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[GDC 2019]傑作VRアクション「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」は,“VRならではの3人称アクションゲーム”をどのように実現したのか
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印刷2019/03/22 18:25

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[GDC 2019]傑作VRアクション「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」は,“VRならではの3人称アクションゲーム”をどのように実現したのか

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 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)が2018年10月に発売したPlayStation VR(以下,PSVR)専用の「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」(以下,ASTRO BOT)は,VRゲームとしては比較的珍しい3人称視点のアクションゲームながら,2018年度の「The Game Award」で「Best VR/AR Game」を受賞するなど,非常に高い評価を受けているタイトルだ。
 そんなASTRO BOTをどのようにして開発したのかを開発者が語るセッション「Making of 'ASTRO BOT Rescue Mission': Reinventing Platformers for VR」(ASTRO BOTの開発:VR用プラットフォーマーの再発明)が,GDC 2019で行われた。

 本作のプロデューサーであるNicolas Doucet氏が語るASTRO BOTの内幕は,VRにおけるアクションゲーム開発で参考になる話が多数含まれていた。ただ,その全貌を伝えるのは時間的に困難なので,本稿ではDoucet氏が重点を置いて説明したポイントに絞って概要をレポートしたいと思う。


VRならではの3人称アクションゲームを作る5つのポイント


Nicolas Doucet氏(Creative Director / Producer,SIE)
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 SIEのWorldwide Studiosジャパンスタジオに属するDoucet氏のチーム「ASOBI! Team」は,PlayStationハードウェアにおける新しい遊び方を開発することを目的としたチームなのだという。PSVR用のミニゲーム集である「THE PLAYROOM VR」も,同氏のチームが担当したタイトルだ。
 ASTRO BOTは,氏のチームが「真のVRゲーマーに向けた」(Doucet氏)アクションゲームとして開発したものだそうで,講演では,同作におけるいくつかの重要ポイントについての説明が行われた。

講演におけるポイント
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 とくにDoucet氏が講演で重点を置いたのは,「VR-Ness」というものである。VR-Nessとは,VRである理由とか,VRである必然性といったニュアンスの造語と理解すればいいだろう。
 多くのVRゲームは,没入感に重点を置いて1人称視点を採用している。仮想世界の中に入り込むことを表現するには,一番分かりやすい手法であるからだ。しかしASTRO BOTは,3人称視点を採用しつつも,VRならではの魅力や面白さを表現するために工夫を凝らしているのだ。Doucet氏はそうした工夫を,以下の5つにまとめて説明を行った。

  • PERSPECTIVE PLAY
  • VERTICAL PLAY
  • NEAR PLAY
  • FAR PLAY
  • 360 PLAY

※プレイヤー自身は1人称視点,プレイヤーが操るASTROに対しては3人称視点というのが正しいように思われる

VR-Nessを実現する5つの要素
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●PERSPECTIVE PLAY
 まずPERSPECTIVE PLAYの取り上げられたのは,プレイヤーの視線をある方向へと誘導する手法である。ASTRO BOTは,上下左右に広がった空間の中を動き回れるゲームなので,なんの手がかりもないと,プレイヤーはどこへ向かって何をすればいいのか迷ってしまうだろう。そこで,地形や敵キャラクターを利用して,どこを見てほしいかを誘導するのだ。
 Doucet氏が例に挙げたのは,壁が視線を遮っている方向から敵キャラクターが現れるというシーンだ。壁で見えなくなっている方向から敵がくれば,プレイヤーは自然とその方向に顔を向けるので,そちらに誘導できるというわけだ。視線誘導の手法としてはよくある話である。

壁で隠された右方向から敵がくるので,プレイヤーは自然と右方向を見る。そうすれば右側に向けて誘導できるわけだ
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●VERTICAL PLAY
 VERTICAL PLAYは,上下方向に大きな動きを取り入れることで,立体的な空間の広がりを感じさせるというものだ。プレイヤーが操作するロボットの「ASTRO」が大きく飛び上がるのもそれだが,縦方向に大きな敵やオブジェクトがあるとプレイヤーも釣られて上を見上げるので,空間の広がりを感じられるというわけだ。

敵が上に跳ね飛ばされる場面や,上下に大きなオブジェクトがある場面では,プレイヤーは釣られて上を見る
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 ただ,単純にASTROを上に飛ばせばいいわけではない。障害物の影に隠れて見えなくならないように,ASTROの影が下から見えるように,姿の一部が見えるように工夫することで,上下の動きでキャラクターを見失わないように配慮しているとDoucet氏は説明していた。

上下の大きな動きでASTROを見失わないように,影が透けて見えたり,姿の一部が見えたりするように配慮しているという
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●NEAR PLAY
 次のNEAR PLAYとは,ASTROがプレイヤーに近づいて大写しになるような動きを多用することだ。プレイヤーに操作させたい何かにASTROが近づくと,自然とそれに触れるようにするという理屈である。また,後述するアイコンタクトと組み合わせることで,ASTROとプレイヤーが心理的につながっているような印象を強めることもできるだろう。

ASTROをプレイヤーに思い切り近づける動きをする
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FAR PLAYは,プラットフォームアクションらしく飛んで跳ねて障害を乗り越える場面のこと
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●FAR PLAY
 一方,FAR PLAYは,プラットフォームアクション(=ジャンプアクション)らしさを表現する手法と言える。ASTROがプレイヤーから遠くに離れた状態で,障害物や断崖を飛び越えたり,坂道を駆け上ったりさせるわけだ。ただ,遠くに離れた状態では操作も難しくなるので,たとえば幅が狭くて左右に落ちそうなところでは,見えない壁を設けてASTROが落ちないようにする工夫も凝らしているとのことだった。

単にキャラクターを遠くに離してしまうと操作が難しくなるので,奥行き方向に見えない壁を作って,2Dゲームのように進ませたい方向以外には落ちないようにしている
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●360 PLAY
 360 PLAYは分かりやすい。ASTROがプレイヤーの周囲を動き回るようにマップを構成して,自然に左右を見渡すようにさせることだ。ただ,PSVRはケーブルでPlayStation 4(以下,PS4)とつながっているので,左右を見る動きでケーブルがからまったり外れたりしないように注意する必要もあるとのことだった。

プレイヤーの周囲を動き回らせることで,左右を見渡して空間の広がりを感じさせる
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プレイヤーとASTROにつながりを感じさせる


ASTROが見上げているのがプレイヤーの分身だ
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 ASTRO BOTには,プレイヤーとASTROの心がつながっているかのように感じさせる工夫も盛り込んであるという。
 ゲーム内において,プレイヤーは不可視の存在ではなく,ASTROよりも大きいロボットのような存在として登場する。プレイ中は,プレイヤーの影を地面に落としたり,鏡のようなオブジェクトに映り込ませたりすることで,プレイヤーもASTROと一緒にゲーム内の世界に存在することを示している。

影が見えたり,鏡に映し出されたりすることで,ASTROとは別にプレイヤーも存在することを印象づけられる
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ASTROはプレイヤーを見つめて,笑顔で手を振ることがある
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 また,ASTROはプレイ中,頻繁にプレイヤーの方向を見つめて,ときには手を振ったりする。Doucet氏は,これを「EYE CONTACT」(アイコンタクト)と称していた。ASTROの仕草がかわいらしいうえ,プレイヤーのことを常に意識しているような感じがするので,さながら心がつながっているような印象を受ける。
 プレイヤーの分身をASTROより大きな存在にして,ASTROがそれを見上げるような仕草をさせることで,ASTROは小さくか弱い存在で,プレイヤーが守ってあげなくてはならないと自然に感じさせているわけだ。

目の前にいるときだけでなく,離れたところからでもプレイヤーのほうを見つめるASTRO。目と目で通じ合うといったところか
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 プレイヤーがASTROとは別の存在であることを生かした要素もある。
 たとえば,Doucet氏が「HEADBUTTING」(頭突き)と称する要素では,頭突きするような動きをプレイヤーにとらせて障害物を突破したり,ボールのヘディング合戦で相手を倒したりするといった具合だ。

プレイヤーの分身が頭突きで障害物を排除することで,ASTROが先へと進むのを助ける要素もある
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敵キャラや障害物,ボスキャラの攻撃を体で避ける「DODGING」
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 また,プレイヤーが体を動かして避ける「DODGING」,マイクに息を吹きかける「BLOWING」といった要素も,プレイヤーがゲームの世界に存在して干渉しているような印象を与えるように機能している。

プレイヤーがマイクに息を吹きかけると(左),キャラクターの周りについていたタンポポの綿毛のようなものが吹き飛んでいく(右)
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巨大なボスキャラの小さな弱点を狙え


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 ASTRO BOTでは,見上げるほど大きな巨大ボスキャラが,ASTROとプレイヤーの行く手を阻む。ただ,単に大きなボスキャラを出せばいいというものではなく,スケール感を生かした演出を盛り込んでいるとのこと。
 プレイヤーの分身の身長を1とした場合,ASTROは0.2,それに対してボスキャラの1つ「ジャイアントゴリラ」は20もあるという。ASTROの100倍も大きいわけだ。

分身とASTRO,ジャイアントゴリラ(MONKEY DUDE)のサイズを示したスライド
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 こうした巨大ボスがダイナミックに動いて攻撃してくるので,それだけでも迫力があるのだが,ASTROはボスキャラの小さな弱点――ジャイアントゴリラの場合は歯――を攻撃するので,大小のスケール感が大きく変化するダイナミックなボス戦を楽しめるのである。

ジャイアントゴリラは巨大だが,弱点の歯はASTROよりやや大きい程度。スケールの違いがダイナミックさを強調している
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 さて,発売後に好評を博したASTRO BOTだが,Doucet氏によれば,製品版で実現できなかった要素もあるそうだ。とくにマルチプレイヤーモードは,開発当初から盛り込むつもりでありながら,結局は実現できなかったとのことで,開発チームにも未練があるようだった。
 オンラインでのマルチプレイであれば,実現できなくもなさそうなので,ぜひ見てみたい要素ではある。

残念ながら実装されなかったマルチプレイヤーモード。実際のゲームで見てみたいものだが
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 以上のように,ASTRO BOTは,3人称視点のVRアクションゲームとして,細かいところまで配慮して開発されたタイトルであることがよく分かった。2018年のベストVRゲームと呼ばれるだけのことはあったわけだ。作品の完成度には納得できるものがあったのだろう。Doucet氏もスライドの1つで,「3RD PERSON VR GAMES ARE GREAT!」と書いているくらいである。
 ASTRO BOTで実現したノウハウがGDCというイベントを通じて広がることで,1人称視点以外でも面白いタイトルが今後も増えていけば,VRゲームの世界も一層魅力的なものになるのではないだろうか。

ASTRO BOTを開発したASOBI! Teamメンバーの集合写真
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ASTRO BOT:RESCUE MISSION公式Webページ

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    ASTRO BOT:RESCUE MISSION

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