インタビュー
[インタビュー]25周年を迎えたグランドストラテジーの金字塔「トータルウォー」シリーズを開発するCreative Assemblyのベテランに聞く,“これから”と日本語化
Paradox Entertainmentの「Europe Universalis」や「Hearts of Iron」,コーエーテクモゲームスの「三國志」や「信長の野望」のように,壮大な歴史のIFを楽しめることから“グランドストラテジー”と呼ばれるジャンルの一角を担い,これまでに本編やスピンオフを合わせて計16作品で3600万本のセールスを記録している。
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Creative Assemblyは,1987年にイギリス南部のホーシャムにてティム・アンセル(Tim Ansell)氏によって創設された古豪のデベロッパだ。当初はMS-DOSの自社開発のゲームや,「EA Sports FC」の1作目となった「FIFA International Soccer」(1993年)のPC版移植を行っていた。そうしたノウハウと経験の蓄積により,2000年6月にリリースしたのが,日本の戦国時代をテーマにした「SHOGUN: Total War」になったわけだ。スタジオ内では別働隊による実験的プロジェクトという扱いであり,15人ほどのメンバーで開発されたという。
この成功を機に,2001年には中世ヨーロッパをテーマにした「Medieval: Total War」,2004年に古代ローマをテーマにした「Rome: Total War」をリリース。セガがヨーロッパでのプレゼンスを高める目的で2005年にCreative Assemblyを買収した際,アンセル氏は退職しているが,セガ傘下の開発スタジオとして今年で20周年を迎えた。
現在,スタジオディレクターのガレス・エドモンドソン(Gareth Edmondson)氏をヘッドにイギリス国内だけで3つのスタジオとブルガリアのソフィアに支社を保有し,800人もの開発メンバーを有するまでに成長している。
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そんなCreative Assemblyの揺るぎないフラッグシップタイトルとなっている「トータルウォー」だが,大きな転機となったのが2016年にリリースされた「Total War: WARHAMMER」である。それまで歴史に特化してきたシリーズながらも,Games Workshopとの提携によりミニチュアRPGのファンタジー世界を見事にゲーム化し,2021年までに3部作を発売している。グランドストラテジーというジャンルに,新たな可能性を示したのは間違いない。
今回,Creative Assemblyの古参のメンバーである,フランチャイズ・コンテンツ・ディレクターであるケヴィン・マクドウェル(Kevin McDowell)氏と,バトル・アーキテクトを担当するスコット・ピットケスリー(Scott Pitkethly)氏にインタビューを実施した。なお,ピットケスリー氏は途中からの出席となった。
様々なマイルストーンを経てきた「トータルウォー」の歴史
これからは日本語ローカライズも確約
4Gamer:
「トータルウォー」シリーズが25周年を迎えましたが,1作目からほとんどのシリーズをプレイしてきた私も長い時間の流れを感じます。四半世紀というのはゲーム開発者としても長いキャリアだと思いますが,振り返ってみてどのように感じますか?
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自分のキャリアにはとても満足していますね。子供の頃からテーブルトップやコンピュータゲームが好きだったこともあり,非常にラッキーでした。
大学では建築デザインを学んで,日本でも知名度のあったSoftimageを教材にグラフィックスも学んだんです。卒業後の最初の4か月だけでしたが,建築設計の事務所で働いていたこともゲーム開発に役に立ったのではないでしょうか。
私がゲーム業界入りしたのは,ちょうど3Dグラフィックスによる表現が可能になった頃でした。2000年にCreative Assemblyに入社した時には3年のキャリアがあり,十分な経験を積んでいると認識されていましたから(笑)。
4Gamer:
遊んでいたことや勉強したことが,ゲームの発展とともに役に立ったということですね。
マクドウェル氏:
そうなんです。最初は別会社でフォーミュラ1のゲーム開発に参加し,トラックや背景に見えるものをデザインしましたね。当時はスコットランドに住んでいたのですが,イングランドに引っ越したくて求職した先がCreative Assemblyだったのです。
自分のスケッチブックの中に,無数の群衆が背景にいるアートワークがあったのですが,これがスポーツゲームの観衆のアイデアを模索していたCreative Assemblyの目に留まったとのことでした。
4Gamer:
つまり,2000年に雇用された理由は「SHOGUN: Total War」ではなかったと?
マクドウェル氏:
そうです。「SHOGUN: Total War」は2か月後にリリースされるというタイミングでしたからね。面接で発売直前のゲームデモを見せられたとき,「やりたいのはスポーツゲームじゃなくてこっちなんだけど」って心の中で思いました(笑)。
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4Gamar:
マクドウェルさんがトータルウォーに参加したのは,「Medieval: Total War」が最初になるわけですか。
マクドウェル氏:
時期的にはそうなのですが,実際には3作目というのが正しいかも知れません。私が入社して最初のプロジェクトが片付いたとき,すでにトータルウォーの続編の開発は始まっていましたが,2つのチームに分かれていたんです。
「Medieval: Total War」と「Rome: Total War」ですが,私はRomeのほうに配属されました。それぞれ,前作よりもスケールが大きいですが,Romeは特に多くのデザインの見直しやゲームエンジンの改良などを行ったため,Medievalの2年に対して,Romeは4年半も掛かりました。
4Gamer:
販売本数や業績ではなく,マクドウェルさん自身が最も記憶に残るトータルウォーのシリーズ作品を3つあげてください。
マクドウェル氏:
ひとつは「Rome: Total War」ですね。最初の2作は「Risk」を思わせる,ある意味単純なマップに過ぎませんでしたが,「Rome: Total War」はキャンペーンマップも3D化し,カメラだけでなくユニットも自由に移動できるようになったことで,バトルマップの環境も大きく変化し,そこから改良が加えられて,まとまりを見せていきました。
複雑な城壁システムや,我々が「文化タイプ」と呼ぶ,ローマ人,ギリシャ人,エジプト人といった6つの民族系統を用意したことでユニットや戦略も豊かなものになり,その後のシリーズに大きく影響を与えたと思います。
4Gamer:
たしかに。「Rome: Total War」は私が一番やり込んだシリーズかも知れません。
マクドウェル氏:
2つ目は「Total War: SHOGUN 2」(2011年)です。先ほど,Romeの開発には4年半も費やしたと話しましたが,SHOGUN 2はたったの9か月で開発されたんです。
4Gamer:
信じがたい短期間ですね。
マクドウェル氏:
もちろん,その準備には時間をかけています。私もアートディレクターとして何回か日本に足を運び,3か月もかけて城や甲冑,それから日本画などを実際に自分の目で見て研究できたのは個人的にも楽しい作業でした。しかし,技術面では「Total War: Empire」(2009年),そして「Total War: NAPOLEON」(2010年)で洗練されたゲームエンジンが非常に安定しており,我々も開発に慣れてゲームを良いものにすることだけにフォーカスし,非常にスムーズに進んだプロジェクトになりました。
4Gamer:
なるほど。では3つ目は?
マクドウェル氏:
3つ目は,新しいことを達成したという意味で「Total War: WARHAMMER」を選びたいと思います。スタジオ内では仕事が終わってから,開発者たちがボードゲームを遊んでいたりしたのですが,誰かが「ウォーハンマーでトータルウォーを作ってみたい」と言い出したんです。
それで会社ごと乗り気になって,5時間かけてノッティンガムにあるGames Workshopに交渉に行ったのですが,先方も非常に熱狂的に支持していただいて実現することになりました。
どうやってウォーハンマーのブランドと世界観を維持しながら,トータルウォーに落とし込んでいくのか。これまでのシリーズになかった魔法や巨大なクリーチャーを登場させ,戦術性を失わないようプレイできるものにするのか。これらを解決していったことは我々にとって非常に新鮮で,チャレンジングだけど楽しい作業になりました。
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4Gamer:
セガの傘下となり20年が経過しましたが,マクドウェルさんはどのように評価しますか。
マクドウェル氏:
私個人が親会社であるパブリッシャを評価する立場にはないのですが,これまでセガは我々をずっと情熱的にサポートしていただいていると思います。
我々Creative Assemblyは職人的な気質の強いゲームスタジオだと多くのファンに認識されていると思いますが,経営面でサポートをしっかり受けながら,我々がやりたいことをやらせていただいているという印象ですね。
4Gamer:
セガとの提携がアナウンスされたときは非常にうれしかったのですが,以降もシリーズ作品は日本語化されていません。何か理由があるのでしょうか。
マクドウェル氏:
いや,我々Creative Assemblyの問題なんです。シリーズがリリースされた当初はPCのインストールベースなど,日本のゲーム市場を考えて優先順位が低かったのですが,トータルウォーのファンが根強く存在するのは知っていますし,最近の動向は変わってきているようですからね。素直に我々の怠慢であったと思いますが,これからのシリーズでは改善していくことをお約束します!
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4Gamer:
それは心強い。
(ここでピットケスリー氏が入室)
マクドウェル氏:
あっ。彼がスコットです。私よりも少し長く,1999年から在籍しているんですよ。
4Gamer:
よろしくお願いします。それでは同じ質問ですが,ピットケスリー氏にとって記憶に残るシリーズ作品を3つ挙げてください。
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ケヴィンがどれを選んだか興味があるけど,まずは「Rome: Total War」ですかね。私が最初にプログラミングに関わったゲームという理由から,やはり特別な思いがあります。正確にはプログラマーという区分さえなく,全員がプログラムをしてデザインも出がけているような状態でした。大学を卒業したばかりで,まだ産業にもなっていないゲーム業界で生き残っていけるのか,自分が好きになる仕事なのかと悩んでいましたが,Romeは今のブランドを作り上げた作品だと誇りに思っています。
4Gamer:
マクドウェルさんと同じチョイスですね。
ピットケスリー氏:
なるほど。じゃあ2つ目は「Total War: Empire」です。ゲームが非常に安定していたというのもあるのですが,歴史上でもあまり興味がないテーマでしたので,ファンに受け入れられるのかなと当初は思っていたんです。
ところが完成してみると本当に面白くて,戦争がテーマのゲームがどうあるべきかを再認識することになりました。3つ目はやはり「WARHAMMER: Total War」。13歳にミニチュアを集めるようになってからの大ファンだったので,私にとっては自分でウォーハンマーのゲームを作れるなんて光栄なことでした。
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コミュニティと協力しながら進めるシリーズ開発の新体制へ
4Gamer:
トータルウォーシリーズの根幹にあるWarscapeエンジンは,「Total War: Empire」からずっと利用され続けているものですか。
ピットケスリー氏:
正確にはレンダリングエンジンなのですが,ゲームテクノロジーは常にアップデートされるものです。そのため,「同じもの」と言えるかどうかはわかりません。
全ての部品が交換された船は,同じ船なのか。そう,ギリシャの故事「テセウスの船」を思い起こさせるパラドックスですが,部分的にはアップデートされてはいるものの,我々が開発したエンジンであるということは言えます。
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マクドウェル氏:
言えることは,Empireは未だに元の状態でもプレイに値するゲームであるということです。だからこそ,今のシリーズはそこに再検討を行い,新たにファクタリングし,再設計や新実装,そしてあらゆる部分を再考しながら新作を出しているわけです。
最新作である「Total War: PHARAOH」(2023年)は,Empireと同じエンジンで作られているわけではないですが,あらゆる部分が適切に機能しているという点で,同じシリーズ作品として継続していると言えますね。紐解けば,「Total War: SHOGUN」から利用されているコードやテクノロジーもあるはずです。
4Gamer:
マクドウェルさんは,「Total War: SHOGUN 2」では日本に長く滞在していたとのことですが,もう少し詳しく聞かせてください。
マクドウェル氏:
私は,子供の頃から浮世絵に魅せられて,ちょっとしたコレクションも持っていたんです。「Total War: SHOGUN 2」では前景に国芳,背景に北斎風のアートスタイルを混在させることで,シリーズの中でも日本らしさを出しています。
でも,こうした版画は19世紀が主流のものであり,日本の戦国時代にはなかった表現法ですから,日本の中世美術を実際に見て考察したんです。そこから私なりに理解したのは,江戸時代以前の日本の美術,特に水墨画は中国の影響が多く残っているということで,より日本らしさを表現するために時代は異なれど浮世絵にインスパイアされたアートスタイルを選択したのです。
あとは黒澤 明監督の「用心棒」や「蜘蛛巣城」といった映画の演出も大いに参考させてもらっています。蜘蛛巣城の元ネタがシェイクスピアの「マクベス」にあったというのは,ゲームを作り始めて知ったことでビックリしましたし,日本とイギリスの関係性を感じざるを得なかったですね。
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4Gamer:
新作の発表を予定されていますが,「ウォーハンマー 40,000」や「スター・ウォーズ」のようなファンタジーIPに期待する声もあり,一方で「Medieval 3」「Empire 2」を切望するファンも多いようです。こうした作品ではなく,今後に手がけてみたいプロジェクトやIPはありますか。
マクドウェル氏:
今お話しできることは,複数のチームが複数のプロジェクトを手掛けているということです。もし予算や売り上げを気にせずに作れるとすれば,子供でも楽しめるゲームデザインでアーティストとして経験がないもの,例えば「マイリトルポニー」ですね(笑)。
子供と一緒にアニメを観たりコミックスを読んだりしたことがありますが,違う勢力があったりして,トータルウォーになり得ると思ったんです。
ピットケスリー氏:
私はやっぱり歴史もので,今まで扱ったことのないテーマに挑戦してみたいですね。歴史は常に好きですが,新しいテーマになると様々なことを学べるのが本当に新鮮です。冷戦時代なんて面白そうじゃないですか。
4Gamer:
最後になりますので,これからのトータルウォーシリーズについてコミュニティに伝えたいことをお願いします。
マクドウェル氏:
ファンの皆さんが私たちをサポートしてくれて,ゲームを購入してくれなければ,私たちはこれらのゲームを作ることさえできません。ゲーム開発は,昔とは大きく異なり,今ではコミュニティと一緒にゲームを作り上げているという感覚を大切にしていかなければならないと思います。
ですから,我々は皆さんの意見に耳を傾けようと努力していますし,さらに改善を重ねて,よくコミュニケーションを図り,そこからより良い作品を作り出そうとしています。
そして,個人的な思いですが,皆さんの人生に価値のある,ポジティブな貢献をすることを願っています。世界の在り方や歴史を学ぶきっかけになったり,何かのインスピレーションを受けたと考えるゲーマーが一人でもいたりすれば,それは我々にとって本当に幸せなことで,これからの糧になります。
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ピットケスリー氏:
以前の我々は「自分たちの作りたいものを作る」という自我が強すぎたかもしれません。もしくは,孤立してゲームを作り,遊びたい人は買って遊んでくれという態度だったかもしれません。ゲームスタジオとしては大きく成長したCreative Assemblyですが,コミュニティの皆さんとの意見交換を密にしながら,より良い作品を提供していきたいと思っています。
4Gamer:
ありがとうございました。「Total War 25周年 新作発表会」を楽しみにしております。
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- ライター:奥谷海人
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