
レビュー
[レビュー]さびれたラブホから変革を起こせ! 「プロミス・マスコットエージェンシー」は英国産・九州風味のヴェイパーウェイヴだ
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英国のゲームスタジオKaizen Game Worksが4年前に放った「パラダイス・キラー」は筆者の2021年個人的ベストゲームだった。そして,同スタジオがリリースした最新作「プロミス・マスコットエージェンシー」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch)も,その目を見張るようなオリジナリティとキャッチーな世界観で,海外ゲームメディア,Steamレビューともに高い評価を得ている。「ぶっとんでいて最高」「毒気のあるマスコットたちがキュートでたまらない」「すぐに九州に行きたくなった」といった絶賛の声には頷けるが,筆者が本作を強く推す理由は2つある。
ひとつはジャパニーズ・ポップカルチャーを巧みに取り入れたヴェイパーウェイヴ作品として,前作「パラダイス・キラー」以上の進化を遂げていること。
もうひとつは,本作がコミカルなアトモスフィアの中に,驚くほど芯の通った政治的アティテュード,ラジカルな変革精神を宿しているからだ。このレビューでは,本作の魅力をこの2つのシグネチャーから掘り下げてみたい。
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「プロミス・マスコットエージェンシー」はどんなゲームか?
本作は昭和ノスタルジーな風情が色濃く漂う「過疎町」を軽トラで走り回り,ユニークでキッチュなマスコットたち(ご当地ゆるキャラのようなものを想像していただきたい)をスカウトし,大量の請け負い仕事をこなしていく,「探索型オープンワールド」の快楽性と「経営シミュレーション」の戦略性を絶妙にブレンドさせた「ヤクザ物語ドリブン」なゲームだ。
何を言ってるのか……と思われるかもしれないが,筆者の説明が下手なわけではない(はずだ)。本作は,世界観もゲーム要素もきわめて「ごった煮」的なのである。
舞台となる過疎町は北九州の僻地という設定だが,昭和ムードなノスタルジアが生み出す奇妙な異世界感も漂わせている。広大なオープンワールド内に多数のクエストと報酬,インタラクト可能なオブジェクトを用意するのは常套だが,本作においてはそれらを過剰に詰めこんでインフレを起こしているかのような「てんやわんや」感が濃厚であり,ひとたびスタートすれば,20時間近い充実したゲームプレイが約束される。中盤にやることが増えすぎて飽和状態になる向きはあるものの,ここには忙しない労働のリアルがたっぷりある。
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過疎町には多種多様な者たちが生活し,潜んでいる。マスコット事務所の従業員として雇用可能なマスコットたちは,表向きこそ親しみやすい外見をしているが,その本質はモンスターや妖怪,幽霊といった存在に近い。
主人公・ミチ=プレイヤーは,この地で孤立・彷徨していたマスコットたち――「泣いてばかりの絹豆腐」「AV産業をこよなく愛する巨大猫」「赤字のイチゴ農園を経営する犬」「ぼったくりバーを営んできた凹マーク」など――をスカウトし,コミュニティを形成し,仕事を割り振り,長年変わることのなかった町長の独裁政治による腐敗と過疎を少しずつ覆していくことになる。
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リアルな「忙しさ」
メインプレイとなる過疎町探索では軽トラで長距離を移動し,マスコットたちのスカウト,仕事をサポートしてくれる住民たちとの会談,アイテム,クエストを回収していく。移動しながらマスコットたちに逐一指示を与え,頼まれ事と仕事をこなしているうちに,ゲーム内の時間もプレイ時間も瞬く間に過ぎていく。
本作のオープンワールド要素はきわめてユニークだ。移動はすべて軽トラのみで(下車することはできない),「Forza Horizon 5」(2021)のようなドライブゲームや初期のGTAシリーズを彷彿とさせる。軽トラはゲームを進めると改造を施してもらえ,水上を走るばかりか,空まで飛べるようになる。破壊できる看板や回収することで金が手に入るゴミ袋,風変わりなアイテムもマップ上に大量にあるため,移動時間は忙しなくも快楽的である(ミサイルで看板を破壊し,アイテムを収集しながら町の上空を飛び回るのがシンプルに楽しい)。
序盤こそのらりくらりと始まる事務所経営は,中盤から従業員であるマスコットの数も請け負い仕事も怒濤の勢いで増えていき,古巣であるシマヅの組長・姐さんにATMから定期的に金を送金しないとゲームオーバーになってしまうタイムリミットまで導入されるため,文字通り,眠る暇もなく仕事に追われる。小さな事務所経営は「協働の素晴らしさ」から「巨額の資本を動かすこと」のリアリティへと少しずつ変化していくのだ。
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時は金なりとばかりに,ターボエンジンをかけて軽トラを爆走させ,仕事を回すべく奔走しているとき,プレイヤーは芸能事務所を営む零細企業経営者さながらの慌ただしさを味わうことになる。少なくとも事業が軌道に乗る後半まで,理想主義と効率主義,拝金主義と持続可能性が紙一重の関係であることを,本作は痛いほど思い知らさせてくれる。
「ねじれ感」とヴェイパーウェイヴ
本作の奇想天外な面白さの妙味は,ここまで記した「一風変わった探索型オープンワールド」「リアルな経営シミュレーション」というジャンル的な説明だけでは充分ではない。筆者は,本作の独自性は,上記の異なるゲームジャンルを合わせたように,日英の感覚を混ぜ合わせることで生まれた「ねじれ」の感覚に由来しているように思う。
それは具体的にどういうことか?
われわれゲーマーは,海外ゲームをプレイしているとき,洋画を観るときや海外文学を読んでいるときと同様に,意識を「海外作品向け」に切り替えていることが多いように思う(少なくとも自分はそうだ)。しかし本作をプレイしていると,これははたして海外ゲームなのか,それとも国産ゲームなのか,よく分からなくなってくる。
冒頭に記したように,本作の開発元は英国のゲームスタジオだが,舞台は架空の日本・北九州であり,登場キャラクターの多くは日本人である。また,キャラクターたちの饒舌かつリアリティに溢れた言葉は,大部分が日本語ボイスに対応している。この独特な「ねじれ感」は,本作特有の魅力に繋がっているように思う。とくに日本に慣れ親しんでいる日本語話者のプレイヤーにとって,本作は「Ghost of Tsushima」(2020)のように,日本という国を客体化・相対化するような不思議なプレイフィールになるだろう。
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この独特の「ねじれ感」は本作の共同制作者に元Tango Gameworksのゲームデザイナーであり,現UNSEENの中村育美氏と真鳥 舞氏が名を連ねていることからも窺える。
先日AUTOMATONに掲載された制作者インタビューによれば,本作の舞台が九州の過疎地になったことや,マスコット事務所をラブホテルにしたことは中村氏のアイデアだったという。また,真鳥氏は幼少期を福岡で過ごしたとのことで,本作で描かれる九州の解像度の高さと,和洋折衷・温故知新を併せ持った独特の空気感は,中村氏と真鳥氏から出てきたところが大きかったようだ。
そこに英国のゲームスタジオであるKaizen Game Worksが「パラダイス・キラー」でも遺憾なく発揮していたユニークな異世界感が混ざり合い,日常を非日常的な光景に変化させる「異化作用」とも呼べるような現象が起こったのではないか。
古い景色,架空の歴史,現代的表現を混ぜ合わせ,新しい世界を生み出すこと――こうした高度資本主義社会への皮肉やノスタルジア,折衷主義が絶妙にブレンドされた本作の作風は,(少々手垢のついた言葉だが)やはり「ヴェイパーウェイヴ」と呼ぶのが相応しいように思う。
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また,本作の魅力を担っている音楽と,声優によるリッチなボイス,ローカライズの妙味についても触れておきたい。
前作「パラダイス・キラー」のコンポーザーとBarry "Epoch" Topping氏による怒濤のネオ・シティポップも素晴らしかった。だが,今作の魅力もそれに負けていない。
今作のコンポーザーである小池 令氏とAlpha Chrome YayoによるBGM(ここでも日英の音楽家による楽曲提供が大きな効果を生んでいる)は,昭和ムード歌謡を現代的にアップデートさせたような,高揚感と憂いを併せ持っている。
テーマ曲「Promises Lost (Promises Found)」――ボーカリストNOZの艶めかしくも時空を超えていくような歌唱がプレイヤーを過疎町まで一気に連れていく秀逸な楽曲はその代表例だ。アシッド・ジャズやAORをジャパニーズ・オリエンテッドな風味でアレンジしたサウンドトラックは,本作のポップかつ異世界的なムードにぴったりの通奏低音となっている。
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各キャラクターのボイスも本作の魅力に大きく寄与しており,声優陣も豪華絢爛だ。「龍が如く」シリーズでお馴染みの黒田崇矢氏が,失脚したヤクザ「ミチ」を演じ,強面ながらも不器用で優しい語り口でプレイヤーを魅了する。キュートでひねくれた声でまくしたててくる相棒のピンキーらマスコットたちを初め,先日SIEを退職したばかりの吉田修平氏やKaizen Game Worksにも大きな影響を与えたであろうSWERY氏(「Deadly Premonition」「The Good Life」のクリエイター)による意外性のある演技も,本作を賑やかに演出している。
そして,人情味溢れるキャラクターやマスコットたちのキャラクターの個性を見事に伝える,素晴らしいローカライズ(リード翻訳者として鶴見六百氏,博多弁・北九州弁については野原玲茂氏が方言制作を担当)を鑑みると,比較的低価格である本作は採算が取れるのだろうか? と勝手に心配になってしまうほどのクオリティである。
政治的マニフェスト
ミチとピンキーが乗っている安っぽい軽トラは,ストーリーが進むにつれてゴミ収集機能と拡声器を備え付け,町中に立てられている権力者のプロパガンダ看板をミサイルで破壊する「選挙カー」と化す。「変革の主体としての労働者」という明確な意志と経済力を増していくミチは,協働するマスコットと協力者たちを次々と得ていく。
彼の出自がヤクザであることは,暴力性よりもその矜持と不屈の精神の象徴として映る。目の前の体制に恐れずに立ち向かい,「今」を変えることで現体制を破壊し,新しい道を開かんとするミチとピンキーの姿は,現代のわれわれが必要としているアティテュードをクリティカルに示しているように感じる。
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ゲームに対して現実のポリティカル・コレクト的なメッセージは不要だ,ゲームはゲームで楽しければそれでいいじゃないか,という人もいるかもしれない。
でもこれだけは記しておきたい。「プロミス・マスコットエージェンシー」は,孤立した変わり者たちとの協働と共闘を力強く肯定すると同時に,腹の底から笑えるような,筆者にとって理想的な「反体制ゲーム」でもある。
優れたセンスは体制に対する優れた武器であり,有効な批評にもなり得る。筆者が本作から強く感じたのは,豊潤なセンス・オブ・ユーモアをまとった,現世界に対する痛烈な風刺と批評,そして腐敗政治に対して「ノー」を叩きつける痛快なマニフェストだった。
リトアニア生まれの哲学者であるエマニュエル・レヴィナスは,その代表的著作「全体性と無限」において,「労働が,かくて,未来の不確かさとその危うさを乗り越えることになる」と記している。
町に点在するはぐれ者・異端者たちに「一緒に働こうで!」と声をかけて回り,一大コミュニティを形成していくミチとマスコットたちによる協働,労働によって再生していく町の様子を描いた「プロミス・マスコットエージェンシー」は,悪しき政権が席巻し,先の見えない現世界に住まうわれわれにとって,けっして冗談ではなく,「マジモン」の一条の光となっているように思うのだ。
ゲーム,ポップカルチャーを深く愛するライター/ゲーム翻訳者。「Milky Way Prince -The Vampire Star-」「Mediterranea Inferno(メディテラネア・インフェルノ)」「Butterfly Soup2」などの海外ビジュアルノベルを翻訳。
X:@Lovemooooooo
bluesky : @lovemoon
「プロミス・マスコットエージェンシー」公式サイト
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プロミス・マスコットエージェンシー
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プロミス・マスコットエージェンシー
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- Kaizen Game Works
- Kaizen Game Works
- プレイ人数:1人
- PS5:プロミス・マスコットエージェンシー
- PS5
- Xbox Series X|S:プロミス・マスコットエージェンシー
- Xbox Series X|S
- :プロミス・マスコットエージェンシー
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- ライター:ラブムー

Promise Mascot Agency © and ® 2024 Kaizen Game Works. Developed by Kaizen Game Works Limited.
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