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[GDC 2022]ダークなデジタルカードゲーム,「Inscryption」はいかにして作られたのか
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印刷2022/03/25 13:28

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[GDC 2022]ダークなデジタルカードゲーム,「Inscryption」はいかにして作られたのか

 2022年3月21日,GDC 2022での同時開催イベントであるIndependent Games Summitで異色のカードゲーム「Inscryption」開発の顛末を語る講演「Sacrifices were made: The Inscryption Post-Mortem」が開催された。登壇したのは,作者であるDaniel Mullins GamesのDaniel Mullins氏だ。

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「Inscryption」公式サイト


 「Game Developers Choice Awards」と「Independent Games Festival」でGame of the YearSeumas McNally Grand Prizeを受賞するという二冠を達成した「Inscryption」だが,どんなゲームかを一言で説明するのは難しい。
 Mullins氏はSteamの説明を見てもらうのが一番だとしていたが,4Gamerにはプレイレポートが掲載されているので,ゲームの雰囲気が分からない人は,先にそれを読んでおくのがいいだろう。

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 GDC 2022の3日目に開催された「Game Developers Choice Awards」にて,インディー開発スタジオのDaniel Mullins Gamesが制作した「Inscryption」がGame of the Yearを獲得した。同日行われた「Independent Games Festival」でも最優秀賞に選出されている。

[2022/03/24 15:04]
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 2021年9月2日と3日に開催された「BitSummit THE 8th BIT」で4タイトルを出展していたDevolver Digitalだが,その中で異彩を放っていたのが,PCで2021年内に発売予定のカードゲーム「Inscryption」だ。会場となった京都・みやこめっせで,ダークな世界観が特徴の本作を遊んできたので,そのプレイレポートをお届けしよう。

[2021/09/04 11:09]

 本作はMullins氏による3本めのインディーズゲームだ。ソロのゲーム開発者だが,音楽の制作については長年のパートナーがいるとのことだ。

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 氏は,2018年に「The Hex」を作ったあと,ゲームジャムのLudumDareに参加したという。LudumDareは,参加者がレビューしあうことで人気のゲームジャムだ。そのときのテーマは「犠牲を払わなければならない」というものだった。
 日頃から「マジック:ザ・ギャザリング」をプレイしていた氏にとって,なじみ深いテーマだったため,かなり乗り気で臨んだようだ。その結果,作ったゲームは2位になり,氏にとっては大いに満足できるものだったという。

LudumDareで作成したゲームとその結果
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 そのカードゲームをベースに,前2作に続く作品としての制作を開始したのだが,初期のアイデアでは,Valve作品からインスピレーションを得た「Carnelian Box」という,3つのミニゲーム(?)を作ろうとしていた。具体的には,「ポータル」のようなもの,「The Hex」の世界観を使ったHalf-Life的なエピソード,そして「Team Fortress 2」のようなものだったそうだ。

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 こういった基本アイデアにはそれほど固執していなかったと語るMullins氏が,開発初期でこだわったのはアートスタイルだった。「The Hex」ではそれが未完成だと感じていた氏は,レトロ3Dスタイルにしようとした。それも,シェーダやポストプロセスを使い,ゲーム側でスタイルを定義できるようにしたいと考えたのだ。
 3Dアーティストに心当たりがなかったので,フリーまたは有償のアセットを導入したという。いろいろな人が作ったアセットでも,ゲームの中では同じテイストで表示されるようにしたいと思ったわけだ。

 そのための秘密兵器が,いくつか紹介された。まず,画像を縮小してピクセルを目立たせることだ。画像を960×540ドット程度に縮小することで,法線のアラや,影とモデル間の隙間などをうまく誤魔化すことができたという。ディテールが減っても,そうした見た目のほうが好きだったとMullins氏は語る。レトロの美学だそうだ。

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 次は,明るさで閾値を取ったポスタライゼーションだ。ポスタライズは色の階調を減らす処理だが,レトロ風を目指す氏にとっては,階調が粗く際立ったメリハリのほうが好ましかったようだ。なお,デモ中に見られた移動する影はライティング処理ではなく,黒いグラデのついた四角形を張り付けて表現している。このほうが簡単で,完全な処理ができるとのことだった。

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 上記のように,アセットには購入したものも多く使われている。安い,早い,好きにいじれるということで氏はお気に入りのようだ。しかし,それでも優れた3Dアーティストは必要だという。

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 Carnelian Boxの1つを構成する場所をMullins氏は「Deeathcard Cabin」と呼んでいた。ユーザーインタフェースを使わず,プレイヤーにゲームの状況を知らせるオブジェクトを配置することで物理的に表示する,という試みが行われている。小屋には意味の分からないオブジェクトも置かれているのだが,それらを探索することもできる。

 ゲームは一人称視点だが,一人称視点では遠くにあるものが見えにくくなるため,カードゲームにつきものの長いテキストは廃し,紋章によって遠くからでも分かりやすくするという工夫が行われてた。数字を出す代わりに敵に矢印が出て,カードがしゃべるのだ。

 小屋の中を探索してパズルを見つけ,カードゲームからのヒントでそのパズルを解くといった構想だったそうだが,あまりうまくいかなかった。ワードローブにあるパズルなどは難しすぎて,プレイヤーがあまり探索をしてくれなくなったという。そのため現在ではパズルを簡単にしている。

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 パズルのほかにも意味不明なものは多く,最後まで何なのか分からない。

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 Mullins氏はかつてゲームボーイカラーで「ポケモンカードゲーム」をプレイしていたが,2019年の暮れに改めてニンテンドー2DSでプレイし直してみて,複雑なカードゲームを狭い画面で表現していることに感銘を受けたという。そして,「Inscryption」を作ってみたいと,強く思うようになったのだ。

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 2020年に入ると新型コロナウイルス感染症が猛威を振るったが,自宅以外に仕事場を持っていたので,閉塞感に悩まされることはなかった。開発のこの段階では,「ゲームは終わったのに,始まったばかりだ」という感情を想起させることを目標にしていたという。これは,氏が「ゼルダの伝説 時のオカリナ」を遊んで感じたことに由来する。最近は「ELDEN RING」でも似た感覚を味わったとのことだ。

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 上記のように,大学時代から「マジック:ザ・ギャザリング」をやり込んでいたので,友人がときどき似たゲームを持ち込むことがあったという。しかしそれらのゲームでも,「マジック:ザ・ギャザリング」と同様,カードを集め,デッキを作らなければならなかった。開発のこの段階では,すべてのカードが切り替わり,まったく新しいものになるはずだったという。

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 パブリッシャのDevolver Digitalとの話も始まった2020年暮れには,俳優と打ち合わせをするようになった。撮影は2021年になってから。ゲームには,不気味な小屋,カードゲーム,未来的な工場など,異質なものが1つに詰め込まれている。これらを,ブリトーを包み込むトルティーヤのようにまとめるのが,実写によるストーリー展開なのだという。

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 Mullins氏は高校時代に「映画のようなもの」を撮影した経験があったが,本職の俳優と仕事をする準備はできていなかった。それが,登場するルークのシャツがシーンの切り替えごとに変わるという「Tシャツ騒動」につながったという。満足できるテイクがなかったため,複数のテイクをつないだところ,シャツが変わっていることに気づかなかったのだ。
 ファンはこれを,意図的なもので,短期間で切り替わるエネルギー的なものの一部だと考えたが,これは単に氏の監督としての不手際だったと謝罪した。

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 βテストは,「Inscryption」の開発で大きな位置を占めている。βテストはSteamの新機能であるSteam Playtestを使って行われた。これは,パッチを作るたびに新しいユーザーを招待してテストが行える機能で,7か月で7000人,テスト終わり頃にはさらに人数を増やしたとのこと。ゲームが発売してうまくいったのも,このテストによるところが大きいという。

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 「The Hex」にもあったように,「Inscryption」にも隠しエンディングが存在するという。ゲーム起動画面で[Ctrl/C]を押すとテキスト入力画面になり,コマンドを入力できる。ゲーム内のビデオで出てくる付箋は最初の謎のカギになる。ただし,全力で難しくしたそうで,例えば,Mullins氏が5歳の頃にBoardGameGeekに投稿したものや,2014年に行ったKickstarterキャンペーンなどもヒントの一部だそうだから,簡単にはいきそうもない。

 ゲーム内には,ARゲームでしか解決できない謎もある。ギミックの1つは,あるARゲームのいくつかの地点でWebサイトを見つけた最初の20人に,エンディングの入ったフロッピーディスクを物理的に郵送するものだったという。サイトには偽のオーダーフォームがあり,何千もの入力がなされたが,正解は特別な住所だった。Mullins氏は20人にディスクを送ったが,これは3種類あって,組み合わせることができる。公式エンディングを示す未公開のYouTubeビデオを見られたという。

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 最後に紹介された逸話もゲームの謎に関するものだった。
 ゲーム内の動画で,ルーク・カーターは森の中でフロッピーディスクを掘り出すのだが,その座標はバンクーバーにある公園スタンレーパークを示していた。何人かがそこを訪れたが,場所が正確ではなかった。というのも,いくつかのサンプルがないと正確な場所が割り出せないことを氏が理解していなかったからだ。ふらふら歩く彼らが怪我でもすると訴訟沙汰になるため,Mullins氏氏は自転車で出かけて彼らに話をし,同意を得て,ライブストリームで彼らが殺される演出を行ったそうだ。
 
 インディーズゲームならではといった逸話もあり,ときおり爆笑が上がる,盛り上がったセッションだった。

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