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  • アトラス
  • 発売日:2023/11/17
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印刷2023/11/21 12:00

インタビュー

[インタビュー]「ペルソナ5 タクティカ」が大事にしたペルソナ5らしさとは。開発のキーマンに,シリーズ初のシミュレーションRPG制作の思いを聞いた

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 アトラスより2023年11月17日リリースされた「ペルソナ5 タクティカ」PC / PS5 / Xbox Series X|S / PS4 / Xbox One / Switch。以下,P5T)は,「ペルソナ5」シリーズの最新作であり,「ペルソナ」シリーズ全体の中でも初となるシミュレーションRPGだ。

 これまでも,リズムゲームや格闘ゲームなど,メインのRPGとは違ったジャンルの作品を展開してきたペルソナシリーズだが,なぜ今,新たなジャンルに挑戦したのか。その経緯や開発中のエピソードなどを,ビジネスプロデューサーを務める野村敦士氏とディレクターの前田直哉氏,そしてコンポーザーの小西利樹氏に聞いた。

左から,コンポーザーの小西利樹氏,ディレクターの前田直哉氏,ビジネスプロデューサーの野村敦士
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「ペルソナ5 タクティカ」公式サイト



プレイヤーの皆さんのスーパープレイを見て「そんなやり方もあるのか!」と盛り上がってほしい


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずはP5Tの開発における,皆さんの役割を教えてもらえますか。

野村敦士氏(以下,野村氏):
 P5Tの企画およびプロジェクトの立ち上げ,開発中の予算管理などを担当しました。開発終盤には,プロモーションチームと連携を図り,お客様にP5Tを届けるためのアイデア出しや施策を行いました。

前田直哉氏(以下,前田氏):
 私はディレクターとして,主に制作の管理や,ゲームの方向性を決める舵取りをしました。

小西利樹氏(以下,小西氏):
 BGM全般を担当しました。SEやボイス周りはほかのスタッフに任せて,完全に楽曲制作にのみ注力していましたね。

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4Gamer:
 もうすぐ発売日を迎えます(収録日は11月13日)が,今の心境はいかがですか。

前田氏:
 無事に発売日を迎えることができたことは,本当に嬉しく思っています。
 ペルソナシリーズ初のシミュレーションRPGというチャレンジングなタイトルなので,一筋縄ではいかないところがありましたから。およそ4年ほどの開発期間なんですが,新しい仕様を決めるうえでも試行錯誤が多かったですからね。それが1つの形になって発売できるというのはすごく感慨深いです。

小西氏:
 ペルソナシリーズ初のシミュレーションRPGであることはもちろんですが,マルチプラットフォームでの世界同時発売といった初めてのことが多くて,無事に発売を迎えられるというのはすごく感慨深いですし,今までと少し違う感じがします。

野村氏:
 最初にお話ししたとおり,今の私の役目は皆さんにP5Tを届けることですので,この時点だとかなり淡々とした心境なんですよね。わりと今は落ち着いているというか,「できることはやったし,あとはプレイしてくださった皆さんの反応をひたすら待つのみ」とでも言いますか。

4Gamer:
 シミュレーションRPGというところでも,今までのシリーズ作品とは違う反応がありそうですね。

野村氏:
 ええ,まさにそれが楽しみで。「あのステージ,皆さんはどんな風に攻略するのかな」「友だちやゲーム仲間と攻略法を話し合ったりするかな」みたいなことを考えるとワクワクします。あとはプレイ動画ですね。ガイドラインも公開していますので,それを確認いただいて,いろいろなスタイルのゲームプレイを披露してほしいです。

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4Gamer:
 P5Tは遊ぶ人各自のプレイスタイルが出やすいのではないかと思います。

野村氏:
 ええ。たとえば,いわゆる“キャラ縛り”で特定のメンバーで攻略する方がいれば,移動系のスキルに全振りしたキャラを使おうという方もいると思うんです。同じステージでも,パーティのメンバーや戦術で戦い方も変わりますから,その違いだけでも面白いだろうなと。
 ステージによっては「○ターン以内にクリア」というチャレンジ要素があるんですが,「アトラスからの挑戦に打ち勝ってやる!」と,その設定よりさらに短いタイムでクリアを目指したり,高難度でそれに挑んだりするプレイヤーがたくさんいると嬉しいです(笑)。

前田氏:
 人のプレイを見ているだけでも結構楽しいんですよね。
 「えっ,そこ,1人で突っ走っちゃうんだ」と思って見ていたら,それが意外にうまくいって「ああ,そういう攻略法もあるんだ!」みたいな発見や驚きがあったりして。失敗込みで試行錯誤することが楽しいゲームなので,「そうじゃないよ!」と突っ込んだり,「そんなやり方でクリアするなんてすごい!」と盛り上がったりできるので,私もプレイ動画の配信は楽しみにしています。

小西氏:
 私も,「そんなやり方あるんだ!」みたいなスーパープレイが出てくるのが楽しみです。メインのペルソナシリーズはコマンドバトルなので,なかなかそういうものは出にくいんですが,自分でどうユニットを動かすかがカギとなるP5Tは,見た目的にもプレイヤーの個性が出やすいと思います。

野村氏:
 実は,開発中にすでにそういうノリみたいなものは生まれていたんですよ。テストプレイ中に,開発チームのスタッフが「このステージ,このくらいのタイムでクリアできますよ」とスーパープレイをチャットに投稿したんですけれど,QAチームのスタッフがそれよりもっとすごいプレイを投稿してきたという(笑)。「そんなやり方もあるのか!」という楽しさは,シミュレーションRPGだからこそだと思いますね。

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開発でもプロモーションでも,あくまでも「ペルソナ5」であることを意識した


4Gamer:
 P5Tは,gamescom 2023やTGS 2023などのイベントや先行体験会など,発売前から試遊の機会がたくさん設けられていた印象があります。これにはどういった理由があったのでしょう。

野村氏:
 主に2つの理由があります。1つは,今までになかったジャンルではあるけど,ペルソナ5をしっかり感じられるゲームであることを知ってもらいたかったんです。
 ペルソナ5の名を冠している以上,プレイヤーの皆さんにそれを感じていただけるゲームでなければなりません。そこはしっかり仕上がっているということを,ファンの皆さんに直接ご覧いただきたかった。これがなによりの理由ですね。

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4Gamer:
 なるほど。ゲームとしてのジャンルやシステムはもちろんなのですが,やはりペルソナシリーズはその作品世界やキャラクター性,ビジュアルなどのイメージも大きいですからね。

野村氏:
 そうですね。
 そしてもう1つの理由ですが,やはりシミュレーションRPGというゲームの遊び方に触れてもらいたいと。「自分の思考でカッコよく勝利を決められた」ということを体感してほしかったんです。
 シミュレーションRPGって,「このキャラをあそこに置き,こっちのキャラをこの手前に配置して,ここであのスキルを発動させて……」という風にユニットを動かして,その自分の考えがハマったときの気持ちよさが大きな魅力だと思うんです。その感覚は,どうしても映像だけでは伝えきれないんですよね。

4Gamer:
 そもそもですが,P5Tの発表時のアトラスのゲームのファンはどんな反応だったのですか。アトラスにとってシミュレーションRPGは,過去に手掛けたことはあるとはいえ珍しいジャンルのゲームであり,ペルソナシリーズからのファンのなかには触れたことがないという人も少なくなかったのではないかと。

野村氏:
 一番多かったのは,「どんなゲームなんだろう?」でしたね。おっしゃるとおり,そこはシリーズ初のジャンルというのも大きかったと思います。あとは,「これは続編なの? スピンオフなの?」みたいな声もありましたね。物語については,ゲームをプレイして追いかけていただきたいので,どうしても詳しくは伝えられないのですが。

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野村氏:
 ゲームシステムに関しては,最初は意図的に情報公開を抑えていたんです。それは,やはりペルソナ5に関連したゲームであることをまず知っていただきたかったからですね。
 最初にファンの皆さんのためにやるべきことは,「あの心の怪盗団達が,また出てくるよ」ということを伝えることであり,作品の雰囲気やビジュアルを打ち出して「間違いなくペルソナ5のゲーム」だと認知していただくことでした。シミュレーションRPGというジャンルや遊びの部分については,第2弾以降の情報公開で丁寧に見せていこうと。

4Gamer:
 そもそも,なぜシミュレーションRPGだったのでしょうか。海外のインディーゲームなどの影響もあって,ここ最近また盛り上がってきているところもありますが,“難しそうなジャンルのゲーム”という印象を持つ人も少なくないと思います。そこになぜトライしたのだろうと。

野村氏:
 プロジェクトを立ち上げたとき,企画の軸にしていたのが,「怪盗団のチームとしての活躍を見せたい」だったんです。絆を深めた仲間たちがチームでミッションに挑む姿もあったんじゃないかと。それを描くにあたり,一番最適なジャンルがシミュレーションRPGであるというロジックで企画を立てたんです。

4Gamer:
 ペルソナシリーズのシミュレーションRPGを作りたいという考えよりまず先に,ペルソナ5がまだ見せていない一面や新たな魅力を表現するために適したジャンルだったと。

野村氏:
 ええ。なので,開発チーム皆がシミュレーションRPG好きで……みたいなことはなくて。それこそ前田は,シミュレーションRPG好きというのがあってディレクターを担当してもらったんですが,難しそうだから好きではない,遊んだことがないというスタッフもいたんです。
 この,コアなシミュレーションRPG好きとそうじゃない人,その両方がいたことが実はゲーム開発において重要なものになりました。難しそうと敬遠していた人が最後まで遊べるかというのが,開発時の指標になりますから。

前田氏:
 シミュレーションRPGは「難しそう」というのもそうですが,「ユニットの管理が面倒」というイメージがありますよね。実際,それが大変そうだという人もいて,そんな彼らの意見も採用しながら,管理するユニット育成要素は極力絞りつつ,ユニットのカスタマイズはきちんと楽しめるようなものを目指してゲームデザインを進めました。

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4Gamer:
 ちなみに,前田さんはどんなシミュレーションRPGが好きなのでしょうか。

前田氏:
 往年の名作ですけれども,「伝説のオウガバトル」や「ファイナルファンタジータクティクス」です。P5Tとはまったく違いますよね(笑)。

4Gamer:
 P5Tは,雰囲気的にはそれこそ「XCOM」のような海外の戦略ゲームのほうに近いですよね。それもあって海外のゲームを遊ばない人,こういったジャンルのゲームを久しぶりに遊ぶという人は,オウガバトルシリーズをイメージして「あれ,なんか違うぞ」となりそうです。

前田氏:
 そうですね。シミュレーションRPGと聞いて,往年の名作的なものを期待されるのではないかというプレッシャーもありました。
 それもあって,ゲームの遊び方を知ってもらう仕組みの作り方は大事で,シミュレーションRPGをプレイしないスタッフの感想を聞けることは大きかったです。「『シミュレーションRPGは難しくて嫌だ』というスタッフが『面白い』と言えば勝ちだろう」と,新しい仕様を組んだときはそういったスタッフに感想を聞きましたね。

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4Gamer:
 キャラクターのデザインについて聞かせてください。デフォルメされたキャラクターと言えば「ペルソナQ」シリーズがありますが,それとはまた違った雰囲気です。どうしてこういうスタイルにしたのでしょう。

前田氏:
 デフォルメの方向も,そもそもペルソナQとは違うんです。俯瞰で見たときに,モーションやポーズがすごく映えるよう,身体の末端に行くほど大きくするようなトゥーン系のデフォルメになっていて。
 実は最初にP5Tのモックアップを作ったとき,ペルソナQのキャラモデルを使ったんですが,やはりしっくりこなかったんですね。シミュレーションRPGのユニットとして,ペルソナQのキャラより動かすところが多いですし,画面での映り方も違いますから。そういった検証を何度も重ねた結果できたキャラクターモデルです。

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4Gamer:
 事前に試遊して感じましたが,本当によく動くなと。手足が細かく動くので,ステージでちょこまか動く姿を見ているだけで楽しい,動かしているだけで楽しいと感じました。

前田氏:
 動きにはこだわりました。これはペルソナQ2のときに感じたんですが,頭身を下げたキャラクターを魅力的に表現するうえで重要なのが“よく動かすことに尽きる”ということなんですね。移動や戦闘はもちろん,しばらく操作していないときの,退屈そうにしたり身体を伸ばしたりといった表現が,プレイヤーを飽きさせないんです。
 ちょこまか動くというのも大事で,おっしゃるとおり「動かしているだけで楽しい」となれば,難解なゲームジャンルという印象のシミュレーションRPGも楽しんでもらいやすくなるなと。

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4Gamer:
 そうですね。そもそも,ペルソナ5自体がキャラクターの動きやしぐさが特徴なので,ペルソナらしさを出す意味でも重要なのだろうなと思いました。

野村氏:
 そのとおりです。それをしないとペルソナシリーズにならないとも思いますね。P5Tのカットシーンは私もすごく好きなんですが,今はあれがデフォルメされたものという感覚がないんですよ。デフォルメや頭身に関係なく,ただ単にキャラクターがカッコいいというところがよく出ているんです。

前田氏:
 キャラの頭身は違いますが,話の見せ方やキャラクターたちの振る舞いはデフォルメキャラに合わせてはいなくて,オリジナルと同じイメージで作っているんです。声優さんにボイスを演じていただいたときも,「頭身が低くなったことは意識せず,いつものままでお願いします」と伝えました。
 でも,本当にキャラクターの動きはたくさん作りましたよね(笑)。これもオリジナルに引けを取らないくらいのパターンがあると思います。

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バトル面でペルソナ5らしさを表現する軸となった「TRIBANGLE」


4Gamer:
 シミュレーションRPGを作るうえで大変だったところを教えてください。

前田氏:
 「位置取りを大事にしたい」という点は早々に決まったんですけれど,ペルソナシリーズならではの要素をなかなか仕様に落とし込めず,相当難航しました。
 どうやっても既存のゲームに似たものになってしまって。脱既視感のアイデアを探ってはいたんですが,なかなか生まれず,スタッフからも「いつものペルソナらしい,弱点を突くゲームに戻そう」という声も上がったぐらいでした。
 それでも,今までとは何か違う形でペルソナらしさを表現したい。それで,「最後のα版だ」ということでできたのが「TRIBANGLE」だったんです。遊んでみたら面白かったので,「これは可能性を秘めている」と。そこから各ステージのデザインを作っていきました。

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4Gamer:
 開発のスタートからそこに至るまで,どれくらいの時間がかかったのでしょうか。

前田氏:
 ちょうど1年ですね。もう1つの転機は,マスを選択して決まったところにユニットが移動するというものではなく,プレイヤーの操作でキャラクターを歩き回れるようにしたことです。
 将棋やチェスのような思考するゲームが好きなので気に入っていたんですけれども,見た目がパッとしないことに加え,シミュレーションRPGが苦手なスタッフから「この操作をどうにかできないか」と言われたんです。キャラクターをプレイヤー自身が操作でき,その操作によってユニットがちょこまか動く。先ほど話した,動かしているだけで楽しいにつながる部分ですね。これに気がついたことで大きく方針転換したんですが,見た目や手触りが変わったことでハードルが一気に下がった感触がありました。

4Gamer:
 それでは,ペルソナシリーズらしさをうまく表現できたという部分について教えてください。

前田氏:
 それもやはりTRIBANGLEですね。あの仕様が固まったときが,まさに第1歩でした。プロトタイプのころから,「三角形の中に,いかに多くの敵を含めるか」という試行錯誤をするのが面白さの軸なんですけれども,ステージの構造や敵の配置によって遊び方が変わってくるので,非常に可能性のある仕組みなんです。

野村氏:
 ペルソナ5らしさを出すため,ペルソナ5のバトル要素を何とかして盛り込みたかったんですよね。そうなると「1MORE」や「バトンタッチ」が比較的入れやすいんですけれど,総攻撃はどうやって表現すればいいのかという課題が生じました。
 今回,弱点を突くゲームとはまた少し変えたので,その意味でもTRIBANGLEが完成したときは,「新しい総攻撃が生まれた」と,かなりテンションが上がりました。

前田氏:
 TRIBANGLEの演出も,かなり早い段階で生まれたんですよね。カットシーンを制作するチームに,三角形で囲んだ敵をひたすらボコボコにするというムービーを作ってもらい,ほかのスタッフとイメージを共有して,「こういう仕様にできないか」という話をしました。

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4Gamer:
 TRIBANGLEで敵を囲んでいく一連の流れは,パズルっぽくて分かりやすいですよね。パズルだから,失敗してももう一度トライする楽しさみたいなものも感じられます。そのほか,シミュレーションRPGを難しそうだと思っている人に向けて,配慮した要素はありますか。

野村氏:
 チュートリアルを含め,ステージが進むにつれてステップアップしていく過程のグラデーションにはこだわりました。1回,ガラッと修正を入れましたよね。

前田氏:
 TRIBANGLEの仕様が固まって,各ステージのデザインをしたんですけれども,皆TRIBANGLEがどういうものか知ったうえで作っていったんですよね。
 あるタイミングで,ほかのタイトルのスタッフにテストプレイをお願いしたんですが,そのとき「複雑すぎてまったくプレイできない」と。確かにいきなりは難しいし,シミュレーションRPGって覚えることが多いですよね。いきなり詰め込むとそれこそ難しそうとなるので,一つひとつの要素を段階的に覚えられるよう,かなり気をつかって各ステージをデザインし直しました。
 それも,ただテキストで説明するのではなく,オブジェクトの位置などでプレイヤーが自分で思いついたような形になるよう誘導するなど,いろいろ工夫しましたね。

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4Gamer:
 gamescom 2023やTGS 2023では,試遊の待機列に向けてチュートリアルの動画を流していましたよね。あれは面白いなと思いました。

野村氏:
 ありがとうございます。ゲームショウの試遊は時間が限られているぶん,チュートリアルからだと,見せたかった部分に触れられないまま試遊時間が終わってしまうかもしれないんですね。なので,そこは工夫し,並んで待っている間に,基本的な遊び方を少しでも分かりやすく伝えたいと思って考えました。

4Gamer:
 ラミネートされたA4サイズの遊び方のシートを渡して……では,ちょっと難しいかもしれません。

前田氏:
 そうですね。説明ばかりのチュートリアルで,ゲームをプレイする前に「面倒くさそう。もういいや」となってしまわないようにしたかったですし,新しい試みであるTRIBANGLEの爽快感を味わってほしかったんですね。
 そういった試遊までの試みもうまくいったみたいで,参加者の皆さんが意外にスムーズに三角形で敵を取り囲み,サクサクとプレイしていたのを見て安心しました。

野村氏:
 私たちは先行体験会で参加者のプレイを後ろから見学していたんですが,「あ,もうそのステージまでいくんだ」ということもあり,皆さんがしっかりプレイできていたいたことは本当に安心しました。

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音楽はプレイヤーの思考を邪魔せずに,ペルソナ5らしさをアピール


4Gamer:
 それでは,サウンド面についてもお話を聞ければと思います。そもそも小西さんにオファーがあったのは,どのくらいの時期だったのでしょうか。

小西氏:
 まだ「真・女神転生V」の作業をやっていた頃ですね。「こういうゲームです」という企画書と,少しプレイできるものがあって。説明を受ける前にそれが来たんで,「へえ,シミュレーションゲームなんて作っていたんだ」と思いました。サウンド担当のところに話が来るのは開発がある程度進んでからなので,一般の人とあまりリアクションが変わらないんですよ(笑)。


4Gamer:
 小西さんは,いちゲームプレイヤーとしてはシミュレーションRPGはプレイされていたのでしょうか。

小西氏:
 僕はもう,それこそ「魔神転生」シリーズで止まってますね。シミュレーションRPGと言えば「魔神転生」。それ以降は,プレイした記憶がないです。

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4Gamer:
 おお,魔神転生。そこは,アトラスのゲームのコアなファンという一面もある小西さんらしい回答ですね(笑)。では,シミュレーションRPGの音楽を制作するとなり,なにを心掛けていたか教えてください。

小西氏:
 自分の中に「こんな感じだろうな」というイメージはありましたが,それよりなにより,まずはペルソナシリーズのゲームだから「ボーカル曲は外せないな」というのがありましたね。それで プランナーに1ステージのプレイ時間を聞いたら,「15分くらいじゃないですかね」と言われて。「ボーカル曲を15分間となると,4番くらいまで歌詞を用意しないとダメなんじゃないか」といった話も出ました(笑)。

4Gamer:
 そもそも,RPGとシミュレーションRPGでゲームの進め方が違いますが,楽曲の使い方みたいな話だと,どのあたりがRPGのペルソナシリーズと異なるのでしょう。

小西氏:
 分かりやすいところだと,1つのキングダムで1曲が完結するみたいなイメージで作曲したところですね。
 P5Tの舞台となる世界は,いくつかのステージに分かれた「キングダム」というエリアで構成されているんですが,ステージの段階によって曲が変わるイメージで作曲しました。音色を統一したり,あるステージに流れる曲のフレーズが,別のステージの曲などがいろいろなところに登場したりといった形で,キングダムごとの統一性みたいなものを図りました。

4Gamer:
 一つ気になっていることがあったんですが,考えることがプレイの軸にあるシミュレーションゲームって,言い方が悪くなりますが,プレイする人によっては音楽そのものが思考の妨げにもなりかねない……というものを含んでいますよね。そのあたりは作曲するにあたっての難しさであり,腕の見せどころだったのかなと。

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小西氏:
 シミュレーションゲームは,プレイヤー各自の気持ちが盛り上がるタイミングがバラバラですよね。ずっと考えている人もいれば,サクサク進める人もいるので,楽曲側でブワーッと煽るようなことをしたり,気持ちを盛り上げたりすることは極力控えようと。どちらかと言うと一歩引いて,かつボーカルの存在感はしっかり担保するという感じの曲の作り方をしました。

4Gamer:
 やはりRPGにおけるダンジョンの音楽と,シミュレーションRPGにおけるバトルフィールドの音楽とでも,作り方はだいぶ異なるのでしょうか。

小西氏:
 ええ,根本から違いますね。ステージごとのBGMにバリエーションを付けたのは,「ここは少し落ち着いたステージだから,RPGで言えばここはダンジョン寄りの音楽だな」「ストーリー進行が少し前に出るから,ここはバトルっぽくしよう」といった感じで,ゲーム進行によるプレイヤーの感情によって切り替えています。

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4Gamer:
 A地点からB地点に移動している途中で,ワラワラと敵の兵隊が襲ってきたとか,ストーリー上のキーにもなる強敵が出てきたとか,話の展開を考えながら楽曲を作り分けているわけですか。

小西氏:
 あとは1ステージ内で楽曲をコロコロ変えるのも気になってよくないので,最後まで聴いていても聴き疲れしないことを意識しました。その一方で,ボスバトルはそのときかぎりの特別な戦いなので,コマンドバトルのペルソナと同じように盛り上げたりしています。

4Gamer:
 キャラクターの頭身が変わったことに,何か影響はありましたか。

小西氏:
 ありましたね。サウンド的には「マジか!?」という感じでしたよ(笑)。ペルソナ5の楽曲は,キャラクターの頭身に合わせたリッチなサウンドになっているので,かわいいデフォルメキャラとはあまりマッチしないんです。
 バーッと広がったサウンドが鳴っていると,楽曲だけ浮いている感じになるし,かと言ってポヨポヨしたかわいいサウンドだとペルソナ5らしさがなくなる。今回は楽器を多く使わず,それこそギター,ベース,ドラムだけで完結させて,音の密度は少し薄めだけどテイストはペルソナ5というところを目指しました。

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4Gamer:
 なるほど。小西さんと言えばギターやバンドサウンドというイメージがあるので楽しみです。その仕上がりはいかがでしょうか。

小西氏:
 ……どうなんですかね(笑)。

4Gamer:
 (笑)。自分からは言いにくそうですね。

野村氏:
 狙いどおりに仕上がっていると思いますよ。私自身,作業中にサンプルを聴くんですけれども,しっかりカッコよくていい感じですし,何より1時間でも2時間でも聴いていられるんです。まさに聴き疲れしない。それでいてペルソナ5らしさもあってすごいなと。

前田氏:
 思考の集中を妨げないですよね。それでいて,きちんと盛り上がれる。

4Gamer:
 思考を妨げず,それでいてペルソナシリーズとしてプレイヤーの気持ちを高揚させなければならない。その両立は難しいですよね。

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小西氏:
 楽曲単体としても成立させないといけないんですからね。ずっと環境音みたいなのが鳴っているだけでは許されないんだろうなと。たまにそういうステージがあってもいいのかなと思いましたけど,許してもらえないでしょうね(笑)。

4Gamer:
 ペルソナ5らしい音楽というイメージがありますからね。
 楽曲数はどのくらいあるのでしょうか。

小西氏:
 100曲くらいです。DLC用の楽曲もほぼほぼ別に作っているんで。本当に,最近のアトラスのゲームは楽曲数が多いですから(笑)。

4Gamer:
 それは感じます。ちょっとしたシーンの変化でも,違う楽曲が入ったりしますよね。

野村氏:
 「CDにすると何枚組になるんだ」みたいなね(笑)。

小西氏:
 そうやって増えていったゲームを参考に依頼のリストが作られるので,さらに楽曲数が増えていくんですよ(笑)。次は120曲になるんじゃないかくらいの感じで。

野村氏:
 今回は100曲以上ありますけれども,それらをすべて小西が管理しています。だから全体としての統一感は,しっかり担保されているんです。

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4Gamer:
 それでは最後に,P5Tに注目している人に向けてメッセージをお願いします。

前田氏:
 開発している中で,「ペルソナ」らしさは常に意識していました。まずバトルに関しては,ライトでカジュアルな見た目ですが,実際に手に取ってみるとアトラスらしい手応えや,やり応えのあるシステムに仕上がったと思います。
 シナリオについても,ペルソナ5では汚い大人たちに虐げられた高校生が反逆する姿をすごい熱量で描いていましたが,P5Tでもそれを引き継いでしっかり熱い話を描いていますので,ぜひ楽しみにしてください。高校生たちの真っ直ぐで,すごく情熱的な思いもある反面,やや危うい,真っ直ぐさゆえの儚い危険性といったところも描けてるかなと捉えています。
 スタッフからの感想でも,クリア後に1本の映画を見終わったかのような達成感や,清々しさを感じることができたっていう話も多いので,ぜひプレイしていただけたらと思います。

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野村氏:
 「ペルソナ」シリーズは現代劇ということもあり,普遍的なテーマを取り扱うことが多いんですよね。作中,キャラクターを通してプレイヤーがいろいろと考えることもあるかと思うんですけど,その答えは人それぞれで,受け取り方もプレイヤー次第なんですね。
 私自身がシリーズを通してペルソナらしいなと思うのが,ゲームを始める前と終えたあとで,少し視野が広がっているように感じることです。ゲーム終えたあとに,何か自分に少し返ってくる。人によっては,それが活力になるかもしれない。そういったものは,今回のP5Tにもしっかりあります。
 今回は,心の怪盗団と新キャラクター・エル,そして春日部統志郎が革命劇を巻き起こすわけですけれども,最後までぜひ見届けてほしいです。

小西氏:
 全体的にペルソナ5らしさは大事に作られていますが,P5Tという一つの作品としてよくできていることにも着目してほしいですね。ペルソナ5からそのまま持ってくるのではなく,P5Tという新しい形のになっているところを,楽曲も含めて楽しんでいただきたいですね。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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