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ソロ・パブリッシャって何だ!? ブラジルで奮闘するThe Bueno Interactiveの社長に話を聞いた
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ブラジルは南米でも飛び抜けて多い2億1000万人という人口を持ち,若い世代も多いため,「未来の有望ゲーム市場」と目されている地域の1つだ。しかし,ゲーム開発の歴史はそれほど深くなく,今回gamescom latam 2025で見聞した限りは,「数百の小さなデベロッパで構成されたゲーム業界」という印象だ。
gamescom latam 2025では,エキスポやトークセッション,セミナーなどに加えて,ビジネス参加者たちがお互いにつながれるようなアプリが用意されており,登録するといろんな人からメールが届く。そんな中,筆者にアプローチしてきたのがブエノ氏というわけだ。Steamのパブリッシャページ(外部リンク)を眺めると,小粒ながらも評価が高く,日本語を含めて多言語化されているゲームが多い。
The Bueno Interactiveはどんなパブリッシャなのか,そして,ブラジルでも数少ないと思われるインディーパブリッシャを切り盛りするブエノ氏はどんな人物なのかを探ってきた。
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4Gamer:
ではまず,The Bueno Interactiveの起業の経緯からお願いします。
ブエノ氏:
もともと私は語学教師をしていたのですが,コロナ禍で心身を病みそうになって離職し,2023年7月からは私の好きなゲームの翻訳を行っていたんです。その後,中国のデベロッパが手がけるタイトルで,翻訳だけでなくマーケティングなどのお手伝いもしていたら,そのCEOから「今までいろんなパブリッシャと関わってきたけど,たった1人で頑張ってくれた君のマーケティングが最も効果的だったよ」って言われて,それなら起業してみようかなって思ったのです。今も1人でやっていますからソロ・パブリッシャですけどね。
4Gamer:
なぜ効果的だったのですか?
ブエノ氏:
無駄なことをせず,無難に進めたってことですかね。ゲーム内容に口出ししたりせず,少人数のデベロッパ故に手を付けられない業務,例えばプレスリリースを作ってメディアに配布し,広報活動を手伝うといった,やるべき仕事をしただけです。
去年末にBingXという中国のデベロッパがリリースした「Dark Hunting Ground」(暗闇狩り場)というゲームは,公開されていたSteamストアページのバナーやスクリーンショットが興味を引かないようなもので,ウィッシュリストも64件しか登録されていませんでした。
また,中国語以外だと英語のAI翻訳しかされていませんでしたから,日本語を含めて8つの言語に対応し,アートワークもすべて入れ替えたところ,それなりの手応えがあったのです。私の場合は,ポルトガル(ブラジル)語,スペイン語,英語は無料でサービスできますしね。
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4Gamer:
ほかの言語についてはどうしていますか。
ブエノ氏:
それぞれの言語の翻訳者さんたちとの個人的なコネクションを使って,翻訳会社を通さないことで経費を削減しています。アートワークや映像制作もそうですね。全員で20人くらいのフリーランサーと仕事をしています。
4Gamer:
ラインナップを見ると,中国のデベロッパが多いようですね。
ブエノ氏:
はい。まだ起業する前に協力したYSH BigDoveというメーカーの「大荒先民」というシミュレータもそうですが,中国ではインディーゲームが盛り上がって多くのタイトルがリリースされています。一方,国外でのパブリッシングサポートが十分にできていないようで,私の存在も現地で広がってパートナーのネットワークができているんです。
4Gamer:
どのようなビジネスモデルなのですか?
ブエノ氏:
具体的にはケースバイケースなのでハッキリとは言えませんが,1作につき2000USドルの経費込みの報酬をいただければ,十分にビジネスモデルとして成立できると思います。私はソロでやっていますので,2か月に1作のパブリッシングを行って,私と妻,それから息子を養っていけるくらいでしょうか。お金儲けはあんまり興味がないので,生きていければ良いですね。
あと,学生プロジェクトと契約したばかりなのですが,諸経費以外はお金を取らないようにしようと思っています。彼らが経験を積み,次のプロジェクトにつながった時にまた私をパブリッシャとして選んでくれれば,双方にとって利益になるわけですから。
4Gamer:
1人でやっているとはいえ,リスクが高過ぎませんか。
ブエノ氏:
そうかもしれません。次の新作は8月までローンチされないので,発売が近付いているのに広報活動や販売の用意ができていないプロジェクトを能動的に調査しなければなりません。
私の場合は,彼らのゲームが販売され,Steamからの入金があってから,私も手数料を受け取るというシステムにしています。一般的なパブリッシャとはかなり違うアプローチですし,もちろんそこにはリスクが伴います。あるときはトルコのデベロッパがアーリーアクセスをスタートさせてSteamから最初の入金があった直後,ストアページを閉じて雲隠れしちゃいました。随分と凹みましたが,良い人はいると信じてやっています。
4Gamer:
ゲームのジャンルなどは選んでいるのですか。
ブエノ氏:
私が基準とするのは,ゲームのジャンルよりも,デベロッパとやり取りする中で,彼らの情熱や熱意が感じられるかどうかですね。例えば,先ほど例を挙げたようなウィッシュリストが64件しかないようであれば,私が協力することで良い成果をあげやすいです。逆に,すでに2万ウィッシュリストがあるようなゲームであれば,私が何もする必要はないでしょう。
2024年に,アメリカのコロラド州を拠点にするLucky DartというメーカーがThe Bueno Interactiveから,タワーディフェンス型ストラテジー「Defender Bros」をリリースして,高評価を得ました。そのゲーム自体は発売前にそれほど話題にはなりませんでしたが,彼らの2作目となるアクションゲーム「Comatose」は,1万ものウィッシュリスト登録になっています。しっかりとしたマーケティングをすれば,さらに話題になるようなゲームだと感じています。
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4Gamer:
ブエノさんは,教師をされていた頃からゲーマーだったのですか。
ブエノ氏:
それほど裕福な家庭ではありませんでしたので,子供の頃にコンシューマゲーム機を持っていませんでした。友達の家でPCゲームを借りてプレイしていましたが,最初にハマったゲームとして鮮明に覚えているのは「Shogun: Total War」でしたね。それより古いゲームですが「Earth 2140」や「Age of Empires」のようなストラテジーゲームにも熱中していました。10代の終わり頃には「ニード・フォー・スピード ホット・パースート」を随分とプレイしていましたね。
4Gamer:
まだお若いんですね。そもそもの質問になりますが,なぜ今回私にご連絡されてきたのでしょうか。
ブエノ氏:
とにかく,我々のことを知ってもらいたいということです。もし記事をお書きになるのでしたら,読者の皆さんには我々のゲームをプレイして,ぜひ感想をいただきたいと思います。
4Gamer:
頑張ってください。本日はありがとうございました。
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The Bueno Interactive公式サイト
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