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【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない
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印刷2019/08/27 11:00

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【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない

とある日の新たな冒険にて


語り部:さて,今回から参加するフェアリーさんだ
フェアリー:よろしくお願いするですよ
戦士:……可憐だ。まかせてくれ,俺が守る!
魔術師:あんまり力むなよ(苦笑)。フェアリーさんは,支援をよろしくな
フェアリー:うふ。得意の技で,パーティに貢献させてもらうですよ

 ということでダンジョンに潜る冒険者一行。

戦士:(落とし穴から這い上がってきて)……うう,死ぬかと思った
魔術師:すまん。落下阻止の呪文は自分にかけるのが精一杯だった
フェアリー:(空を飛びながら)ごめんなのですよ。小さいから,大型の罠の解除は難しくて
語り部:で,弱っているところに恐縮だが,このダンジョンのボスである〈炎の巨人〉が出現するぞ。火焔魔術も使うし,きみらの火焔攻撃無効ね
魔術師:(滝汗)私のメイン呪文が無力。この遭遇,ちゃんとバランス考えてるの?
戦士:(無駄に張り切って)フェアリーさんは後ろに!
フェアリー:後ろにね。あい,後ろに回るですよ。まず幻覚魔法で透明化するですの
魔術師:待ってくれ。自分を守るのも大切だが,いまは……
フェアリー:(にっこり笑って)〈炎の巨人〉の背後に回りますです
戦士&魔術師:……ん?
フェアリー:無音行動に成功しているので気づかれません。毒塗り短剣で,不意打ちで背後から急所狙いして,クリティカル上昇と命中ボーナスの特技を使いますです。(ころん)貫通したですよ。うふ
語り部:……ち。巨人は即死だ
戦士/魔術師:げーっ!?
語り部:そういえば,まだ彼女の職業を教えてなかったな。見た目と種族で支援職と決めつけちゃいかんよ
フェアリー:ども,暗殺者なのですよ


 妖精というのは実に幅広い存在でありまして,これまでの4回で扱ってきたエルフやドワーフ,ゴブリンなどもまとめて,妖精と呼ぶことができます。人とは異なる世界に住む,人とは異なる法則に従って暮らす,超自然的な存在。ヨーロッパの伝承に登場する「小さな人々」としての妖精です。自分達の隣に,自分達とは違う誰かがいて,運や不運だけで納得できない良いことや悪いことを,彼らに託して理解する。そういう意味では,妖精と日本の妖怪はよく似ているかもしれません。てゆーか,ワタクシとしては本質的には同じもんなのだろうと考えております。
 さて本来はそういった幅広さを持っている妖精ですが,であればこそ,全体を語ろうとすると,この連載を丸ごと費やすことになってしまいます。いや実際,既に費やしてるわけですけど。今回はその中から,いわゆる「フェアリー」系と,そのほかの“不思議な”種族に絞ってお話していこうと思っています。

 妖精の中でもフェアリーというと,おおよそ以下のようなイメージではないでしょうか。

  • 通常の人間よりはるかに小さくて身長は50センチ以下。だいたい30センチ程度で,10センチくらいの場合もある。
  • 背中に蝶のような羽があって,魔法の力で空を飛ぶ。
  • 性格は子供っぽくて無邪気。いたずら好きで,ちょっとわがままなところも。
  • 好奇心が強くて,いろんなものを面白がる。
  • 物理的な危険に無頓着なところがある。
  • 見た目もおおよそ子供。年をとることがない。
  • ほとんどが女性形態。
  • 魔法に親和性が高い。
  • 可愛い。

 こうしたフェアリー像は,おおよそ18世紀から19世紀にかけ,欧米で確立したもののようです。もちろんそれ以前にもフェアリーはずっといたのですが,その時点では人間と大差ない見た目でした。とはいえ,標準的な人間よりも遙かに美しいという特徴はあるのですが。
 こうした人間大のサイズのフェアリーがよく登場するのは,中世のロマンス(騎士道冒険物語)です。とびきり美しい女性の姿をしており,魔法を巧みに使いこなします。主人公である騎士と恋に落ちて,彼を助けたり,ときにトラブルを引き起こしたりと,まあ要するにヒロインですな。いまどきのライトノベルと,細部はともかくキャラクターの本質的な立ち位置は変わりません。ある意味,こうしたテンプレには千年の伝統があるわけです。だからフェアリーが少女,もしくは美女のイメージなのは,この頃から変わっていません。まあ昨今は,少年のフェアリーを見かけることもありますけど。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない


フェアリーはどこから飛んでくるのか


 そもそもフェアリーという言葉の語源は,「Fae(フェー)」あるいは「Fey(フェイ)」という単語であろう,という説があります。これらは元々は「魔法をかける」という意味でしたが,転じて「魔法を使いこなす女性」を表わすようになりました。アーサー王伝説に登場する魔女,モルガン・ル・フェイとかは聞いたことがあるんじゃないでしょうか。この名前にあるフェイがそれです。
 魔法を使う美女の呼び名から,“魔法に親しい,尋常ならざる者達”を指す言葉が生まれたわけですね。なので,定義というか語源からしてフェアリーは女性型であり,魔法を使いこなして当然なわけです。「運命」という意味の言葉「Fate(フェイト)」とも関連しているとされ,人の過去,現在,未来を定める運命の女神達(モイライ,あるいはファータ)が落魄した姿がフェアリーである,という見方もあるようです。

「妖精の誕生」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.002のサムネイル画像 / 【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない
 ちなみにここまでの話は,今は亡き社会思想社の現代教養文庫――古参ゲーマーには「ファイティング・ファンタジー」でお馴染みの――から出ていた「妖精の誕生」(トマス・カイトリー著)という名著がネタ元になっています。邦訳が出たのが30年前,原書は19世紀半ばに出版された本ですが,妖精についての知識がたくさん詰まっていまして,これまでの4回にも大いに参考させてもらいました。
 今だとKindleで買えちゃうみたいですね。このほかに,紙の本で妖精のことが知りたいなら,とりあえず井村君江先生のお名前が入っていれば,だいたい信用していい本だろうと思います。

 話が逸れました。
 さて,それまで“人間と同じ大きさの美女”として描かれてきたフェアリーが,背中に羽根が生えた小さい美少女(ときどき美少年)に変化するにあたり,大きな役割を果たしたのは伝承や創作物語ではありません。絵画,とくにイギリスで流行した「妖精画」の影響です。中でも有名なのは,アーサー・ラッカムシシリー・メアリー・パーカーといった,19世紀から20世紀初頭の画家でしょうか。彼らによって描かれたのが,いまのフェアリーのイメージそのままの,蝶の羽を持って飛び回る美少女(ときどき美少年)だったのです。ここで人間大から体のサイズが縮んだのは,後述する“屋敷や野原に隠れ住む小さな妖精さん”伝承との融合もあったことと思います。
 作家アーサー・コナン・ドイルの伯父,リチャード・ドイルもまた妖精画家でした。シャーロック・ホームズの生みの親として著名なコナン・ドイルですが,彼は伯父の影響か心霊肯定論者であり,そして妖精実在論者でもありました。研究家といってもいいのでしょうが……絵本のイラストを使ったトリック写真にころっと騙され,それを実在の証拠と言いっちゃうあたり,研究と呼ぶにはちょっと無批判すぎるかもしれません。「コティングリー妖精事件」として知られるエピソードですが,逆に言えばコナン・ドイルも信じちゃうほど,フェアリーといえば背中に羽があって小さくて飛び回る,というイメージが定着してたってことかもしれません。


「ティンカー・ベル」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.004のサムネイル画像 / 【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない
 それにしても,どうして蝶の羽なのでしょうか。“小さい人”の姿をした妖精なら,フェアリーのほかにもいますが羽は持ちません。一つ思いあたるのが,「妖精は,洗礼を受けられなかったために天国に行けず,彷徨う子供達の魂なのだ」という話です。中国にも「胡蝶之夢」なんて話がありますが,「人から魂が抜けだすと,蝶の形をとる」というのは,どうも洋の東西を問わず,かなり古くからある伝承のようなのです。肉体をもたず,純粋な魔法のかたまり,霊的な存在であることの象徴として,蝶の羽を備えているのかな,なんて私は思っています。

 ああ,もちろん蝶の羽ではないフェアリーもたくさんいますよ。「妖精といえばフェアリー」というイメージを定着させるに至った,最も有名なキャラクターがその一人です。名作「ピーターパン」に登場するティンカー・ベルです。最も有名なディズニーアニメ版では,蝶の羽ではなく,透明で細い(わりと実在しない)形をしていました。挿絵や舞台(元はそもそも戯曲ですし)では,蝶タイプの場合もありますけどね。
 これは私の想像ですが,蝶とトンボやハチでは,飛び方が違いますよね。蝶はひらひらふわふわですが,あのアニメのティンカー・ベルの性格と役割には,その飛び方は似合わないように思います。だからもっとスピード感と軽快さに見合った形の羽がデザインされたのではないでしょうか。


戦闘民族その名はフェアリー


 一般的にはこうしたふわっとした可愛い印象を持った種族であるフェアリーですが,多種多様なファンタジー世界の中には,フェアリーが剽悍無比(ひょうかんむひ),残忍凶暴な戦闘種族として登場する世界もあったりします。残忍凶暴はちょっと言いすぎですが,そもそも小さい体で高機動&静音性の高い飛翔体は,けっこう暗殺適性が高そうです。

 凶暴な戦闘種族としてフェアリーが登場する場合,いくつかのパターンがあります。
 そのうち一つは,蝶の羽(もしくは昆虫の羽)を持っていることから,妖精ではなく昆虫の特徴を持った異種族として設定されている場合です。ただ,こういう場合はもはや「妖精」じゃなくなっているので,また稿を改めて「昆虫系異種族」の回でご紹介してみたいと思います。
 本来の妖精,魔法的な存在でありながら,戦闘能力の高さでもてはやされるフェアリーには,世界設定でそもそも戦闘民族として設定されている場合と,その種族的な特性によって後天的に戦闘民族化していく場合の2パターンがあります。

「混淆世界ボルドー」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 前者の「勇猛果敢な戦闘民族だ」という設定でフェアリー的な外見の種族が登場する作品として,真っ先に思い浮かぶのは「混淆世界ボルドー」でしょう。知ってます? 1988年からサイバーコミックスで連載され,単行本2巻のみで中断しているマンガです。
 舞台は地球の第二の衛星(地球からは見えません)。地球のさまざまな時代から転移していった戦士達,文明の産物が,その世界固有の魔法と混淆(こんこう)され,科学と魔術,剣と巨大ロボ,騎士と侍と近代の軍隊がぶつかりあう物語で,後世のさまざまな作品に影響を与えました。このボルドーに,リーシールという人工生命体がいます。羽は昆虫タイプでなく,蝙蝠もしくは翼竜に近い(ファンタジーらしくドラゴンというべきかしらん)のですが,身長は30〜50センチ程度で美少女の姿をしており,フェアリー的なシルエットです。拙作「ルナル・サーガ」のフェアリー系種族であるフェリアが戦闘民族なのは,実はこの「ボルドー」由来だったりするのですが,そのへんは昆虫種族の折にまたあらためて。

 とくにそういう設定でもなく,ひらひらふわふわした妖精なのに,ゲーム上の特性から戦闘民族呼ばわりされている例としては,テーブルトークRPG「トンネルズ&トロールズ」(第5版)のフェアリーがこれにあたります。このゲームでは筋力や器用度,そして幸運度といったパラメータによって,物理戦闘力にボーナスがつくのです。で,フェアリーは幸運度が非常に高いためボーナスが大きく,攻勢を仕掛ける限りにおいて殲滅力が非常に高い。固定値は正義。とはいえ,防御力はないので,受け身に回ったとたん,はかなく散るんですけど。
 最新の版である「トンネルズ&トロールズ完全版」(第8版相当)では,その辺りに調整が入ってまして,近接戦闘ではドワーフが猛威をふるう感じになっています。呪文も使いこなし,音もなく忍び寄って肉体の大きさに関わりない必殺の一撃をくりだすフェアリーは,戦士よりもやっぱり暗殺者として活躍できそうです。


時を超える妖精郷とその住人達


 ゲームやアニメ,漫画におけるフェアリーは,敵役として登場することは少なく,どちらかと言えばマスコットや,主人公に助けを求めるヒロイン的な存在であることが多いですよね。「混淆世界ボルドー」の,さらに源流にあたる1984年のテレビアニメ「聖戦士ダンバイン」では,妖精ミ・フェラリオのチャム・ファウがずっと主人公に寄り添い,物語のすべてを見届ける役割を担っていました。
 妖精達は,さまざまな魔法の品を守護していたりすることもあって,癒しの力を持つ妖精の粉や,自らはふるうことのできない魔剣などを主人公に与え,使命達成に力を貸してくれるのです。そらもう,筆者も「ゼルダの伝説」でどれだけ助けてもらったか。

初代「ゼルダの伝説」より。筆者は当時大学生で,暇だったからか1日1回はクリアする勢いでやり込んでおりました
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 ですが,常に味方というわけではありません。モンスターとして登場する場合もあって,その場合は概ね「恐ろしくはないけれど,果てしなくウザい」みたいなことになりがちです。先の「トンネルズ&トロールズ」のピクシーは,善良なフェアリーを模して生み出された邪悪な存在ですが,能力値を下げる魔法をかけてくる,大変に面倒な相手です。そうそう,フェアリー型の妖精がモンスターとして出てくるときは,ピクシーやスプライトといった名前になっていることが多い気がします。
 モンスターとまではいかずとも,ちょっとした悪戯が重大なトラブルをまねくパターンもありますね。どっちかというと,敵というよりトラップみたいな感じで。例えば「自らを他者から認識できなくする(要するに透明化)」「他者に幸運や不運を招く」「ちょっとした苦痛や不都合をもたらす(痒いとか,ちくりと痛いとか,ものを落とすとか)」といった,ささやかな魔法を使われて,でもタイミングが悪くて大惨事,みたいな。攻撃を剣で受け止めようとしたその刹那,指が痺れて剣を取り落として,とかね。……南無南無。

White Wolfの人気RPGシリーズ「World of Darkness」に連なるタイトルとして1995年に発売された「Changeling: The Dreaming」。2007年には後継作「Changeling: The Lost」もリリースされている(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.007のサムネイル画像 / 【月イチ連載】「異世界Role-Players」第5回:フェアリーと妖精族〜あのコ達の刃は侮れない
 一方でより深刻なのが,彼らが悪意や敵意からではなく,善意や偶然によって主人公の前に立ちはだかるようなケースです。この場合は個々の妖精がというより,彼らが住む「妖精郷」という世界そのものが問題となります。妖精の住む世界は,人間が住む世界と時の流れが異なることが多く,結果的に困ったことになっちゃうのですね。
 この世から,ほんの薄皮一枚を隔てた異界へ入りこんでしまい,わずかな時間を過ごしたつもりが,戻ってみると何百年も過ぎていた。日本で言えば「浦島太郎」,ヨーロッパだと「リップ・ヴァン・ウィンクル」のおとぎ話です。時間制限のある冒険なんかでは,これが非常に困りもの。妖精郷で時を無駄にすると,大変なことになってしまいます。
 一方,妖精の世界で何年も過ごしたのに,戻ってきたら一瞬でしかなかった,なんてパターンもあります。「不思議の国のアリス」とか。その間に剣や魔法の修行をしていれば,短い時間で強くなれちゃうかもしれないですよね。うーん,チート。

 ときにはこの妖精にさらわれて,妖精郷で育った人間というのもいます。魔法に長け,剣の修行もして,無垢で美しい。で,大抵こういうときは,妖精側が代わりの子供を置いていくのです。取り替え子=チェンジリングというやつです。
 これで妖精郷で暮らすことになった人間の子供はともかく,人間界ですごさなくてはならない妖精の子供は,とんでもなく苦労するハメになります。魔法という生来の感覚,機能から隔絶されて育つわけですから。こういうのも,いろんな作品でテーマになっています。以前にも紹介したコミック「スピーシーズドメイン」もそうですね。未訳ですが「Changeling: The Dreaming」という,そのままずばりなテーブルトークRPGもありました。


地面の下のちっちゃな人々


そしてまた新たな仲間を加えたとある日の冒険


語り部:今日もまた新キャラがいる
レプラカーン:どうも。ちっちゃなおっさんじゃ
語り部:レプラカーンだよ。レプラコーンでも,言いやすいほうでいいけど
戦士:まさかあんたも暗殺者じゃないよな?
レプラカーン:ほっほっほ。わしの種族は,生まれついての魔術師じゃよ。フェアリーと違って空とか飛べんしな。あとは,手工業の生産職を少々
魔術師:レプラカーンといえば,寝てる間に,仕事を手伝ってくれる妖精じゃなかったか?
戦士:いわゆる小人さんか! 確か靴を作ってくれるんだっけ?
語り部:たまに原稿も書いてくれるが。君は?
レプラカーン:わしが得意なのは桶じゃよ,桶

 などと言いつつ,今日も今日とてダンジョンへ。

語り部:きみらの目の前に,ゆらゆらとした動きで眠りにさそう大蛇,ヒュプノパイソンが出現した
戦士:ははは,眠りさえしなければこんなやつ。……ぐう
魔術師:なにやっとるんだ! まあいい,蛇なら弱点は……すやすやすや

 しばらくして。

戦士&魔術師:のわーっ!? 蛇はどうした!(目覚める)
レプラカーン:ほっほっほ。あんたらが眠ったんで,仕事がはかどったわい
語り部:ヒュプノパイソンは,じいちゃんの氷の呪文で倒されたよ
レプラカーン:わしが得意なのは,桶は桶でも棺桶作り。それも《氷の棺桶(アイス・コフィン)》の呪文なんでのう


 妖精にもいろいろなタイプがいるというのは,冒頭でも少し触れました。羽がなくて,地面の下なんかに住んでいて,だいたいおっさんなヤツら。少し羅列的になってしまいますが,いくつか紹介していきましょう。

 以前の回で紹介したドワーフやホビット,ノームの源流もそうなんですが,妖精と呼ばれる場合はそれよりもさらに小さく,身長は50センチ以下であることが多いようです。中でも,プレイヤー種族として登場することが多いのはレプラコーンでしょうか。テーブルトークRPGですと,この連載でもよく引き合いに出している「トンネルズ&トロールズ」や,「ソード・ワールド2.0 / 2.5」でも選択できる種族です。
 眠っている間に,こっそりお仕事を手伝ってくれる妖精,という伝承がありますが,あれがレプラコーンですね。うっかり御礼をすると出ていっちゃうという,面倒くさい性格をしています。このお手伝いや職人気質という要素が,ゲームでは活かされることが多く,手先が器用だったり,アイテムを扱うのがうまかったりといった特徴を持っています。
 お手伝い妖精としては,屋敷など家屋にとりつくブラウニーもそうです。スラブ系伝承の妖精,キキモラなんかも近いですかね。酔っぱらい要素をくわえたクルーラホーンや,家ではなく塚や墳墓で宝を守るスプリガンあたりもそうでしょうか。スプリガンなどは,宝を守るために巨人になるとか,たまに人を食ったりするとかで,強敵モンスターとして登場することもありますけど。

 おっさんではありませんが,ギリシャ神話の森の妖女ドライアド,清らかな水の精霊ニンフなども,妖精に近しい存在です。そもそも小さくもなく,人間サイズの美女として描かれるので,どちらかというと中世ロマンスにおける妖精のイメージに近いかと思います。むしろ,そうした妖精像の源泉となったのが,こうしたギリシャ神話の精霊達なのです。
 彼女達は魅惑の力を持っているので,気に入った男性を自分のもとに縛り付けておこうとします。ドライアドなんぞは,文字どおりツタで縛ったりもしますな。美女と一緒に時間を忘れてついつい長居してしまう……時の流れが異なる妖精郷というのも,一皮むけばただそれだけの話なのかもしれません。

「誰も知らない小さな国」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 いままで語ってきたのは,主としてヨーロッパに伝えられてきた妖精のお話です。アラビアにはジンがいますし,日本には妖怪がいます。アイヌの伝承に出てくるコロボックル,琉球のキジムナーなども押さえておきたいところ。こうした小さな人の伝承を使った物語としては,児童文学に傑作が多いですね。メアリー・ノートン「床下の小人たち」(アニメ「借りぐらしのアリエッティ」の原作です)や,佐藤さとる「誰も知らない小さな国」など。どちらも,大人になってからでも,ぜひ読んでいただきたい作品です。

 現代の大人向け作品では,伝承としての妖精といまふうのセンスを融合させたユーモアファンタジー(+ラブコメディ)の「フェアリーテイル」シリーズ(シャンナ・スウェンドソン,創元推理文庫)をおススメしておきます。こちらは,子供時代に妖精と出会ったことのある大人の女性が,ある日妖精郷の王位継承争いに巻きこまれるお話。主人公が,しっかり自立した女性で,かつ可愛げがあってたいへん楽しい。脇を固めるキャラクターや,登場する妖精達(人間と同サイズのタイプですが)も個性豊かで面白いですよ。同作者の「(株)魔法製作所」シリーズも面白いです。
 あと「妖精の女王」という点では,少女漫画の巨匠・山岸涼子の傑作ファンタジー「妖精王」も忘れてはなりません。こちらにも人間サイズの妖精が登場しますが,可愛くてふわふわしたほうではなく「本当は恐ろしい妖精伝説」の側面が描かれる,骨太の本格ファンタジーです。1970年代に青春を過ごしていたファンタジー作家なら,まず遭遇しているであろう1冊。ぜひ,ご一読あれ。


妖精らしくふるまうために


 妖精っぽいふるまいって,さてどういうものでしょうか? 
 もちろん世界設定にもよるんですが,フェアリーのキャラクターでゲームを遊んだり,物語に妖精を出そうと思ったときに気をつけたいのは,やはり「時間が止まっている」種族であることじゃないかと思います。人間とは異なる時間の流れで生きている。これは第一回でふれた永遠の命を持っているエルフにも共通することですが,エルフはまだしも「時間は流れる。ものはうつろい変化し,生き物は成長し老化する」という概念は理解しています(少なくとも現代ファンタジーのエルフは)。しかし,多くのフェアリーは,その“時間が流れる”という概念さえありません。だからこそ,フェアリーは永遠の子供なのです。良くも悪くも子供っぽいふるまいをすると,フェアリーらしくなる,と言えます。

漫画に出てくる生粋の妖精といえばこの人,「ベルセルク」のパックさん。彼もまた,よく子供っぽいふるまいをしています(リンクはAmazonアソシエイト)
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 ただ,単なるわがままや好き放題が子供らしさというわけでもありません。フィクションにおける,ある種の理想としての「子供らしさ」を考えてみてください。子供って純粋無垢なものでもありませんが,かといって考えが足りずに大人をふりまわす面倒くさいだけの存在でもない。年を食った人間が,一つの側面だけで語り切れないように,子供だって多様な面を持っているのです。
 それと同時に,子供っぽさを演じるなら「手の届く範囲が狭い」ということを意識するといいかもしれません。家族や友達という絆,冒険者であるなら仲間という絆,それ以外にはなかなか目が向かないのです。

 もちろん冒険を続けて,物語が紡がれていけば,さまざまな出会いがあり,世界が広がっていくはずです。もともと見えている世界が狭いからこそ,フェアリー達は「好奇心が強い」のでしょう。なので,ほかのキャラクターが「そういうものだ」と既に受け入れてしまっていることにも,フェアリーは疑問を持つことができます。ときにはその疑問が,クリティカルに現状を打破してくれるかもしれません。
 フェアリーのイタズラだって,人を困らせたいのではなく,「こうしたらどうなるのか知りたい」という好奇心の発露であったり,「こうすれば自分は面白いから,みんなだって面白いだろう」という優しさであったりするのです。自分のふるまいの本当の意味が何かを,仲間たちと共有しておくと,トラブルは少なくなります。

 しかし,フェアリーもいつまでも純粋でい続けることはできないでしょう。疑問の答えが与えられるたびに,否応なく,時は過ぎていくのです。変化や変転,成長と流転,減衰老化という概念を理解してしまったとき,フェアリーはもはやフェアリーでいられなくなります。ですが,そうして人間臭くなったフェアリーのほうが,冒険者としては扱いやすいのかもしれません。

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 もう一つ,妖精らしさといえば忘れてはならないのが「恋」の扱いです
 物語のフェアリーは,いともあっさりと恋に落ちます。そして恋すれば一途です。ここでもまた,視野の狭さという彼らの特性が顔を出します。どれだけ大事なことも,定められた使命も,みずからの生命も,恋した相手のためなら犠牲にできるのがフェアリーです。肉体的な差異が大きく,そもそも霊的な存在であるために,結婚といったゴールにはまず至らないフェアリーの恋ですが,だからこそ激しく,そしてピュアなのです。フェアリーを演じるのであれば,一度くらいは英雄や,あるいは英雄になり損ねたパートナーを見つけて,激しい恋に身を焦がしてみるのはいかがでしょうか。

 さて,今回までは「妖精」という枠におさまる異種族についてお話してきましたが,それも一区切り。9月24日掲載の次回は,「獣人」という種族についてお話しようと思います。神話伝説に登場するものから現代ファンタジーオリジナルの概念まで含めて扱えればと思いますが,どうなることやら。基本的には,もふもふとした毛皮持ちの種族についてのお話になる予定です。
 また,よろしくおつきあいください。

■■友野 詳(グループSNE)■■
1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト)
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