する。
NRCと同様に,初期段階ではレイはランダムに投射されるが,サンプリングを繰り返すことで,光の寄与が大きい方向の分布,すなわち重要度分布が徐々に洗練されていく。
なおNRCとは異なり,光の重要度分布を洗練させていくプロセスに,AIは使わないそうだ。具体的な実装は明らかになっていないが,一般的には,360度全方位のヒストグラムのような統計情報を,逐次更新する手法を用いる。
次にレイを飛ばす方向は,この確率分布(重要度分布)を参考にして選ぶ。初期段階では精度の低い重要度分布でも,サンプリングを重ねることで有効な方向の精度が向上していく仕組みだ。
NVIDIAは,パスガイディングについて,動的に変化する自発光オブジェクトからの間接照明の影響を,反映しやすくなると分析している。
また,パスガイディングは理論上,SHaRCと組み合わせることが可能で,NRCと併用することもできる。
このように,パストレーシングの高速化に向けて,多様な技術が開発されていることが分かってきたわけだ。
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GDC 2026の技術セッションを聴講して,筆者が強く感じたのは,ゲームグラフィックスがいよいよ新世代へと大きく移行し始めたことだ。より正確には,本格的な進化に向けた基礎工事が始まったというべきか。
PS4世代のゲームグラフィックスも完成度は高かったが,あえて表現するならば,プログラマブルシェーダが成熟した世代と位置付けられる。続くPS5世代では,そこにレイトレーシングが部分的に導入されて,表現の幅が拡張された。
それに対して,GDC 2026で見られたマテリアル関連の革新や,グラフィックス要素全体をパストレーシングで扱うことを見据えた一連の技術開発は,今後10年単位のGPUの進化を前提とした土台作りであると感じている。
- 関連タイトル:
Unreal Engine
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