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印刷2023/08/27 16:31

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[CEDEC2023]「FINAL FANTASY XVI」のキャラクターモデルアーティストが明かす,巨大な召喚獣や高精細なキャラクターをリアルタイムで動かすための工夫とは

 2023年8月25日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」にて,セッション「FINAL FANTASY XVIにおける召喚獣とキャラクターモデルの制作舞台裏」が行われた。

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 本セッションには,スクウェア・エニックス 第三開発事業本部 キャラクターモデルアーティストの南條和哉氏と,同リードキャラクターモデルアーティストの園部 淳氏が登壇し,PlayStation 5用ソフト「FINAL FANTASY XVI」(以下,FF16)における召喚獣とキャラクターモデル制作のノウハウを披露した。

左から園部 淳氏,南條和哉氏
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FF16のキャラクターに求められたもの


 セッションの冒頭では,FF16のキャラクターをどのような部分にフォーカスして制作したのかが紹介された。まず挙げられたのは,「ナンバリングタイトルとしてのビジュアルクオリティ」「質感はリアルだがFFらしさのある造形」「フォトリアルがゴール目標ではない」の3つである。

 南條氏は,FF16はコンセプトの段階でかなりシリアスな世界観が示され,キャラクターもより深い演技のできる造形が求められたとする。その一方で,完全にフォトリアルなビジュアルにしてしまうと,FFらしさが失われてしまうとも考えたそうだ。
 したがって,本作のキャラクターを制作するにあたっては,顔のスキャンなども行いつつ,その上でFFらしさやファンタジー要素を入れながら調整していったとのこと。

 続いて「アートデザインは常に重視」「ムービー用モデルは作成しない」の2つが挙げられた。前者は,コンセプトアートを常に意識しながら制作を進めたことを指している。
 それに伴い,キャラクターの衣装を作るにあたっては,スキャンだけではなく,クロスシミュレーションツール・Marvelous Designerを使用したという。また,Marvelous Designerの採用には,スタッフのスキルアップを狙ったところもあったそうだ。

 さらにFF16のキャラクターモデルは,カットシーンも含めすべてリアルタイムエンジン上で動くものとして制作されているとのこと。これは全編通してリアルタイムで動かすというプロジェクトの方針に沿ったもので,そのため過度なアップに耐え,かつ容量を抑えたモデルが必要とされたそうだ。


全体的なワークフロー


 キャラクターモデルの実装については,まず以下のスライドが示された。

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 南條氏によると,特殊なことはしていないが,ゲームへのスムーズな実装のため,ブロックモデルと呼ばれるモックを先に作成して出力したとのこと。またモンスターなどは,Mayaからだけでなく,ZBrushから直接実機へ実装するケースもあったそうだ。
 加えて初期段階では,モデルに多少のエラーがあっても,とりあえずゲームへの実装ができるように,プログラマーの協力を得て,段階的にデータのチェックを厳しくしていったそうだ。

 ブロックモデル導入のメリットは,後工程が待たされることなく作業を進められることにあるという。
 またモンスターは,デザインを起こすところから担当することもあり,その場合はZBrushを使って3Dコンセプトアートを作るような感じで制作し,スピードスカルプトしたものにDecimation Masterをかけてポリゴン数を減らし,Automatic UV展開でラフテクスチャを作成していたとのこと。

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 これを行うことによって,実機で確認できる動くデザインアートのような感覚で制作を進められたそうだ。南條氏は,「明確なビジョンを素早く確認することができて,アート工程の必要のない効率のよいフローが確立された」と話していた。

 続いてFF16のキャラクター制作に使用された,CharaEditorが紹介された。このツールは,キャラクター制作専用の開発環境で,「マテリアルやシェーダーの設定,モーションの確認」「IBL環境下でのルックデベロップメント」「実装データのサブミット」などができるというものだ。

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召喚識とモンスターについて


 園部氏によると,召喚獣は巨大なデザインが多かったため,ディテールの情報量をいかに出すかが制作のポイントになったという。具体的には,主に「パターンモデル」と「タイリングテクスチャ」という2つの手法で情報量のアップを図ったとのこと。

 まずパターンモデルは,主に巨大な召喚獣に多く使用したそうだ。とくにタイタンは,鉱物の結晶のようなものやスクラップ状のパーツが体表に多く見られるため,相性がよかったとのこと。そうした配置用のモデルを6種類ほど作り,要所に配置していったという。

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 とくに頭部や手足のような,よく映り込んだりアップになったりする部分は,カットをチェックして重点的に配置したそうで,園部氏は「冒頭のシーンにタイタンの手のアップのカットがあるが,そこはシーンのレイアウトができたあとに配置の作業をした」と話していた。

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 またFF16は,カットシーンがリアルタイムであるため,開発中にディティールを足すことのできるパターンモデルの手法との相性が非常によかったとのこと。そのためこの手法は,ほかの巨大モンスターなどにも使用されることになったそうだ。

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 もう一方のタイリングテクスチャは,カットシーンの中でキャラクターがアップになったときに,アップ専用モデルを使わずとも耐えられるかどうかという課題をクリアするために採用されたという。
 園部氏によると,タイリングで密度を上げることにより,細かいディテールを出せるようになり,かつベースのテクスチャサイズを減らすことができて容量の問題も解決したとのこと。

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 FF16に採用したタイリングは,テクスチャをリピートしたときの繰り返しが目立たないように,2つのパターンを組み合わせてランダム感を出しているという。そうしたタイリングは,素材ごとに多種多様に用意し,また1つのマテリアルに対し8個まで設定できるそうだ。
 本セッションでは,素材感を表現するための細かいタイリングと,クラック的な表現などディテール用に使う大柄なタイリングをブレンドして,情報量のアップを図っていることが示された。

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 続いて,各召喚獣が持つ属性の表現を可能にした特殊表現として,「エミッシブスクロールアニメーション」「特殊スクロールアニメーション」「サブサーフェススキャッタリング」の3つが紹介された。

 エミッシブスクロールアニメーションは炎や雷,冷気といったさまざまな属性を表現するために使用されたとのこと。最大3つのスクロールパターンを設定可能なため,フェニックスの羽根の炎も,複雑な流れとして表現できたという。またフローマップにより,より不規則な流れを実現できたことも紹介された。

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 特殊スクロールアニメーションは,メタル,ラフ,ノーマルなどの情報を持ったスクロールアニメーションで,立体感のあるものや質感のあるものをスクロールさせられるという。
 園部氏によると,使用感は「アニメーションできるタイリングやマテリアルのようなイメージ」とのこと。本セッションでは,シヴァのマントに流れるドライアイスの冷気のような表現に,特殊スクロールアニメーションを使っていることが紹介された。

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 サブサーフェススキャッタリングは,半透明の表現における処理負荷の問題とクオリティ担保の面における懸念から,採用されたとのこと。たとえばシヴァのマントは半透明ではないが,サブサーフェスを使うことで透け感を出している。とくにライティングを複雑にすることで,透け感の効果が高まるそうだ。

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 続いて,FF16のほぼすべてのキャラクターで使われたという,目のシェーダーが紹介された。このシェーダーでは,瞳孔のサイズはもちろん,白目や網膜の明るさ,充血度合い,虹彩のカラーなどを自在に変更できるとのこと。
 園部氏は,「目のモデルのUVさえあれば適用可能だったため,キャラクターの重要なポイントである目の制作を,非常に効率よく進めることができた」と語っていた。

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 召喚獣のスカルプトに対するこだわりも示された。園部氏によると,召喚獣はアート的に正統派のデザインになったため,そのスカルプトは造形の根本的な部分やシルエットにこだわったという。またFF16はシリアスでリアルな世界観であるため,デザイン性が高いと作り物感が強くなってしまうそうだ。
 そうやって,美術解剖学をもとに骨,筋肉,血管などの位置にまでこだわった結果,得られた知識を,欠損した腕が再生する表現に活用できたことも明かされた。

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超巨大なデビルタイタンの制作手法も紹介された
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人型キャラクターについて


 人型キャラクターの制作に関しては,主に顔と髪の表現について解説がなされた。南條氏によると,顔の方向性はいかにシナリオやキャラクター設定にマッチしているかが重要となるので,コンセプトアートを再現しつつ,なるべくリアルに,より自然に見えるように制作を進めたという。

 肌の質感は,色のムラや5種類程度の細かい凹凸のタイリングをミックスして,味が出るようにしているとのこと。また眼球のサイズはリアルの人間に近い大きさで作っており,顎も不自然に細くならないよう配慮したことが明かされた。
 その結果,フォトリアルっぽい部分がありつつも,FFキャラっぽい部分もあるという,落ち着いたバランスになったと捉えているそうだ。

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 またFF16では,MayaのXGenで作成した毛や羽根の汎用テクスチャを用意し,主人公やモブキャラ,召喚獣などほぼすべてのキャラクターで使い回しているという。これらのテクスチャは解像度が高いため,かなり詳細な表現が可能とのこと。

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 毛のモデルは,カーブを手で配置してから,MayaのCurve to Ribbonでメッシュ化し,そこに上記の共通テクスチャを適用しているという。最後に,カットのライティングで綺麗に輪郭を光らせることができるよう,法線をきれいに整えるそうだ。また,髪の色はエディター側で指定していることも示された。

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共通テクスチャのアンビエントオクルージョンだけでは立体感があまり出ないため,2ndオクルージョンを作ることも紹介された
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 髪の毛の揺れは,主人公の長さくらいまでは頂点シェーダーを使って表現しており,風速の違いはもちろん,走ったときの慣性にも対応しているそうだ。また,モデル的に破綻しないよう揺れ幅に制限を設けたり,立体的に動くとめり込みが激しいので,面の横方向にスライドするように動かしたりといった工夫したという。

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 汚れの表現については,FF16の世界観ではほとんどのものが汚れていないと不自然にみえるため,基本方針として汎用的かつ気軽に幅広い表現ができることを目指したとのこと。汚れ具合は,面積で変化するようになっており,それを部分的にマスク指定して,たとえば右側だけ汚れる,あるいは口だけ汚れるといった表現を実現しているそうだ。
 また,マスクは頂点に持たせているが,複数パターン持たせることもできるため,さまざまなバリエーションに1つのモデルで対応できたことも紹介された。

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吐血したような表現も可能
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 汚れの部位指定は,1頂点に4パターンまで指定できるという。とくにカットチームから,「ここを刺されたから,ここから血を出したい」という発注が大量に寄せられたそうだが,表現的なディテールは血のタイリングに含まれており,また部位指定のマスク自体は頂点ごとだったため,結構大雑把な感じで対処できたと,南條氏は話していた。

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 濡れ表現は,とくに毛の部分だけほかと比べて濡れた感じが出なかったため,特殊なことをしているそうだ。具体的には,頂点シェーダーでの風揺れを応用し,濡れれば濡れるほど風の影響が弱まったり,ボリューム感が抑えられたりしているという。そこに水滴の反射などを乗せて濡れた感じを強調すると,それっぽくなるとのこと。

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 涙の表現は,専用のマスクを用意し,そこに沿って流れるようにしている。鼻血も同様だそうだ。

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石化や氷結といった状態異常の表現などの汎用特殊表現を用意することで,コストやメモリの削減もできたという
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 召喚獣の半顕現の表現は,カスタムシェーダーを作成して実現したとのこと。南條氏は,「ノードベースでデザイナーが細かく調整できたため,この仕組みがあってよかった」と語った。ただデザイナーが好き勝手に何でも作っていいというわけではなく,代表者が管理するというルールを設けたという。

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 続いて,衣装の制作に関する紹介がなされた。基本的に布や革素材の衣装については,Marvelous Designerを使って作成したそうだ。特別なことはしていないが,アートに描かれた目立つ皺などはなるべく再現する方向で作業を進めたという。

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 実際のモデルは,Maya上でサブディビジョンなどを使って作成し,そのあとZBrushでディテールを追加するという流れが多かったとのこと。またMarvelous DesignerからZBrushにモデルを持っていく場合は,一度リメッシュしているそうだ。

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ZBrushやSubstance 3D Painterを使ってディテールアップしている過程も紹介された
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 ここからは,CharaEditorを使った実装作業となる。タイリングマテリアルは,召喚獣と同様だが,衣装の場合は別途専用素材を用意して,使い分けているという。

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 またタイリングは,マスクを用意してそれぞれの素材を分けているそうだ。マスクを重ねることも可能で,たとえば布と毛をミックスすると,少し毛羽立った表現もできるとのこと。

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デカール機能を使って縫い目などを追加していくことも紹介された。少々分かりにくいかもしれないが,それぞれ縫い目や糸の色が異なっている
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タイリングとデカールのON/OFF比較も示された
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 布は,素材に応じてシェーダータイプを変更し,ベロアやサテンといった生地の違いを表現しているという。

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 FF16のビジュアル面に大きな影響を与えているという,アンビエントオクルージョンマップについても言及がなされた。南條氏によると,ここではマテリアルに割り当てられているアンビエントオクルージョンのことを指しているそうだ。
 さらに,アンビエントオクルージョンマップから生成されるMicroShadowとSpecularOcclusionを使用することで,より立体的な表現が可能となり,細かなディテールが強調されたとのこと。

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 本セッション最後の総括では,FF16のキャラクターモデル制作について,南條氏が「限られた容量の中で,よりクオリティを上げていく必要があったので,テクスチャの解像度に依存しないタイリングなどの手法が効果的だった。そうした工夫をしていく中で,当初の目的であったムービー用モデルを作成せずに,リアルタイムで動かせるすことキャラクターモデルを構築することができた」とコメント。「さらに汚れや濡れ表現など,今までのFFシリーズよりも踏み込んだ表現にチャレンジできたのも,いい経験になった」と語って,セッションをまとめていた。

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