イベント
7年前の悲しみを,最高の思い出に塗り替えたい ――「バンやろ」発リアルバンド OSIRIS,7年ぶりワンマン「OSIRIS THE LUST GIG」レポート
2025年8月15日,神奈川県のCLUB CITTA’にて,アニプレックスのスマホアプリ「バンドやろうぜ!」(iOS / Android,※2019年にサービス終了)のライブイベント「OSIRIS THE LUST GIG」が開催された。「バンやろ」としては約1年ぶり,リアルバンド OSIRISにとっては「LAST GIG」以来7年ぶりとなるワンマンライブの模様をレポートする。
![]() |
「OSIRIS THE LUST GIG」公式サイト
OSIRISとして7年ぶりのワンマン。
セトリに仕掛けられた想いとは
「バンやろ」は何度でも蘇る――。ファンがそう言うほど,2019年のサービス終了以降も,途絶えるどころかほぼ毎年のようにイベントを開催している。
ここ最近では,「海外で現地のバンドと2マン」「ミュージシャンではなく制作陣が演奏・歌唱するライブ」「他タイトルとの対バン」など,予想を裏切る企画を次々と実現させてきた。誰もが「サ終とは……?」と言いたくなるような展開を見せる,愛すべきコンテンツだ。
そして今回開催されたのが,「OSIRIS THE LUST GIG」。2018年のラストワンマン「OSIRIS THE LAST GIGS〜Memories / Finale〜」を思い起こさせるタイトルで,ファンにとっても特別な意味を持つライブとなった。
関連記事
「永遠に忘れないでほしい。そして,またいつの日か」――「バンドやろうぜ!」OSIRIS THE LAST GIGS〜Finale〜@川崎CLUB CITTA’ライブレポート

アニプレックス×ソニー・ミュージックの「青春」×「バンド」リズムゲームアプリ「バンドやろうぜ!」のリアルバンドOSIRISによるラストライブが,2018年8月15日と16日の2日間にわたり,川崎CLUB CITTA’にて行われた。本稿では,最終日となる8月16日の公演の模様をレポートする。
会場に集まったファンは,4人の登場を今か今かと待っていた。戦闘態勢は完璧な熱気の中,幕が開き,静かに聴こえてきた歌は「Cross Wish」。思えば7年前のラストライブも,オープニングはバラードという意外な選曲だった。
だが今回はその共通点だけではなく,もっと大きな仕掛けがあったことに,この時点で気付いた人はどのくらいいただろうか。
2曲目は「for you…」。ただ静かに音楽に聴き入っていたオーディエンスは,ボーカルの高良 京役 小林正典の「さあ,いこうか。LUST GIGS!」の叫びをきっかけに,一斉に拳を上げた。
相変わらず分厚く,エネルギーに満ちたサウンド。音源かと思うような圧巻のボーカル。ステージに向かって手を伸ばし,バンドと一緒に歌う人々。
これは7年ぶりのライブなどではなく,OSIRISはずっと活動を続けていて,たまたま自分が久しぶりにライブに来ただけなのかもしれない――そんなふうに思えるほど,あのころとなんら変わらない世界が広がっていた。
![]() |
![]() |
イントロでひときわ大きな歓声が上がった「Desire」,フロア全体を波のようにうねらせた「Endless」と,ステージは休みなく続いていく。
「バンやろ」のライブではいつも思うことだが,メディアミックスのライブにも関わらず観客の持つ光り物はひとつもなく,ただステージだけが明るく照らされている。
それがまた,より“圧倒的強者”の風格を印象付けていた。
歌い終えた小林が「まさか,またこうして(7年ぶりに)このステージに上がるとは思いませんでした」と口を開くと,フロアから「おかえり!」という声が上がる。小林は「7年前の寂しかった気持ちを,このワンマンで『最高に楽しかった』思い出に塗り替えたい」と想いを語った。
そして「夢の続きを見に行こう」と,光り輝くサウンドで聴かせる「Dreams」を熱唱。続く「Beyond the Limit」では,早いリズムに乗ってオーディエンスのクラップが響き渡る。
OSIRISにとっての“始まりの歌”「Voice」では,色褪せない音と記憶に胸が熱くなったかと思えば,次の「Re:Incarnation」では待ってましたとばかりにヘドバンの波が生まれ,フロアが狂乱の渦に落とし込まれる。
![]() Vo.小林正典(高良 京役) |
![]() Gt.瑠(レイ・セファート役) |
![]() Ba.カゴメ(来栖真琴役) |
![]() Dr.バタヤン(小金井 進役) |
ここで再びMCタイムへ入ったのだが,急遽イヤモニの調整で小林がステージから捌けることに。その間,Dr.小金井 進役のバタヤン(※バタヤンはOSIRISのバンマスである)がトークでつなぐ。フロアからのリクエストで衣装を見せるためにバタヤンが立ち上がると,大きな歓声が上がった。
今回はイラストレーターのさらちよみ氏がライブのためにビジュアルを描き下ろしており,4人が着ている衣装もそれをイメージしたものだった。
ちなみに,Gt.レイ・セファート役の瑠がつけていたメジェド人形は,X公式アカウントが「持っている人がいたら貸してほしい」と呼びかけ,イラストと同じ格好が実現したらしい。
どれもイメージに合ったすてきな衣装だが,Ba.来栖真琴役のカゴメには,夏なのに革ジャンを脱がないことに小林がツッコミを入れ,笑いが起きた。
そんなほのぼのトークから一転,小林の「踊り狂え」の一言を合図に「Bloody Masquerade」が投下される。オープニングでカゴメが指で頭をトントンと指す仕草や,瑠とカゴメが飛び回るように立ち位置を変更するアクション,咲きまくるフロアとクラップからの折りたたみなど,見どころと聴きどころが満載のド定番曲だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ステージが一度暗転し,演奏隊によるインスト曲「Demon Walk」へ。ゴリゴリにラウドなヘビーメタル調のサウンドは,ボーカルが入っていないだけでさらにハードな印象を受ける。
瑠からカゴメ,バタヤンへと重厚な音がつながってテンションを上げていき,フィニッシュへ流れていくさまが見事だ。
そこから間髪入れずスタートしたのは,なんと「Crystal Sky」! これは「バンやろ」に登場する双子のボーカルユニット Crystal Crossの楽曲で,ここでは小林と瑠によるツインボーカルで披露された。
ステージでの見事な瑠のボーカルは,昨年の「バンドやろうぜ! Dream Match Cover GIG 2024 Ragna-Rock」以来だ。
関連記事
制作者と作家陣が歌い,ボーカリストが演奏する前代未聞のイベント「バンドやろうぜ! Dream Match Cover GIG 2024 Ragna-Rock」レポート

2024年8月23日,東京・渋谷のSpotify O-EASTにて,「バンドやろうぜ! Dream Match Cover GIG 2024 Ragna-Rock」が開催された。本稿ではイベントの模様に加え,終演後に行った全出演キャストへのインタビューをお届けする。
驚きと興奮が冷めやらぬフロアに,荘厳なコーラスが流れ出す。あちこちから悲鳴のような歓声が上がった次のナンバーは,「バンやろ」の“四響”の1人,アダムの楽曲「ONE-MAN-SHOW」。
バラードとハードロックが交差し合うドラマチックな構成に,アダム独特の濃厚な表現力を意識したと思わせるボーカル。まさかこれを聴けるとは……と感激していたのも束の間,響き渡るドラムソロ。小林が「どういうことか分かるよな? 全力でついてこい」と呟くと,聞き覚えのあるドラムのイントロがスタートする。
バタヤンが「さあ,始めようか」と叫んだこの曲は,最後の四響“煉獄のダンテ”の「Dead or Alive」だ! 小林が「お前らの全力の声と熱量を俺たちにぶつけてくれ!」と声を上げ,バタヤンのドラムからカゴメのベース,瑠のギターときて,すべての音が絡み合ってボルテージを上げていく。
そこに重なる小林の高笑いは,手を叩いて喝采したくなるほど。この激アツというほかないサウンドは,きっと初めて聴いた人も,楽曲が持つ熱量を嫌というほど感じられたはずだ。この見事なカバーの流れは,この日のハイライトといっても過言ではない盛り上がりだった。
![]() |
高まった熱を一旦落ち着かせるように,再びMCへ。小林は3つのカバー曲が披露されたことに触れ,これで「バンやろ」に登場するバンドの楽曲すべてがライブで披露されたと語り,大きな拍手が上がった。
とはいえ,披露された四響の楽曲は難度が高く,「みんなが演奏を嫌がっていた」と打ち明けられる一幕も。
また,今回は7年ぶりのワンマンとあって,メンバー同士がこれまでのライブを振り返り,思い出話に花が咲く。そして,7年前のラストライブもCLUB CITTA’で行われたことについて,小林は「今日は涙も悲しさもいらない。一緒に塗り替えていきましょう」と伝えた。
ライブ後半はミディアムテンポのナンバー「Way of Light」でスタート。青い照明で染まった会場に,ミラーボールの光が星屑のように輝いている。
続く「Silent Crisis」は,どこかノスタルジックなサウンドが心に響く。その余韻が残る中,スポットライトに包まれた小林のアカペラから「Shades of Night」が投下された。
このメロディアスなサビの楽曲は音源化されておらず,制作者である瑠は,今回の披露について「アカペラが合っていて良かった」と話した。小林は2018年にこれを歌った際,「もうOSIRISとしてステージでやれることは無いかもしれない」と感じていたのだそうだ。
![]() |
![]() |
次の曲は,小林が「どうしても今日やりたかった」という「Desert Hope」。これはOSIRISのボーカル,高良 京のソロ曲で,自身が奏でるブルースハープの音色が印象的なナンバーだ。
そして,どこか切なさの残る空気の中,重々しい鐘の音が響く。次の「Into the Madness」で,OSIRISのミステリアスな深みと重さを感じさせる“陰”のサウンドが,フロアにヘドバンのうねりを起こす。
「闇を照らす光となれ」――お馴染みのセリフでスタートした「Darkness」は,「Voice」が始まりの1曲だとすれば,こちらはOSIRISが本当の意味で“はっきりと形作られた”曲といえるかもしれない。ラスサビでは,小林と瑠,カゴメの3人がステージのフロントに集い,大きな歓声が上がった。
歌い終わった小林が静かに語りだした。実は,今日のステージは7年前のラストワンマンのセットリストを反対の順番にしたものだったそうだ。だが,それは単に反対にしただけではなく,過去の悲しい思い出や出しきれなかった想いを乗り越え,次の一歩を踏み出したいという想いが込められているという。
そして,ここに来るまで決して楽ではなかったが,またこうして歌えることが幸せだと実感していると語った。
“次”を簡単に約束はできないけれど,また一緒に音楽をやりたいと話す小林は,「これから先も『バンやろ』やOSIRISのことを覚えていてください」と微笑み,7年前の記憶を塗り替えるように「Heavenly Breeze」を歌い始めた。
![]() |
7年前のラストワンマンで1曲目だった「Heavenly Breeze」のことは,今でもよく覚えている。“最後のステージ”である一方,熱狂が約束されたOSIRISのライブでもあるという,なんとも複雑なオーディエンスの期待感の中,それは聖歌のような清らかさで会場を包みこんでいたのだ。
寂しいけれど美しい歌――だがこの日の本曲には,当たり前かもしれないがまったく違う印象を持った。空に向かって伸びていく梯子のように,希望そのものが歌に形を変えたようなぬくもりを感じたのだ。
最後のブレスとともに照明が消え,ステージには拳を掲げる小林のシルエットが浮かび上がった。ラストの曲は「Chain」。小林が「これは俺たちとお前たちで紡いできた歴史の物語。歴史の物語だ!」と叫び,オーディエンスは全員が一体となって拳を上げ,声を合わせる。
「Chain」は,「バンやろ」がサービス終了してからリリースされたものだ。「終焉の先に続く思い」「何度だって 何度だって 巡り逢う証明」……そんな歌詞を見れば,7年前のセトリにはなかったこれを,なぜあえてこの日のラストに演奏したかが分かるような気がする。
彼らは,そして「バンやろ」を支えるすべての人々は,未来は分からなくても“その先”を信じているのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
7年前と同様,アンコールはなく公演は終幕となった。だが,次の約束や告知,アンコールがなくても,彼らの演奏そのものこそが答えだったのだろう。4人は全力でステージに挑み,オーディエンスも全力で応えた。そこにはひとつも悲しみはなく,爽やかな達成感と満足感だけがあった。
信じていれば,必ずその想いは届く。けれど,伝えたい相手に伝える努力を惜しんではいけないのだと思う。「バンやろ」,そしてOSIRISすべてのファンが願い,声を上げ続けるのなら,きっとまたいつか夢が叶う日がくるはずだ。
![]() |
「OSIRIS THE LUST GIG」公演概要
◆開催日時
2025年8月15日(金)
◆開催場所
CLUB CITTA’
◆出演者
OSIRIS
Vo.小林正典(高良 京役)、Gt.瑠(レイ・セファート役)、Ba.カゴメ(来栖真琴役)、Dr.バタヤン(小金井 進役)
◆セットリスト
Cross Wish
for you…
Desire
Endless
Dreams
Beyond the Limit
Voice
Re:Incarnation
Bloody Masquerade
Demon Walk(Inst)
Crystal Sky(cover:Crystal Cross)
ONE-MAN-SHOW(cover:アダム)
Dead or Alive(cover:ダンテ)
Way of Light
Silent Crisis
Shades of Night
Desert Hope
Into the Madness
Darkness
Heavenly Breeze
Chain
「OSIRIS THE LUST GIG」公式サイト
(C)BANYARO PROJECT