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[GDC 2025]アトラスのRPGはなぜ“悪魔的”に難しいのに面白いのか──「メタファー:リファンタジオ」が挑んだ,コマンドバトルの再構築
“ファンタジーに向き合う”という新プロジェクトとして開発がスタートした本作は,独自の世界観と物語,そして戦略性の高いバトルシステムにより,国内外で多くのゲームファンを魅了した。
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2024年のThe Game Awardsでは,「BEST RPG」「BEST ART DIRECTION」「BEST NARRATIVE」の3部門を受賞。先日開催されたGame Developers Choice Awardsでも「Best Narrative」に選ばれるなど,ゲームの作り込みはこうしたアワードの結果にも表れている。
そんな本作だが,スタジオ・ゼロの開発者たちは,それこそメタファーの主人公たちの戦いのように気高く,そして手強いバトルを,開発の裏側で挑んでいた。日本的なターン制RPGを,現代のゲーム体験としてどのように成立させるべきか──。
それはゲーム本編とは別の,もう1つのチャレンジだった。
GDC 2025で行われたセッション「Developing 'Metaphor: ReFantazio' and the Potential of RPG Command Battle Systems」では,そのプロセスや試行錯誤,アトラスのバトルに関する思想が語られていった。本稿ではこの講演の内容をレポートしよう。
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なぜ今,ターン制RPGに向き合うのか
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最初,後藤氏は「ターン制RPGと聞いてどんな印象を抱くか」と会場に問いかけた。というのも現代におけるターン制RPGは,「古臭い」「ゲームオーバーになるとリスタートが面倒」「レベルの低いザコとの戦闘がだるい」といったマイナスのイメージを持たれがちで,ジャンルそのものが“時代遅れ”と見なされる傾向にあるからだ。
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それでもアトラスは,そうしたイメージの中心にあるコマンドバトルRPGを得意とし,長らく作り続けてきた会社だ。
だからこそ「日本のRPG文化」を継ぐ存在として,それを現代のプレイヤーに届く形に再構築する責任がある――そんな使命感が,メタファーの開発には込められていた。
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バトルの“退屈な作業化”を防ぐ「ファスト&スクワッド」システム
開発当初,最初の課題となったのは「ザコ戦が作業になりがち」という,ターン制RPGの典型的な弱点だった。
メタファーでは構想初期から,アクション要素とターン制バトルを融合させるというアイデアがあり,プレイヤー的に勝敗が見えている戦闘を減らすことを目標としていた。
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そのために導入されたのが,「ファスト&スクワッド」という2段階の戦闘システムだ。ファストではフィールド上で敵に先制攻撃を与え,相手が格下であればそのまま即撃破。一方で,同等以上の強さの敵ならスクワッドに切り替わり,コマンドバトルで挑むことになる。
どちらでも得られる経験値は同じだが,これによって「明らかに勝てる戦闘」の煩わしさを削減できた。
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ただ,開発中は一時的に「高レベルの敵でも,がんばればフィールド上で即撃破」という方向に進んだ時期もあった。アクション要素に引かれすぎて,ゲームの中核であるはずのターン制バトルが,“回避すべきもの”のような立ち位置になってしまったのだ。
上記の仕様でテストしたところ,テスターたちに「コマンドバトルをするべきなのか,それともフィールド上でがんばるべきなのか,正解が分からない」という混乱を招いてしまった。
また,実際はターン制に持ち込んだほうがゲームが早く進むのに,「MPを消費したくない」という理由でファストで叩き続けて,結果的にプレイ時間が長引く例も出てきた。つまり狙いとは逆となる,より面倒な方法で乗り越えさせる事態を引き起こしたのだ。
これについては後藤氏は,「あれは迷走だった」と振り返る。この反省を経て,「アクションは明らかに勝てる戦闘を減らすための導線であり,主役はあくまでコマンドバトル」という方針をあらためて明瞭化した。
「納得できるか」が設計を決める
次に見直されたのが,「プレイヤーが手持ちのリソースを使い切る前にゴールにたどり着けるか?」という“リソースマネジメント”について。ダンジョンに入り,消費したHPやMPを見てアイテムを使うかどうか,先へと進むか引き返すかを考えるといったように,RPGの遊びの中心にはリソース管理がある。
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とくに「MPを使わせる場面を作る」のはRPGで大事なことだ。そのため当初は,「先に攻撃しても,一定確率で敵に先制される」というルールを組んだが,プレイしてみるとそれは「理不尽」で面白くなかった。
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理論上は正しくても,遊んだときに納得できなければ意味がない。結果として「先に攻撃した側が必ず先制できる」というシンプルなルールに変更された。最適行動を取り続けた場合,MP消費は想定よりも抑えられてしまうが,実際に遊んでみると圧倒的にそれが面白かったのだ。
この変更によって,フィールドとバトルの因果関係がより明確になり,プレイヤーの行動と結果の一致が見えてきた。おかげで,ファストアクションの重要性も自然に伝わるようになったという。
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アトラス式の厳しさと,“やり直しやすさ”の両立
アトラスのRPGは「高難度」で知られている。冗談交じりの声ではあるが,「厳しい」「サディスト」といった反応は世界共通で見られる。ではなぜ,そんなに悪魔的な難しさにするのか? その背景には,強くなるための報酬に“重み”を持たせたいという思想があるらしい。
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もしバトルが簡単すぎたら,プレイヤーは探索や強化をサボってしまうかもしれないし,なによりゲームに向き合わず,流して遊んでしまうかもしれない。つまり「報酬が無意味になる=ゲーム体験の死」につながる。だからこそ,バトルはある程度「キツい」と感じてもらえる設計が必要だというのだ。
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しかし現代のゲームでは,「失敗=やり直しが大変」という構造は好まれにくい。そこでメタファーでは,何度でもペナルティなく戦闘の最初からやり直せる「リワインド」機能が導入された。
同時にオートセーブも非常に細かく設計され,マップ移動やアイテム取得のたびに記録されるようにした。これは本作のボスや強敵との戦いで,相性の影響が大きく出る「アーキタイプ」の仕組みにも良いものを生んだ。あるボス戦を不利な編成で挑んだとしても,すぐに直前からやり直せることで,試行錯誤のテンポが崩れなくなったのだ。
「何度もやり直せることでスキルを“チート”的に使えるのでは?」という声もあったが、実際にそれをやろうとすると手間がかかるうえ,得られるものも少ない。むしろ,少しズルできるくらいの感覚があるほうが,不運な展開によるストレスを和らげてくれると考えた。
さらに,ほかのプレイヤーの編成をオンラインで確認できる機能や,推奨アーキタイプをクエスト画面に表示する仕組みなども整備し,挑戦の中に“安心”がある設計としていった。
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チームを支えた,ライブ配信型プレイテスト
後藤氏はセッションの後半で,開発終盤に実施したユニークなプレイテスト手法を紹介した。
それは,ほかの開発チームのメンバーによるプレイの様子を,会議室でリアルタイム配信し,開発メンバーが業務の合間に観察できるようにする「ライブ配信型プレイテスト」だ。協力者に対面報告やレポートを求めるのではなく,あくまで自由な観察に徹するのである。
映像は録画も残し,初心者同然のプレイヤーの“迷い”を可視化する手がかりとして活用し,チュートリアルや敵の強さの調整に生かした。
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開発チーム外のメンバーに協力してもらう従来のプレイテストは,立場に関係なく自由なフィードバックを出してもらうための手法で,アトラスでは以前から続けられてきたものだ。
ただ,開発も終盤になると明確な課題が見つかりにくくなり,協力者たちは「なにかしら指摘しなければ」という空気から,フィードバックの内容が粗探しのようになってしまうことがある。
その結果,どれほど建設的な指摘であっても,受け手の負担となって積み重なり,精神的に苦しくなるケースもあったという。
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こうした課題を受けて導入されたライブ配信型のプレイテストは,ある程度ゲームができあがった開発終盤に限定されるという制約はあるものの,開発者たちが自らの意志でプレイを観察し,気づき,改善していく流れを自然に生み出せる有益なものだ。
レポートを介さず,開発者がプレイの様子を直接見て判断できるため,「誰かに言われて直す」ではなく,「自分たちで気づいて改善する」という前向きな空気が生まれ,モチベーションの向上にもつながった。
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ターン制バトルに,まだ未来はある
「ターン制RPGを面白くする魔法のレシピはない」。時代の空気を読みながら,自分たちが作りたいものを,大事にすべきことをしっかり持ってそれに挑めば,古いジャンルでも新鮮な体験を感じさせることはできる。根っからのRPG好きだという後藤氏はセッションの最後,会場の聴者たちに向けて「なにより自分が,いろいろな国のクリエイターが挑戦するRPGを遊びたいのです」と語り,公演を締めくくった。
ターン制RPGには,まだまだ可能性がある。メタファーという1つの挑戦は,それを証明する具体的な事例になったと言えるだろう。
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