「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです
「HP,攻撃力,バフのスタックなど,画面上のあらゆる数字をサイコロの出目で変えられるゲームがあったら面白そう。……だが言っておく。運ゲーは許さん!」という人は,今回紹介する
「DICEOMANCER」を遊んでみるといいかもしれません。これがそれです。
DICEOMANCERは,デッキを構築しながらカードバトルで敵を撃破していくPC向けローグライトです。至高にして究極の傑作である我らが
「Slay the Spire」(
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ダイス(サイコロ)が圧倒的な存在感を放っているという点が,大きく異なります。
そんな本作は,2024年10月に正式リリースされ,2025年4月に日本語が正式サポートとなりました。ありがたき哉。Steamでは本稿執筆時点(5月8日)で
“圧倒的に好評”を獲得しています。
今回,正味20時間ほど実際にプレイしてみましたが,
確かに評判どおりの面白さでした。ダイスを使ったゲームへの介入要素もなるほど,こりゃうまいわという感じです。
「紫の霧」に追われながらのラン
DICEOMANCERは中国のインディーゲームスタジオ・Ultra Piggy Studioが開発し,Gamirror Gamesが配信しているタイトルです。クレジットやパッチノートには,日本語への翻訳者として
syueP氏の名が記載されていますね。ありがとうございます。
ちなみにSteamストアページには日本語で“サイコロマンサー”という表記もありました。使いどころが分かりませんが。
本作でプレイヤーは,「ただ釣りに行くだけのつもりだったのに,気づけば危険な戦いに巻き込まれて」しまい,剣と魔法,そして銃もある世界を冒険することになります。一見ほのぼの,しかし古い童話のような怖さもある――といった雰囲気ですね。
チュートリアル後の基本的なゲームのサイクルを紹介しておくと,プレイヤーはまず,戦いで使用する「マナ」の種類を決めるオーブを,固定の1種類プラス2種類(最初期は1種類)の計3種類選びます。マナは全5種類で,これはそれぞれ,対応した色のカードをプレイする時に消費すると考えればいいでしょう。このマナの組み合わせを選ぶことで,クラスと初期デッキが決まる仕組みです。
「中間領域」と呼ばれる,ラン開始前の準備画面です。「冒険禄」(※ママ)ではカードのリストやランの統計情報なども見られます
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たとえば赤のオーブ,緑のオーブ,固定の紫のオーブを選ぶと,クラスは「バーバリアン」
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その場合の初期デッキは,赤または緑のマナでプレイできるカードがメインです
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ランを開始すると,スゴロク状のマップでプレイヤーの好きなルートを選んで1歩ずつコマを進めていきます。ルート上のノード(マス)は,戦闘を始め,カードや「レリック」(さまざまな効果を持つアイテム)を販売するショップ,カードをアップグレードできる場所,イベント,HP回復などを行える休息場所などがありますね。戦闘の報酬を中心にカードはさまざまな方法で手に入るので,それでデッキを充実させながら進みます。マップの終端付近に待つのはボス戦です。
戦闘のノードで敵を倒すと……
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カードを選んで,入手できます。このようにデッキを充実させていくわけです
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ショップもあります
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カードのアップグレードができる場所も
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エリートやボスのキャラはもちろん強めです
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スタートから「王都」までの3マップを踏破すればランはクリアとなります。道中でプレイヤーが倒れると,手に入れたカードやレリックはすべて失い,ランはまた最初から。ただ最初からではありますが,ランで獲得したアップグレードポイントを消費する形で,戦闘を有利に進められる
永続的な強化が可能なので,ランは少しずつラクになります。ディスイズローグライト,という感じですね。
中間領域に用意されたアップグレードツリーを使います
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ダイスを駆使するバトルについては後述するとして,コマを進めるマップでの特徴としては
「紫の霧」が挙げられるでしょうか。これはマップでコマを進める時に後ろから少しずつ迫ってくる謎の霧で,この霧に触れると
良くないことが起きます。
霧の濃い部分に触れると,不幸なイベントに遭遇します
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霧はプレイヤーがコマを移動するたびに迫ってくるわけですが,
「歪み」というキーワードを持つカードをプレイすることで霧の進行度が高まるのも特徴でしょう。歪みは,ダイスを使ってカードの数値を改ざんすることで付与される仕組みなんですね。ダイスは大抵は使えば使うほど有利になりますが,霧の進行が進んでしまう。ここがジレンマになるわけです。
歪みが加わると,カードのグラフィックスに揺れるエフェクトが加わります
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ダイスの出目で画面上の数字を改ざんできるバトル
本作での敵の戦いは,平たく言うとカードバトルです。マナを消費してカードをプレイし,攻撃,バフ/デバフの付与,回復,召喚などのさまざまな行動を行い,敵かプレイヤーのいずれかのHPがゼロになるまで戦います。そのほかの勝利条件もありますが,多くはこのルールです。
敵のHPが,何本かの
「ヘルスバー」に分解されているのは本作の特徴の一つかもしれません。ヘルスバーを減らすことで,「思惑」として表示されている敵の次の行動を制したり,一部のレリックをチャージ(使用回数に関わる数値。1度の使用で消費する数や溜める方法はレリックによる)を溜めたりと,さまざまな効果があります。
とくにボス系の敵は多数のヘルスバーでHPが表現されることが多いです
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最大の特徴は言わずもがな,タイトル名にもなっているダイスの存在でしょう。
まずプレイヤーがダイスを直接振らない要素として,
「チェックX」があります。主に,バフやデバフの効果の有無や強弱の判定,イベントマスで起こることの善し悪しの判定に使用される要素で,20面ダイスを振って出目(±修正値)がX以上であればチェックは成功,そうでなければ失敗。テーブルトークRPGのd20システムという感じですね。
たとえば敵が回避バフを持った状態などは分かりやすいですね。プレイヤーが攻撃すると内部でチェックXが走り,攻撃を回避できたかどうかの判定が行われます
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行われた計算の詳細は,画面左上に表示可能なログで確認できます
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そしてプレイヤーがダイスを直接振る要素としては,「ダイスの出目で攻撃力が決まるカード」といった想像しやすいものがあり,さらに,「出目で画面上の数値を変える」という,
「ザ・ダイス」という名の特別なカードとレリックとがあります。ザ・ダイスは,物語の開始直後に自らを“神”と称する謎の少女がくれるものです。
カードのほうのザ・ダイス
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くれた人。かわいい
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カード版のザ・ダイスは手札にある時にプレイすると,レリック版はチャージがある時にアイコンをクリックして使用すると,それぞれ発動します。発動すると画面上のすべての数字が編集可能になり,プレイヤーが変えたい数字をクリックするとダイスが振られ,当該数字が出目に置き換わります。
面白いのは,
本当にあらゆる数字を変えられてしまう点ですね。手札にあるカードに記載された数字はもちろん,マナ,バフやデバフのスタック数,プレイヤーや敵のHP,レリックのチャージ数,敵が次のターンに召喚しようとしている仲間の数,果ては通貨となるゴールドの数まで変えられます。
ザ・ダイスを使用すると画面全体の数字が浮かび上がります。この中から一つ選ぶと……
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実際にダイスが振られて,当該の数字が出目で置き換わるわけです
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本作を始めたての頃は,補助的,あるいは防御的にザ・ダイスを使うことが多いんじゃないでしょうか。ダイスで敵のHPを大幅に減らすとか,次に敵が予告している大ダメージをあらかじめ減らすとか,そういった形です。ダイスの小さい出目を期待して数値をいじる,みたいな。
複数のヘルスバーに何度かザ・ダイスを適用して,HPを減らして楽に戦う,みたいな
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これが慣れてくると,初期状態だと6面ダイスのザ・ダイス用ダイスを8面,12面,20面と増やせたり,バフの一つである
「幸福」によって同時に振るダイスの数を増やせたりすることが分かってきます(複数のダイスを振った場合は最大の出目が採用されます)。つまりは大きな出目も期待するようになるわけです。
振るダイスの面を増やせます
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幸運バフで……
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ダイスを増やすのもあり
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大きな数字は単純にカードの攻撃力やブロックの数値を高めるのでかなり強力です。しかも,カードの数字改ざんは永続的な強化であり,ランの間はずっと当該の数字が有効。ただし,その代償として,前述の「歪み」からくる「紫の霧」の問題が大きくのしかかってくると。うーん,よく出来ている気がします。
歪み入りのカードの数字をさらに改ざんすると「グリッチ」というキーワードが付きます。プレイによって永続的に「特殊な奇妙なカード」に変化するという(しんどい)キーワードです
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雰囲気はゆるめ,遊び心地はかため
「ダイスで画面上に数字を変更できる」と聞くと,いわゆるチートをゲームシステムに盛り込んだような印象を受けると思います。実際にそうではあるのですが,ザ・ダイスのカードやレリックを使うことで突然バランスが崩壊したりはしませんし,使った時のデメリットもちゃんと(?)あります。ついでに言うと,そのデメリットを打ち消す手段まで用意されていますからね。要するに,ザ・ダイスも含めて
運を戦略的に組み込んで遊ぶように作られているということなんでしょう。
DICEOMANCERは,ゆるカワなビジュアルやほのぼのとした雰囲気とは裏腹に,実際の遊び心地は想像よりもカチッとしたというか,良い意味でかたい印象です。もちろん,ザ・ダイスを使う時のドキドキや,出目を頼りにした戦略がハマッた時の爽快感は独特なものがありますが,デッキ構築ローグライトとしての
基本部分がしっかりと作り込まれているという点が,本作の魅力をグッと高めているのだと思います。