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[GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた
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印刷2019/03/23 22:17

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[GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた

画像集 No.004のサムネイル画像 / [GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた
 2018年に多くのゲーム賞を受賞したアクションアドベンチャー最新作「ゴッド・オブ・ウォー」PS4)の開発を指揮したSIEサンタモニカのクリエイティブ・ディレクターCory Barlog(コリー・バーログ)氏がGDC 2019に登壇し,「Reinventing God of War」(ゴッド・オブ・ウォーを発明し直す)というタイトルのセッションを行った。

Cory Barlog氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた
 ド派手なアクションで爽快にプレイできる「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズの最新作についての動向が,本誌で最初に報告されたのは2014年12月に開催されたPlayStation Experience 2014におけるイベントでのことだったが,シリーズ第4作の企画が最初に生まれたのは2013年夏のことだったという。第1作にアートディレクターとして開発に参加して以降,デザインや脚本などに関わってきたBarlog氏は,まだ構想が生まれてから4週間ほどしか経っていない段階で,当時のソニー・コンピュータエンターテイメント・アメリカ(現ソニー・インタラクティブエンターテイメント)でPlayStationのゲーム開発部門を率いていたScott Rohde(スコット・ロード)氏に,最初のピッチを行ったという。
 “ピッチ”というのは,ピッチャーがバッターに向かってボールを投げるように,「上司や顧客への,企画や商談の説明」を投げる,という意味を持つアメリカのスラングだ。

 この時点で,Barlog氏の頭の中にあった構想は,お世辞にも練り込まれたものではなかった。ハッブル望遠鏡が捉えた無数の銀河や星雲が混じり合った画像をイメージしたという,「太古の昔にはギリシャ神話も北欧神話も同じ領域にあり,社会が分裂していったことで別々に考えられるようになったもの」というコンセプトだけで,ゲームについてそれほど深く考えていなかったらしい。
 ゲームのポイントとして挙げられる,「キャラクターが成長し,世界が変化していく」や「SIEの強みを生かす」というならまだしも,「アクションアドベンチャージャンルの王者となる」や「ゲーム・オブ・ザ・イヤーを取る」といった修飾語が並べられていたものだったという。これだけでは,誰も本当にゲーム・オブ・ザ・イヤーになる作品ができ上がるとは考えなかっただろう。

 2014年に年が変わり,今度はワールドワイドスタジオの吉田修平氏にピッチを行い,ゲーム開発の予算を獲得することになった。このときには,実際の企画もかなり練り込まれており,映画「スタートレック」の新旧作品をモチーフにして,現存するファンを損なわずにリブート作品を作る一方で,オリジナル3部作の時系列を損なわないような作品となることが発表された。
 このとき,Barlog氏は最終的に適切な副題が付けられるのだろうと考えていたが,結局はただの「ゴッド・オブ・ウォー」という,仕切り直し的なタイトルに収まっていったという。

画像集 No.007のサムネイル画像 / [GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた

 しかし,吉田氏に向けた企画の説明時には,まだ具体的なストーリーは決まっておらず,すでにクレイトスの息子は成長し切っているようなイメージだったそうだ。それでも,より近接した親近感のわくようなカメラや,ただの殺戮ではない意味のあるアクションといった「コンバット」,プレイヤーに世界の在り方を発見してもらう「探索」,北欧神話の世界へと飛び込んでいくデミゴッドである父親と息子の「ストーリー」,さらに父が子にサバイバルを教えたり,二人の微妙な関係を描くという「キャラクターディベロップメント」といった基本要素はでき上がっていくことになる。

画像集 No.006のサムネイル画像 / [GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた

 同じ説明を多くの広報やマーケティング担当者たちの前でも行ったが,中にはスマホをいじり出す人もいたり,何のリアクションも起こさない人も多く,この頃のプロジェクトの方向性にはBarlog氏自身も疑問に感じていたそうだ。
 それでも,構想が練り込まれていく中でゲームデザインも決まり,クレイトスの肩越しからの視点になるアクションや二人のキャラクターの連携,キャラクターデザインやアートワークが生み出されていく。とくに,「カットシーンをなくしてアクションとストーリーをシームレスに表現し,ゲームの開始時点から終わりまでカメラワークが途切れない」というBarlog氏の無理難題はさまざまな部門のスケジュールに影響し,それ応えた部下には感謝しても仕切れないと素直に語っていた。

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 こうしてE3 2016のプレスイベントにおいて,「ゴッド・オブ・ウォー」のゲームプレイデモがメディア向けに初公開されることになるが,そのデモを行うのはBarlog氏に決まったのだという。
 しかし,とくにゲームエンジンはまだ未調整な部分が多く,照明効果においては40%ほどしかオプティマイズされていないという段階であり,このデモはゲームの良い部分を見せるよう別開発されたために,それも開発チームにとっては大きなプレッシャーとなったとのこと。まだ,正式にローンチされる2年も前のことだ。
 Barlog氏も,そうした開発チームの努力に報いようと,美しい景色の見える方向にしっかりとカメラを向けられるようにしたり,アクションが非常にダイナミックに見えるよう何度も何度も練習を重ねたという。最悪の場合を想定して,マップ中には透明な“バンパー”(特定の場所に行けない壁のようなもの)を設け,時間どおりにデモが進められるように仕掛けられたらしい。

画像集 No.009のサムネイル画像 / [GDC 2019]2018年度ゲーム・オブ・ザ・イヤーの誕生秘話 〜「ゴッド・オブ・ウォー」の新作開発ではこうして上層部を納得させた

 面白かったのは,そうして作られたゲームデモを成功させようと,大きなプレッシャーを抱えたままプレスイベントのバックステージでも頭の中でシミュレートしていたが,小島秀夫氏のグループが入ってきた途端に吹っ飛んでしまったというエピソードだ。小島氏のマネージャーがBarlog氏のいる場所にやってきて,「今から中華料理の持ち帰りを食べようと思うのですけど構いませんよね? 匂いますよ」と言われたときには,最初にどのようなアクションからスタートするのかも忘れてしまったと笑いを取っていた。

 Barlog氏のセッションは,終始にこやかな雰囲気の中で進行していったが,GDCではインディーズやクラッシックゲームに関するポストモーテム(事後検証)が多い中,SIEのような大企業に属する開発者という視点からの,ゲームの裏話が聞けるのはなかなか面白かった。
 セッション後のQ&Aでは,「次回作のことを質問されても何も話せませんよ」と念を押していたBarlog氏だが,高い評価を得た新生「ゴッド・オブ・ウォー」の続きを早く遊びたいというファンは少なくないはずだ。

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