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インタビュー
[インタビュー]「プロセカ」のコンポーザー陣に聞く,セカイを彩るBGM制作の現場。コンセプトメイクや楽曲に込めた想いとは
2024年12月25日にリリースされたサウンドトラックでは,主に2周年から4周年に至るまでの楽曲を収録し,ストーリーの軌跡を耳でも追えるようになっている。
?公式YouTubeチャンネルにて
— プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク【プロセカ】 (@pj_sekai) December 24, 2024
オリジナルサウンドトラック Vol.3、Vol.4を公開?
2周年以降のBGMなどを各40曲ずつ収録?
各種サブスクリプションでも配信予定?
ぜひお聴きください?
Vol.3はこちら?https://t.co/5kQgVQsWAl
Vol.4はこちら?https://t.co/toOH3jhyCZ#プロセカ #メリークリスマス pic.twitter.com/KFmg3zmNwi
今回,「プロセカ」のBGM制作を手がけるColorful PaletteのサウンドチームからYisoch氏,ハヤシユタカ氏,直江禎喜氏にインタビューを行い,コンセプトメイクや制作の裏側,楽曲に込めた想いなどを聞いてみた。
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シナリオやキャラクターの“多様性”をいかに出せるか。「プロセカ」BGMの作りかた
4Gamer:
本日はありがとうございます。さっそくですが,皆さんの自己紹介をお願いします。
Yisoch氏:
自分は「プロセカ」のサウンドディレクターをしています。今回のサントラでは,たぶん収録されている曲数が一番少ないですね。リリースから2周年ぐらいまではメインで作曲をしていたんですけど,現在はハヤシさんにメインのコンポーザーを受け継いでもらっています。
ハヤシユタカ氏(以下,ハヤシ氏):
ハヤシと申します。「プロジェクトセカイ」ではリードコンポーザーとして,主にBGMを作っていますが,運用に必要なサウンド制作,実装業務なども広く担当しています。
直江禎喜氏(以下,直江氏):
直江です。「プロセカ」の2周年から3周年あたりまでの曲を主に作っていますね。BGMのほかには,効果音なども制作しています。
4Gamer:
オリジナルサウンドトラックについてお聞きする前に,「そもそも『プロセカ』のサウンドはどうやって作られているのか」をうかがいたいです。
まずサウンドのコンセプトを作る際,具体的にどうやってインスピレーションを得ているのでしょうか。
Yisoch氏:
コンセプトメイクの前提について,はじめにお話しますね。自分は「VOCALOIDカルチャー」に対して,多種多様なもの,作家さんによっていろいろなカラーが出てくるものだという認識がありました。本作も,そもそも自分ひとりですべてやるのは無理だろうと思っていたんです。
外部の作家さんをはじめ,横にいる2人の力を借りて,違うカラーをどうにかして見せなきゃいけない。そういう考えが最初にあったんです。
4Gamer:
なるほど。
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曲の方向性を決める要素はいくつかあるのですが,「このユニットならこういう楽器を使うよね。こういう特殊効果を使うよね」という共通認識を持つようにしています。
例えば「Leo/need」(以下,レオニ)だったら,分かりやすくギターの音を入れるようなバンドのサウンドだとか,「ワンダーランズ×ショウタイム」(以下,ワンダショ)であれば,ビッグバンド的な音を入れていくとか,「25時、ナイトコードで。」(以下,ニーゴ)だったら逆再生の音を入れるとか。
「今,このBGMが流れているシーンで活躍しているのが,どのユニットなのか」は,一発で分かるようにしています。
4Gamer:
コンセプトの芯の部分にそういうものがあり,考えているということですね。
Yisoch氏:
(ハヤシ氏と直江氏に向かって)実際,曲を作っていくときに,どういう情報をもとにしているの?
ハヤシ氏:
最初にYisochさんがBGMの方向性をしっかり決めて,直江さんがそれに基づいたものや,新しい世界観を作っていって……という今までの流れを引き継ぐような形で制作しています。今までのBGMがシナリオやキャラクターに紐付いていますから,すでにあるBGMからインスピレーションを受けることが多いです。
自分としても,おそらくプレイヤーの皆さんにとっても,「あのシナリオで使われた曲のメロディーが,ここでも使われている!」という仕掛けに気付くと,印象に残りやすいサウンドになるのかなと思います。今までにあった良いものを生かし,取り入れる形ですね。
直江氏:
今の話を踏まえてプラスすると……当たり前の話になりますけど,シナリオを全部読んで,考察してから作っています。キャラクターの心情や背景,どうしてこういうストーリーになったのか,ということを考えます。
ゲームのBGM制作というと,「汎用的に使える曲が欲しい」とか「街の曲を1つ作って。ほかの場所のBGMとしても使いたい」というやりかたもあるのですが,「プロセカ」の場合はストーリーありきで曲を作ることが多いです。シナリオやスチルを含むイラストなどから影響を受けて作ることになります。
4Gamer:
綺麗な風景から感銘を受けて曲が浮かんでくる……みたいなことではなくて,皆さんは理屈があって「この効果をこう届けたい」としっかり見据えて作っているんですね。
Yisoch氏:
そうですね。僕たちはどちらかというとアーティストではなくて,デザイナーという考えかたで曲を作っているので。自分たちの個性が良い形で働くときは,それを曲の中に入れることもありますが,あくまでもストーリーや世界観を邪魔しない範囲に留まります。
まずは,シナリオとイラストで表現したいこと,それがユーザーに最大限伝わり,イメージをしてもらえるBGMになることを意識しています。
4Gamer:
最良のパズルのピースを作る……みたいな感じでしょうか。
ハヤシ氏:
BGMはゲームにおける1つの要素ですが,ほかの要素を引き立てるための工夫をして,その内容を乗算したり,昇華させたりしていくようなイメージですね。
4Gamer:
BGM制作の流れとしては,ストーリー,キャラのイラスト,アップデートの日程,それらが決まったあとに具体的な制作依頼が来るのでしょうか。
Yisoch氏:
そうですね。けっこう恵まれた状態で作らせてもらっているとは思います。上流工程のセクションは,情報が少ない状態で作らなきゃいけないですから。それこそシナリオチームとかは,本当にゼロからのスタートだと思います。そういう意味でも,僕らには指針があるので進めやすいですよ。
4Gamer:
「シナリオのここで流れるBGMを,こういう感じで作ってください」と具体的な指定があるのでしょうか。
ハヤシ氏:
あるときもありますし,こちら側から提案するスタイルのときもあります。
Yisoch氏:
「プロセカ」では季節に合わせて,ゲーム内イベントを開催するんですね。そのときどきで特殊な演出も入りますので,そういったときに提案する場合が多いです。
例えばエイプリルフールの場合,ホーム画面に普段流れる曲をワクワクするような感じにアレンジするとか。直江さんが作ってくれたその曲は前のサントラ(Vol.2)に入っているんですけど,デザイナーのひらめきでエイプリルフールの期間中はネネロボ※が空を飛ぶ演出になっていたんです。
※ネネロボ:ワンダーランズ×ショウタイムの草薙寧々を模したロボット。神代 類が制作した
これだけじゃなくて,正月の背景でも動いていないはずのキャラクターが動いていたりして。最初にもらった仕様よりも,エンタメ性が濃くなっていくことがあるんですよ。そういうときは,こちら(サウンド)も「もっとやんなきゃ!」って思います。「今より,もっとはっちゃけた感じにしよう」とかはあったりしますよね。
4Gamer:
それはグッと来ますね。
直江氏:
はい,こちらも頑張らなきゃって。
ハヤシ氏:
そっちもそう来るんだ……みたいなね。
4Gamer:
刺激を与え合う,受け合う制作現場ですね。
Yisoch氏:
プロセカは協業での制作を行っています。劇中劇でオーケストレーションががっつりあるとか,もっと生々しいバンドの音を表現しなければいけないとか,生音を録りたいとか。そうしたときには外部の作家さんにお声がけして,BGMを書いていただくこともあります。
彼らの得意な音作りがセカイに素晴らしいカラーを足してくれました。
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サウンドトラック収録曲について
4Gamer:
ここからはサントラに収録されている曲について,お話をうかがいます。Vol.3が3周年あたり,Vol.4が4周年あたりの曲に対応しているのでしょうか。
Yisoch氏:
そうですね。今回,あらためて曲数を数えてみたら200近くあったんです。いつの間にか,こんなに作っていたんですね。
時期としては,2周年の後半以降にゲーム内で発表されたものが収録されています。
直江氏:
細かいものを含めると,もうちょっとあるかもしれないです。300曲近くありそうな。
4Gamer:
約2年で……すごい数です。
Yisoch氏:
先ほどの「どういったところからインスピレーションを得ているか」という質問にも,具体的にお答えできると思います。直江さんはどうですか。
直江氏:
Vol.3に収録されている「幾千光年の不死鳥」は,ワンダショのイベントストーリー「天の果てのフェニックスへ」の中で流れる曲です。最初にシナリオを読んでから曲を作り始めるのが基本ですが,このときはシナリオとスチルが1枚送られてきて,「この“天馬 司の泣き顔”に合う曲が欲しい」という発注だったんです。とくにリファレンスにしてほしい曲とかもありませんでした。
4Gamer:
参考資料がほとんどなかったと。
直江氏:
シナリオを読んでイメージしてはいたんですが,はっきりと曲の全体像が想像できない状態だったんですね。なので,ボイスが収録されるまで待つことにしたら,声の演技がものすごく良いものになっていて,「声優さんの力ってすごいな」とあらためて感動し,自分も曲で対抗しなきゃいけないという気持ちで作りました。
具体的には,DAW※に収録された司のボイスを並べて,例えば「泣き始めたときのセリフ,この言葉のタイミングでこのフレーズが流れるように」という感じで,セリフと音のタイミングが合うように考えて作ったんです。
自分だけじゃなくて,声優さんのボイスをはじめとするすべての要素を組み合わせた集大成といった曲なので,僕としては思い入れが強いですね。ユーザーさんからも「響いた」というお声をいただきました。
※Digital Audio Workstation(デジタルオーディオワークステーション)の略。音楽をデジタル形式で録音・編集・ミックスできるソフトウェア
4Gamer:
現在,タイトル画面に流れているBGMはいかがでしょう。
ハヤシ氏:
タイトル画面のBGMはゲームを立ち上げて最初に聞くものなので,ずっと使われてきたメロディーを引用するという考えがあります。そのうえで新ビジュアルに寄せて,アレンジを作る。ざっくりですが,この2点を踏まえて制作しました。
Yisoch氏:
今回のBGMってさ,タイトル画面からタップしてロードに入るときに仕掛けがあるよね。
ハヤシ氏:
そうですね。最初に流れている曲は(タイトル画面に表示される)草原の風景に合わせたアコースティックな感じですが,タイトルボタンをタップすると,シンセサイザーが入った少しダンサブルな曲に変化します。「これからゲームが始まる予感」が出るように,2つのパターンを作ったのが工夫できた部分かなと。
4Gamer:
運営型ゲームならではの作りかたですね。
ハヤシ氏:
確かにソーシャルゲームならでは,という感じがありますね。
4Gamer:
ユニットに関しても,例えばLeo/needの場合,元気なガールズバンドサウンドが後ろから聞こえてきて……状況を予感させるような,さりげない仕掛けを実感できます。
Yisoch氏:
今回のサントラ Vol.3に収録した「Symphony City」は,いくつかのユニットが合同で話を進めていくシャッフルイベントに使われた曲です。
レオニの志歩,「Vivid BAD SQUAD」(以下,ビビバス)の杏が出会い,街中でセッションをするストーリーだったので,2人を表現する要素をBGMに入れることを意識しました。志歩らしくベースの音が出ていたほうがいいだろうとか,杏のイメージで綺麗なコーラスなどの魅力を出していこうとか。あとは街中でセッションする形になるので,音数はそんなに多くないほうがいいだろうとか。
4Gamer:
「現場感」が出るような。
Yisoch氏:
そう,ちょっとした粗さがあったほうがいいだろうと。ガチガチにドラムのリズムがあるというよりは,クラップ(手拍子)だったりフィンガースナップ(指パッチン)だったり,その場で手を使って出してるような音をベースにする。そういう理屈を付けながら作っています。
4Gamer:
そうした演出を考えるのは,やりがいがあって楽しそうですね。
ハヤシ氏:
はい,とても楽しいです!
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4Gamer:
「タイトルはシナリオチームと一緒に考えている」ということですが,BGMの制作中はタイトルを考えないものでしょうか。
ハヤシ氏:
人によるでしょうね。僕はシーン名をそのままプロジェクトファイルに付けちゃうかもしれない。
直江氏:
「〇〇が泣いている曲」とか。
ハヤシ氏:
「〇〇と〇〇が初めて一緒に作業したときの曲」とか。そういう感じですね。
4Gamer:
タイトルらしいタイトルを付けたりしないと。例えば,少し詩的に「○○の邂逅」とか……。
Yisoch氏:
付けても言わないよね。
(一同笑)
ハヤシ氏:
歌モノの場合はタイトルを先に作ったりしますね。歌詞を作るにあたって,キーとなる言葉が必要なので,早い段階でタイトルを考えています。
4Gamer:
面白いですね。
Yisoch氏:
サントラのVol.3とVol.4にもボーカル入りの曲があります。Vol.3の「Traits」,Vol.4に入っている「Unstoppable」は,どちらもビビバスに関するストーリーの曲ですね。
これまでより進化した表現方法として,「重要な節目のライブのシーンなんだから歌わなきゃ」という考えがありました。シナリオのBGMは基本インストゥルメンタルだったので,初めて出てきたときにはユーザーさんもびっくりされたと思います。
4Gamer:
そうですね。歌モノのBGMはまだ珍しいですよね。
直江氏:
はい。これからもストーリーにフィットするタイミングでは,もっと歌モノやそれ以外の演出も挑戦できたらいいなと思っています。
Yisoch氏:
「Traits」は小豆沢こはねの曲です。彼女はもともとすごく内気な子でしたが,ビビバスのメンバーが彼女の特徴的な声を見出して一緒に歌おうと誘います。
こはねが1人で歌うステージに向けて,会場と自宅を何度も行き来し,試行錯誤しているシーンを想像してみると,おそらくメンバーへの感謝だとか,聞いてくれるファンや街の人たちへの想いだとか,みんなに認めてもらった自身の個性とか,しっかり向き合ったんじゃないかと思います。そして,「あなたたちもそれぞれの個性があっていいんだよ」といったメッセージを,こはねは発信するのではないかと思い至りました。
そこから「Traits」(個性の意)というタイトルに,早い段階で決まりましたね。
曲中のコーラスに「Whoever you are」というフレーズがあります。この歌詞は「Forever」なのか,「Whoever」なのかと,ユーザーさんのあいだでも話題になっていたみたいですが。
「あなたが何者であっても,それでいいんだよ」と,こはねが自分自身を奮い立たせつつ,そして聞いてくれる人にも「一緒に行こう!(follow me!)」と手を差し伸べてくれている姿を表現しています。
4Gamer:
この言葉に勇気づけられる人は多いと思います。
一方,「Unstoppable」はいかがですか。
ハヤシ氏:
シナリオとしてのビビバスの集大成,1つの目標が達成されるタイミングの曲ですね。
そうした経緯だったので,ビビバスにまつわるイベントだったり,シナリオだったり,キャラクターの心情や情報だったり,いろいろな要素が歌に盛り込まれています。イベント名がそのまま(歌詞に)入ったりもしていて,今までのビビバスのシナリオを追いかけてきたユーザーさんほど追体験しやすいかなと思います。
実際のイベントシナリオ中でも,シナリオの進行や歌っているキャラクターが出てくるタイミングに対応して,BGMも自然と変わっていきます。この曲の演出で最も工夫した点ですね。
4Gamer:
ゲームのBGMならではのテクニカルな工夫ですね。
ハヤシ氏:
例えば,青柳冬弥はクラシック音楽をやっていて,ピアノが弾ける……というか,すさまじい特訓を重ねてきたキャラクターです。そんな彼にとって(ショパンの)「幻想即興曲」は印象深いものであり,ある意味では彼のトラウマにもなっている曲です。「Unstoppable」ではあえて「幻想即興曲」のモチーフがサンプリングされていて,その音の上で冬弥が歌っています。
「幻想即興曲」のキーである「嬰ハ短調」や「ピチカート」が歌詞に入っており,曲でも歌詞でもそれぞれのキャラクター性がしっかり表現されています。
4Gamer:
音楽で(写真の)アルバムを作った,みたいな感じでしょうか。
ハヤシ氏:
確かにそうですね!
4Gamer:
キャラクターの移動や場面転換などに合わせてシームレスに曲が変わっていく手法は,最近のゲームに取り入れられるようになりましたが,実際の制作はどうしているのでしょうか。ユーザーはメロディの区切りを意識することなく,次のテキストを読むために画面をタップするわけですが……。
Yisoch氏:
「インタラクティブミュージック」と呼ばれるゲームBGMの表現方法ですね。ユーザーさんがボタンを押す,または一定のところまでゲームが進行したことをトリガーとして,次のBGMに遷移するというシステムです。実際には,小節の中に「ここであれば,ほかのセクションに飛んでも自然に曲がつながる」地点を作るんですね。
「プロセカ」ではキャラクターが歌い始めるときのテキストにトリガーがあって,キャラクターが表示されるのとほぼ同じタイミングで歌い出すような使われ方をしています。
4Gamer:
自然な遷移を作るためには,メロディの作りかたにも工夫がありますか。例えば,メロディの流れを途中で切るわけにはいかないので,短いメロディを採用するとか。
Yisoch氏:
そうですね,一定の秒数を担保できるところでしか,長いメロディは使えません。「このシーンはどれだけユーザーの方が早く読んでも,20秒はかかる」ということであれば,長いメロディを入れられますし,「ユーザーさんによっては3秒くらいでタップして読み進めてしまう」ところでは,リズムなどをメインにします。
4Gamer:
そこまで緻密に調整されていたとは。すごくエモーショナルな仕掛けですね。
ちなみに,作品のキャラクターという要素が乗った状態でBGMを制作することは,通常のBGM制作とは違うものでしょうか。
Yisoch氏:
多少違いはあります。ただ,キャラクターという情報があれば,BGMで目指す表現の形が研ぎ澄まされるので,難しいと感じることはないですね。前提情報はあればあるほどいいですし,むしろ楽しいという感覚です。
ハヤシ氏:
アレンジを詰めている段階までは,自分もすごく楽しいですね。でも,ノイズを取ったり,ピッチを調整したり,イメージを膨らませるのとは違った細かい作業になってくるとちょっとツラくないですか(笑)。
Yisoch氏:
作業になっちゃうとね(笑)。
ハヤシ氏:
でもいいものに仕上げたいから,止めるわけにいかないっていう(苦笑)。
直江氏,Yisoch氏:
そう,そう。
4Gamer:
ツラいときは気分転換を?
ハヤシ氏:
会社の福利厚生でマッサージが受けられるので,それが一番ですね。
直江氏:
自分はもう,ひたすら寝ます! そして,朝になって見直します。
Yisoch氏:
僕はふらふらとどこかに(笑)。カフェに行って甘いものを摂取して……一度リセットして別の曲に取りかかることもありますね。
制作の信条は,シナリオありきで方針を決定する。あえてセオリーを外してみることも
4Gamer:
続いて,皆さんがサウンドを制作するにあたり,最も大事にしていることをお聞きしたいです。
Yisoch氏:
曲の意図がちゃんと伝わるかどうかを,「これで完成だ」と判断するときの指標の1つにしています。
昔,自分の先輩が「プロの作品は,(プロと)そうでない人との境界線を越えて説得力を持つ」と語ってくれたことがあります。プロ同士であれば,表現の意図を説明しなくても予想してくれるかもしれないけれど,聞いてくれる人の多くはプロではないし,あなたのビジネスパートナーでもない。説明なしでも,ちゃんと伝わるかどうかを確認しなさいと。そんなことをよく言われました。
4Gamer:
「伝わる音楽を」ということですか。
Yisoch氏:
ええ,その基準に達しないことからボツにしたこともあります。「落ち込んでいるとき,この曲を聞いたら少しは笑えるのか」とか,曲ができたあとに時間を置いてから第三者目線で再び聞いてみるんです。
4Gamer:
例えば,特殊な奏法を曲に取り入れたとして,プロでない人にその狙いを伝えられるかどうか……。音楽の知識があるプロであるがゆえに,同じ目線になることは難しいように思えます。
Yisoch氏:
いろいろなテクニックはありますが,「テクニックを使ったら,(必ず)いい曲になる」とは考えていないですね。わりと直感的なものなのかなと。「心地よい」「悲しい」といったシンプルな感情がちゃんと表現できているか次第ですね。
セオリーはあります。この楽器はこういう音の鳴らしかたをするとか,「この音は,この高さで出すのが絶対的な音楽のルール!」みたいなものです。
でも,意図的に無視することもあります。あえて外すこともあるし,ちゃんと忠実に守ることもある。そこは「聞いている人がどういう感情になってほしいか」次第で選んでいます。つまり,目的が先にあるんです。
4Gamer:
狙いによって手段を選ぶと。一方,ハヤシさんはいかがでしょう。
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プロフェッショナルとして,世に出しても恥ずかしくないものを作ることはもちろんですが,それとは別に,ある程度耳に残りやすいメロディや要素を入れたいと思っています。ゲーム音楽において,それは良し悪しなんですが。
例えば昨今の写実的なゲームのBGMだと,「メロディが耳に残っていると,ゲームの邪魔じゃないか?」といった意見もあります。
その点,「プロセカ」では全体的にポップな印象で,リズムゲームの要素もある。BGMでも「音楽の楽しい部分」をちょっと出していいんじゃないかな,と個人的に考えています。ある程度のポップさ,耳に残りやすい要素を入れるところを気をつけて制作しています。
メロディ,コード進行,曲の構成などにも気を配っているのですが,一聴したときに「あ,かっこいいな」って思われるようなミックスバランス,良い印象を持たれるような迫力を出すことも大事にしていますね。
Yisoch氏:
とくに仕上げの工程かな。
ハヤシ氏:
はい。かなりシンプルな話ですが「いい感じに聞こえる」ことと,「お二人(Yisoch氏と直江氏)がほかのBGMで作ってきた世界観をうまく引用する」ことですね。ユーザーの皆さんが「エモい」と思ってくれるように。
Yisoch氏:
林さんの強みの1つに,メロディなどのモチーフを引用しつつ,今のトレンドの音に合わせてアレンジしていくことが上手というのがあるんです。「プロセカ」をプレイしている主なユーザー層,10代の皆さんが普段から触れているであろう音楽ジャンルの聞きごこち,音色に対して曲を落とし込むというようなことを一番やってくれています。
ハヤシ氏:
(にっこりして)嬉しい!
直江氏:
自分はゲームのBGMというだけでなく,単体で聞いても「いいな」と感じられる曲を意識しています。とくに“泣き”を入れたいなって。ピアノやストリングスなどで琴線に触れるフレーズを入れてあげるとかですね。
シナリオやボイスとの相乗効果を生み,聞いてくれるユーザーさんの心に迫るものを作りたい。その点には,すごく気をつけています。
4Gamer:
やはり,さじ加減が悩むところだったりするのでしょうか。
直江氏:
はい。やりすぎると,アクが強くなってしまうので。
4Gamer:
サービス開始から4年以上が経過しましたが,そのあいだに楽曲の作りかた,大事にしてること,制作の考えかたに変化はあったのでしょうか。
Yisoch氏:
サービス開始の頃は,とくに2000年代のVOCALOIDカルチャーの時代,初音ミクや周辺コンテンツで使われていた音色をメインに使っています。その「ちょっと懐かしい音」を使うことは,1周年あたりにかけて意図的にやっていました。
そのほうがミクのことを知っている人たちに,違和感なく受け止めてもらえるだろうと考えていたからです。
その後,年月を重ねるにつれて,ゲーム内ではキャラクターのストーリーが進行し,今までにない表情をどんどん見せるようになり,彼らが成長していきました。それに合わせて,より挑戦的な音を使えるようになりました。
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とくにこの数年では,世の中的にも「多様性」が意識されるようになりましたが,音楽の表現もどんどん増えていったという感覚があります。
最近では,僕らが子供の頃に聞いていたようなジャンルが1周して,現代のハイクオリティな音色やミックスダウンの技術,編集のテクニックなど,いろいろなものが加わってハイブリッドな形で蘇ったものが多いです。そこは主に2人(ハヤシ氏,直江氏)がちゃんと吸収して表現してくれました。
ハヤシ氏:
ビビバスの新エリアのBGMなどは,2000年っぽいというか,Y2Kな感じがしますよね。
Yisoch氏:
直江さんの担当分野だと,2周年から3周年ぐらいのときに「future bass」がメジャーシーンにも出始めていたので,その要素を取り入れることになりましたよね。
直江氏:
純粋なfuture bassの再現ではありませんが,2周年のタイトルBGMなどは,そういう楽しさだったり,きらびやかさだったりに影響を受けて作っていたと思います。
Yisoch氏:
少し話が変わりますが,例えばレア度が高いカードであれば,キャラクターの表情がドーンと出るようなものを一般的にイメージされると思います。しかし,「プロセカ」のイラストチームは,それだけではなく挑戦的なことをするんですよ。
絵の隅っこに後ろ姿のキャラがいて,背景をメインとして見せるとか。イラストから「どんなストーリーだったっけ?」って,思い出させるような仕掛けがしてあるんです。
そうしたカードの演出にも影響を受けて「丁寧に楽器が鳴るより,あえて効果音だけにしてみよう」とか,僕らも試行錯誤をしていました。
例えば2周年のタイトルBGMでは,途中で渋谷の雑踏の音に変わるんですね。完全に曲が消えて,街中の効果音だけになって,もう1回音楽が戻ってくる。
渋谷の街にメンバーが集合,交差しているようなシチュエーションのタイトル画面だったので,これを表現するためには単純なBGMではなく,効果音を含む「音としての総合演出」が合っていると判断したんです。
直江氏:
最初は薄っすらSEをいれただけだったんですけど,Yisochさんに「もっとしっかり雑踏の音を聞かせたほうがいい」と言われたんです。結果,コンセプトが明確になりましたね。
ハヤシ氏:
直江さんの曲だと,ニーゴのワールドリンクイベントのBGMも環境音ががっつりと入っていますよね。
Yisoch氏:
あるね。
直江氏:
「形なき存在」ですね(Vol.4に収録)。
ハヤシ氏:
普段から効果音も楽曲もプロフェッショナルとして制作されているからこそ,双方がよくマッチしていて。この曲,好きすぎて1日2回は聞いてます!
直江氏:
(にっこりして)感謝……!
4Gamer:
イラストもそうですが,BGMでも臨場感のある空間を作っていますね。
直江氏:
キャラクターが水に沈んでいくようなイラストだったので,曲の最初に水をイメージさせる音をしっかり入れて,楽器としても使っています。
Yisoch氏:
制作の考えかたに関しては,ゲーム内のストーリーの流れによる変化があり,ゲームを取り巻く世の中の変化に合わせた部分もあり,そしてイラストなどのクリエイティブに触発された部分でも変わってきたと思います。
4Gamer:
4年も経てば,いろいろなことが変わりますね。
Yisoch氏:
はい。一般的にコンシューマゲームのメインコンポーザーは,1人の方が担当されていることが多いですよね。
ただ,「プロセカ」の場合は最初にお話ししたとおり,自分1人で音の演出を作り上げるのは絶対に無理だと思っていたし,多彩なカラーを出さなきゃいけないプロジェクトだと考えていました。ですから,メインコンポーザーがこの4年で移っていくということを,かなりポジティブに進めてきましたし,それがうまく機能してくれて良かったなと思っています。
ハヤシ氏:
自分はまだ入って1年くらいですが,「プロセカ」ではいろいろなシーンにBGMを作るので,ジャンルがあまりに広いんですよ。だから「いろいろなコンポーザーを使うべき」というところもあったのかなと思います。
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現代が舞台だからかもしれませんね。これがファンタジーだったら,その時代に縛られますから。そこでシンセとか電子楽器とかは使えないですし。
あ,「プロセカ」にはタイムスリップのイベントがあったりしますが……。
(一同笑)
直江氏:
そう考えると,「プロセカ」は本当に幅が広いですね。ストーリーでビビバスがアメリカに行ったら,アメリカの曲が必要になるし,レオニがもしメジャーデビューをしたら,どういう方向性になっていくのかとかもワクワクしています。でもそこで,1990年代の曲をやっていたらちょっと違うんじゃないか……? とか。考えることが多いプロジェクトです。
4Gamer:
シナリオありきだから,それに合わせて柔軟に変わっていく。
直江氏:
そうですね。
Yisoch氏:
2人の存在自体が,変化を与えてくれたんです。
4Gamer:
コンポーザーに求められる引き出しがすごく多いわけですよね……。
ハヤシ氏:
楽しいですよ!
Yisoch氏:
ええ,楽しいです。自分が過去に作った曲を直江さんが,直江さんの曲をハヤシさんがリメイクするような形でBGMを制作することもありますが,ラフを聞かせてもらったときに「嬉しい」と「びっくり」が合わさった気持ちになることが多いです。
例えば,僕が最初に作ってハヤシさんがアレンジをしてくれたニーゴのBGMでは,「悲しさ」を表現するセオリーの「ちょっと静かめでおとなしい曲にする」とはまったく違うアプローチなのに,しっかり演出にフィットしていました。
直江氏:
Vol.4に収録されている「Unbearable Pain」ですね。
Yisoch氏:
実験的というか,挑戦的というか。イベントのメインキャラクターである瑞希の感情が大きく揺れ動くシーンの曲です。そのときの瑞希の複雑な感情を表現するためには,セオリーどおりの表現では難しかったのかなと。
ハヤシ氏:
そうですね。先ほども申し上げたところですが,今までプレイしてシナリオを読んできた人ほど,心に迫る曲にしたかったので,原曲のメロディを引用しながらちょっとぐちゃぐちゃにしちゃうっていう……。結果,ちょうどいい感じになって,ユーザーさんにもびっくりしていただけたのかな。
しかも,この後にまたその曲を引用した曲がありまして,さらに救いをもたらすみたいな流れに持っていけたのも良かったですね。今回のサントラには入っていないんですが……。
Yisoch氏:
Vol.5に入るんじゃないかな。ユーザーの皆さんであれば,「あの曲かな?」って分かってくれるはずです。
4Gamer:
では,最後にユーザーの皆さんにメッセージをお願いできますか。
Yisoch氏:
今回のサントラには,ストーリー内で1回しか流れていない曲も入っているんですね。1回しか流れてないけど重要なシーンの曲で,メインではないキャラクターの象徴的な曲だったりもするんです。
サントラを聞いていただき,「この曲はどこで流れていたんだろう?」と思ったら,ぜひストーリーを読み返してほしいと思います。
ハヤシ氏:
スマホゲームの場合,音を出さないでプレイされる方もおられますが,その状態でも「プロセカ」のシナリオはとても面白いと思います。
ですが,キャラクターの物語と紐づいたBGMの演出に力を入れているので,BGMをオンにしてシナリオを読んでいただくと,より感動的になりますし,伏線回収のような気持ち良さも感じられるはずです。ぜひBGMも聞いていただけたら嬉しいですね。
直江氏:
僕らが作った曲をゲーム内で鳴らす処理をしているのはしているのはスクリプトチームです。Colorful Paletteでは演出・監督チームみたいな立ち位置で,「どこでキャラクターを出すか」「どこで音を鳴らすか」というような設定をしています。
僕たちはBGMを作っていますが,それを「いかに効果的に流すか」はスクリプトチームがやってくれるので,そこにも注目してほしい気持ちがあります。
ハヤシ氏:
そう,足を向けて寝られない。
Yisoch氏:
先ほどは「キャラクターが歌っている場面で曲の部分が流れるシステムを使った」と言いましたが,それの応用をスクリプトチームが提案してくれて,「新しいシナリオのセッションのシーンでは,途中から楽器が追加されてジャンルが変化していくから,そういう感じのBGMにならない?」という相談を受けたりもしました。
2人には「細かい調整はやるから,いい曲作って!」ってお願いしています(笑)。
直江氏:
サウンドも含めて,ゲームはチームで作っているので,それを踏まえてストーリーを読み返していただくともっと面白いと感じてもらえると思います。
4Gamer:
本日は興味深いお話をたくさん聞かせていただき,ありがとうございました!
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