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[インタビュー]深圳発AYANEOが,Steam Deckを尻目に繰り返す挑戦と拡張――大手のスペック競争に対し,ニッチと王道の狭間をスピードと多様性で埋めるという成長戦略
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印刷2025/10/20 12:00

インタビュー

[インタビュー]深圳発AYANEOが,Steam Deckを尻目に繰り返す挑戦と拡張――大手のスペック競争に対し,ニッチと王道の狭間をスピードと多様性で埋めるという成長戦略

 ゲーミングハンドヘルドで名を馳せた,AYANEOのCEOであるArthurにインタビューしたのは1年以上前。今年の東京ゲームショウにも来るだろうと思って,「久々に会いませんか」と打診して快諾をもらったのだが,なんとTGSのタイミングで台風直撃。主に中国方面から,色々な人が来れなくなっていた。

 今回はさすがに無理かと思っていたら,TGS3日目になってArthurから「明日どう?」という連絡が。どうにかして幕張まで来ることにしたらしい。最終日なのでインタビューする場所もなく,彼もこちらも時間もほとんどないという状態だが,小1時間だけ時間を合わせることができた。

東京ゲームショウでも「AYANEOブランド」としてブースを持ち,ひたすら製品を並べていた。体験しようとする人がぎっしりと詰まっていたのが印象的
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 ガジェットが好きで好きで,好きが高じて,AYANEOを会社ごと買ってしまったのが,CEOであるArthur Zhang氏だ。単なる道楽者ではない,氏の設計方針や仕事の思想を,ちょっとだけ聞いてみよう。

[2024/06/14 07:30]

 AYANEOの主力である「ハンドヘルドゲーミングデバイス」の市場は,もちろんAYANEOだけで語れるものではない。事実上の基礎土台をSteam Deckが築き,そこにASUSやMSI,Lenovoといった超大手が参入する状況で,深圳出身のAYANEOはその最前線に“違う正解”を持ち込んだ存在だ。
 それまでもいくつか存在した,小型のゲーミングデバイス(まぁ主にエミュレータ用途だ)というニッチと,WindowsもSteamも動くハイスペックデバイスという王道の,その間にすっぽりと空いている隙間に製品を投げ込み続けている。しかもかなりの頻度で。

 その中心にいるのが,CEOのArthur Zhang氏だ。コミュニティでは“Uncle Tail”(SNSでの名前も「尻尾おじさん」だ)の愛称で知られる彼は,いくつもの起業歴を持つガジェット好きだ。大枠の仕様や方向性だけでなく,触感やデザイン,UIの節々に「自分たちが遊びたいかどうか」の視点を持ち込む現場肌のリーダーシップが,AYANEOの超多作体質と実験精神を推進している。

AYANEO CEO Arthur Zhang氏
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 ゲーミングハンドヘルドの市場全体を見ると,前述のようにSteam Deckが単独で数百万台を叩き出して“標準デバイス”としての地位を固めている。価格と完成度のバランスを重視するValveの方向性に対して,Windows系各社は高性能化や多様化で対抗するという攻防が続いている。
 この攻防がひたすらに続くと,必然として価格が上昇していくわけで,そこが市場全体の懸念材料でもある。ハイエンド偏重が進むと,広がったマーケットがニッチに逆戻りだ。AYANEOが,新しいサブブランド「KONKR」(コンカー)を立ち上げて低価格の選択肢という存在を明確化しようとしているのも,この問題への対処だと思われる。

 前回のインタビューでも語られた「過去の製品の作り直しじゃ,何も挑戦がない」という言葉こそが,まさにAYANEOをうまく表現している。AYANEOの存在意義は,SteamDeckが作りあげた最適解の“外側”を作っていくことにあるのだ。
 王道勝負ではなく,二画面,レトロ調,物理キーボード,着脱式コントローラー……多彩なアプローチで「モバイルデバイスでのゲーミング」というものの肉付けをしていく。その挑戦はもしかしたら過剰かもしれないし,空振りに終わることもあるが,誰かがその肉付けをしていかない限り,新しい定番も生まれない。

 ……とZhang氏が考えているかどうかは分からないが,AYANEOがどんな風にして「次の当たり前」を探しに行くのかをちょっとだけ聞けた気がするので,ここに掲載しておこう。

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4Gamer:
 なんか無理矢理時間作ってもらったみたいですみません。しかも,もう東京ゲームショウ最終日なうえに,さっき着いたばかりだとか。

Zhang氏:
 いやいや遅れて申し訳ないです。台風でフライトがキャンセルされてしまって,今回のTGSにはもう来れないかなと思ってたんですが,なんと宮古島経由で来れました(笑)。
 ちょうど家族がそこでバケーション中だったので,合流できたしよかったです。

4Gamer:
 てっきり大阪経由とかで来るのかと思ってました。

Zhang氏:
 着いたばっかりですけど,このインタビューを無事に終えたら明日また宮古島に戻ります。
 いろんな製品を記事にしていただき,いつもありがとうございます。

4Gamer:
 いや去年お会いしてから,とんでもない量の製品がこの1年で出ていますよね。社内で,一体何本の企画が同時に動いているんですか?

Zhang氏:
 何本……いくつくらいだろう……10製品以上ですね。

4Gamer:
 想像より多かったです。

Zhang氏:
 2021年に最初の製品を出して以来,ソフトウェアやハードウェア,開発,デザイン,生産など,すべてのスタッフと体制が整いました。その中で出てきた問題を解決しつつ,今はすごく効率的に会社が動くようになっているので,複数製品の企画を同時に進められるようになったというわけです。

4Gamer:
 それにしても,製品発売の頻度がすごく高くないですか? 私はAYANEOの製品をほぼ全部買っていますが,正直なところ,もう何を買って何を買っていないかが分からなくなってきました(笑)。製品が多すぎです! 名前もちょっと似てるものが多いし。

征服を意味する「conquer」が由来なのだろうか
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Zhang氏:
 いやすみません。今はちょうど会社にとって過渡期のような時期で,ブランディング戦略を調整中なんです。
 例えば,初めてのサブブランド「KONKR」(コンカー)を始めたのもその一環ですね。

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 AYANEOが価格対性能比を重視して新たに立ち上げたサブブランド「KONKR」の最初の製品となる「KONKR Pocket FIT」が,Indiegogoで発売された。Snapdragon G3 Gen 3を搭載した通常版と,Snapdragon 8 Eliteを搭載したElite版が用意されており,現在,1週間限定の「超早期割引」が実施されている。

[2025/09/07 11:59]

4Gamer:
 ええ,サブブランドの件は知ってますが,それ以外にも全方位で製品が多いですよね。

Zhang氏:
 そうですね,新しい製品もたくさんあります。
 ダブル画面の「AYANEO Pocket DS」もあるし,最もコスパに優れた入門者向けの「AYANEO Pocket AIR Mini」もあります。これから,モバイルやタブレットの製品も出す予定です。
 ユーザーとしては少し迷うかもしれませんが,これから徐々にブランドの方向性が整っていくと思います。

サイズも価格も1万円分ほどの「AYANEO Pocket AIR Mini」
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4Gamer:
 2025年の会社のキーワードを聞こうと思ってたんですが,キーワードがあるわけではなく,今のところ多方面に色々試して,新たな会社の方向性を模索している感じなんですね。

Zhang氏:
 そうですね。あえて一つキーワードを挙げるとしたら「フルカバー」ですね。
 AYANEOはおかげさまですでにブランドが確立していて,比較的「高めの」位置付けになっています。しかしそのせいで,ユーザーからは価格が少し高いと言われることもあります。
 なので,今年新しく出したKONKRがミドルラインをカバーし,AIR Miniのような製品は600元(約1万2000円)前後をカバーしています。すべてのユーザーに体験を提供できるようになるのが,今年の目標です。

4Gamer:
 なるほど。去年お会いしたとき,あなたは「作り直しは挑戦ではない」という趣旨の発言をしましたが,フルカバーを頑張っているこの1年で,最も「挑戦した決断」といったら何ですか?

Zhang氏:
 うーん……今年の東京ゲームショウに出展している「Pocket DS」が最大の挑戦だと思っています。
 生産においては参考にする対象がなかったので,ハードウェアにおいてもソフトウェアにおいても,すべてゼロからのスタートになったのが今までと違うところです。デザインだけでなく,どうやってインタラクティブにするのかを考えなければいけませんでした。

4Gamer:
 昨日会場でちょっとだけ触りましたけど,いや普通によかったです。上下画面の使い方をいろいろ選べるのがいいですね。

Zhang氏:
 ありがとうございます。それは,今回開発した「AYANEO DS Launcher」によるものですね。
 例えばメイン画面を単独で使ったり,サブ画面を単独で使ったり,またはメイン画面とサブ画面にそれぞれ別のものを表示したりする機能を実現しています。それぞれの画面をロックする機能もついていて,サブ画面ではマルチタスクの表示ができるようになっています。そこまでは触れてないかもしれませんが,ショートカット機能も実現していますよ。

4Gamer:
 だいたいこの手の二画面は,なんか使い勝手悪いんですけど,うん確かにPocket DSはよかったです。
 さっきAYANEOの製品をほぼすべてオーダーしていると言いましたけど,実はダブル画面のものだけはオーダーしたことがなかったんです。なぜなら,ハードウェア的にもソフトウェア的にもチャレンジが多そうで,まだちょっと信用できなかったから。
 でも昨日会場で触ってみて素晴らしいと思ったので,ホテルに戻ってすぐ注文しました(笑)。

Zhang氏:
 アハハ,ありがとうございます(笑)。

4Gamer:
 ソフトとハードの出来がいいのは触ってみて分かったし,ただ画面が2個あるだけのデバイスではないというのがよく分かりました。いまの話を聞く限りでも,相当気合い入れて作ったようですし。
 AYANEOにはあとFLIP DSなんかもあったりして,二画面デバイスをちょっと本腰入れる気配があるんですが,二画面ならではのガジェットの使い方を,AYANEOとしてどのように育てていこうと思ってます?

もちろん,4Gamerを読みながらのゲームプレイもできる
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Zhang氏:
 いい質問ですね。主に3点あります。
 まず使用シーンなんですが,これは「自然に」使ってもらわないとダメだと思ってます。ユーザーのニーズに対応できるようにしないとなりません。
 例えば,上下の画面で異なるゲームをプレイするとか,ゲームをしながらWebを見るとか,ゲームをしながら映画を観るとか。そういったニーズを満たすことは重要です。

4Gamer:
 そうですね。上下画面を「すごく意識して」使い分けないとならない二画面デバイスもありますが,正直使う気になりません。もっとシームレスにすいすい使えるようになってるといいですね。

Zhang氏:
 2つ目は,直感的な操作です。いまもおっしゃってましたけど,頭を使ってセッティングしなくても良く,自然に使えるようになってほしいです。そのままパカッと開けば好きな状態でダブル画面が使えるように,自然に使えてほしいと考えています。
 今回の製品はAndroidをベースに拡張した画面なので,ほかではやったことがないものですし,やはりユーザーに対するガイドは必要になってきてしまいますが。
 そして最後の3点目は,エコシステムの構築です。例えばですが,エミュレーターの開発者に連絡を取って,このデバイスのサンプルを送り,デバイスに合わせて開発してもらったりとかもそうです。
 そうすれば,ユーザーがこのデバイスを手にした時に,自然かつ便利にデュアル画面を使えるようになりますし,アップデートをしつつ,ユーザーの体験を改善していくこともできます。

4Gamer:
 まぁ言葉を選ばずにあからさまに言うならば,DSや3DSのエミュレーターが最もしっくりくる使い方なんだろうとは思います。
 でもそこはいったん置いておいて,合法的なダブル画面のUI/UXをこの後設計していって,公式ツールとかAPIのようなものをユーザーに向けて公開したりする構想なんかはありますか?

Zhang氏:
 UI/UXについては,うん,ちゃんと取り組んでいます。
 今日は文字通り着いてすぐこっちに来たので,そのままデバイスでお見せすることができなくて申し訳ないんですが,例えば指3本で引っ張ったらメイン画面からサブ画面へアプリを移動したり,逆にサブ画面からメイン画面に移動させたり,ベースとなるインタラクションと,アプリケーションの切り替え機能があります。
 もう一つは,さっき言ったDS Launcherです。基本的に,今あるダブル画面のUIはタブレットの動作になってしまうんです。なので,どうやってダブル画面の特性を活かせるようにするのかが難点です。そういったコントロールをサポートしたりする必要があるので,DS Launcherを作ることになりました。

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4Gamer:
 二画面コントロールって,思っているより面倒くさいし煩雑になりがちなので,ぜひかっちりしたUIを作ってほしいです。

Zhang氏:
 ええ。メイン画面で一つのアプリを開いて,サブ画面でもう一つのアプリを開きたい時,メイン画面のアプリを間違って閉じちゃってまた開いたり,みたいなことが頻繁に起きますよね。でもAYANEOなら,それを解決するためにDS Launcherがあります。
 サブ画面ではカード表示を使って,ボタン一つで画面のオン/オフ,フル画面表示,もしくは画面の切り替えができるようになっています。こういうアプリケーションはAYANEOが初めて作るものであって,過去に誰もやっていません。

4Gamer:
 力の入った説明で余計に気になったので同じ質問をもう一度しますが,AYANEOとしては,このあとも二画面デバイスのマーケットを育てていく……という構想があるんでしょうか。

Zhang氏:
 Pocket DSはAYANEO初のAndroidデュアル画面デバイスですが,これが絶対に最後のデバイスになるというわけではないと思います。

4Gamer:
 すごく遠回りな表現ですね(笑)。

Zhang氏:
 ハハハ(笑)。Pocket DSを開発する過程で培った色々な経験を持って,ソフトウェアにおいてもユーザー体験を向上するものを作り続けられると思います。
 市場には,ほかにもダブル画面のデバイスはありますが,それらが必ずしもPocket DSと同じような体験を提供しているわけではありません。なので今回のデバイスとそこでの経験を持って,次のデバイスを開発していくと思います。

4Gamer:
 二画面デバイスは,電力面でも厳しいし,発熱も厳しいし,物理的な強度や重さなど,あらゆることが初めての設計だったんじゃないかなと思います。
 説明してくれたソフトウェアもそうですが,これだけのリソースを投入したんだからこのあとも続くんじゃないかと思ってたんですが,続きそう……ではありますね。

Zhang氏:
 出したばかりなのでまだまだこれからですけど,ソフトウェアを改善しつつ,新しく購入した人がデュアル画面に対して不便を感じないよう,いろいろ改善して進めていきたいです。

4Gamer:
 しかしあれだけ矢継ぎ早に製品が出て,二画面のWindowsと二画面のAndroidも出して,タブレットなんかも出すんでしょうし,何でもかんでもやるようにも見えますが,たぶん今までの中で「やらない」と決めたこともあると思います。
 興味本位の質問なんですが,「やらない」と決めたことはどんなものですか?

二画面AndroidのAYANEO Pocket DS(左)と,二画面WindowsのAYANEO FLIP 1S DS(右)
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Zhang氏:
 具体的にどの製品とかではないのですが,WindowsとAndroidにそれぞれ1個ずつあります。

4Gamer:
 逆に言うと1個ずつしかないんですね……。

Zhang氏:
 ハハハ,そうですね(笑)。
 初めて市場にAndroid機を投入するとき,初期はそこまで経験があるわけではなかったので,製品を出す直前に競合のデバイスが出て,それがスペック的に自社のものより高かったし,価格的にも安価なものになっていました。それを見て,発売する前に中止しました。
 今回のダブル画面のような特別なデバイスというわけではなかったんですが,市場に対する理解が足りてなかったと思っています。当時は十分な開発リソースも持っていませんでしたし,そのプロジェクトの立ち上げから実際のプロダクトまでは1年かかっていました。それでもそのプロジェクトを捨てたんです。

4Gamer:
 昨年も言った気がするんですが,AYANEOのデバイスは他社製品に比べて,ボタンがカチカチうるさくないのが好きなんです。単にスペックだけで選ばない人もいるということは覚えておいてほしいです。

Zhang氏:
 そうなんですが,当時はまぁいろいろ理解が足りてなかったですね。
 そのデバイスは,今も一つの教訓として会社の中に置いてあります。業界への十分な理解がない状態で動いたら,そうなってしまうという。

4Gamer:
 Windowsデバイスにも1個あるんですよね。

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Zhang氏:
 ええ。それを作った当時は少し忙しかったのと,その製品を受け入れていただけるかに関して心配が残っていて,出さないことになってしまいました。
 その後,業界の人達にその製品を見せたら,みんな褒めてくれて,これは好きだなとも言われましたが,タイミングを逃してしまったので,少し残念です。
 もちろん会社のスタッフとコミュニケーションは取っていますが,製品の定義とその戦略に責任を持つのは自分なので,出さないという決定も自分がやっています。
 今度中国に来てくれたら,AYANEOの没になった製品達をぜひお見せしたいですね(笑)。

4Gamer:
 おお,それはちょっと見たいですね。でもすごくいい製品だったらちょっと悲しくなるかも。
 いま「最終責任は自分」とおっしゃってましたけど,その最終的な結論を出す時に重要視するのは,過去のエビデンスのような数字なのか,デバイスオタクとしてのあなたのフィーリングなのか。どちらに重点が置かれますか?

Zhang氏:
 市場に流したら競争力があるかどうか,ですね。なので,そのどちらでもないですし,どちらでもあります。簡単な決断ではないんです。
 膨大な時間や資金,色々なコストをかけているものなので……。すでに出来上がったケーキを,誰も食べないからと捨てなきゃいけないという苦しさがあります。

4Gamer:
 では逆に,想定を超えてヒットした製品とか,逆にその想定をはるかに超えて外した製品とか,なんかそういう「想定外」だったデバイスってありますか。

10月14日時点で,中国での予約注文が1万1000台を突破していると発表された
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Zhang氏:
 予想を超えて売れたものとしては,Pocket AIR Miniでしょうか。
 中国での予約が始まったばかりなんですが,すでに8000個以上の注文が入っています。予約開始からたった数日しか経っていないのに!

4Gamer:
 この手のデバイスで,数日で8000個は相当すごいですね。

Zhang氏:
 この製品はすごく安価に設定していて,その市場が大きいのは分かっているし,その市場の中で自分の製品が競争力があることも知っています。ただ,安い製品を出したことがないので,出す前に少しドキドキしたところも否定できません。これ本当にうまくいくの? という心配もありました。

※INDIEGOGOプライスで,高いほうでも12000円くらい

4Gamer:
 廉価版……というほどではないですが,Pocket Fitはどうですか。僕も注文しましたが,触った感じバランスがすごくよかったです。

Zhang氏:
 「KONKR Pocket Fit」もいいですよ。ちょうど昨日から出荷を開始しました。その2つが,予想以上に売れているものになっています。やはり,ユーザーはコスパが良いものが好きなんだろうなと感じます。

4Gamer:
 ダメだったなぁ,というものは?

Zhang氏:
 期待したほどは出なかったなというと,「AYANEO FLIP KB」ですね。実際,製品の中でも大きなコストをかけていて期待していたんですが,販売の成績で言うと「FLIP DS」の方がより良い成績を出しています。その理由としては,やはりほかのブランドも同じ類の製品を出していたからじゃないかなと思っています。

※2025年7月,「AYANEO FLIP 1S DS」(左)と「AYANEO FLIP 1S KB」(右)が登場した。どちらもクラムシェル型のデバイスで,DSはその名のとおり7インチと4.5インチの二画面で,KBは下部分がバックライト付きの物理キーボードになっていた。(関連記事
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4Gamer:
 そういえばほぼ同時に市場に存在してましたもんね。

Zhang氏:
 しかも,製品に対する定義の違い……というか需要とちょっと合っていなかったのかなと思っています。
 例えば,ほかのブランドはその軽さを強調していましたけど,FLIP KBは30W TDPのかなり良いスペックであることを重視してました。もちろんスペックが上がるということは少し重くなってしまうわけで,その点でユーザーの心をうまくつかめていなかったと思います。この失敗の経験は,次の開発に活かせると思っています。

4Gamer:
 そんな風に色々な製品を発売する中で,何か日本のユーザーの特徴ってあったりするんでしょうか。

Zhang氏:
 とくには……ないですね。
 でも「AYANEO Pocket S」と「AYANEO AIR」という2つの製品が代表的かと思うんですが,日本のユーザーは軽くて小さいものがより好きなのかなと思っています。それが正しいのかは分かりませんが,販売データから見るとそんな気がします。

4Gamer:
 いつもカバンに入れておいて,電車の中とか隙間時間で遊ぶことを想定してるから……ですかねえ。できるだけ小さくて,できるだけ軽い方が良い。

Zhang氏:
 そういったものをどんどん開発していきたいですね。

4Gamer:
 私の場合は家の中で使うことが多いので,少しぐらい大きくても重くても良いから,とにかくハイスペックなものが欲しいです。もしかしたらそういう二極化に進んでいくんですかねえ?

Zhang氏:
 たぶんですが,ユーザーはイノベーションが好きで,エレガントなものが好きだと思うんです。なので,別にサイズはあまり気にしていなくて,革新的でエレガントなものであれば問題ないと思います。
 なので私も,新しい製品を作る時には一つのアイデアが中心になっていて,そのアイデアが実現できるかどうかを検討してから始めます。なのでPocket AIRのように小さくて軽いものもありますし,Pocket EVOのようにすごく大きくて重いものもあるわけです。

4Gamer:
 そういえばそうでした……そういう人でしたね。

Zhang氏:
 そういえば話しながら一つ思い出したので,共有しておきます。
 これはまだどこにも出したことがない新しい情報なんですが,中国の国慶節以降の10月頃に「AI Max+ 395」という大型ハンドヘルドタブレットを発表する予定です。

4Gamer:
 (写真を見せてもらいながら)おおこれWindowsなんですね。シンプルでかっこいいですね。画面サイズどれくらいなんですか?

Zhang氏:
 まだ内緒ですが,結構重いと思いますよ。その名のとおりRyzen AI Max+のCPUを使っていて,すごく大きいバッテリーを積んでますし。国慶節以降のどこかで発表する予定です。

4Gamer:
 そのCPUを使ったタブレットはちょっと楽しみですね。
 いや,それはそれで楽しみなんですが,さすがに1回くらい会場にも行かないとダメですよね。そろそろ締めようと思いますが,最後に,ユーザーに対して来期はこんな感じになりますと約束できること,何かありますか。

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Zhang氏:
 最近は色々なブランドから色々なハンドヘルド製品,デバイスが出ていますが,ユーザーのすべてのニーズを満たしているわけではありません。そういったユーザーのニーズを把握して,それらを満たすことがAYANEOがやるべきことだと思っています。
 「Real Gamers Know Gamers」というAYANEOのモットーどおり,本当のゲーマーのニーズを掘り起こして満たし続けていこうと思います。

4Gamer:
 ありがとうございました。
 いやホント急いで会場行ってください! まだちょっとくらいは見られるかも?

Zhang氏:
 次の新製品のときのインタビューでまたお会いしましょう!

―――2025年9月29日収録

追記:
矢継ぎ早に製品を出し続けているAYANEOは,まだ4年の歴史しかないが,過去製品をすべて思い出すことは至難の業。これを機に,AYANEOの年表をまとめてみた。

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