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印刷2025/03/19 17:57

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[GDC 2025]NVIDIAのVIPが語る「ニューラルシェーダ」の利点と標準化に向けた取り組みとは

 GDC 2025が開幕した2025年3月17日,NVIDIAは,サンフランシスコ市内にあるホテルにて,GeForce RTX 50シリーズ(開発コードネーム Blackwell)で実装した新技術「Neural Shader」(ニューラルシェーダ)をテーマに,パネルディスカッションを行った。本稿では,イベントの概要をレポートしたい。

ニューラルシェーダのサンプル画像
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 Blackwellアーキテクチャを採用するGeForce RTX 50シリーズは,アーキテクチャ的な視点で見ると,業界初のレイトレーシング対応GPUであるGeForce RTX 20シリーズ並みに見どころが多い。Blackwell解説後編では,先進的機能である「Neural Shader」を中心に解説していこう。

[2025/02/26 08:00]

 今回のパネルディスカッションには,NVIDIAから3人が登壇した。いずれも,同社にて新GPUに関する基礎技術の研究開発を行うVIPである。

John Spitzer
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 John Spitzer氏(VP of Developer and Performance Technology,NVIDIA)は,3人の中では最もNVIDIAでの勤続年数が長い。プログラマブルシェーダ技術が立ち上がった当時,NVIDIAに参加しており,プログラマブルシェーダ技術の礎を築いた人物の1人として知られる。
 GPUやゲームグラフィックス技術を調べたことがあれば,彼の名前をいくつもの論文で目にしたはずだ。近年は,NVIDIAが生み出すゲームグラフィックス技術を,ゲーム開発者へ届けるための活動にも力を入れている。

Martin Stich
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 Martin Stich氏(Director of Engineering)は,NVIDIA内で「ミスターレイトレーシング」として知られる人物だ。GeForce RTXシリーズがリアルタイムレイトレーシングに対応したのは,彼の力によるところが大きい。現在も,主にGPU向けレイトレーシング関連の新技術の開発に注力している。Ada世代やBlackwell世代のGPUが搭載する「Shader Execution Reordering 2.0」(SER 2.0)や,Blackwellの目玉機能のひとつ「Mega Geometry」は彼が中心となって開発されたものだ。

Aaron Lefohn
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 Aaron Lefohn氏(Vice President of Graphics Research)は,Pixar Animation Studiosでレンダリングシステムの開発に,ソニーでは「PlayStation 3」でグラフィックスSDKの開発に携わった経歴を持つ人物である。NVIDIAに参加したあとは,AIとコンピュータグラフィックスを組み合わせた新技術開発に注力。彼が携わったNVIDIAの技術として最も認知度が高いのは,「Deep Learning Super Sampling」(DLSS)である。
 今回の主題であるニューラルシェーダ関連技術をBlackwellに搭載したことも,彼が中心となって進めてきたものだ。また,ニューラルシェーダ対応言語「Shader Language Next Generation」(SLANG)の設計にも深く携わる。


ニューラルレンダリングとニューラルシェーダ


 最初のテーマは,「ニューラルレンダリングとは何か」という,基本的な話題からだ。

John Spitzer(以下,Spitzer)氏:
 ニューラルレンダリング技術とは,広義では「AIの支援を受けてピクセルを生成する技術」だ。DLSSは,最も認知の進んだ,身近でベーシックなニューラルレンダリング技術のひとつと言える。一方で,Blackwellの発表とともにアナウンスしたニューラルシェーダ技術は,グラフィックスプログラマが,自在に「Tensor Core」(推論アクセラレータ)を活用したシェーダプログラムを書ける技術である。
 これを可能にする言語としては,Lefohn氏が取り組んでいるSLANGが,最も有望視されている。

 ニューラルシェーダ技術の恩恵を,最も理解しやすい実例を挙げると,「ニューラルマテリアル技術」になるだろう。表現対象の材質へ光が当たったときに,トレーニング済みの小さなニューラルネットワークを活用して,各ピクセルのライティングやシェーディングをAIに推論させる技術だ。
 光を透過する半透明の材質では,この手法を取りにくい。だが,そうではないほとんどの材質は,この手法で表現できる。


 ここで会場では,ニューラルマテリアルのデモ「Zorah」を用いて,Lefohn氏がデモにおけるポイントを解説した。


Aaron Lefohn(以下,Lefohn)氏:
 特別扱いが必要な複雑な材質を除くと,現在のゲームグラフィックスにおける材質表現は,物理ベースシェーダ(PBS)であっても,基本的にはひとつのレイヤーのPBSで表現することが多い。
 次のデモの宝石がいい例である。


Lefohn氏:
 この宝石は,表面にクリアなトップコートがあるので,つるっとした質感を醸し出している。しかし,その下の層に着目すると,細かな結晶の存在や微細な亀裂も見えるし,角度を変えれば奇妙な星型のきらめきも見えてくる。材質としては5層の構造を持っており,従来のアルゴリズムによるシェーダプログラムでは,表現が難しい。強引に表現したとしても,GPU負荷が高くなってしまう。
 それがニューラルマテリアルであれば,全方位の入射光と出射光の相関をニューラルネットワークでトレーニングすれば,たったひとつのニューラルマテリアルで先述してきたような複雑な材質表現が実現できるようになるのだ。

Spitzer氏:
 従来のプログラマブルシェーダ技術では,高負荷となりがちな複雑な材質が実現できるというのは,たしかにニューラルマテリアル技術の大きなメリットだ。だが,それよりも,複雑な材質表現を,ゲームエンジン側の材質システムにおけるレイヤー数制限に影響されることなく実装できる。この点も,ニューラルマテリアル技術の大きな恩恵だと,私は考えている。

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 ニューラルシェーダ技術を活用したニューラルマテリアルは,表現したい材質の入射光と出射光の相関性を,事前に学習させた学習データを用いて,AIによる推論ベースでライティングとシェーディングを行う。その場合,表現したい材質の特性は,実在する素材に実際に光を当てて,反射を計測する必要があるのだろうか。Spitzer氏は,こう答える。

Spitzer氏:
 ニューラルマテリアルで再現する材質は,従来のプログラマブルシェーダ技術で何枚ものテクスチャを使い,幾層ものレイヤーを活用して再現していた材質でもいい。数理的に再現された材質であれば,実在する計測器にかける必要もない。
 入射光と出射光の関係性は,直接,そのシェーダプログラムを動かして求め,その数理的な前後関係をAIに学習すればいいだけだ。これまで,オフラインレンダリングの映画向けCGで使われていたような複雑な材質シェーダをゲームに持ちこむ事例も,ニューラルシェーダ技術の代表的な活用事例となるだろう。


 ニューラルマテリアルとは,ある意味,材質表現を「AI的に不可逆圧縮して利用する技術」と捉えてもいいかもしれない。


Mega Geometryはラスタライズより速い?


 ニューラルマテリアルのデモでは,Stich氏が,開発に取り組んだBlackwellの目玉機能である「Mega Geometry」(関連記事)についても解説が及んだ。Stich氏によると,このMega Geometryの実装に合わせて,新たなハードウェアを搭載したそうだ。

Martin Stich(以下,Stich)氏:
 新たに実装したハードウェアとは,「Bounding Volume Hierarchy」(BVH)と,BVHに紐付けるLevel of Detail(LOD)付き多階層「Bounding Box」へのアクセスと,再構築を行うものだ。
 デモの総ポリゴン数は約5億。これは,LODの概念を除外した状態での総ポリゴン数である。デモのシーンを,BlackwellのMega Geometry機能を活用して,プライマリレイ(視点からシーンに向けて放たれたレイ)と交差するピクセルからの,シャドウレイやリフレクションレイを用いてレイトレーシング法で描画すると,従来のラスタライズ法よりも圧倒的に速い。


 「5億ポリゴンのシーンをレイトレーシングで描画したほうが速いとは,何かの間違いでは?」と思うかもしれないが,間違いではない。しかし,ここには裏がある。
 5億ポリゴンの3DシーンをMega Geometryでレイトレーシング描画すると,「Unreal Engine 5」のジオメトリエンジン「Nanite」譲りの動的なLODを行うので,遠景のポリゴン数は自動で大幅に削減されるのだ。この点が重要だ。5億ポリゴンの3Dシーンを,ラスタライズ法でそのまま描画するのに比べれば,処理に要する時間の逆転もありうる,というわけである。

Stich氏:
 動的なLODシステムを自動的に得られるMega Geometryは,レイトレーシング用の3Dシーン管理とジオメトリを統合した概念なので,多くのゲームエンジンやゲームグラフィックスエンジンに,Mega Geometryの採用が進むのではないかと期待している。
 また,Mega Geometryでは,動かない静的な3Dオブジェクトと,動き回れる動的3DオブジェクトのBVHを,分けて管理する仕組みを導入した。この改良により,シーン内の3Dオブジェクトを増やしたり減らしたりしやすくなる。これにより,レイトレーシング技術をゲームグラフィックスから,より使いやすいアーキテクチャに改良できた,と考えている。


 Stich氏の説明を聞いた筆者や他の参加者は,「Mega Geometryは,素晴らしい技術だが,以前の業界標準(※DirectX Raytracingなど)で使われてきたBVH構造とはだいぶ異なる。普及を目指すのであれば,Mega Geometry自体の業界標準化が必要ではないか」という質問を投げかけた。するとSpitzer氏が,こう答えた。

Spitzer氏:
 現状は,NVIDIA独自APIからの活用に限定されているが,この概念の業界標準化について,Microsoftと話を進めている。


 動的な無段階LODシステムは,ゲームグラフィックスにおける「永遠のテーマ」である。これまでは,2009年に登場したテッセレーション技術から,2018年登場の「Mesh Shader」といった具合に,改善案が提唱されてきた。しかし,いまいち活用は進んでいない。今後,Mega Geometryの標準化というビッグウェーブが来るのだろうか。


ニューラルテクスチャ圧縮はどう活用するのか


 ニューラルシェーダ技術におけるもうひとつの目玉といえば,AIの支援を受けてテクスチャ圧縮を行う「ニューラルテクスチャ圧縮」(Neural Texture Compression,NTC)だ(関連記事)。

NTCテクスチャ(左)と,既存の圧縮技術を用いたBC7テクスチャ(右)を使用した品質比較。圧縮後の容量が同等なら,品質はNTCテクスチャのほうが高くなる
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 ニューラルテクスチャ圧縮は,これまでのGPUが搭載しているテクスチャユニット経由からシームレスにアクセスできるのか。Spitzer氏は,具体的な使いかたについて解説する。

Spitzer氏:
 現在のPCゲームは,複数解像度のテクスチャをパッケージ化していたり,あるいは,高解像度テクスチャをDLCにしたりしている。MIP-MAP構造も不要なニューラルテクスチャ圧縮は,そうしたゲームパッケージの劇的な容量削減になると考えられる。
 実際のゲームランタイム中に,普通のテクスチャのように活用することは,当面難しそうだ。これは,圧縮テクスチャの展開をGPUから,BCx方式の圧縮テクスチャと同じ速度でアクセスするのは,困難だと考えられるためだ。当面は,ゲームパッケージのサイズ低減が主たる目的になると思う。


 多様なスペックのPCを持つユーザーのために,複数の解像度でテクスチャを持つのではない。ひとつだけのニューラルテクスチャをゲームパッケージに持たせて,インストール時にユーザー環境ごとにテクスチャデータを展開する方式になるのだろうか。
 そこで,パネルディスカッション後に筆者は,Spitzer氏に「ニューラルテクスチャ圧縮をハードウェア化する方針はないのか」と聞いてみた。氏の見解は,「AIの進化はまだ発展途上のため,ニューラルテクスチャ圧縮のハードウェア化を行うには(タイミングが)早すぎると思う」そうだ。


ニューラルシェーダ技術の標準化


 理論的には素晴らしいニューラルシェーダ技術だが,ゲーム開発における普及のためには,まだ険しい道のりが続くように思える。なにより,今のところは,言語仕様の標準化に向けての動向が不明瞭だ(※Microsoftが,DirectX 12でニューラルシェーダに対応することは,GDC 2025に合わせて発表となった。関連記事)。
 NVIDIAはニューラルシェーダ技術の標準化について,どう考えているのか。

Lefohn氏:
 ニューラルシェーダ技術を普及させるためには,API仕様の標準化と,言語仕様の標準化が重要だと我々も考えている。実際,ほかのGPUベンダーとも深く連携しながら,MicrosoftやKhronos Groupと協議を進めている。
 新世代DirectXへの採用や,プログラマブルシェーダ言語の仕様拡張は,早急に行わなければならない。


 だが,標準化が済むまで,ニューラルシェーダ技術は使えないものとなるのだろうか。新技術を実際に活用したゲームタイトルは,いつ頃登場すると見込んでいるのか。

Spitzer氏:
 新しい技術の導入にはコストがかかることを,我々は理解している。これをなるべく抑えるための工夫として,業界のリーダーと連携する取り組みを行っている。
 ニューラルシェーダ技術やMega Geometry技術に関しては,これまでのように,Unreal Engine 5のNVIDIAブランチバージョンを提供する(関連リンク)。NVIDIAの最新技術を搭載した,NVIDIAブランチ版のUnreal Engine 5を,我々は「NvRTX」と呼んでいる。これを活用することで,DirectXなどの標準APIに採用される前段階で,GeForce RTXシリーズが備える最新技術を利用したゲームを開発できるようになる。もちろん,ニューラルシェーダ技術もだ。
 今回,我々はニューラルシェーダ技術を活用した技術デモ「Zorah」(※前掲のデモ動画)を公開したが,まさにこのデモは,NvRTXを用いて開発したものだ。

Stich氏:
 BlackwellのMega Geometry機能や,SER 2.0機能を統合したNvRTXは,今週にもリリース予定となっている。
 とくにSER 2.0は,騙されたと思って一度は使ってみてほしい。我々も「Portal RTX」で実験したところ,わずか10分の作業でSERを適切な部分に組み込んだだけで,ゲームの描画性能が20%も向上した。レイトレーシングを活用したゲームは,並列性が低下して性能が出にくいことが多いので,SERを活用すれば,これを劇的に改善できる。
 Blackwellの新機能対応満載で提供される「Half-Life 2 RTX」は,近日中にリリース予定だ(3月18日に公開。関連記事)。こちらも,ぜひプレイしてみてほしい。

Lefohn氏:
 新しいNvRTXには,Zorahデモのサンプルプロジェクトや,新世代パストレーシング技術のサンプルも含まれている。ニューラルシェーディングSDKも提供しており,ツールやサンプルも付属する。ニューラルシェーダ技術用のトレーニングシステムなども同梱する。

Spitzer氏:
 もちろん,多くのゲーム開発者がUnreal Engineではなく,各社独自のゲームエンジンを持っていることは,我々も知っている。そうした開発現場は,我々が提供するSDKを使って,そのエンジンに組み込んでいただきたい。技術的な支援は我々自身が行っていく。我々にはAAAゲーム開発経験を持つ,60名もの有能なエンジニアがいる。

画像集 No.006のサムネイル画像 / [GDC 2025]NVIDIAのVIPが語る「ニューラルシェーダ」の利点と標準化に向けた取り組みとは


 NvRTXを採用したゲームは,本稿執筆時点でそれほど多くはないが,それでも,有名タイトルでの採用事例は複数ある。2024年の人気ゲームタイトルでNvRTXベースでリリースされたものとしては「黒神話:悟空」が有名だ。そのためか,同作のレイトレーシング要素は,GeForce RTXでないと作動しないものも多い。
 また,NVIDIAからの深い技術支援を受けて,独自ゲームエンジンにGeForce RTX専用機能を統合したタイトルとしては,「CONTROL」や「Cyberpunk 2077」が有名だ。

 「ニューラルシェーダ技術を活用したゲームが登場するのは,いつ頃になりそうか」という質問に対してSpitzer氏は,「早ければ2025年中。遅くとも来年中となる」と述べたものの,具体的なタイトル名は明らかにされなかった。今は,業界一丸となって,新技術の標準化を進めているのだろう。
 この動きは,2000年頃にプログラマブルシェーダ技術が立ち上がった頃や,2018年にハードウェアレイトレーシングに対応したGeForce RTX 20シリーズ発表時の,興奮と混乱を思い出す。

NVIDIAのGDC 2025特設Webページ(英語)

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