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「Tokyo Stories」は,夜の渋谷という街のカルチャーをベースに人の記憶の物語を描く。開発キーマンにインタビュー[TGS2024]
消えゆく東京を舞台に,いつの間にか消えてしまった親友を探すために彷徨う少女の物語を描く本作。ピクセルアートと3Dを融合させたビジュアル表現も特徴の要注目作品だ。現在はSteamにてウィッシュリストの登録が受け付けられている。
今回はTGS 2024の会場で,プロデューサー/ディレクターを務める池田佑基氏と同アートディレクターの寺島誠一氏に話を聞きながらゲームを体験できた。その後インタビューで2人に話を聞けたので,その模様をお伝えしよう。
4Gamer:
4Gamerはこれまでも2022年と2023年のBitSummitで「Tokyo Stories」を試遊しています(関連記事1,2)。今回TGS 2024に出展したバージョンはどのような内容なのでしょうか。
池田佑基氏(以下,池田氏):
これまでは作品の雰囲気を伝えるのがメインでしたが,今回はもうちょっとゲームの部分,遊びの部分を楽しめるものになっていますね。
今まではイベントシーンとかも流しっぱなしで,下にセリフが出てきてそれを眺めるみたいな感じでした。今回は目的地に向かうためのちょっとした探索や,テキストの選択などが入っています。セリフ送りができるのも今回が初めてですね。「ついにセリフ送りを体験できます」っておかしな話ですけど(笑)。
4Gamer:
(笑)
池田氏:
試遊デモの流れを説明すると,主人公のスズを操作して渋谷の街を探索するのですが,その理由としてあるのが,スズは親友のユノと初めて出会った日のことを忘れているんですね。それを思い出すため,スズとユノの思い出を巡って記憶を取り戻すために,思い出の地であるゲームセンターに向かうんです。
4Gamer:
しかし,ドアはツタに覆われて入れないので,開けるために探索することになると。驚いたのが,探索をする渋谷が異空間みたいになっているじゃないですか。
池田氏:
ここは記憶の世界のようなところで,本作は夜の渋谷のパートと記憶の世界のパートが入り混じりつつゲームが進んでいくんですが,その探索がちょっとしたアクションパズルになっています。街のあちこちに「チョウ」がいると思うんですが,それを連れていると見えなかった場所に道ができたり,逆に道を遮るものが現れたりするんですね。
4Gamer:
この探索をクリアし,ゲームセンターに入るわけですね。ちょっとした移動のときなどに2人の思い出なのか,テキストが浮かび上がってくるところがとても雰囲気があっていいですね。
池田氏:
ありがとうございます。といった感じで簡単な探索やパズルのような要素というゲームの遊びの部分をお伝えするのが今回のデモです。
4Gamer:
この,なんとなくは導かれているけど,どっちに行ったらいいんだろう感があるのが絶妙ですね。
池田氏:
このあたりは難しくて。ゲームの遊びを入れたいけど,ストーリーが重要なゲームだからここで迷われると困るなというのがあるんですよね。
4Gamer:
ちょっと懐かしい操作感のある固定カメラも,ゲームの雰囲気づくりの一助になっていると感じました。
池田氏:
ピクセルアートのゲームというところで,意識的に固定カメラを選択しています。
カメラは動かそうと思えば全然動かせるんですが,固定だからできる見せ方や光の演出があるんです。逆にあえて動かさないことが,このゲームの雰囲気にとても合っているんですね。
4Gamer:
PlayStation初期のような感覚がありますね。ゲームセンターは最初入ると電気をつけないと薄暗くて,ちょっと1作目のバイオハザード的な緊張感が走りました。
池田氏:
ああ,その雰囲気分かります(笑)。
今,このスタイルのゲームを知らない人は結構多いみたいですね。試遊いただいた方の中にも「あれ。歩いてもカメラがついてこない」ってなっている方はいました。
4Gamer:
そもそものところではあるんですが,なぜこのアートスタイルにしたんでしょうか。
池田氏:
だいぶ寝かしていた感じにはなるんですが,実は企画自体はすごく前からあったんですよ。寺島君とは,以前からピクセルアートのゲームを作りたいねって話をしていたんです。ピクセルアートの持つ寂しさとか,ノスタルジックを感じさせる表現でゲームを作りたくて,いろいろ試行錯誤していたことがあったんです。
それがあるとき,社内で「あの企画いいじゃん」って言われて,「じゃあ簡単に作ってみます」と出してみたら割と反応があってという流れなんです。
寺島誠一氏(以下,寺島氏):
引くに引けなくなり……。
池田氏:
いや,もっといい言い方あるでしょ。そもそも引く必要ないし(笑)。
4Gamer:
(笑)。本格的に開発を始めてからはどれくらい経っているんですか。
池田氏:
3年ぐらいです。ただ情報発信は4年ぐらい前からしていましたね。
4Gamer:
答えにくいとは思いますが,物語はどのくらいまでできているんでしょう。
池田氏:
大枠はできているのですが,個別のところができ始めていて,それをつなぐ部分をこれからたくさん作らなきゃという感じでしょうか。なので,開発はもう少し時間がかかると思います。
4Gamer:
ちょっとしたニュアンスで雰囲気も変わりそうなゲームという印象があるので,個別ではよかったけどつないでみたらちょっと違う印象になった……みたいな苦労はありそうですね。
池田氏:
確かにそのあたりは大変です。並びで作っているけど,実際にゲームで流してみたときに「ちょっとここテンション違ったかな」みたいなのは本当にあって。語尾ひとつとっても,「〜だ」か「〜だね」かで全然変わったりとか。
4Gamer:
歩いているとふわっと表示されるテキストも絶妙なタイミングというか,このあたりもかなり気を使われているのかなと。
寺島氏:
ただそのあたりをいい加減に作っているゲームなんて多分ありませんよね。見せ方もそうだけど,やっぱり言い回しとかは,みんなかなり気を遣ってるんだろうなと思います。自分はテキストを書いている人間ではないけど,こう,ちょっと変わったなとかは感じるんですよ。
池田氏:
「Tokyo Stories」のようなゲームは,「最後に触れるのはやっぱりテキストだよね?」っていうのがあるんですよ。
グラフィックスの雰囲気がいいなとか,ゲームの遊び心地がいいなって思っていただけても,最後はテキストでその体験がどういうものだったかっていうのが決まっちゃうみたいな。
4Gamer:
たしかに……どのゲームでも大事な要素ですが,本作のようなゲームはそれが特別目立ってしまいそうです。ビジュアルの表現はどうでしょう。
池田氏:
ピクセルアートの想像の余地がある部分は大事にしていますね。たとえば,なにか話しているとき表情がハッキリとは見えなくて,じゃあ表情豊かに動かせばいいかといったらそうではなくて。この表情で伝えるこの言葉には,いったいどういう気持ちが込められているんだろうって,プレイヤーの皆さんが考えられる余地があるといいなと思っています。
4Gamer:
そういった部分も担うアートディレクターの寺島さんですが,ビジュアルの表現で苦労した部分はありますか。
寺島氏:
特別大変だったことはなくて,どちらかと言うと,「これできたらなあ」「こういうのも入れたいな」とか,やりたいことがどんどん思いつくくらいです。それが時間や容量といった物理的な問題でできないことが苦労といえば苦労ですね。
池田氏:
なんかもうちょっとアート的なところで話はないの?
寺島氏:
いや,別にないかなあ。うん。
池田氏:
ああ,ほんとにないんだ(笑)。
4Gamer:
(笑)。なんかこの掛け合いがいいですね。
寺島氏:
ああでも,東京を舞台にしたゲームというところではありますね。
「東京が舞台!」っていうゲームは世の中にいくつもありますよね。それで,「東京が舞台といったらこんな雰囲気だよな」みたいなイメージを持たれやすいと思うので,それには抗うというか,戦おうみたいなのはあるんですよ。
4Gamer:
確かに受け手側もピクセルアートでノスタルジックな日本が舞台のゲームと聞いて,過去の経験則などから「だいたいこんなゲームだろう」と想像してしまうことはある気がします。
寺島氏:
そういったノスタルジックでエモい日本のイメージって,ゲームに限らずみんな好きじゃないですか。でも普通にやったらなんかこう,ちょっとどうなの? みたいな気持ちもあるんですね。
4Gamer:
なるほど。イメージに当てはめられてしまうものに抗うと言いますか。では,「Tokyo Stories」で描かれる東京って,どのようなイメージで描いているんでしょうか。
池田氏:
こだわりみたいなのだとグラフィティがあるよね。
寺島氏:
伝わるか分かりませんが,自分としては,室外機や電線,配管といったオブジェクトの良さと言いますか,そのあたりをしっかりやりたいみたいところがあります。
4Gamer:
ああ,すごく分かります。あと配電盤とか。そういうものにステッカーが貼ってあって,それが色褪せてる感じというか。
寺島氏:
そうですそうです。それって東京に限らずなんだけどなんか東京のイメージで,それも山手線の内側と外側でまた印象が違うと言いますか。都心の雑多な感じとでも言いましょうか。
池田氏:
表現として,住む街としての渋谷じゃないんだよね。
ゲームとして夜の渋谷というのが大事なイメージにあって,欲望がちょっと色褪せた感じみたいなのがある。
4Gamer:
それもすごく分かります。デモが山手線っぽい電車で移動するところから始まるじゃないですか。あの人気のない車両の雰囲気が,遅い時間に渋谷に向かっているという感じで。
寺島氏:
自分の青春時代の話なんですが,結構映画好きで,渋谷のミニシアターへレイトショーを観に行き,終電近くの電車で帰るみたいな生活をしていたことがありました。それが原体験としてあるんです。
4Gamer:
いわゆるウェーイなノリでパーティーをするのではなく,サブカルな面の渋谷というか。私も結構似ていて,レイトショーを観て帰るのもですし,逆にそういう電車に乗って渋谷に向かい,クラブでテクノを聴いて朝帰りするなんてことをしていました。
池田氏:
そうなんですね。話を聞いていると好きなものも近そうだし,ユーロスペースあたりで会ってたりしたんじゃない?
4Gamer:
あるかもしれませんね(笑)。
寺島氏:
そういったわけで,今までのノスタルジックでエモーショナルな東京のイメージと違うかもしれないですが,アート面ではそういった部分を楽しんでもらえるうれしいです。
4Gamer:
インディペンデントな作品ってこういうローカルな街や人の話だけど,でも遠く離れた国や地域の人が見て「なんだか自分に似ているな」って感じられるものがあると思うんです。「Tokyo Stories」はまさにそういった作品だと,話を聞いて思いました。今後の情報発信にも期待しています。本日はありがとうございました。
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