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ファンタジーの源流を辿る旅「愛蔵版 英雄コナン全集」(ゲーマーのためのブックガイド:第19回)
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印刷2024/08/22 12:00

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ファンタジーの源流を辿る旅「愛蔵版 英雄コナン全集」(ゲーマーのためのブックガイド:第19回)

画像集 No.002のサムネイル画像 / ファンタジーの源流を辿る旅「愛蔵版 英雄コナン全集」(ゲーマーのためのブックガイド:第19回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 小説にアニメ,そしてゲームと,ここ最近いわゆるハイ・ファンタジーの元気が良いようだ。書店の棚を見渡すと──もちろんフィクションコーナーに限った話ではあるが──どの方向を見てもこのジャンルの作品が目に入る。とりわけ2020年代に入ってからは,このジャンルに大きな影響を与えてきたクラシックな作品の数々が,盛り上がりを見せている。

 SBクリエイティブからは,1980年代のゲームブック・ブームを牽引した「ファイティング・ファンタジー」シリーズが,ブームの立役者でもあるグループSNEの安田 均氏による新訳で刊行されている。SNSでは,映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」や,日本では2023年12月に発売された「バルダーズ・ゲート3」PC / PS5)の影響で,原作テーブルトークRPGの話題が頻繁にトレンド入りする時期があった。「葬送のフリーレン」「ダンジョン飯」といったファンタジー・ジャンルのコミックやアニメが話題を集めることも多く,そうかと思えば,コンピュータRPGの古典的シリーズである「Wizardry」の権利を取得したドリコムが,新作ゲームはもとより同作を題材とした小説版(蝸牛くも「ブレイド&バスタード」)を展開し,ワーナー・ブラザース・ディスカバリーは映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズに連なる新作の制作を発表した。

※ハイ・ファンタジー……現代とは異なる,架空の世界を舞台にした幻想性の高い作品を指すファンタジーのサブジャンル。厳密な定義が定まっているとは言えず,“ハイ・ファンタジー”の対義ジャンルである“ロー・ファンタジー”を提唱したロバート・H・ボイヤー編纂のアンソロジー「The Fantastic Imagination: An Anthology of High Fantasy」の序文では,神秘的な別世界が舞台の妖精譚と,神々と人間が共存する神話譚をハイ・ファンタジーと定義し,「ベオウルフ」「マビノギオン」のような地球上が舞台の物語もハイ・ファンタジーに含めている。「英雄コナン」シリーズは,「指輪物語」と同じく太古の地球が舞台だが,ハイ・ファンタジーに分類されることが多い。

 そしてこの2024年8月2日,新紀元社から「愛蔵版 英雄コナン全集4 覇王篇」が発売され,2022年より刊行の始まった「愛蔵版 英雄コナン全集」全4巻がこれをもって完結する運びとなった。ロバート・E・ハワードの「英雄コナン」シリーズは,J・R・R・トールキンの「ホビット」(1937年)や「指輪物語」(1954〜55年)よりも早く,1932年から35年にかけてアメリカの雑誌に発表された,“剣と魔法のファンタジー”ジャンルを切り拓いた作品だ。
 牽強付会や誇張は一切ない。何しろ“剣と魔法のファンタジー”という呼称は,そもそもマイケル・ムアコックが,1960年代のファンダムに投げかけた「R・E・ハワードの書いたようなファンタジー物語にジャンル名をつけよう」(大意)という呼びかけに対し,コナンのフォロー作品の一つである「ファファード&グレイ・マウザー」シリーズの作者,フリッツ・ライバーが提唱した言葉なのだから。

画像集 No.001のサムネイル画像 / ファンタジーの源流を辿る旅「愛蔵版 英雄コナン全集」(ゲーマーのためのブックガイド:第19回)
愛蔵版 英雄コナン全集1 風雲篇(全4巻完結済)

著者:ロバート・E・ハワード
訳者:中村 融,宇野利泰
版元:新紀元社
発行:2022年7月1日
価格:2420円(税込)
ISBN:978-4-7753-1884-3

購入ページ:
Honya Club.com
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新紀元社「愛蔵版 英雄コナン全集1 風雲篇」紹介ページ


 「英雄コナン」シリーズの舞台となるのは“ハイボリア時代”と呼ばれる太古の地球。アトランティス大陸の水没から,記録された歴史が確認されている有史時代の始まるまでの間,現代とは海岸線がだいぶん異なるユーラシア大陸西部の大部分を,アキロニアやネメディアなど,ハイボリア人の国家が支配下においていた時代である。
 硬(こわ)い黒髪を伸ばし,灰色の瞳に物騒な光をたたえた長身の戦士コナンは,蛮族の土地とされる北方のキンメリアの出身で,盗賊や海賊,傭兵,ときには特定の国家に属する軍人として各地を転々し,柔弱な“文明人”達の価値観や常識を,あるいは邪神を奉ずる妖術師の操る恐ろしい魔術を,人を寄せ付けぬ魔境に巣食う怪物どもを,剣と膂力で粉砕する生来の冒険家だ。
 ハワードが執筆した最初のコナン小説である「不死鳥の剣」において,彼は後に大国アキロニアの王となることがあらかじめ示されているのだが,20本の短編と1本の長編からなるコナンの物語は個々に独立していて,作者自身の腹案はともかく,見た目上の年代記要素は薄い。

※ハイボリア時代……「英雄コナン」シリーズの解説では,紀元前1万年頃と説明されることが多い。ちなみに荒俣 宏氏の造語として有名なファンタジー用語「魔道士(wizardの訳語)」は,こちらのシリーズ第1巻「征服王コナン」が書籍での初出となるようだ。なお未完成に終わったハワードの無名の断片小説によれば,“ハイボリア時代”という時代区分は,彼のクトゥルー神話小説に登場する神話典籍「無名祭祀書」の著者フォン・ユンツトの命名とされる。参考:ロバート・E・ハワード「(無名の断片小説)」(森瀬 繚・訳)

 さて,日本国内ではこれまで3度にわたり,英雄コナンのシリーズが刊行されてきた。読者の中には,そうした古いシリーズと,現在刊行されている「愛蔵版 英雄コナン全集」との違いがよくわからないという向きもあるかもしれない。
 最初の邦訳は,1970年より早川SF文庫で刊行された全8冊(本編6冊,別巻2冊)のシリーズで,翻訳者は団 精二(荒俣 宏)氏・鏡明氏・佐藤正明氏。底本は,1950年代にノーム・プレスから刊行された全7冊のハードカバーである。この底本は,コナンのシリーズを最初に単行本にまとめた作品集で,1940年代からこのジャンルの作家・研究者・編集者として活躍していたライアン・スプレイグ・ディ・キャンプと,スウェーデンのファンタジー作家であるビョルン・ニューベリイによる補作・パスティーシュを含んでいた(邦訳では別巻2冊にまとまっている)。

 こちらに少し遅れて,1971年から刊行されたのが創元推理文庫版で,翻訳は宇野利泰氏による単独訳。こちらの底本は,1968年から1977年にかけてランサー・ブックス(途中からエース・ブックス)より刊行された全12巻のペーパーバックだ。これは単なる再販本ではなく,内容的にもノーム・プレス版と大きく違っていた。この作品集を監修したライアン・スプレイグ・ディ・キャンプとリン・カーターは,コナンの物語を当時の研究に基づく年代順に並び替えたのみならず,元は独立していた物語同士の“つなぎ”となすべく,ハワードの未完成小説やメモなどを膨らませた補作小説を作品間に挿入したのだった。ディ・キャンプとカーターの試みには賛否両論があり,日本国内でも翻訳家の鏡明や,コナンの影響が色濃いヒロイック・ファンタジー「グイン・サーガ」シリーズの栗本 薫らが当時,批判的な意見を表明している。
 とはいえ,アメリカにおけるコナン人気の起爆剤となったのはランサー・ブックス版であり,イラストレーターにフランク・フラゼッタを起用して,今日の誰もが知るコナンのビジュアル・イメージを確立した功績はあまりにも大きい。実際,マーベル・コミックスが展開したコミック版や映画版をはじめ,今日の関連作品に多大なる影響を与えているのは,こちらのシリーズなのである。
 なお旧・創元推理文庫版は,ペーパーバック全12巻中の7巻目でストップしている。うち第9巻にあたる「Conan the Conqueror」と第10巻にあたる「Conan the Avenger」は,順にハヤカワ文庫版の第1巻,別巻1と同じ内容だが,ディ・キャンプとカーターによるパスティーシュが中心の3冊が未訳に終わっているのだ(前々から翻訳したいと考えているので,興味のある出版社はぜひとも筆者にご連絡を)。

 そして,2つの出版社からほぼ同時期に英雄コナンのシリーズが刊行されていた頃から四半世紀以上の時が流れた2006年,創元推理文庫から改めて「新訂版コナン全集」全6巻が刊行された。こちらは旧版をベースとしつつ,翻訳家の中村 融氏の監修のもと,純粋にロバート・E・ハワード自身の執筆したテキストのみを収録するという方針で編まれた全集だ(長編「龍の刻」など,旧版に収録されなかった作品は中村氏が新規に翻訳している)。作品の収録順についても,最新の研究を反映した並びとなっていた。21世紀における定本となることを期待されたシリーズだったが,刷り部数がそれほど多くなかったようで早々に市場在庫が払底し,2020年に電子書籍版が出るまでの間,入手困難な状況が続いていた。

 さて,このほど完結した現状最新シリーズ「愛蔵版 英雄コナン全集」は,この「新訂版コナン全集」の決定版にあたるハードカバーの作品集だ。監修の中村氏が訳文を精査の上でアップデートしているのみならず,フランク・フラゼッタや武部本一郎(ハヤカワSF文庫版の挿画)など,これまでにコナンを手がけたイラストレーター達の影響下にあることを自他共に認める寺田克也氏が挿画を手がけている。まさしく愛蔵版にふさわしい,豪華な人選だ。
 今日,日本で人気を博しているゲーム的な異世界ファンタジーの水脈を辿るとテーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」があり,さらに源流を遡ると20世紀中頃のアメリカで人気を博した“剣と魔法のファンタジー”の作品群に辿り着く。さらにその向こうに堂々たる存在感を放って聳え立つランドマークこそが,ロバート・E・ハワードのコナン物語なのだ。
 “キンメリアのコナン”の誕生から,今年で92年。愛蔵版全集の完結を機に,若いヒロイック・ファンタジー愛好者はその出発点を確認するため,かつて熱中した読者は新しい翻訳でより解像度の上がった物語を堪能するために,ぜひとも手に取ってみてもらいたい。

新紀元社「愛蔵版 英雄コナン全集1 風雲篇」紹介ページ


■■森瀬 繚(ライター)■■
フリーのライター,翻訳者。最近では小学館集英社プロダクションより「バットマン:ゴッサム・バイ・ガスライト」が2022年8月に刊行され,10月には「バットマン:ザ・ドゥーム・ザット・ケイム・トゥ・ゴッサム(仮)」の刊行を控えている。ホビージャパンの「サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系 クトゥルフの呼び声TRPG」でも,文芸監修を務めている。
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