インタビュー
[インタビュー]「今この瞬間ではなく,未来を見据えるべき」――リネージュIIをフル3Dにした男が,50代で挑む新境地。NCSOFTのペ・ジェヒョン氏に聞く
社内に「ゲームを作りたい」という人間がほとんどいない中で,真っ先に手を挙げた一人がペ氏だった。子供の頃からスペースインベーダーに熱中し,MSXのBASICでプログラムを書き,Netscape 1.0に夢中になった生粋のギークであり,そんな素養が,彼をオンラインゲーム開発の最前線へと導いたのは必然だったのかもしれない。
そして2000年,30歳にしてプログラマー兼プロデューサーとして「リネージュII」のプロジェクトを始動。まさに「三十にして立つ」。“リネージュの父”であるJake Song氏の系譜を継ぎ,周囲の猛反対を押し切ってフル3Dへの移行を断行した。
周囲の反対の理由は「描画できるハードウェアがない」というものだったが,技術屋であるペ氏にはNVIDIAのGPUが大衆向けに普及する未来が見えていたとのこと。ローンチのタイミングをグラフィックカードの新製品投入に合わせ,見事に成功を収めたこのエピソードは,彼の製品開発哲学を端的に物語っている。
「今この瞬間ではなく,未来を見据えた開発をするべきだ」
その信念は,格闘ゲーム的なアクションをMMORPGに融合させた「ブレイドアンドソウル」でも貫かれた。回線速度の進化を見越して「そろそろ可能だ」と踏み切ったのだという。
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NCSOFTが2024年に独立スタジオ制へと移行する中で,ペ氏は子会社BigFire GamesのCEOに就任した。
現在開発を率いるMMOタクティカルシューター「CINDER CITY」は,Unreal Engine 5で構築された,荒廃する近未来のソウルを舞台にしており,2026年後半のPC/コンソール向けグローバルローンチを目指す。
この作品で実は驚くべきところは,この作品の原点が2018年にペ氏が一人で書き始めたSFシナリオにあるということだ。なんでも,「AIが発達した2035年の世界」を想像して書いたというその物語は,困ったことに現実のほうが11年も早く追いついてしまったと本人は苦笑する。
韓国ゲーム業界の「第1.5世代」として,第一世代のレジェンドたちが築いた基盤を飛躍的に進化させてきた氏は,AIがもたらす創作革命の只中で,なお新しい領域へと踏み出そうとしている。
筆者はだいぶ長い付き合いなのだが,直接ゆっくりと話をできたのは20年ぶりで,そのせいかゲームの話がほとんど出てこないインタビューとなってしまった。
その代わりに語られたのは,技術革新とともに歩み続けてきた一人の開発者の,飾らないライフストーリーだ。ぜひそちらをお読みいただきたい。
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ぺ氏:
今年一番寒い時期に来ていただいて(注:インタビューは1月21日の極寒のソウルで行われた),ありがとうございます。
4Gamer:
それ会う人会う人みんなに言われるんですが,すごく覚悟を決めてきたので思ったほどではないです(笑)。
前回のG-STARで一瞬だけお会いできて,嬉しかったですよ。あのとき何年ぶりですかね……たぶん20年ぶりくらい?
ぺ氏:
本当ですよね。遥か昔の東京ゲームショウとかで会ってましたし,リネージュIIのローンチのときにもかなり頻繁に会ってましたよね。
4Gamer:
でも,たぶん最後は2006年くらいなんですよ。
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本当に20年だ。時間経つのは早いですねえ。
4Gamer:
早いですねえ。あのころはまだお互いにまだ若かった(笑)。
ぺ氏:
いやでもよく二人とも,この20年間健康で業界に残り続けられましたよね。
4Gamer:
本当に。あなたとはほとんど同じ歳なので,余計にそう思います。
ぺ氏:
そう。僕は1971年生まれで……。
4Gamer:
僕はその2つ上です。
ぺ氏:
うん,兄貴ですね(笑)。
4Gamer:
いやいやそんなことより,NCの社員番号1番のほうがすごいですよ。
ぺ氏:
ふふふ。あなたもそうですけど,あとNVIDIAとかMicrosoftとか,海外のゲーム業界で10年前,20年前……ましてや25年前とかに会っていた人達が,今もちゃんと業界に居続けていることにすごく感動します。
4Gamer:
NVIDIAの社長なんか,NV1のころはそのへん普通にふらふら歩いてたのに,もう殿上人ですしね。
ぺ氏:
本当にそうです(笑)。
20年以上前にリネージュIIをローンチする時は,グラフィックカードがあーだこーだって議論しながらやってたのに,今はもうグローバル時価総額1位の神様ですよ!
4Gamer:
RIVA128※あたりから急激に巨大化しましたよねえ。
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当時NVIDIAで私たちと一緒に仕事をしていた方はケイタさんという日本の方で,当時彼は室長でした。私も当時室長としてゲームを作っていたんですが,今では二人とも副社長です(笑)。
4Gamer:
あー,飯田さんですね。飯田さんもずっとNVIDIAですもんね。※
というかそういう話で言うなら,そもそもぺさんはゲーム業界の人じゃないですよね。確かヒョンデ(Hyundai)でしたっけ。
※NVIDIA の開発者リレーションズ担当バイス プレジデント飯田慶太氏(関連記事)
ぺ氏:
そうです。なにせその当時は,ゲーム業界に行くと飢え死にするとかそういうことを色々言われてたので,お金を稼がなきゃいけなくて大企業に入ったんです。それで,その時のチーム長がTJ(現NCSOFT CEO/CCOのキム・テクジン氏)でした。
意気投合して一緒に会社を作ったんですけど,最初はゲーム会社じゃなかったんです。その頃は韓国のNAVERとかYahoo!といったポータルサイトが台頭していた頃だったので,そういうサイトを作ってました。
そうしているうちにゲームを始めることになって,でもその時会社にゲームが好きでゲームを作りたいというプログラマーがあんまりいなくて,その中に「やります」と手を挙げた一人が私でした。
4Gamer:
なんで手を挙げたんですか?
ぺ氏:
ゲームが好きだったんですよ。子供の頃から。
アーケードゲームの時代ですし,ゲーセンも結構行ってました。なにせ一番初めにやったゲームは,タイトーの「スペースインベーダー」ですからね!
4Gamer:
さすがほぼ同じ歳(笑)。
ペ氏:
家にMSXもありましたよ。それを使って,中一の頃からBASICで開発を始めてました。
4Gamer:
うーん,ホントに同じときに同じところを歩いていた感じがしますね。
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そういえばMSXといえば,先日Microsoftの人とミーティングがあったので,そのときにMSXの話をしたら「それなんですか?」って聞かれて,自分が歳を取ったことを実感しますね。
4Gamer:
Microsoftに言われちゃ身も蓋もないですね……。
ともあれ,そもそもゲームに対する素質……というか大いなる興味はあったんですね。
ぺ氏:
そもそもゲームのほうが好きだったんです。技術的な面で見ることも好きです。
その後3Dに移行するときに,セガとナムコがそれぞれ「バーチャファイター」と「鉄拳」を作っていて,これは一体どういう技術で構築されているんだろう? と一人で黙々と分析したりするそういうのが好きなんです。あとインターネット周りも興味の対象でしたね。
ビデオゲームの語り部たち 第2部:「バーチャファイター」のプロトタイプに込められた石井精一氏の人生
メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が,ビデオゲームの歴史で記録・記憶しておくべき人々や場所などを振り返る連載「ビデオゲームの語り部たち」。第2部は,「バーチャファイター」のベースとなったプロトタイプについて,同作のディレクションを担当した石井精一氏に聞きました。
- キーワード:
- ビデオゲームの語り部たち
- 連載
- OTHERS
- ライター:黒川文雄
4Gamer:
ギークだギーク。
ぺ氏:
今の若い人は聞いたこともないと思うんですが,Netscape 1.0が出たとき,とにかくそれをずっと触ってました。もう楽しくて。
4Gamer:
Netscape!※ 懐かしいですねえ。
1993年だったか1994年だったか,会社に入って2,3年目くらいのとき,初めてMosaicで「インターネット」を体験したときは,確かにめっちゃ感動しました。あれから30年以上が経つんですね。
※1993年に開発されたMosaicが,事実上世界初のウェブブラウザーであり,いまのMozilla Firefoxのご先祖でもある。また1994年には,初めての大衆向けブラウザーNetscape Navigatorが公開され,ペ氏が夢中になったのはそれである(Firefox:ウェブブラウザーの歴史)
ペ氏:
そうですよ。あのころはゲームもインターネットも本当に楽しくて,それらが合わさってオンラインゲームになるのは必然でした。
あ,あと自慢ですが,私は韓国で一番先にJavaを使った※一人です!
※余談だが,JavaScriptを開発したのもNetscapeだ。WWWは,事実上Netscapeから「始まった」と言っても過言ではない。
4Gamer:
え,それ何年ぐらいの話ですか。
ぺ氏:
同じくらいのときですよ(笑)。1994年くらい?
4Gamer:
あぁもう……うん,すごく親近感が湧きますね。
ぺ氏:
ははは。機械も好きで,ありとあらゆるものを家に溜め込んでます(と照れ笑い)。
4Gamer:
例えばどんなもの?
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家はまるで,そのころの最先端機器の墓場ですよ。パイオニアのLDプレイヤーあたりから始まって,とにかく変な機械をいっぱい集めてガラクタの山です。
お金がなかった時に,頑張って貯金して買った愛着あるもの達なので捨てられなくて,いま全部家にあります。そういえば,その当時の日本のLDプレイヤーってかなり高くて。
4Gamer:
今ならeBayでたくさん入手できますよ。
ぺ氏:
すべてストリーミングで観る時代になって,ただただすべてが時代に取り残されました。
4Gamer:
今でも趣味でMSXのプログラミングとかしないんですか?
ぺ氏:
またやってみたいな,っていう気持ちはあるんですけれど,さすがにBASICじゃないかなぁ,と。
4Gamer:
昨日devCATのキム・ドンゴンさんと会ったんですけど,仕事に疲れるとAppleIIでウルティマを作ってるらしいですよ(笑)。
ぺ氏:
アイゴー!(笑)※
ドンゴンさんも私もそうですが,まぁなんていうか第一世代※みたいな感じですね。
※韓国語の「アイゴ(아이고)」は,驚き,悲しみ,呆れ,疲れ,喜びなど,様々な感情を表すときにとっさに出る「まあ!」「あら!」「うわっ!」「あ〜あ」といった意味の感嘆詞です。日本語の「やれやれ」や「おやまあ」に近く,日常生活で非常に頻繁に使われる万能な表現です(GoogleのAI概要より)
※韓国のゲーム業界における「第一世代」は,1990年代にMMORPGの基礎を築いた先駆者たちを指す言葉。パソコン通信の時代からオンラインゲーム時代へと転換するときに,当時最先端だった“インターネット”を使った新しいゲーム体験を作り上げた
4Gamer:
うん,そうですね。まさにそうだと思います。
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二人とも,ベースになっているものが近いんです。ゲームが好きで,日本のアニメや漫画が好きで,機械が好きで。
たぶんどちらも「お金が儲かるぞ!」なんて思ってやってたわけじゃなくて,ただただ好きで,興味があって,自分で作ってみよう……と思って,ここまでやってきた感じだと思います。
僕は,いまでも漫画やアニメが好きです。そういえば来週は日本に行く予定ですよ。「閃光のハサウェイ」を観に行きます!
4Gamer:
映画を観に日本に来るんですか?(笑)
ぺ氏:
若いころと違ってお金があるから,余裕で行けるようになりました。そこは良い変化ですね(笑)。
知ってます? 前はアニメが劇場公開されて出るまで6か月もかかったんですよ。それを待つのが本当に辛かった……。
4Gamer:
しかしそういう話を聞いてて改めて思ったんですけど,韓国MMOの業界の重鎮って,あんまりその人そのものの情報が表に出てこないですよね。TJ KimとかJake Songとかもそうですが。
あなたはそれよりほんのちょっと下の,たぶん僕が思うに正確には「1.5世代」的な感じだと勝手に解釈してるんです。その第一期レジェンドが作ったものを,「より良いものへと改変していく」世代。
そういうすごく重要なジェネレーションなのに作品以外の情報がほとんどなくて,ちょっと興味深いです。
ぺ氏:
私もそうなんですが,あまり関心がないんでしょうね,そういうことには。お国柄もあるかもしれません。
K-POPなんかにおいても同じで,K-POPの作曲家はあまりフォーカスされず,歌い手のほうが集中的にフォーカスされますよね。それとまったく同じように,開発の方にはそういうスポットライトを当てることがないので,誰も前に出てないだけなんだと思います。
4Gamer:
どういう人が作ってるのか興味あるんですけどねえ……。世間はそんな感じなのに,この雑談を受けてもらってありがとうございます。
ぺ氏:
前回G-STARで久しぶりに会ったからまた会いたくなりましたし,雑談……というかインタビューしてくれてありがとうございます。
さっきも言いましたが,あなたもそうですし,20年以上ぶりに会う人も最近結構いたりするんですが,そうやってまた会えるのは本当に嬉しいことです。
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4Gamer:
昔の人がいまでも残っているのは,ちょっと嬉しいですよね。
ぺ氏:
生き残る方々こそ強いんです。
4Gamer:
そうですよね。本当そうです。
……いやそういう話で言うならば,ゲームが好きで,開発が好きで,インターネットが好きで。NCSOFTはまさにあなたにとって素敵な場だと思うんですけど,それにしたってずっと同じ会社にいるのって結構珍しいことですよね。
本人的には,そこは何か考えがあったんですか? それとも気付いたら長くなってた?
ぺ氏:
「やっているうちにいつの間にか」というのが近いですね。特に大いなる野望とか目標があったわけではなくて,リネージュIIを作る前なんか,会社を辞めて留学しようと思っていたくらいです。
4Gamer:
自分探しですか?
ぺ氏:
でもリネージュIIを企画した友達が,「PDがいなくてすごく困ってるんだ」と。挙げ句,家まで訪ねてきて「どうすればいいと思う?」「どうかお願い!」とか言われちゃったので……それでしょうがなく……。
4Gamer:
しょうがなく(笑)。
ぺ氏:
そこで足止めされましたね(笑)。
4Gamer:
意外と普通の理由で納得感高いです。
ぺ氏:
転職とか正直考えてなくて,もし会社を辞めるとしたら仕事も辞めるんじゃないかなと思います。
とはいえ,NCSOFTにすごく愛情があるわけでもないんですが……。
4Gamer:
いや,これはもう愛情なんじゃないですか?
ぺ氏:
うーん,わざわざ他社に転職する理由もないし,特に起業したいとかもないし。
4Gamer:
まぁそういうのが普通ですよね。
ぺ氏:
もちろん,私と一緒に働いていた人たちで,起業してうまくいった人も多いですよ。
でもまあ見てると,失敗したら失敗したで良くないし,うまくいったらいったで,すごく大変そうです。
4Gamer:
でもあなたの場合,リネIIのプロジェクトで事実上Jake Songの後を継いだわけですよね。それって起業するのに負けず劣らずかなりのプレッシャーじゃないですか?
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確かに,リネIIのプロジェクト動かしたときは,ちょうど30歳でした。2000年のことだったから,30歳。
その時に,初めてプログラマーを兼任しながらプロデューサー(PD)をやることになりました。まぁその時にはPDって何をすればいいのかさっぱり分かってませんでしたけど。
4Gamer:
ふふふ。すごくよく分かります。
若いからなんにも分からないんですけど「まぁとりあえずやってみるか」という。
ペ氏:
そうそう(笑)。
でも一つ一つ作りながらやっていったら,どうやって組織を作るべきか,どうやってパイプラインを構築するべきか……当時不慣れな私が作ったそのシステムが,いまでも使われています。NCSOFTだけでなく,ほかの韓国の開発会社も。
4Gamer:
あら,そんな偉業を成し遂げたんですか?
ペ氏:
偉業というか……今になって見たら,結果的にはそれが韓国の開発会社のクリエイティビティをちょっと妨げているかもしれません。なぜなら,あれは当時の基準で作ったシステムであって,韓国で初めて100人以上の開発チームを作って運営して成功したのがリネージュIIだったという話なんです。
あの当時の既存のゲーム開発のように少人数で作るのではなく,大規模でパイプラインを作って大量生産する方向にしたんです。それをみんな採用したら,同じような韓国のゲームしか出てこなくなっちゃった反省点がありまして,作った本人が言うもんじゃないですが「今になって思うんだけど,本当にそれでいいのか?」と。
4Gamer:
まぁ先駆者は仕方ないですよ。
ペ氏:
3Dもそうですね。
当時はフル3Dで作ると決めて,みんなすごく反対してたんですが,フル3Dで押し切ったのはすごく大変で,自分で自分に苦労をかけてる感じです(笑)。
4Gamer:
そう,そこ割と有名なエピソードですよね。どうやって押し切ったんですか?
あの頃……つまりリネージュIIが出る前,そんなころにキャラや世界を美麗なフル3Dにするって,ちょっとどうかしてますよ(笑)。
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ぺ氏:
でもその当時すでに,3Dを始めた先駆者が何人かいました。それこそドンゴンさんの「マビノギ」とか,パールアビス創業者のキム・デイルさんも,そのときはもうゲームエンジンを作ってたりしてましたし。
……いまだから正直に言いますが,全然周りを説得できてなかったんですよ(笑)。「私がやりたい」という話ばかりしてて,自分のやりたい放題で進めてました。
4Gamer:
それはひどい(笑)。
ぺ氏:
いまもそうなんですけど,TJは基本的に,すごく反対していても「やりたいです!」「どうしてもやりたいです!」と言い張ると,「じゃあやってみなさい」と言ってくれます。
4Gamer:
なんと。いまでも変わらないんですか。
ぺ氏:
そうですね。なので今度は同じようにしてシューティングMMOを作り始めたわけで,また自分で自分に苦労をかけるという(笑)。
4Gamer:
そういえば,なぜ今あれなんですか? パッと見の印象は,割とレッドオーシャンど真ん中に見えちゃって。
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レッドオーシャンかどうかを気にしてゲーム開発はしてないですよ。正しい方向へ進むことだけを考えています。
最初にネットワークに興味があるときもそうでしたけど,そのときインターネットはまだ本の中にしかない言葉で,ARPANET※と呼ばれていたときです。
※ARPANET(Advanced Research Projects Agency Network,アーパネット)。1969年に米国国防総省の高等研究計画局(ARPA)がスタートさせた世界初のパケット交換ネットワーク。インターネットの原点となる分散型コンピュータネットワークであった。
それからリネージュIIをフル3Dで作るときも,みんなが反対した理由は「ハードウェアがない」ということでした。でもNVIDIAが現れましたよね。
そして「ブレイドアンドソウル」を作る時も,アクションとストーリーコンテンツをやると言ったんですが,そのときは「そんなものお金にならない」と言われました。でもどうしてもやるべきだと思ったし,信念がありました。
目に見える市場の風向きとかユーザーが求めるものというよりは,「自分が作りたいもの」「提示すべきだと思うもの」を作っています。
4Gamer:
なるほど。思っていたのと全然違うタイプの開発者だったんですね。こういう話をしたことがなかったので知りませんでした。
うん,すごく興味深いです。
ペ氏:
うまく人に説明したり言葉にまとめたりすることはあんまり得意じゃないんですが,これがあったらいいなと思うけど今はこの世界にまだ存在していないものとか,どういう形になるのかは分からないけど,形になったらきっと面白いだろうなと思うものとか。
そういうものは,なんだかんだで皆が求めているものなんじゃないかなということで,やってみる価値があると思います。
4Gamer:
そこで踏み切れるのがすごいです。
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例えばRPGなんかも,NPCとパーティを組んで一緒に戦うというところを,一人じゃなくてみんなと戦いたいと,みんなが望んでいたのではないかと思います。ネットに繋がって,プレイヤー同士で一緒にやって,そうやって自然発生的にMMORPGが出てきたわけです。
制限があったから2Dだったものが,フル3Dになるのも当然です。ゲーム世界の中でただ前だけを見てるのではなく,城だって登ってみたいし,空だって見上げたいでしょう。それができたらいいなと思って,3DにしてリネIIを作ったわけです。
4Gamer:
3D化されたのは,意外とプリミティブな欲求だったんですね。
ペ氏:
ブレイドアンドソウルも,個人的にバーチャファイターや鉄拳などの格ゲーが大好きで,そういうものがMMORPGの上でできないかなと思ったわけです。
それまではネットの回線速度の問題で出来なかったようなところが,レイテンシーがよくなって,そろそろ可能じゃないかなと思って作りました。
4Gamer:
なんていうか物静かに見えますけど,結構な熱いチャレンジャーなんですね。
ペ氏:
いや,自分の考えがなぜ反対されるのか,当時まったく理解できなかったです。「チャレンジ」ではないですよこれは。
インターネットになった以上「オンラインRPG」は当然出来るものだったし,リネージュIIでフル3Dを作るときも,みんなハードウェアがないと騒いでいましたけど,僕は技術出身なのでずっと見てたわけです。
4Gamer:
そこまでの歴史を見ていれば確かにかなりの確度はあるかもしれません。
ペ氏:
ええ。NVIDIAなんかのグラフィックカードが作られる過程を見てたので,確実に「来る」ことは見えていました。1回目は失敗したけど,2回目でうまく出来て,今ではすっかり。
4Gamer:
お互い,株を買っておかなかったのが失敗です(笑)。
ペ氏:
本当に(笑)。
まぁ話を戻すと,ずっと見ていたわけなので,遅かれ早かれそういう時期は絶対来るだろうと思いました。なのでリネIIのローンチは,NVIDIAのグラフィックカードの大衆向けバージョンが出るときに,合わせて一緒に売り出しました。
ブレイドアンドソウルも同じです。技術の流れとユーザーの受容性を見ながら,自分のやりたいことを探ってきた結果です。「今この瞬間」ではなくて,未来を見据えた開発をするべきなんです。
4Gamer:
それはみんなそう思っているのかもしれませんが,実際にやるのは結構難しくないですか……?
ぺ氏:
CINDER CITYもそうです。世間ではちょっと誤解されているかもしれませんが,流れに乗ってローンチしたら物凄い成功ができるという保証は,もちろんどこにもありません。
しかし,いま市場にあるシューティング×オープンワールド×協力プレイの作品を見ると,大きな穴……というか抜けている部分があります。自分が欲しいゲームがいま世の中にないというのは,経営や分析の上の判断ではなく,自分自身がゲーマーとして,望んでいるようなゲームが見つけられていないということです。
誰かがそれを作らないといけないし,技術上の壁も乗り越えないといけないわけです。大変で難しいことはもちろんありますが,このゲームを世に送り出せば,それこそみんな「あ,これが欲しかった」という風に,当たり前にプレイできるような形になるんじゃないのかなと。
4Gamer:
NCに入って,ゲーム開発でだいたい……30年ぐらい? 30年のキャリアを積んで,今回は子会社のCEOになり,50歳を超え,ゲーム業界という特殊業界で一般論的に言うと,もうシニアの域ですよね。
それでもなお,未来のもの,新しいものに挑戦する,その姿勢が素直にすごいなと思うんですけど,そのモチベーションはどこから来るんですか。
ぺ氏:
いやこれもね,同じパターンを繰り返してるんですよ。どこまで言っていいのかな(笑)。
リネージュIが一段落ついたとき,ゲーム業界を離れて留学に行こうと思ったんですけど,引き止められてリネージュIIをやることになりました。リネIIが一段落したからもう二度とゲームは作らないぞと思って,本当にゲーム開発をしたくなかったから,ブレイドアンドソウルまでかなり空白がありました。
4Gamer:
うん,そのころのあなたの動向は全然追えません。
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そうしているうちにキム・ヒョンテ氏に会う機会があって,彼が「格闘ゲームベースのゲームを作りたい」と言ったので,「じゃあやってみようか」ってまた始めることになりました。
ブレイドアンドソウルの後もかなりのブランクがありますが,実はこの期間にモバイルゲームを作りたかったんです。でも初めて反対する人が多すぎて諦めました。
4Gamer:
あら,そこは諦めたんですね。そんなに大勢が?
ペ氏:
でも今考えてみたら,自分が作りたいという気持ちがそこまで強くなかったんでしょうねきっと。頑張ってやってみればよかったなと,今だとちょっとだけ後悔してる感じはあります。
つまり総合すると,かなり長い期間ゲームを作らないでいたんです。空き時間が長い分,こういうのが欲しい,ああいうのが欲しい,という欲求がいっぱい出てきたわけで,そういうのが積もりに積もって,作りたいという意欲が強くなりました。
4Gamer:
……すごく綺麗に収まってるんですけど,それ本当ですか?(笑)
ペ氏:
ははは。歳を取って自分を偉く見せるため,ラッピングするための綺麗話です(笑)。
本音で言うと,単にこういうゲームがほしいな,あったらいいなというものを作りたいというのが,ピュアなモチベーションですね。
4Gamer:
モチベーションがある人は,そうやっていとも簡単に,スーパーで牛乳を買うみたいに言いますが,普通はそんなにならないですよ。
そもそも今回だって,NCSOFTという巨大会社のNo.2で,子会社の社長で,社会人すごろくがあったらもう「上がり」ですよこれ。
ぺ氏:
いやいや(笑)。
まぁそれは,あんまり重要じゃないような気がしますね。やはり自分としては,次のものを考えたいです。
4Gamer:
次のもの。
ぺ氏:
まぁ作品というよりは,最近は環境自体をちょっと考えています。
ゲームというものは,このあと“ゲーム”に限らなくなると思います。だからこそおそらく,無限に自由なクリエイティビティが可能になると思ってるんですが。
4Gamer:
もうちょっとだけ説明してもらえますか。
ペ氏:
いま僕はテスラに乗ってるんですが,韓国でも今年FSD※が入ってきました。自動運転になるんです。5年後や10年後,遠くても15年くらいあれば,未来はおそらく誰も「運転」をする必要がなくなると思います。
自動車が発明された後でも馬に乗る人はいますが,それは趣味に過ぎないわけです。自動車の運転もきっとそうなるでしょう。
※Full Self-Drivingのことで,いわゆる「自動運転」。日本はいつもちょっとほかより遅れてて寂しい。
4Gamer:
クルマ好きとしては寂しい気持ちになりますが,まぁその流れは間違いなく来るでしょうね。
ペ氏:
それと同じく,やる必要のない作業はなくなり,すべてが趣味として,自分のやりたいことをできる時間が残るんじゃないかなと。文章を書くにしろ絵を描くにしろゲームを作るにしろ。
私は家にハイスペックPCをセットして,趣味でAIをぶん回していますが,そうやって「将来はどんな環境になるんだろう」と最近になって時々考えています。
※ FSD(Full Self-Driving),テスラが開発している完全自動運転機能を指す。2025年11月,テスラは韓国国内にFSD導入開始。
4Gamer:
AIだとどのへんに一番興味あります?
ペ氏:
AIの道は……まだまだ先が長いとは思いますが,フルで自分の創作表現を出せるのは小説しかないと思って,いまは試しに小説を書いています。
「書いている」と言いますが,効率の話だけをするならば,2週間あれば長編小説くらいは書けるんです。
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4Gamer:
2週間でいけるんですね。
ペ氏:
ただ,本当に集中して書いてますよ。
日曜は朝5時に起きて書きはじめて,ごはんも食べず,水も飲まず,気付いたら夜です。
4Gamer:
漫画でよく見る作家みたいな生活してますね。
ペ氏:
でもAIが,すごい早いペースで小説を書いてくれるわけですよ。
そしてそういう風に出来上がった小説が,その次に漫画になり,アニメになり,映画,ドラマ……そして最後にゲームになるんじゃないかなと思っています。
AIはこういう流れで活用されていくと思いますし,いまもすでに映像においてはAIが浸透しています。CM映像がAIになって,しかも生成動画の長さがどんどん伸びてますよね。今のように15秒,30秒じゃなくて,10分,30分,1時間とかになっていくでしょう。
映画もドラマも,AIに作られる日がいつか来るんじゃないかなと思います。
4Gamer:
とくにイラストや動画は,もうかなりの線まできてますしねえ。
ペ氏:
ええ。そういった技術の発展がすごく激しいから,人が手を動かして地道に何かを作るような時間はあまり残っていないんです。
技術は静かに上がっていくわけではなくて飛躍的に上がるもので,少人数でもなんでもできるような状況になってきており,やるべきことで残っているのはビジネスモデルを考えることだけです。
4Gamer:
言い得て妙です。
ペ氏:
そんな状況下で自分のやれることを考えると,引退するか何か新しいことをするか,しかないのです。なのでいまも,結構なお金を突っ込んで,自腹で技術的な発展をたくさん体験してみています。
4Gamer:
こういうの,追いつけなくなった瞬間に死ですからね。流れに乗って上昇……までは出来なくても,その中にいるならせめて追いつかないとですよね。
ペ氏:
編集長も,ジャンルこそ違いますが,今までそういう流れを全部経験してるじゃないですか。
4Gamer:
あぁ……メディアの変遷ですか?
ペ氏:
はい。紙で雑誌や攻略本を出していて,それがウェブに移行して……そういう時代を経験してますよね。
さらにいまは情報を伝えるのが文字だけでなくて動画になり,メディアにもAIが導入されて,簡単な記事作成くらいなら全部AIができるようになり,アナウンサーだってAIがやれているわけで。
4Gamer:
そうなんですよね。時代のギャップを超えるときに,遅れるわけにはいかない。
ぺ氏:
ここ板橋(パンギョ)※に話を戻すと,ゲームを作る方式は根本的に変わるでしょうね。いまの大きい会社達は,誰も生き残れないかもしれません。
韓国も,テレビ放送局一つのCM売上より,1人のインフルエンサーの収益額のほうが大きくなってきています。
それは現実であり,そういう変化が起こるときに大きい会社だからと生き残れるかと考えると……そうとも限らないですよね。
※パンギョはソンナム(城南)市にある街で,ソウル中心部からはちょっと外れてはいるものの,富裕層の街というだけでなく,IT関連の会社の拠点として急成長を続けている。ゲーム関連もその例外ではなく,NCSOFTを筆頭に,NEXON,NEOWIZ,NHN,Wemade,Smilegate,Kakao Games,XL Games,Webzen……など多くのゲーム会社がこの1か所に集まっている。
4Gamer:
まあでもNCは,全般的にAIにポジティブですよね。VARCO 3D(バルコ3D)とかもあるし。ああいうのは会社的にメリットありますか?
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ぺ氏:
韓国においてメリットがあるかというと微妙ですが,日本だとありそうですね。
4Gamer:
というと……?
ぺ氏:
例えば音楽でいうと,韓国だと事務所に所属して,レーベルで音楽を企画して作る感じですが,日本はそういうわけでなく,ボカロPのような方もいるわけです。ソフトウェアを活用して初音ミクに歌わせるとか,デジタル的に音楽を作っていくYOASOBIとか。
そういうのが日本ですごく流行っているじゃないですか。実は日本はいろんなチャレンジをしているので,そういうのと相性がよくて結構発展していくんじゃないかなと思います。
4Gamer:
中にいるとイマイチ分かりづらいんですが,そういうものですかね。
ペ氏:
一番のポイントはコストですよね。制作コストが低ければ,個人放送やインフルエンサーのように誰でもクリエイトに参加することができます。制作に関する壁がなくなって,コンテンツに関するアイデアの戦いになるじゃないかなと思います。
そうなったときに日本は強い。漫画なんかもそうですが,漫画を起点にしたコンテンツがかなり多いですよね。最近の韓国もそうで,多くのドラマやゲームが韓国のウェブトゥーンに頼っているんです。
この流れの中に入っているのが放送局やゲーム会社なんですが,こういった形態での制作には大きな費用がかかり,それを大企業が担っているわけです。
4Gamer:
しかし,もうそういう時代じゃないですし。
ペ氏:
そう。そこにAIが導入されて制作費用が低くなってしまうと,そういった中間の大きな会社の存在意義は失われてなくなってしまうと思うんです。そうなると,結局はアイデアの戦いですよね。
4Gamer:
渦中の人達がどう思っているかは分かりませんけどね。
ぺ氏:
まぁでもこれはまったくのSF話ではなく,小さい箇所ではすでに発生しています。なので本当に“近い未来”じゃないかなと思いますね。
4Gamer:
確かにこのあとAIがどんどん普及して,もっともっとAIのレベルが上がってくると,みんなが60点や70点のものを作れるようになるわけで,そうなると90点や100点のものを作れる人の価値がどんどん上がっていくわけです。一方で,70点のコンテンツの価値が大暴落です。どうせみんなが作れるから。
だから結果的に“コンテンツ”というものの多くが陳腐なものになってしまうんじゃないかなという懸念が僕にはちょっとあって,個人的にはあまり楽観的には見てないんですよね。
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なるほど。
……先日,日本の出版業に関する統計を見たんですが,日本で出版される全てのジャンルの中で,小説の単一ジャンルとして最も多いのはBLだそうです。
4Gamer:
へええ,BLなんですね。
ぺ氏:
なぜその話をしたかというと,昔は制作コストが高いから,みんなをターゲットにできる,みんなが受け入れられるものを作らなければいけなかったわけです。
しかし制作コストが低く抑えられる時代になると,みんなが満足する必要はなくて,よりニッチなところに進んでいけます。誰かがそれを受け入れてくれればいいわけです。どれだけマイナーであっても。
4Gamer:
なるほど,確かにそういう視点はあるかもしれません。
ペ氏:
なので昔のように,マス集めのためにニッチが捨てられるようなことにはならず,標準化されないと思います。
低コストでコンテンツを作るか,NetflixやApple TVのように莫大な金でコンテンツを作るか,どっちかになるかと思います。なのでおっしゃったような70点,80点の低いところのコンテンツであっても,それぞれ受け入れてくれるニッチな客層がちゃんといるんじゃないかなぁ,と思います。
……まぁこういう話なら,誰でも分かる“適正な例”があるんですけど,ちょっとインタビューの場では言えないですね(笑)。
4Gamer:
あぁ……(笑)。
しかしいつも面白いことを考えてるんですね。
ぺ氏:
ふふふ。
まぁそういう感じで,未来はユートピアとディストピアの二方向に分かれますね。ユートピアならすべての生活コストが低くなり,イーロン・マスク氏が言ったように,労働力とコンテンツを作る全てを含めたコストも極端に低くなって,多様になります。
編集長が懸念しているのは,ディストピアに行く可能性ですね。少数だけが生き残って,残りの方は捨てられてしまうという。人それぞれの考えだと思いますが,僕はユートピアを期待しています。
4Gamer:
もうちょっとしたら,どっちが正しかったか分かりますね(笑)。
ぺ氏:
こういう問題に関しては,単に時間の差じゃないのかなと思っています。単に面白がったり楽観的に見たりしている人たちは,すぐ来る未来ではないと思っているのかもしれません。私や編集長のような人は,既に迫っている近い将来のことを言ってます。
しかしインターネットが始まったときも,iPhoneが初めて出た時も,やっぱりこういうスピードで,なんならいまのAIよりも早かった気がするんですよね。変革はいつもすごく早いスピードで来るんです。
4Gamer:
ホントそうでしたよね……。
しかしそういう未来話で言うなら,CINDER CITYという作品はどのあたりの未来を見てるんですか?
ぺ氏:
CINDER CITYって,2018年のときに僕一人で,チームもなく,自分でシナリオを書いてました。その時は,AIが発展した世界を見越して「2035年」くらいに設定したんです。
![]() |
4Gamer:
事実は小説よりも奇なり。
ペ氏:
本当に。その転換点は昨年すでに来ていて,自分が想定したより11年も早かったです。
いやぁ……書いたときは完全にSF感覚で妄想ばっかりしながら書いたんですが,現実のほうがはるかに早かったですね。AIが発展して,ユートピアでなくてディストピアに向かった世界を想像して書きました。
4Gamer:
しかし,事実上「2018年」からスタートしたプロジェクトということですか。
ぺ氏:
プロジェクトスタート……までではないですが,はい,2018年からですね。
一人でSFを作ってみようと思って,こういうものが面白いかなと思って作ってました。まぁ実はその時には,ゲームを作ろうと思って書いてたわけではなくて,もともと小説とか書くことが好きだったのでその延長として。
実は,リネIIもブレイドアンドソウルもシナリオ書いてました(笑)。
4Gamer:
なんでも屋さんですね(笑)。
ぺ氏:
いや……そうね,そうかも(笑)。
自分がうまいんだ! というつもりはなくて,必要があるとやってしまうんです。うまく動いてなかったり,やる人がいなかったりするところは,「じゃあ私がやってみようかな」という。
4Gamer:
ずっとそんな感じでやってるんですね。
ぺ氏:
足りないものを,学んで準備して,その繰り返しです。
しかし,作曲の才能と絵を描く才能だけはまったくないので,そこが残念です。
4Gamer:
それこそAIで。
ぺ氏:
今もAIを使ってますけどね。CINDER CITYのストーリーも,AIとともに書いています。もうどっちが現実だか(笑)。
4Gamer:
確かに,2018年当時には想像もしてなかった事態ですね。
ぺ氏:
はるか昔,大学のときにコンピューターサイエンスを専攻してましたが,そのときの大学の教授が「AIはもう失敗だ」と言って悲しんでました。
4Gamer:
「AIの冬」※ですかね。確かにあの頃はそうでした。
……というか,ゲームと全然関係ないんですが,ずっと興味深い話になってますね。今日は作品というより,あなたがどういう人かを知るために来たので,ちょっといい感じだなと思いながら話してます。
※AIの冬(AI Winter):AI研究への期待と投資が急激に冷え込んでいった時期を表す言葉。いままで2回「大きな冬」を経ているが,今現在はみなさんの想像どおり「AIの春」だ。
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それならよかったです(笑)。
私はこういう世界で生きてきたので,「インターネット」という言葉が世界に出てきたときは嬉しかったですね。最初は科学研究領域でしか出てこない言葉だったし。
学校にあるコンピュータからネットワークに接続すると,韓国の大学学内のネットワークだけじゃなくて,日本の大学とか,アメリカの大学とかが繋がっていて。「全部がつながるんじゃないのか」と思っていたら,ブレイクしました。
4Gamer:
パソコン通信で文字が出てきただけで嬉しかったですねえ,子供のころは。
ペ氏:
まぁ編集長もきっとそうでしょうけど,若い人たちとはあまりにも時代が違いますよね。おっしゃるように,家ではカプラで電話線を使ってネットワークして,ネットワークに接続するためだけに学校に行ったりして(笑)。
4Gamer:
当時のスピードって300bpsとかですよね確か。
ぺ氏:
家の電話でネットにつなぐと電話代がめちゃくちゃに高くなって,親に怒られましたね。出て行けとまで言われたことあります(笑)。
4Gamer:
僕も怒られましたねえ。なので,おばあちゃんの家でやってました(笑)。
ぺ氏:
でもここまで来たことは,いまあることは,本当にSFではないと思うんです。
カメラだって,フィルムからフラッシュメモリ搭載のデジタルカメラになって,いまはスマホです。音楽もそう。技術革新は一気に時代を変えてしまうから,もはやSFどころじゃないと思いますよ。
4Gamer:
このあとどうなっていくんでしょうねホント。ちょっと常人ではもう分からなくなってきた。
ペ氏:
僕は技術屋なので,いつでもそれを待ってた立場として,見ていて楽しいです。
逆に,思ったより遅いものもありますけどね。HDDがSSDに転換するのが想像より遥かに遅いとか。あとEVとか。
4Gamer:
あぁ,HDDはそうですね。EVは最初デメリットが大きすぎかなと。
ぺ氏:
ただまぁどこかで一回ブレーキがかかると思います。生産性の問題か,カネの問題か……何かを検討する瞬間が,一回は来るんじゃないのかなと思ってます。
そこで若干のブレーキはかかると思うんですが,まぁ結論はきっと変わらないですね。
4Gamer:
まぁ我々の業界的にはAIの発展が一番ダイレクトに影響しそうですが,すごく短期スパン……そうですね,あと2年,3年くらいを見たときに,AIの発展はゲーム開発にどれぐらいの影響を及ぼして,このあとどうなると思います?
ぺ氏:
韓国の話でいきますが,AIが来るまでもなく,韓国のゲーム業界は既に危ないんです。
冒頭のほうで開発体制の話をしましたが,大量の人を使ってゲーム開発をするのは,そのときの韓国の人件費が日本やアメリカより安かったからです。でも今では中国に負けているし,それ以外のクリエイティブ的なものを作ったり,新しいもの作ったりするのはまだ弱いですね。まずそのあたりをどうにかしないといけないです。
なので韓国については,AI関係なくすでに危機が来ているんじゃないかなと。
4Gamer:
その危ない業界の中で,自分で果たすべき役割はなんだと思いますか。
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皆さん,さようなら。私は私の幸せを探すために旅立ちます。(手を振りながら)
……犬夜叉のようにさよならするか,もっと貢献するように頑張るかのどちらかだと思うんですが,どっちの選択も簡単な話ではないですねえ。
4Gamer:
貢献できるとしたらどこでしょう?
ぺ氏:
んー……まずはCINDER CITYを終わらせてから(笑)。
誰かを手伝うか,自分なりのものを作るか,どちらの選択肢もあると思いますが。
4Gamer:
冒頭の話に絡むんですけど,たぶんあなたが世間的に位置するポジションって,韓国の「第2世代のリーダー」だと思うんですよ。
第2世代のリーダーとして,第3世代に何かを引き継ぐべきだと思うんですが,本人的にはそれがなんだと思ってるのかなぁと。
ぺ氏:
引き継ぐというより,早く席を外して場所を空けるべきだったと思います。まぁそこは日本も変わらない感じですが(笑)。
4Gamer:
あぁ……そうですね。そうかもしれません。
ちょっと会議室が閉まりそうなので,このへんで。ゲームの話は全然なかったけど,面白かったです。ありがとうございます! 次日本に来るときは,映画観て帰ったりしないで,いろんなところに寄ってください。編集部にも(笑)。
ぺ氏:
ありがとうございます(笑)。
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―――2026年1月21日収録
- 関連タイトル:
シンダーシティ
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