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[インタビュー]「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」キャラクターデザインのべにたま氏に聞く,主人公を生む苦労。ライザの次って,辛くないですか?
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印刷2025/03/08 10:00

インタビュー

[インタビュー]「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」キャラクターデザインのべにたま氏に聞く,主人公を生む苦労。ライザの次って,辛くないですか?

白黒の主人公が成立するラインを探って


画像集 No.038のサムネイル画像 / [インタビュー]「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」キャラクターデザインのべにたま氏に聞く,主人公を生む苦労。ライザの次って,辛くないですか?

4Gamer:
 このカラーバリエーションはなんですか?

細井氏:
 私が「アイラが主人公に見えるのでは」という恐怖症になってしまって,ユミアのデザインをモノトーンでいくべきか迷っていたことがあるんです。それで,鈴木にユミアのデザインのカラーパターンを出せるだけ出してもらったときのものです。

鈴木氏:
 手がかりになればと出してみましたが,我々の中ではモノトーンを基調にすることすら揺らぎ始めていました。

べにたま氏:
 僕はこれを見た時に,改めてやはり白黒案が一番いいのではと思いましたね。

細井氏:
 鈴木が案を出して「違う」と分かるだけでも,それはそれで進むべき道が見えますから,意味はあるんです。

べにたま氏:
 僕としては,モノトーンでやるならそれでやるべきだと確信できました。モノトーンに色を追加しすぎてしまうとバランスが崩れて見えてしまうんだなと。

4Gamer:
 パーティメンバーと並べて「モノトーンは地味に見えないか?」になったはずなのに,こう見ると「やっぱりモノトーンだな」と思えるの,面白いですね。
 それにしても,主人公以外は完成するまでの途中稿がだいぶ少ないような。

べにたま氏:
 自分の中での試行錯誤はありましたが,スルスル決まったので,ほとんどないですね。

ユミアで困っている間にあっさり完成するアイラ
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細井氏:
 レイニャやニーナは多少ありましたが,それでもユミアに比べると少ないですね。
 仲間は順調なのですが,決まるたびに主人公の取れる選択肢が狭まってくるわけです。

4Gamer:
 埋まった要素は使えなくなってくるから……。

べにたま氏:
 ユミア以外のバランスだけよくなっていくんですよね。
 このあたりでだんだん苦しくなって,ここ(コーエーテクモゲームス)に来て一緒に作業させてもらいました。3Dを三面図にしてもらって仕切り直したり。

画像集 No.041のサムネイル画像 / [インタビュー]「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」キャラクターデザインのべにたま氏に聞く,主人公を生む苦労。ライザの次って,辛くないですか?
やはり白黒と判断した後のマイナーチェンジ案
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4Gamer:
 その行き詰まっているのは,「自分ではいいと思っているのに認めてくれない」なんですか。それとも「自分でも納得いかない」なんですか?

べにたま氏:
 「こんなに変えるべきなのかな……?」ですね。もとのデザインでも個人的にはかわいいと思っていたので,デザインを詰めていく必要はあるとしても,ここまで大きく変えていいのかなという疑問もあって。

4Gamer:
 銀髪になったあたりの迷走感がすごいですね。

鈴木氏:
 タイトスカートすらなくなっていますからね。

ようやく現在のユミアっぽい気配が……? 2023年7月の話である
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突然現れるユミアのお姉ちゃん。気晴らしの落書きだが,別キャラのデザインに活かされた
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細井氏:
 この稿が出てきたときに,赤の差し色がいいねとなった覚えがあります。

4Gamer:
 主人公をいじっている間,このあたりでルトガーが完成しているみたいですね。チンピラ風というのは聞きましたけど,どういうデザインを目指していたんですか?

べにたま氏:
 犬を拾っちゃう不良みたいな。「アトリエ」シリーズのキャラクターって,主人公の周囲の人達がみんな仲良しな印象があるんですよ。
 だから,今回はあえてバラバラにしたかったんです。もともと仲のいい人達ではなく,バラバラに集まってきた人達が揉めながらも仲良くなっていくみたいなパーティをイメージしていました。なので,不良は絶対に欲しいなって。

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4Gamer:
 また1人パーティメンバーができましたが,こうなるとますます主人公が取れる選択肢が……。

べにたま氏:
 で,鈴木さんがこれを送ってくれるという。さすがに路線が変わりすぎてびっくりしました(笑)。

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4Gamer:
 やっぱり鈴木さんは,今までの方向性でいいんだということを教えてくれるわけですね(笑)。

べにたま氏:
 マイナーチェンジ案を描いたり,見たりしていても違うなとは思うんですが,ゴールが見えないんですよ。主人公の匂いを感じないというか。何をやったら正解なのかなと思いつつも,根本的には変えるべきではないという感覚がありました。

4Gamer:
 この行き詰まった状況で,細井さんはプロデューサーとしてどういうことを考えていたんですか?

細井氏:
 このデザインだと埋没してしまうなと。モノトーンは強いけれど意匠が足りていないと感じていました。
 というのも,べにたまさんのパーティメンバーのデザインが素晴らしかったのだと思います。

4Gamer:
 どういうことでしょう?

細井氏:
 ここまでバラバラのキャラクターデザインで,パーティとしてしっかりとまとめていただけるとは……。私の勝手な想像では,みんなが調査団に所属しているという設定に基づいて,モノトーンのユミアに合わせて,全体的に抑え目な色調になるのではないかと思っていました。
 しかし,べにたまさんは「このままバラバラでいくべき」と思えるようなキャラクターを描いてくださいました。そのなかで,ユミアが主人公として成立するためのラインが分からず,ずっと模索していたんです。

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4Gamer:
 え,この青い服のデザインはなんですか?

べにたま氏:
 「一度これまでのユミアのデザインを忘れて0の状態から描いてみては?」ということで描いたものですね。

4Gamer:
 めちゃくちゃ迷走していますね……。これはこれで,「アトリエ」感があってかわいいですけど。

べにたま氏:
 比較のためにも,従来の「アトリエ」っぽい主人公を描いてみたらということで考えたら,すぐに出てきました。でもモノトーンもボツ案にするには惜しかったので,そっちも直して出したら「この感じ!」と言っていただいて,ようやく光明が見えました。2023年9月の話なので,1年近くかかっています。

4Gamer:
 べにたまさんのなかでは,なにがトリガーになってこのユミアを出せたんですか?

べにたま氏:
 シルエットがシュっとしたんですよね。ずっと芋っぽさみたいなのがあって,個人的にはそこがいいなと思っていたんですけど,丸みを削ぎ落としたことで,本作の主人公らしさに近づいてきたなって。

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髪飾りのパターン。後ろから見ることの多いゲームだからこそのこだわりを感じる
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べにたま氏:
 レイニャやニーナが完成したのもこのあたりです。

細井氏:
 その2人は,少しディスカッションしましたね。レイニャは,もともと社内で獣人のデザインをやっていて,「どこまでの獣人なら仲間キャラクターとして愛されるか」という議論がありました。

4Gamer:
 どこまでケモに寄せるかって話ですよね。

細井氏:
 はい。獣側に寄せきることも選択肢にはありましたが,それはやりすぎなのではないかなと。

べにたま氏:
 僕の中では,手と足は獣感を残したいなと思ってデザインしました。

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べにたま氏:
 ニーナは,市政にまぎれる傭兵とのことだったのですが,これだとミステリアス感がなくて,地味に見えてしまいました。ですので,マントとかで傭兵っぽくするより,あえてドレスっぽくしています。

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仲間のなかでは比較的,途中稿の多いニーナ
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ニーナの作業と並行しつつ,ついにユミアも今の姿に
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べにたま氏:
 全員完成して,ようやくパーティの色合いのバランスが整いました。

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4Gamer:
 この集合画像,2024年4月って書いてあるんですが……本当にずっと微調整していたんですね。

べにたま氏:
 長かったです。こうやって並べると,左が暖色,右が寒色にまとまっているのがいいなと。
 ちなみに,4月頃は立ち絵をもっとよくしたいと直していたんですが,リテイクが20回ぐらいありました。細井さんにずっと「違う」って言われて。

細井氏:
 どうしてもシルエットにこだわりたくて……。

鈴木氏:
 セクシーに見える表現は抵抗があると,べにたまさんはおっしゃっていましたね。

べにたま氏:
 この仕事をするまで,セクシーな絵を描く機会がなく,どう描いたらいいか分かりませんでした。あまり自分の絵と相性がいいとも思っていませんでしたし……。なので,その折り合いをつけるのにすごく悩みましたね。

4Gamer:
 そうだったんですね。ユミアの立ち絵を見たとき,描いていて一番楽しい部分はおしりなのかなと,勝手に思っていました。

べにたま氏:
 苦しかったですね。そうした分野は,世の中にいいものがたくさんあるので……。

細井氏:
 いやいや,べにたまさんが描くからいいんですよ。

べにたま氏:
 たくさん悩んだ分,納得いく形にはなったなって実感はありますけどね。

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辛くて泣きかけた


4Gamer:
 ユミアが完成して,今回の「アトリエ」はこのキャラクター達です,というのが決まったわけじゃないですか。そのとき,どんなことを思いましたか?

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べにたま氏:
 やっと終わった……が正直な感想ですね。ユミアの調整を並行したままずっと進めていたので,さすがに大変でした。
 今にして思えば,あの時ユミアを直し続けてよかったと思います。完成したユミアを見てから最初に戻ると,やっぱり詰め切ってないなと感じます。
 時間をかけたぶん,自分の中に引き出しが増えましたし,シルエットに対するシビアさとか,デザインにおいての勘の鋭さみたいなものは,すごく成長できたと思います。以前の自分ならこうは思わないだろうな,という部分がけっこうあります。

4Gamer:
 おそらく,トリダモノさんからキャラクターを生み出す辛さは聞いていたと思うんですけど,体験していかがでした?

べにたま氏:
 さすがにすごかったですね……。途中で心が折れかけて,夜,布団の中で泣きそうになりました。

4Gamer:
 イチから生み出す苦しみみたいなものは,今までのお仕事と違いました?

べにたま氏:
 そうですね。特にユミアに関してはまったく違いました。1人のキャラクターデザインにここまで長い時間向かい合う機会ってそうそうありませんからね……。
 正直,何度かひっくり返るようなことがあるとは予想していたので,耐えられると思っていたんですよ。

4Gamer:
 ひっくり返った前任者(トリダモノさん)がいますしね。

べにたま氏:
 それもありますし,「不思議」シリーズのビジュアルコレクションを持っていたので,すごい量のデザイン案があることは知っていたんです。それで覚悟していたんですけど,まさかそれより多くなるとは。

4Gamer:
 「アトリエ」を背負うのは辛いぞと。

鈴木氏:
 デザイン期間は,歴代で一番長かったですね。

細井氏:
 それでも,べにたまさんはしっかりと生み出してくださいました。
 ユミアの発表後も,ユーザーさんに好意的に受けいれていただけて良かったです。

べにたま氏:
 発表後に嬉しかったのが,こだわった部分に対して反響が多かったことです。自分がこういうふうに見てほしいなと思っていたところを,しっかりと見ていただけたので。

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細井氏:
 ユミアは,世界観や我々が提供したいゲーム体験にもマッチするデザインになったと思います。おかげさまで,公開したプロモーション映像などの反響も大きく,キャラクターだけでなくゲームプレイの部分にも注目していただいているのが分かるので,ありがたいです。

4Gamer:
 ユミアは早速フィギュア化もされていますが,自分のデザインしたキャラクターが立体化されていかがでした?

べにたま氏:
 すごく嬉しかったです。フィギュア化の監修も初めてさせていただきました。揺れモノを多めにつけたのがシルエットに貢献していて,そこがいいなって。あとは,クリアパーツがキレイなのも感動しましたね。

4Gamer:
 立体化されたものを見たとき,自分の描いた絵のとおりだなって思うものでしょうか。

べにたま氏:
 そこはちょっと違う感覚ですね。当たり前ですが平面のものが立体になっているので,見栄えを想定してないアングルがたくさんあるんですよね。
 そこをとても魅力的に落とし込んでいただいたので,「これがフィギュア……!」という気持ちが湧いてきました。

鈴木氏:
 目隠れも含めて,ユミアのフィギュアは現物を見たほうがかわいいと思います。影の関係もありますし。

べにたま氏:
 そういえば,ユミアのデザインでどれくらい目を隠すかは少し議論しましたね。

細井氏:
 私は,隠れすぎだからもうちょっと見せてもいいのでは,とお伝えしたのですが,べにたまさんは「絶対にいやなんですけど……」と……。

べにたま氏:
 そうなんですよ。なんとかチラ見え程度で済まないか抵抗していました。
 確かに設定上,目を隠す理由がないのは分かっていたのですが。

細井氏:
 本当に全部隠れたままだと,ゲームや物語的に意味がありすぎるんですよね。ユミアの場合はファッションですから,私の希望としては目は見せたいなと。

べにたま氏:
 最終的に,媒体によっては髪のなびき具合で目を見せることにしました。
 本当は,隠す方向で説得しようとしたんですが,世の中のキャラクターを調べてみたら,フィギュアや広告の絵になると概ねみんな目を出していて,泣く泣く折れました。

画像集 No.072のサムネイル画像 / [インタビュー]「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」キャラクターデザインのべにたま氏に聞く,主人公を生む苦労。ライザの次って,辛くないですか?

細井氏:
 議論になったと言えば,塗りのテイストの話もありましたね。タッチやテクスチャ感など,ここだけは時間をかけていいので,絶対に塗り込んでくださいとお願いしました。

べにたま氏:
 作業していた頃によく目に入っていたイラストが,フラットな塗りだったりでスマートな印象のものが多かったんです。なので,そういう塗りに寄せていったほうがいいのかと思って描いていたのですが,最終的に世の中の動向ではなく,自分らしさと高級感を大切に,ということになりました。
 でも,自分の中では一度完成させていたので,ユミアを直すのは手が重かったです。その後,他メンバー全員を気合で塗りきりました。

細井氏:
 大変だということは理解できるのですが,我々としては,立ち絵はキャラクターを伝えるためにも必要不可欠ですし,ユーザーさんが「どんなキャラクターなんだろう?」と想像する基にもなるのものですから,妥協するわけにはいきません。
 それに,私が今作でお願いしたかったのは,設定やトレンドだけに合わせて描いていただいたものではなく,そうしたものがありつつも,べにたまさんらしい絵とデザインなんですよね。

4Gamer:
 先ほども,べにたまさんらしいファンタジーのデザインとトレンドのバランスを見るのは,細井さんの役目とお話ししていましたね。

べにたま氏:
 これは言い訳になってしまうのですが,「ユミアのアトリエ」の前に「マリーのアトリエ Remake」をやっていたので,その時の塗り方が馴染んでしまって……。
 デザイン期間も長かったので,いつもの描き方を思い出せず……そういった意味でも今の塗りで完成させるのは,大変でした。

細井氏:
 そういった大変な状況の中でも,塗りを直していただいた絵を見て,私と鈴木は大喜びしました。

4Gamer:
 べにたまさんの絵だ! 的な。

細井氏:
 そうです,そうです。それにユミアは,これまでのシリーズの中で「大人っぽい」主人公になってほしいと思っていましたが,それは「大人すぎる」ということとは違います。そうした微妙な部分を,べにたまさんにうまくバランスを取っていただいて,仕上げていただけたと思っています。
 ぜひ発売を楽しみにしていただきたいです!

4Gamer:
 これで新シリーズ化して続いていくことになると,べにたまさんは何年か後で,また生みの苦しみを味わうわけですね。

べにたま氏:
 今はまだ考えたくないですねぇ……(苦笑)。
 それよりまずは,たくさんの方に「ユミアのアトリエ」を楽しんでいただけたら嬉しいです!

4Gamer:
 プレイするのを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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「ユミアのアトリエ 〜追憶の錬金術士と幻創の地〜」公式サイト


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