「KINGDOM HEARTS Orchestra -World Tour-」がスタート。オーケストラと映像がシンクロしてKHの世界を描いた東京公演の模様をお届け

　スクウェア・エニックスの人気アクションRPG「KINGDOM HEARTS」（以下，KH）シリーズの楽曲を演奏するオーケストラコンサートツアー「KINGDOM HEARTS Orchestra -World Tour-」が，2017年3月10日の東京公演でスタートした。今後フランス，イギリス，シンガポール，マレーシア，中国，アメリカ，そして大阪を回る，全7か国8会場13公演の大規模な世界ツアーとなる。


　昨年夏に行われたブラスバンドコンサートに続く今回は，KHシリーズのコンサートとしては初となるフルオーケストラによる演奏と，スクリーンの映像による演出を楽しめる公演となった。
　本稿では，3月10日に東京国際フォーラムで行われた東京公演初日の模様をレポートしよう。

5000人規模の会場はほぼ満席となった。会場には1月に新宿駅で展示されたステンドグラスクロックも

「KINGDOM HEARTS Orchestra -World Tour-」

指揮：和田 薫
演奏：東京フィルハーモニー交響楽団
コーラス：洗足フレッシュマン・シンガーズ
ピアニスト：ベンヤミン・ヌス

セットリスト

＜第一部＞
01.Hikari -KINGDOM Orchestra Instrumental Version-（編曲：和田 薫）
02.Dearly Beloved - KINGDOM HEARTS II Ver. -（編曲：和田 薫）
03.Destati（編曲：亀岡夏海）
04.Organization XIII（編曲：亀岡夏海）
05.Twinkle Twinkle Holidays（編曲：亀岡夏海）
06.Treasured Memories（編曲：宮野幸子）
07.The World of KINGDOM HEARTS（編曲：和田 薫）
08.Fate of the Unknown（編曲：和田 薫）
09.Threats of the Land: KINGDOM HEARTS Battle Medley（編曲：亀岡夏海）

＜第二部＞
10.Heroes and Heroines: Characters' Medley（編曲：鹿野草平）
11.Lazy Afternoons〜At Dusk, I Will Think of You...（編曲：鹿野草平）
12.Vector to the Heavens（編曲：宮野幸子）
13.Wave of Darkness（編曲：亀岡夏海）
14.Daybreak Town: The Heart of χ（編曲：和田 薫）
15.The Other Promise（編曲：亀岡夏海）
16.Let Darkness Assemble: Final Boss Medley（編曲：宮野幸子）
17.Passion - KINGDOM Orchestra Instrumenta Version（編曲：和田 薫）

※敬称略

　指揮をするのは，前回に引き続き和田 薫氏。和田氏は今回演奏された一部楽曲のオーケーストラアレンジも手掛けている。

和田 薫氏（指揮台上）

　コンサートは初代KHのテーマソング「光」のオーケストラアレンジ「Hikari -KINGDOM Orchestra Instrumental Version-」でスタート。本の中からソラ，ドナルド，グーフィーたちが飛び出してくる映像が重なり，全ての始まりを感じさせるオープニングだ。
　続く2曲目の冒頭には，KHシリーズでカイリとシオンを演じる内田莉紗さんがステージに登場し，カイリのセリフ朗読を披露。そこにベンヤミン・ヌス氏がピアノで演奏する「Dearly Beloved」の旋律と，実写のイメージ映像が加わり，KHの世界観に引き込まれる。

内田莉紗さん

ベンヤミン・ヌス氏（左）

　安らぎを感じた2曲目から一転，3曲目の「Destati」では合唱隊が加わり，フルオーケストラ演奏の迫力を感じさせる演奏となった。映像もKHシリーズの名シーンがダイジェストで再生され，まだ序盤なのにクライマックスのような雰囲気だ。


　4曲目，XIII機関のテーマ「Organization XIII」の演奏後，ステージにはKHシリーズ作曲家の下村陽子氏が登場し，当日の演奏者を紹介した。下村氏は「今回の公演は私がずっと望んでいた内容で，こんな素晴らしい会場で開催できるのも，本当に皆さんのおかげです」と語ると，客席からは大きな拍手が上がった。

下村陽子氏（左）

　第一部後半では，ディズニーの世界観をフィーチャーした楽曲も演奏された。「ミッキーマウス・マーチ」のイントロで始まる7曲目「The World of KINGDOM HEARTS」では，王様をはじめ，ヘラクレスやピノキオ，カジモドなど，人気キャラクターの活躍シーンがスクリーンに映し出された。
　そして9曲目は「Threats of the Land: KINGDOM HEARTS Battle Medley」。戦いの緊張感と，ソラをはじめとする主人公達の勇気を感じさせる各シリーズのバトル楽曲で，第一部が締めくくられた。


　第一部終了後の休憩中には，KHシリーズディレクターの野村哲也氏のナレーションにより，スマホアプリ「KINGDOM HEARTS Unchained χ」の最新情報が告知された。本作は，マルチプレイも導入される大型アップデートにて，タイトルが「KINGDOM HEARTS Union χ」と改められる。アップデートは3月末に行われる予定で，現在事前登録が受付中だ。詳しい情報はこちらの記事を確認してほしい。

　そして，このコンサートツアーの会期中に，「KINGDOM HEARTS III」（PS4 / Xbox One）についての続報を発表することも告げられ，思わぬ情報に会場からは歓声と拍手が上がった。

　第二部は，KHシリーズのメインキャラクターに焦点を当てた「Heroes and Heroines: Characters' Medley」でスタート。ソラ，リク，カイリ，ナミネ，ロクサス，アクセル，シオン，テラ，アクア，ヴェントゥス，そしてラストにヴァニタスが登場する映像が，約8分にも及ぶ楽曲とシンクロし，来場者を魅了した。

　「Vector to the Heavens」と「Wave of Darkness」の2曲では，ヒロインを演じた声優さん2人が登場。第一部にも登場した内田さんはシオンをイメージした黒のドレス，アクア役の豊口めぐみさんは青のドレス姿で，セリフを朗読した。

豊口めぐみさん

　コンサートのクライマックスでは，ボスバトル曲のメドレー「Let Darkness Assemble: Final Boss Medley」と，「KINGDOM HEARTS II」のメインテーマ「Passion」のアレンジ曲「Passion - KINGDOM Orchestra Instrumenta Version」が続けて演奏され，この15年を振り返るような演出で締めくくられた。
　来場者からの鳴り止まない拍手に応え，アンコール曲が下村氏のピアノとともに演奏されたが，こちらの曲名と演出内容については秘密。7月の大阪公演に行く予定の人は，ぜひ楽しみにしていてほしい。

アンコールでピアノを演奏した下村氏

　最後に，終演後に行われた出演者への合同インタビューをお届けしよう。

――本日の感想を皆さんから一言ずつお願いします。

和田 薫氏（以下，和田氏）：
　皆さん，楽しんでいただけたでしょうか。本日は世界初演のプレミアということで，重責で肩が潰れる思いでしたが，何とか終えられて，充実した気持ちでいっぱいです。

下村陽子氏（以下，下村氏）：
　やっぱり緊張しましたね。トークは台本がなくてもできるんですが，それがMCとなると，和田さんと同じように重責が凄かったです（笑）。しかも最後に演奏に加えていただきまして。ここで失敗してしまうとファンの皆さんをガッカリさせてしまうので，何とか奮い立って頑張りました。最後に客席の皆さんの笑顔や涙を見ると，本当にここにたどり着けてよかったなと思っています。

内田莉紗さん（以下，内田さん）：
　私も緊張で今日は凄く早く起きてしまったんですが，本番が始まってみると，和田さん，下村さん，そしてオーケストラとコーラスの皆様によって，KHの世界に心震える幸せな時間となりました。参加させていただいて，感謝の気持ちでいっぱいです。

豊口めぐみさん（以下，豊口さん）：
　リハーサルで演奏と映像を見させていただいたときから，緊張と感動で涙が出そうだったので，今日の本番で泣かないように心がけました。この大きなオーケストラの一員になれたのは本当に嬉しかったです。

――オーケストラアレンジの全体的な方向性があれば聞かせてください。

和田氏：
　あまり具体的な方向性は意識していませんね。今回は私を含めた4人のアレンジャーが担当していまして，下村さんいわく「最強の布陣」らしいのですが（笑），どの曲にも担当者の個性が表れていますしね。

下村氏：
　基本的には皆さんにお任せでした。とにかく各曲のアレンジが上がってくるのが毎回楽しみで，リハでの演奏を実際に聴いてみると，KHの世界観を大切にしつつアレンジしていただいていて，それが一番の方向性だったと思っています。

――選曲は下村さんがされたんですか？

下村氏：
　漠然と「こういう感じでやりたい」というイメージは，去年夏の吹奏楽コンサートの内容と同時に考えていました。それを叩き台に，演出なども考えた選曲を事前にブラッシュアップして決断しましたね。

――その中で，これだけは絶対にオーケストラで演奏したかったという曲はありましたか。

下村氏：
　どれだろうな……。でも基本的には全曲がその対象だったとは思っています。過去にオーケストラになっていない曲を優先したいという意識もありましたが，オーケストラになっていたとしても，その演奏を生で聴いているのは私なり和田さんなり，内部の人だけなので，それを皆さんに聴いてもらいたいという気持ちもあって，その結果の選曲になりましたね。

――演奏と映像のタイミングがしっかり合っていましたが，あの演出は大変ではなかったですか？

和田氏：
　はい，本当に難しかったです。ハリウッドなどでは，既成の映画のサウンドを生のオーケストラで演奏するという上映がありますが，基本はあの方式ですよね。ただ今回はゲームのコンサートで，演出としてはまったく新しいものなので，いただいた映像に合わせて演奏をするリハを繰り返しました。

――上映された映像は，曲ありきなのでしょうか？

和田氏：
　そうなりますね。

――前回の吹奏楽コンサートと比べて，今回はかなり大きな会場となりましたが，その手応えはいかがでしたか？

下村氏：
　一番大きかったのは，生演奏では音が隅々まで届かないため，音響設備を使う内容になったことです。それによって，生音にこだわるのではなく，映像などを添えてエンターテインメント性の高いコンサートを目指すことにしたんです。

――映像もかなり美しかったですね。

下村氏：
　さすがHD版，という映像でしたね（笑）。

――内田さんと豊口さんは，セリフ朗読をするうえで心がけたことはありましたか？

内田さん：
　心に響くセリフがたくさんあって嬉しかったですが，オーケストラの演奏に合わせるタイミングが難しかったです。合わせることを考えてしまうと気持ちがこもらなかったりして，ちょっと苦労したんですが，今日本番を迎えてみると，オーケストラの皆さんの演奏に助けられて，凄く自然なタイミングでセリフを読むことができました。

豊口さん：
　「KINGDOM HEARTS HD 2.8 Final Chapter Prologue」では，アクアを演じるのが久しぶりで，長い間闇の中にいた彼女の気持ちになるのが難しかったんです。今回のセリフはその延長上でしたので，同じように彼女のテンションに合わせられるように心がけました。

――これからの公演に向け，「ここはこだわったので聴いてほしい」という点はどこでしょうか。

和田氏：
　もう，全部じゃないですか（笑）。KHという作品だからこそ，ここまでの内容でお届けできるわけですし，楽曲全てがこのツアーのためにアレンジされて，そのために映像も作っていただいて，かつてない規模の試みとなりましたからね。そういう意味で，パイオニアとなるイベントになると思いますので，ぜひ楽しんでください。

下村氏：
　ずっとやりたいと思って意識してきたことは，コンサートにドラマ性を持たせるということでした。全体を通して聴くことで，1本ゲームをクリアしたような感覚になれる内容ですよね。そのためにMCも極力減らして，ずっと音楽のストーリーの中にいられるようにしたんです。皆さんに会場に来ていただいて，KHの大きな物語をこのコンサートでも感じていただけたら，私は嬉しいですね。

左から内田さん，下村氏，和田氏，豊口さん

「KINGDOM HEARTS」シリーズ公式サイト

Photo by Shinjiro Yamada